真章その21・帰り支度のその前に
『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。 NEXT STORYから始まる物語は全て後日談です。
そして、次回は最終回!
レティシア辺境国。
まだ建国から数十年の小さな国家。
死火山の火口に作られ、周囲を巨大な岩壁によって守られた堅牢な王都のみを持つ、のんびりとした国である。
騎士団など存在せず、何とか自力で流れ着いた冒険者や、王国宰相もしくは王国聖騎士によって任命された者達によって、国は守られている。
もっとも、他国からの侵攻などは過去に数度あったものの、辺境国は存在する巨大な山脈を登って来る事が出来ない。
また、デッドゾーンと呼ばれるラインより上までやって来ると、王国聖騎士一人で、全ての軍隊が撤退を余儀なくされている。
そんな王国では……。
──ザワザワ
「アレクを海の向こうの国に連れて行くのですか?」
王城……というよりも公民館のような建物の奥、謁見の間……というよりも応接間で、女王ミーシャは目の前の二人に向かって問い掛けていた。
「ああ。アレクには勇者としての仕事をしてもらいたいからな」
「そうそう。二泊三日の旅の許可が欲しいんだけどさ、駄目?」
ストームとマチュアが、ミーシャに頭を下げて頼み込んでいる。
ぶっちゃけていうなら、アレクの近くにマチュア達がいる事により、アレクはマチュアとストームの力も使う事が可能。
それならば、とっととこの動乱を治めてしまいたいというのが本音である。
「はぁ……その海の向こうの破壊神とかいう輩を倒すため、それは理解しました。そしてアレクには百神の加護が宿っている事も知っています。でも、それはアレクの仕事なのですか?」
「まあ、母親としては心配なのはわかるけどさ。これも勇者の務めなのよ」
「この件が終われば、後数百年はそういった災いは起こらない筈だ。でも、今放っておいたら、世界が未曾有の危機に陥る。レティシア辺境国は守り切れても、他の国は恐らくは滅びる」
破滅の予言。
それを淡々と説明すると、ミーシャは覚悟を決めたようで、ゆっくりと立ち上がる。
「神託を受けて来ます。それで、神々が全てを教えてくれます。私は聖職者であり女王、ならば、この判断は神に委ねたいと思います」
「あ〜。あの、ミーシャ、それはやめた方がいいと思うよ?」
「ああ。今回の件なら、確実にミーシャの負けだ」
「わかりませんよ、母なる大地母神ならば、この私の苦悩を理解してくれるはず。その上で、何を成すべきなのか、私に教えてくれる筈です」
──ガチャッ
部屋から出て、礼拝堂へと向かうミーシャ。
「あ〜。いっちゃった。大丈夫かなぁ」
「母なる大地母神も、こっちサイドなんだがなぁ……」
顛末はわかっている。
ミーシャも聖職者なら、そして一国の女王なら、神々の判断には逆らう事などない。
『大いなる神々よ。わが声を聞き届けたまえ……』
やがて、ストームとマチュアの頭の中にも、ミーシャの声が聞こえてくる。
礼拝堂では、この世界の二神の意思が導かれている。
それ以外には、この世界には海向こうの破壊神、レティシア辺境国の客神のストームとマチュアのみ。
「あ、始まった。そしてガッカリしてるわ」
「まあ、そうなるよなぁ。アレクの百神の加護って、この世界の神様は二つだけだからなぁ。後はこっちサイドの神々なんだから、満場一致でアレクを送り出す事になるのは、目に見えているじゃないか」
事実、ミーシャは二神からアレクの派遣を要請されている。
海向こうの破壊神は返答など行う筈もなく、むしろ、この場にやってくる事自体が不可能。
こうなると、ミーシャも諦めてアレクを送り出すしかない。
──ガチャッ
しばらくして、ミーシャはアレクを連れて戻ってくる。
もう諦めたというか、悟り切った表情で。
「二泊三日、それがアレクの派遣の制限時間です。それで全てを終わらせてください」
「だってさ。ストーム、いけるか?」
「露払いは任せろ。移動と守護、回復は任せていいな?」
「問題ない。それこそ、スーパーチートを全開でやってやるよ。私達はサポートなら、何ら問題なく全力で行けるからさ」
「ああ。それでもだ、破壊神を止めるのはアレクの仕事だ。いけるか?」
力強く、ストームがアレクに問いかける。
するとアレクもここに呼ばれた理由なども悟っていたらしく、両拳を握りしめて頷く。
「この、俺に宿る神様達の力が教えてくれるんだ。俺がやらなきゃ誰がやる……ってね」
「よく言った。破壊神討伐まで半日、後は観光を楽しむとしようじゃないか‼︎」
パン、とストームがアレクの肩を叩く。
──シュンッ
その瞬間、アレクの体には最低限の身を守るためのパーツアーマーが装着された。
頭部、肩部、腕部、脚部、腰部の五箇所のパーツアーマーと、マチュア謹製の装甲繊維による上下の服。
「ん〜。デザインに凝りたい所なんだが」
「時間もないからなぁ。マチュア、やってくれるか?」
「まあ、そうだね。それじゃあ、仕掛けるとしますか……」
もう、ミーシャには見ている事しか出来ない。
王国の守りを務めている二人のやる事、そして神々の採決には逆らう事など不可能。
やがてマチュアも、相手の居場所を特定すると、扉を接続した。
「よし、行くぞアレク‼︎」
「最初からクライマックスで行くからね‼︎ 久しぶりのいきますか‥‥『神威祝福』かーらーのー『状態異常耐性強化』さらに『全体増幅』そして『遅発型強回復』を時間差で四つ。保険に『自動発動型完全蘇生』っっっっっ」
次々とマチュアの加護のてんこ盛り。
久しぶりの光景に、ストームも満足そうである。
「さて、それじゃあ開くよ‼︎」
──ゴゴゴゴゴ
ゆっくりと扉が開かれる。
そこは、ボンバイエ王国王城、謁見の間。
目の前には、ラスボスの傀儡王マルコ・ストロガノフ。
ちょうど貴族達からの報告を受けていた所であり、機嫌が悪そうにこちらを見ている。
「貴様ら、何者だ‼︎」
「うるせぇ、黙って封印されろや!!!」
マルコ……悪神ストロガノフの魔力の籠った声にも怯む事なく、アレクが手の中に槍を生み出すと、それを構えて走り出した‼︎
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






