真章その7・待ちに待ったぜ、黒幕さん?
『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。
NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、毎週月曜日の更新です。
はいっ。
カナン魔導商会支店が領内に出来てから。
貨幣流通が復活し、ダンジョンの安定化も終わっている為、村人は安心して畑を耕し、狩りに出掛けるようになった、
流石に農作物の収穫についてはまだまだ先なので、当面はマチュアがカナン魔導商会支店で販売するものを購入しなくてはならない。
その為には、動物や魔物を狩り、広大な森の中で果実や野草、特に回復薬などの薬の材料を集めて来ては買取って貰い、現金と交換しなくてはならなかった。
今までは、いつ魔物に襲われるか分からず、ギリギリの生活をしていた領民たちも、明るい未来がひらけて来たという事で、生き生きとしている。
「さて、問題は、この過剰なまでの在庫だねぇ」
カナン魔導商会支店となりに新しく併設された、大型倉庫。
その中では、マチュアが山のように積まれている素材を前に、腕を組んで考えている。
「あの、マチュアさん、何かあったのですか?」
カナン魔導商会の店員のマーサが、倉庫から戻ってこないマチュアに話しかけている。
ちょうど時間も昼なので、一緒にランチでもと誘いに来たのであるが、何やら真剣に考え込むマチュアを見て、少し不安になってしまった。
「ん? 過剰在庫でさぁ、この領内でも消費しきれないからさ。いっそ王都にでも持っていって、売り飛ばそうかなぁと思ったんだけど」
「王都にですか?」
「まあね。こっちはマーサとイライザに任せておいても問題ないっしょ? 解体の仕事のやつは、そっちの冷蔵庫にぶち込んでおいてくれれば、戻ったらやるし。まあ、そろそろ自分達で解体しろって言いたいけど」
「自分達でやるとロスが多くて、買い取りが下がるって思っているんでしょうけれど」
「それじゃあダメなんだよなぁ。自分達で綺麗に仕上げたら、買取査定も上がるんだけどさ。いっそ誰かに解体屋でも任せたい所だよ」
領地として発展する道はまだ先だけど、自分達で狩りに行ったりする人々が増えたのも事実。
そればかりに集中してしまい、他の仕事が発展しづらくなっているのも事実。
この辺りのバランスをどう取るかが、今後の展開なんだろうなぁ。
「まあ、午後からは出かけてくるわ。夜には戻るから、店番よろしくね」
「はい、かしこまりました」
そのままマチュアはマーサと一緒に店に戻る。
食事当番のイライザが、腹ペコを我慢して待っていたのには、思わず吹き出しそうになってしまったが。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
午前中は、ダブついた依頼の処理。
今日は急遽、オーガの群れが近くの森に住み着いたらしく、その討伐をやって来た。
まあ、オーガキングはいないし、リーダー格はオーガジェネラルの亜種だけらしいから、そんなに難しい依頼じゃない。
いくつものパーティーによる合同作戦だったから、たまには他の冒険者にも手柄を立ててもらおうと思って、後方でのんびりとしていたんだが。
「うんぁぁぉぁぁぉぁぉぁ‼︎」
「た、助けてくれぇぇぇぇ‼︎」
オーガの群れに突入する冒険者たち。
まあ、それなりの実力はあるんだろうと思ったのだが、いきなり蹴散らされて、吹き飛ばされて、半死半生に追い込まれている。
「な、なんでだ? お前たち、Bランクだよな?」
慌てて盾を構えてオーガに突入。
面倒くさいから、範囲内まとめて『爆裂刃・無限斬』でまとめて吹き飛ばしたのだが。
「フシュルルフルルルル」
俺の攻撃を見切ったオーガジェネラルが、俺の前に立ちはだかる。
俺の後ろでは、呻き声をあげている冒険者たちが転がっているんだが、なんでこんな状況になった?
お前たち、腕に自信があるから突っ込んだんじゃないのか?
──ガギィィィィーン
手にした金属製の棍棒で、力一杯殴りかかってくるオーガジェネラル。
うむ、速度は良い。
その一撃なら、駆け出し冒険者なら一撃でミンチだよな。
それを盾で受けとばし、体勢を崩す。
前のめりになったところで、首を上から一撃で落とすだけ。
──ストン
ストンて落ちるオーガジェネラルの首。
すぐさま闘気解放で、周囲の残存オーガを確認するが、慌てて撤退するのが3体だけ。
「……群れの討伐だが、ここを捨てていくわけにはいかないなぁ。全く、なんでお前たちは群れに突っ込んだんだ?」
急ぎ魔法で手当てを行う。
全快になんてしない、歩ける程度までの回復。
すると、何人かの冒険者が、俺に頭を下げてきた。
「あ、いや、オーガって、あそこまで強いとは思わなかった」
「ゴブリンの大きなやつ程度の認識しかなくてな」
「実戦でオーガと戦うのは初めてだった。いつものオーガ討伐なら、最低でもBランク冒険者用だったが、今回のはCランク依頼だったから、弱い集団かと思ったんだ」
「いやいや、オーガなら単体でもBランク、群れとなるとAランク依頼でもおかしくはないんだが、なんだその基準は?」
詳しい話を聞いていたら、今回のオーガ討伐はCランク推奨であり、ベテラン冒険者のストームも参加するから安全に狩りが出来ると言われ、参加したらしい。
つまり、こいつらは全員Cランク。
そんな話、誰から聞いたんだよ。
「はぁ。俺が参加して、安全な訳がないだろうが」
「でも、怪我をしたら魔法で直してもらえるし、魔法の援護もあるから大丈夫だって、ギルドの担当から言われたが」
「俺もそうだ、獲物は全員で均等割りにするから、安全な場所で狩りをしても問題ないと」
「ふぅむ。何か裏があるか。まあ、それじゃあ戻るとするか」
周りを見渡して、オーガの死体を確認。
──パチン
そして指パッチンで全てのオーガをターゲットロックすると、まとめて空間収納に収める。
「な、何だその技は?」
「空間魔法だな。アイテムを位相空間に収めておく術で、時間停止効果もあるから、腐ることもない……って、そういう魔導具ぐらいはあるだろう?」
「い、いや、ホールディングバッグの事だろうけど、遺跡で見つかるアーティファクトだし、大抵は貴族の連中が回収するからなぁ」
「回収?」
「そうさ、貴族とかの調査依頼や討伐依頼は、大抵は回収品や素材は貴族が回収する事になっている。その代わり、俺達は莫大な金がもらえるからさ」
あ〜。
レアリティの高い素材やマジックアイテムは、全て貴族が回収して、市井には回らなくなっているのか。
道理で、ドラゴンの素材の時は是非ともって話してくるはずだよ。
「ふう。色々と歪んでいるなぁ……」
「そうですか?」
「歪みに気付いていない時点で、かなりやばいんだが……まあ、いいか」
取り敢えず、全員歩けるようには回復したので、一旦は王都に戻る事にした。
色々とギルドマスターにも聞きたい所だからな。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
怪我人という程でもない冒険者たち八名と一緒に、俺は冒険者ギルドまで戻って来た。
すると、何かギルド内の様子がおかしい。
カウンターでは、受付が俺の姿を見て驚き、慌ててギルドマスターを呼んでいる。
ふむ、何やら面倒臭い事になっているのか。
「おお、ストーム殿、ずいぶん早い帰還だな。さすがにオーガの群れはキツかったか?」
「二体ほど逃したが、オーガジェネラルとその他は討伐した。依頼内容は討伐だけであったから、取り敢えず回収したオーガは見せるが、素材はこっちで回収するからな」
淡々と説明すると、俺の後ろから『ゴホン』と咳払いする音が聞こえる。
振り向くと、貴族らしい男が、そこに座っている。
「君はバカかね? 討伐依頼ということだから、素材は全て回収させてもらうよ」
「何だ、お前は?」
「お、お前だと‼︎ この、私がコエフトール子爵と知っての言葉が‼︎」
名は体を表す。
うん、でっぷり太った権力系貴族か。
「知らんわ。さて、ギルドマスター、依頼書には『近隣の森に住み着いたオーガの群れの討伐。証拠として討伐したオーガの部位を確認するため、共通部位を持ち帰るよう』だったよな?」
「あ、ああ、その通りだ」
「だったら裏に行くぞ、そこで確認してもらって終わりだよな?」
「い、いや、通例としては、討伐部位はギルドで買い取るのだが」
「通例か。俺は他国の冒険者だから、ここの通例に乗る必要はない、そうだよな?」
「い、いや……」
「ギルドマスター、そこの若造に説明しろ。冒険者ギルドの通例を守らないのなら、ギルド資格を剥奪すると」
はぁ?
お前、ギルドと関係ないだろうが。
たかが子爵程度が、ギルドのシステムに口を挟むのか?
「まさかとは思うが」
「そ、そこのコエフトール子爵の言う通りだ。この王都には王都の通例がある。討伐依頼を出した貴族には、全て回収する権利がある」
「と言うことだ、わかったら、討伐したオーガを差し出したまえ‼︎」
偉そうにふんぞり返っている貴族。
成程なぁ、この国じゃ何につけても貴族が偉いのか。
それじゃあ、腐敗する筈だよなぁ。
「まあ、そう言うことなら、『依頼は失敗した』と言うことで、追撃任務は辞退する。以上だ」
「ま、待て、退治したオーガを出せ‼︎」
「悪いな、持って来ていない。この姿を見てわかるだろう?」
コエフトールに両手を広げて見せる。
だが、コエフトールは立ち上がって俺の前までやってくる。
「貴様が、物体をどこかに隠す魔法を使っているのは知っている。さあ、出したまえ‼︎」
「だから、任務は失敗ですよ。二体も逃しましたから……と言う事だ、報告は終わったから、別の場所で飯でも食うか」
貴族は無視して、俺はパーティーメンバーとギルドを後にする。
そして適当な酒場で飯を食った後で、今回の依頼の成功報酬を、自腹で全員に支払った。
「勝手なことをしてすまない。君達の経歴にも傷を付けてしまったようだ」
「いや、むしろ清々しましたよ。あのコエフトールは、いつも難癖をつけて依頼料を値切って来ますから」
「もっとも、今回の依頼については、オーガを二体も逃してしまった。そもそも、依頼内容が無茶振りしていたからな」
「依頼時の設定で、CランクとBランクでは、依頼料の桁が違いますからね」
はぁ?
まさか依頼料をケチって、対象ランクを下げたのか?
それでも、俺が参加したのなら高くつくんじゃないのか?
「俺の支払い分は高くなっていると思うが?」
「その分を低ランクで補って、しかも素材は全て手に入るから丸儲けなんですよ」
「そういうものか。それで、この後の貴族の報復は?」
「任務失敗なので、俺たちは一ヶ月は依頼を受けられません。けど、こうやって補償してくれたので、大丈夫ですよ」
「どのみち、この依頼で得た資金で、隣国まで足を伸ばす予定だったからな」
「この国のギルドは、独自ルールが多過ぎますからね」
余程独自ルールが厳しいのだろう。
この後は、延々とギルドや貴族に対しての愚痴を聞かされたのだが、まあ、悪くはなかった。
むしろ、本音で話をしてくれたのが、却ってありがたかった。
………
……
…
──シュンッ
「てーんいっと‼︎」
レスティア領から座標指定で王都前まで転移してきた。
街の中まで飛んで行ってもかまわなかったんだけどさ、後々面倒臭そうだから、正式な手続きで王都に入る事にした。
王都に入る為の行列に並んで、のんびりと待つ。
やがて順番が来たので、軽く頭を下げた。
「身分証はあるか?」
「他国のギルドのものですが、それでよろしければ」
懐から商人ギルドのギルドカードを取り出して提示する。
当然、カナン魔導連邦の公用言語なので、こっちの人が読める筈がない。
「こ、これはどこの国だ?」
「ここからかなり遠く、海の向こうの大陸から遥々とやって参りました。旅の商人ですが、ここに来るまでに商品は売り切ってしまい、峠の手前で馬も死んでしまいました。この国で、商人としてやり直そうかと思って来たのですが?」
言葉に魔力を乗せて、好感度を上げる。
まあ、この程度なら話術だけでも良いんだけどさ、周りにも聞こえるように話したので、噂程度は広がるかもね。
「商人か。なにか商品はあるのか?」
「ええ。大したものはありませんが」
──シュンッ
収納バッグ経由空間収納から、香辛料の入った壺を取り出してみせる。
「これは?」
「黒胡椒ですね。こっちはターメリック、こっちがグローブ、これはシナモン……」
「香辛料か。我が国の近郊では、香辛料の栽培が難しくてな。商人ギルドに登録すると良いだろう。商人の入国税は、金貨2枚だ」
「金貨……これで?」
取り出しましたるラグナ・マリア金貨。
はて、どれだけの価値があることやら。
「また異国の通貨か……『商売の神マイドデンガよ、かの価値を示せ』」
──ブゥゥゥゥウ
騎士から祈りを告げると、私が手渡した金貨が光る。
そして、魔法文字が浮かび上がると、騎士たちは困った顔をしている。
「あの、価値が低かったですか?」
「逆だ、逆。この金貨も、帝国金貨25枚に匹敵する価値を持っている。差額を渡したいのだが、ここではそれほど多くの金貨を用意していない。この前といい今日といい、他国の高額金貨を見るとはなぁ」
「はぁ。それでしたら、こっちの銀貨では?」
差し出した銀貨を再度調べてもらったら、銀貨一枚が金貨2.5枚相当らしい。
「それでは、この銀貨を収めてください。差額は必要ありません、みなさんの酒代にでもどうぞ」
「そうか、では、ありがたく受け取っておく……といいたい所だが、賄賂になるのでそれは出来ない。然るべき報告をした上で、教会に寄付させてもらう」
「ありがたい。それでは失礼します」
軽く頭を下げて、商人ギルドのある方角に歩いて行く。
いやぁ、真面目な門番だなぁ。
カナン魔導連邦なら、懐に入れているよ、きっと。
何はともあれ、無事に王都には到着した事だし、とっととやる事やって、帰るとしますか。
さて、ストームもどこかで頑張っているだろうが、心配する程でもないし。
頑張れよ、ストーム‼︎
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






