真章その14・病も気から? 気どころかとんでもないのだが‼︎
『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。
NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、毎週月曜日の更新です。
なお、来週はお休みして、次回公開は八月二日になる予定です。
予定……ああ、いい響き。
── フーディニ伯爵領。
コリガー子爵領の東方に位置し、魔物が住まう巨大な森林と隣接する広大な草原地帯。
彼方此方には伯爵の指示により行われた植林により、実り豊かな森が点在している。
また、近年は魔物の森に住み着いたオークにより、人間を襲う魔物の数が減少。
王国内でも有数の、平和な領土となっている。
なお、このフーディニ伯爵領には謂われがあり、かつてこの地には巨大な竜が住み着いていた。
それを初代フーディニ伯爵が退け、この地を伯爵領として開墾したという言い伝えが残っている。
………
……
…
「うちのフーディニ伯爵は王都北方のマカローニ伯爵とは敵対していてね。フーディニ伯爵は当初、王都より北方の豊かな地を統治していたのだけれど、マカローニ伯爵の策略で南方の未開発地域に追いやられたらしくてねぇ……」
「今の南東の地方に追いやられて来た時、この地を支配していたクリムゾンドラゴンと敵対してねぇ。それをどうにか討伐し、この土地に新しい伯爵領を作ったんだよ」
「マカローニ伯爵はというと、実り豊かな北方のフーディニ伯爵領を手に入れたので、税率を高くしてさ。絞れるだけ絞って贅沢の限りを尽くしまくった途端に、大凶作に襲われたんだよ」
「しかも、北方のカリア王国から人喰いイナゴまで南下してきて、マカローニ領内はほぼ全滅状態。慌てて逃げ出した人々は、何とかフーディニ伯爵の元に流れてきて難を逃れたらしいんだよ」
………
……
…
オークの森を超えて、俺はフーディニ伯爵領の領都エスケープに到着した。
すぐさま宿を取ってから情報収集の為に酒場にやって来たのだけれど、面白い程に情報が集まって来るじゃないか。
これだけでも、ここのフーディニ伯爵の人柄が分かるってものだよ。
「成程なぁ。ちなみにだが、北方のマカローニ伯爵とやらは健在なのか?」
「まさか。自分の領地が飢饉に遭い、イナゴに襲われた時点で王都の屋敷に逃げたらしいよ。病気だとかいう理由で王都から出なくなって、最後は息子に爵位を相続させて亡くなったそうだよ」
「その息子も碌な者じゃなくてね。マカローニ伯爵領の飢饉とイナゴの襲来はフーディニ伯爵の計略だとか抜かしやがって、それを信じた貴族達によってフーディニ伯爵は危なく奪爵になる所だったんだよ」
あ〜。
親子揃って碌でもないわ。
「結局は南方のフーディニ伯爵領をマカローニに譲渡し、北方のマカローニ領をフーディニ伯爵が統治するのならという理由で伯爵である事を許され、また北方の地に戻ったんだよ」
「最初はさ、爵位など捨てて他国に移るって話だったんだが、困っている北方の民を見て、見捨てる事が出来なくなったんだよ」
成程なぁ。
人に歴史ありとは、よく言うものだ。
「そういうことで、また北方はフーディニ伯爵が、南方はマカローニ伯爵が統治する事になったんだが。二代目マカローニ伯爵はオヤジ譲りの我儘統治を始めてさ。税率を高くして飲めや歌えや、彼方此方の貴族に賄賂を送りつけてのやりたい三昧」
「その間にもフーディニ伯爵は、奥さんと子供たち、そしてついてきた領民と一緒に北方を再開発。十年ほどで元の実り豊かな土地を取り戻したんだよ」
「その頃かなぁ……南方のマカローニ伯爵領にクリムゾンドラゴンの眷属が舞い戻ってきて、マカローニ伯爵と対決。マカローニ伯爵領が一晩で焦土に包まれたんだよ」
あ〜。
歴史は繰り返すのかぁ。
「それで何とか王都に逃げ延びたマカローニ伯爵はさ、国王に陳情書を出したんだよ。全てフーディニの計略だって。まあ、そんな戯言を信じる国王じゃないけれど、宰相その他がでっち上げたらしい証拠を突きつけられては何もいえなくなって、またしてもフーディニ伯爵は南方に……」
「それで、今の伯爵が、そのフーディニ伯爵なのか?」
「ああ。もう80歳を越えるんだけど、まだまだ若々しくてなぁ。ちなみにマカローニ伯爵は今は三代目だな。最近になって先代が体を壊して王都に引き籠ったので、娘が伯爵位を継承したらしい」
ふうん。
どう考えても、マカローニ伯爵の衰退の原因に裏があるようにも聞こえるんだがなぁ。
まあ、そんな事はどうでも良いわ。
「それで、俺はフーディニ伯爵の奥さんと娘さんが病気だって聞いてきたんだが」
「あんたは薬師か‼︎」
目の前の酔っ払いたちが、次々と俺の周りに集まってくる。
いや、まあ、それはそうなんだが。
元々、その奥さんと娘さんの病気を治す為に来たんだけどさ。
「まあな。その病気の詳しい症状がわかれば、俺でも治せるかもしれないんだ……って、うぉぉぉぉぃ‼︎」
──ガシッ!
いきなり屈強無比な男たちに担ぎ上げられ、まっすぐに伯爵の住む屋敷まで連れられていく。
いや、俺が、こんなにあっさりと捕まるってどういう事だよ、この街の男たちは化け物か?
「ま、待て、落ち着け、落ち着いてまず俺を降ろしてくれ‼︎」
「お、おお、これはすまない、ここが領主の屋敷だ。
アモン、この人は旅の薬師だ」
屋敷の前に立つ騎士に向かって、酔っ払いが叫ぶ。
いや、話が早いのは助かるんだが。
「ほう、貴方は旅の薬師ですか」
「いや、病気や怪我の治療にも詳しい神聖騎士だな」
堂々と冒険者ギルドのカードを取り出して見せる。
まあ文字が違うので理解できないようだが、何故か俺の言葉を信用したのか、ウンウンと満足そうに頷いている。
「それじゃあ、ついてきてくれ」
──ガチャッ
門が開き中に案内される。
屋敷の玄関の前では、既に話が通っていたのか執事が待っていた。
いや、どのタイミングで話が通ったんだよ‼︎
俺やマチュアの念話じゃないのに、何だよこのフットワークの軽さは!
「初めまして。フーディニ伯爵家の家宰を務めています、ローズマリーと申します。お話はよく分かりませんが、アモンが通したという事は、お方様とお嬢様の病の件ですか?」
「ホッ。やっと普通に話ができる人に会えたか。まあ酒場で話を聞いていたら、ここに連れて来られたんだが。早速だが、俺に治せるものなら治してやるが、信用してくれるのか?」
ここは重要。
いくらなんでも、旅の神聖騎士の戯言に付き合って、ホイホイといきなり案内されるとは思わない。
まずはワンステップ、伯爵に会って話を聞いてみたい所だな。
「そうですね。では、まずはこちらへどうぞ。早速ですが伯爵様とお話ししてくださると助かります」
「当然だよな。今日明日を争うほどに衰弱しているんじゃないだろう?」
「ええ。ですが、もう食事も受け付けず……」
そりゃあ大変だわ。
という事で、まずは伯爵と話をしようじゃないか。
………
……
…
そういう事で、伯爵と話をしたらすぐに奥さんのいる部屋に連れて来られたんだが。
やっぱりフットワーク軽すぎる。
「まずは、診断をお願いしたい。既に五十人以上の薬師や神官に診てもらったのだが、皆同じように【呪い風邪】という判断しか出来ないらしい」
外見的には壮年、まだ50歳後半ぐらいに見えるフーディニ伯爵。
実年齢はこっそりと鑑定したら、86歳とまあ元気な老人だなぁ。
「それじゃあ、軽く診てみますか……診断」
──バジッ‼︎
『深度5の呪詛病。対象の生命力を外部に放出し、抵抗力を奪う』
『深度3の壊血病、深度4の結核も確認』
何だと?
慌てて後ろにいるフーディニ伯爵も見る。
結核なら感染している可能性もあるからな。
『フーディニ伯爵……深度1の結核』
『ローズマリー………深度1の結核』
はい、アウト。
「さて。今から屋敷の中には誰も入れないようにしてください。この屋敷は伝染病に冒されています」
「な、何だと‼︎」
「まあ、奥方の病が外に流れ出したのですね。このまま治療しないと、屋敷の全員が死にます」
キッパリと説明する。
こんなことは隠していても、どうしようも無い。
「頼む。わしは最後で構わん、妻と娘を、屋敷の皆を助けて欲しい。欲しいものならなんでもくれてやる、わしに出来る事ならなんでもするから」
「さて、治療する為の条件って決断が早い‼︎」
思わず天狗のお面をつけて叫びたくなったわ。
少し前に、フェルドアースではやっていたアニメを思い出したよ。
「それじゃあ、まずはこの部屋からやっちまいますか」
すぐさま両手を組んで祈りを唱える。
天と地と、精霊と。
全ての生きとし生けるものよ。
その力を貸したまえ……。
え? 借りなくてもできるだろ?
良いから貸せ、その方が都合が良いんだよ。
俺の力だけなら、痕跡が残るだろうが‼︎
「……浄化‼︎」
俺の祈りと同時に、足元に魔法陣が広がり、室内がゆっくりと浄化されていく。
──ギィヤァァァァァォァァ
あ、奥方に取り憑いていた呪いも引き剥がれたぞ。
凄いなぁ、俺の神威を伴った浄化。
手加減なんか、する筈ねーだろが。
──ビュルルルルルッ
「あ、あれはなんだ‼︎」
奥方から剥がれた呪いは、黒い亡者のような姿になり天井付近を飛び回っている。
『オノレ、オノレ……スベテノトミモケンリョクモ、ミナヒトシクオレノモノダ……フーディニナドニヤルモノカ‼︎』
うん。
まあ、マカローニ伯爵とやらの呪いで決定でいいんじゃないか?
「ストームさん、あれはなんですか‼︎ まさかあれが、妻を苦しめていた病の元凶ですか‼︎」
「そういうことだ。あれは呪いだよ……何者かが、あんたを呪った。それも、あんたを直接じゃなく、間接的に奥さんや娘さんを呪う事で」
「私を苦しめたというのか……おのれ、何者だ‼︎」
さて、それじゃあ呪いの解析でもするか。
「あの呪いの元凶は……解析」
『サンド・マカローニ伯爵の呪詛。呪詛発動者協力は魔術師マイッチンゲール……強度5の呪詛体』
ふむふむ。
まあ、所詮は人間の中位レベルか。
「あの呪いの元凶は、サンド・マカローニ伯爵だ。マイッチンゲールとかいう魔法使いが行った呪いの術式だな」
「サンドだと、しかもマイッチンゲールか‼︎」
「心当たりがあるようだが、そろそろ時間切れだな。あの呪いを始末して終わりにするから、待っていろ」
──ダン!
力一杯、右足を踏み込む。
さて、普通に解呪するのは簡単なんだが、それじゃあ、また同じことの繰り返しになるだろうからなぁ。
「呪詛の分割を宣言‼︎」
右手の人差し指と中指で手刀を作り出すと、ピッと呪詛目掛けて振り落とす。
──ズバァァァァ
その一撃で呪詛が二つに裂ける。
「汝、分割された呪詛に、ストームの名で命じる‼︎ 呪詛よ、汝が発動者と命じたものの元に戻り、そのものを呪え‼︎ ashes to ashes, dust to dust」
完璧な呪詛返し。
俺がそれを唱えた刹那、二つの呪詛が消滅した。
経路はわかる、サンドとマイッチンゲールの元に一瞬で飛んで行って、取り憑いたのがわかる。
「……これで、奥さんの方は終わりだ。あとは栄養を摂らせて、そうそう、この果物を食べさせてくれれば良い。少し多めに置いておくから、奥さんと娘さんに毎食ごとに少しずつ与えてくれ」
空間収納から取り出した『マルムの実』が、全部で8個。
一つ一日分で八日分。
それを奥さんと娘さんの分を用意してと。
「さて、それじゃあ娘さんの呪詛も引っ剥がすとするか。案内してくれるか?」
「は、はい、こちらです‼︎」
後は娘さんの呪詛も剥がしてから、屋敷全員の病気の治療か。
外に広がっている可能性もあるから、そのチェックもしないとならないけれど、まあ、その辺りは後でも何とかなるだろうさ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






