真章その18・10years after
『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。
NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、毎月第二、第四月曜日の更新です。
おや?
今日は第何月曜日だっけ?
──オロオロ
ユーティラス帝国の国王、サーマル・ユーティラスは執務室を徘徊する。
時折笑顔を見せつつ、また時折は悔しそうな顔をしながら。
「……あの、陛下、何があったのですか?」
ちょうど報告書を持ってきた宰相が、今まで見た事のない国王の姿に苦笑しつつも、これは何かあったのだろうと襟を正して問い掛けてみる。
すると、宰相が室内に入ってきた事にも気付いていなかった国王が、ゴホンと咳払いを一つ行ってから、宰相に一通の書簡を手渡す。
「これを見よ。海の向こう、フランカ・ノイン大陸のボンバイエ王国という国から届いたものだ」
「ほう。そのような国があるという噂は聞いたことがありますが、あの大陸には『絶海』を越えなくては向かうことはできません」
書簡に記された言葉は一つ。
『ユーティラス帝国に生まれた災厄を差し出すように。そのものは、世界を滅ぼす魔王の生まれ変わりである。この要請に従わない場合、災厄が滅ぶまでユーティラス帝国に対して攻撃を続けるものとする』
つまり、ボンバイエ王国は、ユーティラス帝国に対して実質的な宣戦布告を行ったようなものである。
ちなみに、この十年の間に幾度となくボンバイエ王国から書簡が送られていた。
だが、それは一つとして届く事なく、あるものは海の藻屑となり、またあるものは大陸を出る前に『謎の盗賊集団』に襲撃されたりと、不幸な出来事が続いていたという。
「この災厄だが……まさか、レスティア辺境国の英雄の事ではないだろうな?」
レスティア辺境国。
かつては死火山の噴火口跡に作られた小さな領土であったのだが、マチュアとストームの尽力により独立し、『レスティア辺境国』となった国。
国王は元領主であるが、四年ごとに選挙が行われ、その都度国王が変わるという『民主主義政治』が行われている。
ちなみに現在の国王はミーシャ。
英雄の生母という、あまり嬉しくない称号を受けて、渋々と女王を務めている。
「可能性はありますが……果たして、絶海を越えて来る事が出来るのかどうか……まあ、問い合わせはしておくに越した事はありませんが」
「もしも英雄の事であったとしても、すんなりと渡すはずもない、か」
「ええ。あの国については、神託により『一切の侵略行為を禁じる』と告げられております。特に魔導宰相のマチュア卿、そして国の守護騎士であるストーム卿の二人を倒せるものなど国内では皆無ですから」
困った。
書簡を持ってきた使節曰く、三日後に返答を行うようにと、半ば最終通達のようなものを突き付けて来たのである。
「陛下、急ぎレスティア辺境国に使節を送りましょう。そして、可能ならば助力を得るのです」
「やはりそうなるか。では、この件は宰相に一任する。ボンバイエ王国といえば武王の異名を持つ侵略王が統治する国だ、そこが攻めてくるというのなら、本気なのだろう」
苦渋の決断。
いくら上級冒険者が集う国といえど、彼らは国に対しての愛着も忠誠もない。
より効率のいい、より報酬の良い所があるのなら、そこに移住してしまうだろう。
現に、そこそこの実力者たちはレスティア辺境国に引っ越してしまい、今のユーティラス帝国には高くてもBランクの冒険者しかいない。
国力的にも、戦略的にも、ユーティラス帝国は昔ほどの栄華を誇る事が出来ない為、『レスティアの守護者』に頼るしか道がなかった。
「では、急ぎ使節を送ります……」
そう告げて、宰相は部屋から出ていく。
それを見届けてから、国王は窓の外を悔しそうに眺めていた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






