真章その13・善良伯爵を助けに行こう
『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。
NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、毎週月曜日の更新です。
例の子爵からの連絡が来るまで。
俺はのんびりと、釣りを堪能する。
朝一番で浜辺に向かい、投げ釣りで平物を狙ってみる。
──クンクン……グイッ‼︎
「よし来た‼︎」
一気に引いてガッチリと合わせると、地球製のノジマのリールを一気に巻く。
──キュルルルルル
やがて魚影が見えて来る。
うん、ヒラメだな、しかもそこそこに大きい。
そのまま近くまでリールを巻くと、一気にヒラメを引き上げる。
うん、48センチぐらいか。
「流石に俺たち以外の釣り人がいないから、爆釣だな」
「あの……このような釣竿でスレルスソーイを釣り上げるなんて、どういう力をしているのですか?」
俺一人じゃ寂しいから、街の若い奴を連れての釣り。
正確にいうと、俺が浜辺から釣りをやるって聞いたので、興味を持った若い連中がこぞって集まって来ただけなんだけどな。
皆の竿にもリールっぽいものはついているんだが、それほど高性能じゃない。
それでも俺が何度かレクチャーしたおかげでか、一時間に一枚程度は釣り上げられるようになって来ていた。
「……それで、王都からの連絡はまだないのか?」
「ストームさん、それは流石に早すぎます。領主が自分の領土を一介の町人に差し出すなんて事はありませんので、何か対策を考えてあるに違いありません」
「貴族院でも、どうしたものか対策を練っているんじゃないですか?」
「対策……ねぇ。このあたりを統治する貴族を増やして割領すればいい話なんじゃねーの?」
そう考えて見たんだけど、そもそもこの辺りの領地を任せられる貴族がいるかどうかに掛かって来る。
あのツカレガー・コリガー子爵が納得する形で話を終わらせないと、また揉める事間違いない。
「コリガー子爵以外に、この辺りを任せられそうな貴族は?」
「隣領のフーディニ伯爵なら、或いはあり得るかもしれませんが、伯爵は今は自領に引き篭もってますから」
引き篭もり?
そりゃまたどうして。
貴族院の会議には参列しないのか?
「そのフーディニ伯爵って、なんで引き篭もっているんだ?」
「奥様と娘さんが病に罹っているっていう噂です。その為、国内の薬師や高位神官に頼み込んで治療方法を探しているらしいですよ」
「……その病気って?」
神官や薬師を雇っても、直す事の出来ない病気となると、不安だな。
「呪い風邪って俺たちは呼んでます。咳がひどくなって、血の混ざった痰を吐くこともあります」
「それと、怪我が治りにくくなって、足の皮膚が腐れて剥がれるんだ」
「……結核、じゃないよなぁ。足が腐れるとか、とんでもないわ」
流石に情報が少ないため、すぐに治療法なんてわかる筈もない。
「因みにだが、そのフーディニ伯爵とやらがこの辺りを統治したら、この港町に平和が訪れるか?」
「そうさなぁ。距離的にはコリガー子爵領の領都までいく距離の半分程度で、フーディニ伯爵領に着きますから。前よりもよく見てくれるとは思いますよ」
「善人かっていうと、所詮は貴族ですからとしか言えませんが。変なマフィアに領内の町を統治させる今の領主よりはマシかと」
成程。
そのフーディニ伯爵夫人の病気が俺に治せるのなら、彼にここを任せる代価として治療してやるというのもありという所だな。
「そのフーディニ伯爵領ってのは、どっちに行ったらいいんだ?」
「海岸線をまっすぐに進む街道があります。それを西に向かって進んだら、途中で内陸に向かう街道との三叉路がありますから。そこを内陸方面に向かうと一週間もかかりませんぜ」
「以前は森越えの街道があったのですけど、オークが住み着いちまったから、通れないんですよ」
「へぇ。オークがねぇ。冒険者を雇って討伐してもらえないのか?」
「それを出すのはここの領主ですぜ?」
あ、無理なのか。
そんなことに予算を回すつもりなら、他に有意義に使うとかいう奴だな。
全くもってギルティ過ぎるなぁ。
それじゃあ、俺が行ってくるか。
「それじゃあ、俺が直接フーディニ伯爵領まで行ってくるから、町長に一筆書いてもらって来てくれるか?」
「え? ストームさんが? あの森のオークは普通じゃないですよ?」
「そうそう、なんというか、ギルドでは【亜種】って呼んでいましたから」
「へぇ、そういうのを聞くと、何ていうか、ワクワクしてくるよなぁ」
俺の知らない亜種だったら、面白い。
今まで見たことあるのは、オーク、ハイオーク、アークアーチャー、オークマジシャン、オークロード、オークキング、アークエンペラー。
これ以外に居たならば、それは楽しい事になりそうだ。
………
……
…
──シュルルルルルッ‼︎
「……マジか?」
町長に一筆書いてもらい、やってきたのは森越えの街道。
そこを魔法の絨毯で飛んでいたら、突然街道の左右から鏢が飛んできた。
まあ、軽く交わしてから絨毯から飛び降りると、左右の森から黒装束を着てブンブンと鏢を振り回すオーガが姿を表したんだが。
「この街道は、我がジュンスイ一族の集落となった。許可なく入るなら、殺す‼︎」
──シュタッ‼︎
さらに奥の森から黒装束のオークが姿を現すと、両手のクナイを俺めがけて飛ばしてくる。
「い、いや、ちょい待ち、お前らはオークだよな‼︎」
「いかにも。遥か海の向こう、セッサの国から逃げ延びたオークの一族だ。ようやく辿り着いた我らが楽土、みすみす渡す訳にはいかない‼︎」
「チェストォォォォォォ!」
さらに逆の茂みからは、着流しのオークが巨大な斬馬刀を力一杯振り落としてきた‼︎
──ガギィィィィーン
それをカリバーンで受け止めて流すと、ようやく俺もやる気が出てきたわ。
「貴様らはオークだよな? やはりあれか? 人間の女を攫って孕ますタイプか‼︎」
「何で我らがオークが、人間の女などに興奮しなくてはならないのだ、我らはそんな変態趣味ではない‼︎」
「いかにも、ぽっちゃり系ならいざ知らず、細い人間の女などに興味はない‼︎」
ぽっちゃりならいいのか? いや待て、オークのいうぽっちゃりは、レベルが違わないか?
「そ、そうか、それはすまなかった。俺はこの街道の向こうに行きたいんだが、通してくれるか?」
「通りたければ、通行税を払え‼︎」
あ〜。
あれか?
通行税は俺の命って奴だな?
「それじゃあ、支払ってやるよ。いくら払えばいいんだ‼︎」
「銀貨二枚だ‼︎」
「俺のいの……あれ? 俺の命じゃなく?」
「貴様は馬鹿か? 殺してしまったら、冒険者が大挙して押し寄せて来るだろうが。通行税は銀貨二枚だ‼︎」
「お、おう」
ゴソゴソと懐から銀貨を取り出すと、それを手渡して……サムライオークに案内されたんだが。
街道の先の広場には、木造の村がありまして。
そこでオークたちが平和に暮らして……俺は夢を見ているのか?
「本当に、人に危害を加えたりはしないのか?」
「そもそも、この村には人間の商人も来るのだが? 何で自分達のライフラインを潰すような真似をしなくてはならないのだ?」
「ライフライン? 今、ライフラインって言ったよな?」
あ、生活必需品とか、そういうのが自動変換されたのか。
俺の自動翻訳、たまに余計な翻訳をするから困ったものだわ。
「彼ら商人は、我らに必要な物資を運んでくる。その代わりに、この森の恵みを適正価格で譲り渡している」
「はぁ。王様とか居そうだな」
「いるぞ、ジュンスイ一族の王家の血を引くものがな。まあ、会わせる訳にはいかないので、このまま街道を進んで行くがいい」
「……その辺のチンピラ冒険者よりも、よっぽど話がわかって助かるわ」
「はっはっはっ。こちらの大陸の人間は、オークと聞くとすぐに食材と見て襲い掛かって来るからなぁ。最初は苦労したものだよ」
そんな話を聞きながら、森を無事に越える事が出来た。
はぁ、俺のモンスター図鑑に新たな一ページが出来たわ。
「それでは、また会おう。帰りもここを通るのなら、銀貨二枚か、もしくは年間通行手形を買う事をお勧めする」
「ご丁寧にありごとうよ。それじゃあ、またな」
軽く手をあげて別れを告げると、再び絨毯に飛び乗って急足ならぬ高速移動。
あのとんでも子爵が来る前に、こっちの話を終わらせた方が良いよなぁ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






