真章その19・手加減? 誰に向かっていっている?
『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。
NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、毎月第二、第四月曜日の更新です。
──レスティア辺境国
マチュアとストームが解放したレスティア領は、この10年で輝かしい発展を遂げている。
その主たるものが、二つのダンジョンから取れる豊富な資源と大深林の実り豊かな植物たち。
いずれも他国には存在しない!もしくは交換か取引されているものばかりであり、マチュアが転移門を使って取引を行なっていた。
一時期は、このレスティアの資源を独占しようとする貴族が目をつけ、マチュアの取引先の商会を非合法的に奪い取った事もあったらしいが、その翌日には元の名義に戻されている。
まあ、ストームが息抜きに剣の訓練をした事も多々あり、その余波に巻き込まれて屋敷が吹き飛んだという噂もあるが、それは真偽定からぬ事。
その一件以降、レスティア商会と交易する事が一流商会としてのステータスという噂が流れていくものの、10年経った今でも、マチュアは最初に交易を行った商会以外とは断固として交渉すらしないという。
そして、レスティアの資源に目をつけたユーティラス帝国の国王、サーマル・ユーティラスは、王宮に集まった貴族の前で堂々と宣言。
彼の地はユーティラス帝国の領土ゆえ、税金を支払えという宣言を行ったものの、その言葉がレスティアの地まで届く事はなかった。
そして業を煮やしたサーマルの命令で、レスティア領討伐軍が編成。
すぐさまこの進軍を止めるようにと神託が降ったものの、欲深い貴族や王族はこれを無視。
『レスティアには、神託の騎士と、神託の賢者がいる。彼らを怒らせるならば、災厄が帝国に降り注ぐだろう』
この最後の神託すら、貴族達は鼻で笑った。
この討伐部隊にはSランク冒険者もいる。
それを倒せる者がいるのなら、掛かって来い‼︎
声高らかにそう叫んだ討伐部隊は、山岳の中腹で全滅した。
たった一人の『神託の騎士』により。
死者は0人、重軽傷者が万を超える最悪の事態が王宮に届けられた。
それも、神託の賢者自らの手で。
「なあ、あの地は私達が守護する国だ。レスティア辺境国は、この場を借りて帝国からの独立を宣言する。まあ、今まで通りに交易はするから、欲深い貴族は下げてくれるかなぁ……」
白銀のローブを身に纏った賢者が、楽しそうに謁見の間で叫ぶ。
すぐさま王宮騎士団が取り囲むものの、一瞬で武器や防具が破壊される。
彼女の横に、神託の騎士が姿を現したのだ。
「私の名前はマチュア。レスティア辺境国の宰相にして、神託の賢者だ」
「同じく、ストームだ。レスティア辺境国の宰相にして、神託の騎士だ」
「「本日、この場を借りて宣言する。レスティア辺境国は、独立する」」
たった二人の武力介入。
これだけで、帝国最強の騎士団も、冒険者による傭兵部隊も壊滅した。
逆に考えるならば、この謁見の間で国王の首を取れば、この場の貴族達はストームらに忠誠を誓っていただろう。
だが、レスティア辺境国の樹立と、サーマル王の恐怖に怯えながらの受諾を聞くと、ストーム達は無人の野を進むかの如く堂々と、王城を後にする。
この後、レスティア辺境国の正式な使いが姿を現すと、トントン拍子で独立についての書面のやりとりが行われ、正式にレスティア辺境国は独立を行なったのである。
この日から、マチュアとストームは帝国の危機にも助力した。
帝国とレスティア辺境国が同盟を組んだので、彼らでは賄いきれない敵勢力を壊滅する為に、幾度となく手を貸して来たのである。
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「それで、今度は海の向こうか。ようやく奴さんも、動いたっていうことか?」
「そうじゃね? もう、自分達で作った【絶海】なんだから、自分達で消すなり止めるなりして来ればよかったものを……」
「まあ、それでもだ。こちらとしては、国家樹立の時間をくれたし、あいつの修行時間も確保できた。お陰で齢10歳の勇者が誕生したのは良いんだが……今日は、マチュアの魔法講座だったか?」
お茶を飲みつつ、屋敷の庭で寛ぐマチュアとストーム。
基本的にやる事はあまりないので、今は単なる相談役といった所だろう。
「へ? 今日はストームの所で特訓だって話していたけど?」
「はぁ? 誰がそんな事をするって?」
「え、それって……あいつ、逃げたか?」
「可能性はあるなぁ。でも、何処に? 俺達の訓練だって、そんなに厳しくない筈なんだが」
そんな事あるかい!
そう心の中でつっこみつつも、マチュアは考える。
あの勇者が向かいそうな所といっても、このレスティア辺境国ではそれ程多くはないのだが。
「あの〜、マチュアさん、ストームさん。アレクがやらかしちゃったみたいなんですけど」
略式冠を額にチョンと乗せたミーシャが、二人の元にやってくる。
その手に一通の書簡を持ってくると、それをマチュアに手渡した。
「はぁ、そならアレクは私たちの修行をサボったようだけど……これは? あ、ありゃまあ」
「どうした? またアレクが何かやらかしたか?」
そう問い掛けるストームに、マチュアは彼にも書簡を手渡す。
そして受け取って目を通すと、ストームも腕を組んで考え込んでしまった。
「ああ、さすがは【百神の加護を持つ勇者】だなぁ。敵の存在を感知して、先手を打つために動いたか」
「まあ、それならそれで、私達のやる事は一つだな」
「お願いします。アレクを無事に連れ帰ってください」
そう懇願するミーシャなのだが、ストームたちの懸念事項は別であった。
「あいつの考えだと、この海岸線の、この港町に行くだろうなぁ」
「敵国に向かった場合、海路ならば敵の足と防衛ラインを破壊しろって教えたし。その通りに向かうとすると、港町パーラックが戦場になる可能性があるなぁ」
「マチュア、転移は可能か?」
「ここは行った事がないからなぁ。GPSコマンドで無理矢理上空から確認して、飛ぶ方が安全じゃないか?」
──ヒュンッ
すぐさま空間収納からの魔法の絨毯を取り出して飛び乗るマチュアとストーム。
「あ、あれ? 息子を、アレクを連れて来るのですよね?」
「まあ、事が終わったら。多分、一月ぐらいは掛かるんじゃなぁかなぁ」
「アレクは、この世界の敵の存在を感知して動いたからな。だから、俺達は見届けてくるわ」
その言葉には、ミーシャも目眩をおぼえる。
「え、見届けるつて……お二人は、戦ってくれないのですか? アレクを助けてくれないのですか?」
「う〜ん。ぶっちゃけると、今の私たち2人掛かりでも、アレクを抑えられるか自信ないんだよなぁ」
「超本気モードでやったら、アレクが死ぬ可能性があるし。かといって手を抜くと勝てそうもないからなぁ」
そう説明してから、マチュアはミーシャに一言。
「まあ、アレクは私達が……いや、アレクの被害にあった人達は、私達が助けるから、のんびりと待っていて」
「そ、そんな事を言われて、待っていられる母親が何処にいますか」
「「そこ‼︎」」
二人同時にミーシャを指差すと、マチュアは高速で絨毯を急上昇。
そのまま真っ直ぐにアレクの後を追いかけた。
………
……
…
ここ最近。
ずっと、何かに見られていた感じがしていた。
それが悪の存在であり、悪いやつだとは理解していた。
そんな奴らは、マチュア師父とストーム師父がやっつけてくれるとも思っていたけど、師父たちはあっさりと一言。
「「やっつけるのはアレクの仕事だからな」」
え?
この僕が倒すの?
でも、倒さないと問題があるんだよね?
世界が滅ぶって、僕の持っている加護の一つが呟いているから。
だから、僕は旅立つ事にしたんだ。
師父たちが話していた通り、悪を倒すのは僕なんだから。
「旅人の女神メーテルよ。我が足に、無限なる跳躍力を与えたまえ!」
この祈りにより、僕に加護をくれた【百神】の一人、旅人の女神の加護が足に発動した。
これは、目に見えない所に力場を形成し、どんな所にも登っていけるらしい。
この力で空中に足場を作って、目的の港町までの最短コースを作り出したんだ。
「ストーム師父の作った武器はないけど、鍛冶屋のバルバスタンさんが鍛えた名刀があるし。これでどうにかなるだろう」
腰に下げた刀は、師父が作り上げてバルバスタンさんが魔力付与になる鍛錬をしてくれたもの。
幾度となく失敗して壊されたけど、これは最後まで鍛えられた名刀。
刀身は赤く輝き、オーラを纏っている。
これはレスティア辺境国の至宝でもあるから、壊さないように気を付けないとね。
さあ、どんな敵が待っているんだろう。
そう考えると、だんだんとワクワクしてくるよね。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






