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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
NEXT STAGE

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真章その9・話すから分かれって‼︎

『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。  

NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、毎週月曜日の更新です。

 戦神グラディアスを祀る神殿。


 その奥にある大司教の間で、ストームはステファニー・ライザー大司教と話をしている。

 まあ、穏やかな会談を求めるストームは、ソファーに座って空間収納チェストからお茶セットと羊羹を取り出すと、のんびりとティータイムを楽しんでいる。


「ストーム大神には、ご機嫌よろしく……」

「まあ、とっととやる事やって帰りたい所だけどなぁ」

「そ、そのやる事とは?」


 ライザー大司教が、恐る恐るストームに問いかける。


「この世界を好き勝手している神様には退場頂いて、本来の正しい流れに切り替えたいのよ、分かるか?」

「……ん?」


 ライザーが、思わず問い返す。

 すると、ストームは間髪入れずに一言。


「亜神のグラディアスが、大司教に変装して、自分に対する信仰を集めるのってどうよ? 亜神なら亜神らしく、その辺りは人間に神託なり何なりをして、率先してまずやってもらうんじゃないのか? それを自分が率先してやって、贅の限りを尽くした生活をして……」

「は、はぁ、あの、それの何処が悪いので?」

「神様ってのは、信じてくれるものに対して加護を与えるもの。それを、自分も混ざって俗世に塗れて。ある程度なら構わんとも思うし、正体を隠して遊んでいる分には、何処の神様もやっている事だから、何も咎める気はないよ? ただなぁ……」


 テーブルをトントンと指で叩く。


「自分に対して害意を為す可能性の人間を選別し、辺境に送り出す……それって、自己保身だよな?」

「は、はぁ……確かにそうですが、それのどこが悪いのですか?」

「干渉し過ぎだな。そもそも、亜神のくせに自分を祀っている教会の大司教って……いやちょっと待て、この国の国教も戦神グラディアスだよな?」


──ドキッ‼︎

 そのストームのツッコミに、ライザー大司教は胸を押さえてしまう。

 ドキドキが止まらない。

 これって、命の危機?

 そんな感情が、心の中で錯綜する。


「なぁ、一国の国教に対して、神様自らが降臨して自分を崇め祀るのは、問題があると思うか?」

「え、あ、いや、あのその……問題がありますか?」

「崇め祀るようにって告げるのは構わんと思うが、自分で率先するっていうのはどうよ?」

「いやいや、私は神の教えを忠実に伝えているだけでして」

「その教えっていうのはグラディアスじゃないよな? 腐敗神バスドラマの教えを、お前がグラディアスの教えだって伝えているだけだよな?」


──トントン

 静かな問いかけ。

 でも、ストームの指は、トントンとテーブルを叩いている。


「は、はい、おっしゃる通りです‼︎」

「なんで腐敗神の神殿を作って、そこで神託を下ろさないんだ? バスドラマ、ちょっと来いやぁ‼︎」


──シュンッ

 ストームが叫ぶのと同時に、黒いローブ姿の老人が姿を現す。

 

「我は腐敗神バスドラマ……あ、いえ、これはお約束ですので、はい、何か御用でしょうか?」

「まあ、座れや」

「ヒイッ‼︎」


 ピョイとジャンプして、ダイレクトソファー座りするバスドラマ。

 フードを被っているので、顔は見えない。


「人前に出る時は、フードを外せ、子供でも分かっている常識だろうが‼︎」

「ひゃいっ‼︎」


 すぐさまフードを外すと、長い黒髪の女性の顔が現れる。


「な、ん、で、自分の神殿を作らない? どうして作らせないんだ?」

「いや、あの、これには深い訳がありましてですね。私、腐敗神ですけど魔族の神でもありまして。数百年前の魔族大侵攻の際に、魔族に全力の加護を与えて、人間世界を滅ぼし掛かったのですよ」


 更に細かい話を聞いていると、そもそもこの世界の神が滅んだ理由が、数百年前の魔族大侵攻の際に、バスドラマが魔族に加護を与え過ぎたせい。

 結果として魔人王なる者が台頭し、神に喧嘩を売ったのが『神魔戦争』という形で始まったそうだ。


 結果、魔族の圧勝。

 神様は封印されて、世界の彼方へ流されましたとさ。


「……それでですね、私たちが面白おかしく世界を支配していたのですが、ここ最近になって、他所から来た神が別大陸で覇を唱えました」

「まあ、それでも、こっちに手出ししないのなら、私達は私達で、正体がバレない程度に人間を支配して、面白おかしく生きようかと」


──シュンッ

 神滅の聖槍を空間収納チェストから取り出し、床に突き刺す。


「「ヒィィィィィ」」

「お前ら、一度滅ぶか?」

「一度でも滅んだら、おしまいじゃないですか」

「せっかく面白おかしく国を支配していたのに」

「干渉し過ぎか。まあ、痛いのは最初だけだ、すぐに苦痛になる」

「「情け容赦ないわぁ」」


 しかし、根底からの解決を行うのなら、人間世界で勇者を発見して育て上げ、別大陸の神を滅ぼしてもらわないとならない。

 その為の基礎作りとしては、侵略されていないこの国が最適である。


「しゃーねぇか。この国の人間で、勇者の資質を持っている奴は?」

「へ! あ、ええっと……全て辺境に流浪刑として送り出しました」

「そんな奴がいて、迂闊に覚醒なんてされたら、私達が危険じゃないですか」

「やっぱり死ね。いや、封印して俺の空間収納チェストに放り込んでやるか?」

「待って、まーって‼︎ 今からでも、遅くはないですよ。ラベルを貼り付けた奴らは全員、勇者の気質を兼ね備えていますから。まだ生き残っているかどうかなんて知りませんけど」


──チクッ

 イラッとしたストームが、バスドラマを軽く突く。


──ビシャァァォォァ‼︎

 たったそれだけで、バスドラマは全身に雷が走ったかなような激痛を感じ、その場で気絶した。


「戦神グラディアスに勅命。この国の王様に神託を落として、勇者を育てろ」

「へ?」

「近い将来、海の向こうから、異世界の神の加護を持った者が襲い来る。それから世界を守る為の、勇者を育てよってな」


 淡々と説明するストーム。

 そしてバスドラマも意識が戻ったので、同じ事をもう一度説明する。


「……え? 私達が神託を?」

「そうだ。そして、別大陸に降りた神を倒す力を育てろ」

「いやいや、そんなことをしたら、我々の正体もバレますって」

「私なんて魔族の神ですよ? 敵ですよ?」

「まあ、その辺りは神様なんだから、上手くやることだな。断るなら、それも構わんよ?」


──シュンッ

 オリハルコンアーマーに身を包み、力の盾とカリバーンを装備するストーム。


「やります、全力でやらせてください‼︎」

「この私は、ストームさまに忠誠を誓います‼︎」


──キィィィィィン

 すると、グラディアスとバスドラマの身体が輝いた。

 神威が上がり、神階が昇華したのである。


「ほう。亜神グラディアスは、正式に戦神グラディアスに。腐敗神バスドラマは、豊穣神バスドラマに昇格だってよ。ついでに俺の眷属神な」


 目の前のストームに対して、神魂レベルで忠誠を誓ったのである。

 これで二人は、正式なこの世界の神となった。


「は……はは。ローブの色も黒から金色に変わった……」

「私など、神から神剣が貸与されましたぞ‼︎」

「はいはい。そんじゃ、後は任せたからな。テコ入れはすると思うが、ここからはこの世界の神のお前達の仕事な」


 それだけを説明して、普段使いの装備に換装すると、ストームは手をひらひらと振りながら部屋から出て行った。


「……え?」

「そんなあっさり? 創造神って、怖すぎなんですけど……」


 呆然としたまま、グラディアスとバスドラマの二人は、ストームが出て行った扉をじっと眺めていた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「はい、ガランシェール商会が早い、金貨五枚出ました‼︎」

「六枚だ!!」

「うちは八枚出す‼︎ 他は下がれ‼︎」

「十枚よ、オージニック商会は十枚出しますわ‼︎」

「十枚出ました!他にはないか……はい、ミスリルのインゴット10kg、金貨十枚でオージニック商会にハンマープライス‼︎」


──コンコーン

 商人ギルド別館会議室では。

 マチュアが大会議室を一日借り切り、オークションを開催していた。

 参加条件は商人ギルドカードを持っている事、その場で即決で支払う事の二つ。

 予め、どんな商品が出るのかは目録を作ってギルド内掲示板に張り出していたので、かなり大勢の商人が参加している。


「はいっ、次はこちら。シックスパックディアーの骨格。ほぼ全身がありますので、まとめての入札です。銀貨五枚からスタートで、引き上げは最低銀貨一枚から‼︎」

「銀貨八枚だ‼︎」

「銀貨十枚‼︎」


 銀貨は十枚で金貨一枚になるが、最低引き上げ額が銀貨のため、今回は銀貨の枚数によるベッドとなっている。


「銀貨十二枚‼︎」

「うちは銀貨十五枚だ‼︎」

「銀貨二十枚‼︎」

「二十五枚でどうだ‼︎」


 予想外に加熱しているのだが、これも想定済み。

 今日のマチュアの目的は、レスティア領内で入手した材料を売り飛ばすのではなく、マチュア本人に興味を持ってもらうのが目的である。

 昨日、商人ギルドの買取カウンターで大騒動をやらかしてから、マチュアは商人ギルドを一切信用していない。

 この会場については、誰でも銀貨五枚を支払う事で借りられる事、建物を損壊しない限りは何をしても構わないという条件であったので借りたのである。

 そして、このマチュアの動きを、商人ギルドは苦々しく睨んでいる。

 本来なら、今、オークションに流れている商品は、全て商人ギルドが購入する筈だった。


 それを、あの碌でもない買取カウンターの責任者がマチュアを怒らせてしまった為、一切の買取が不可能になってしまったのである。


「あの女……調子に乗りやがって。ガッポリと税金をとってやるから、覚悟しろ‼︎」


 買取カウンターの責任者が、そう吐き捨てるように呟くが、納税については最低金額以上は支払う必要がない。

 しかも、オークションの相手が商人であるため、納品扱いとなってしまうので、更に税率が下がっている。

 

「それでは、次の商品。完全回復薬です。これは切傷どころか、切断した四肢さえも再生する優れものでして……論より証拠をお見せしましょう」


 予め、冒険者ギルドから、怪我によって引退した剣士を紹介してもらっている。

 その剣士がステージの上に立つと、マチュアは失った右腕にポーションを振りかける。


──シュゥゥゥゥ

 すると、肘から下の部分が白い煙を吐き出しつつ再生を開始。

 見ていた商人達は、その奇跡の光景に絶賛するしかなかった。


「あ、あのポーションは、俺が買う筈だったんだ……あの女め……」


 ギリギリと拳を握るカウンター責任者。

 その視線に気が付いたのか、マチュアはニィッと笑うと、大声で叫ぶ。


「それでは入札を開始します。金貨一枚からスタート、ベッドも金貨一枚から‼︎」

「金貨三枚‼︎」

「うちは五枚出す」

「ウェン商会だ、八枚だすから」

「イーマット商会は十枚だすぞ、オージニックに負けていられるか‼︎」


 どんどんと上がる価格だが、三十五枚で落札される。

 そんな感じで次々と商品を販売し、夕方になって競売は終了した。


「はっはっはっ。今日の売り上げ、金貨2684枚。そんじゃ、また仕入れたら来ますので」

「仕入れたら? それはどこから?」

「まあ、色々とツテはあるんですよ。今日売った分だって、仕入れに三日しか掛けていませんからね。でっは〜」


 手をひらひらと振りつつ、マチュアは会場を後にする。

 そして商人ギルドのカウンターに向かうと、会場の借り賃の銀貨五枚を支払う。


「はい、これが今日の借り賃だね」

「お疲れ様です。確かに銀貨五枚、お預かりします」

「待て、それは普通に貸した場合だろうが。貸し出した会議室で金品の売買があった場合、販売額の三割をギルドに支払う義務があるだろうが‼︎」


 突然、横から買取カウンターの責任者が口出ししてくる。

 だが、マチュアは冷たい目で男をじっと見る。


「あんたはバカか? それは会議室で一般販売した場合だろうが。今日の客は全て商人で、仕入れ及び納品扱いだって説明していただろうが」

「ふざけるなよ、あれだけの上質な商品を端金で売り飛ばしやがって‼︎ うちに納品していたら、もっと高額で捌けたんだぞ‼︎」

「あの、受付さん、ギルドの責任者を呼んできてくれる?」

「ギルドマスターは病気で休んでおりまして……」

「そうだ、ギルドの責任者は俺の親父だからな‼︎ つまり!俺はギルドの二代目でもある。俺の意見は絶対だ、わかったフベシッ‼︎」


──ドッゴォォォォォォン

 突然、買取カウンターの男が横に吹き飛ぶ。

 その右頬めがけて、体重の乗った右ストレートが炸裂したのだ。


「い、一撃じゃなく三発同時だと?」

「現役時代なら、五発はいけたな……愚息が迷惑をかけたらしくて申し訳ない。この商人ギルド責任者のアレクセイです。おいボンクラーノ。お前は今日限りでクビだ」

「親父、どうしてここに、それよりも病気は‼︎」

「治ったな。それも見事に完治した」


──ムキッ!!

 見事なサイドチェストを披露するアレクセイ。


「あ〜。私の売った完全回復薬を飲んだのか」

「ああ。昨日、職員から報告を受けてな。懇意にしている商人に落札を任せたんだ。おかげで、昔の若さを取り戻したよ」

「そ、そんな……親父、俺は二代目だぞ、俺が跡を継がないとならないだろうが‼︎」

「後半年もすれば、お前の弟か妹が生まれるわ‼︎ 跡継ぎはその子に任せる‼︎ ギルドを私物化するようなアホに、この王都の商人ギルドは任せられぬわ‼︎」


 その言葉が衝撃的であったのか、ボンクラーノはフラフラと立ち上がると、ギルドから出て行った。


「改めて、あなたには感謝します」

「はぁ、成程ね。なんとなく状況は理解出来たわ。それで、買取カウンターは後釜がいるの?」

「前任者を配置します。あのバカ息子が、自分の懐を潤したいが為に好き勝手やりやがって……」

「あんたはまともそうだね。口は硬いほう?」

「そりゃあ、王都の商人ギルドを統括しているからな。何か、仕事の話か?」


 マチュアは考えた。

 この人なら、直接、仕入れを担当させても構わないと。


「そうだなぁ。ちょいと、人目のない所で話がしたいんだけどさ」

「それなら、俺の部屋だな。こっちだ」


 建物の最上階にあるギルドマスターの執務室。

 そこに案内されると、マチュアは扉を魔法の鍵でロックすると、転移門ゲートを作り出す。


「ここから先は、一切他言無用で。では行きます」

「それよりも、これはなんだ?」

「いいからいいから……ほら、とっとと行く‼︎」


 少しだけ抵抗するアレクセイの背中を押しながら、マチュアは転移門ゲートをくぐり抜けた。

 その先は、レスティア領内、カナン魔導商会。

 転移門ゲートから出たアレクセイは、建物の中から外に出た事に驚き、周りを見渡してしまう。


「ま、まさか、空間超越魔法か?」

転移門ゲートっていってね、二つの場所を結ぶ魔法だよ。そしてようこそレスティア領カナン魔導商会へ‼︎」


 振り向くと、カナン魔導商会倉庫。

 開かれたそこでは、先程まで会議室で販売していた全ての商品が、大量に積み込まれていた。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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