真章その6・文化の違い? 継承されていないのか?
『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。
NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、毎週月曜日の更新です。
さて。
冒険者ギルドに登録して、酒場でのんびりと情報収集がてら、酒を飲んでいて。
周りが妙に騒がしい。
「俺は、『嵐の閃光』のリーダーを務めているダライアスだ。君のような新人冒険者を、心から歓迎する」
「うるせえ、ダラダラしたパーティーは後ろに下がっていろ。俺たちはAランク冒険者だけのパーティ『炎の旅団』だ。貴様を特別に入団させてやるから、ありがたく思え」
「騙されるな、炎の旅団は若手冒険者を搾取するに違いない。君のような神に認められた存在は、俺たち『ブレイブハート』が面倒を見てあげようじゃないか」
まあ、こうなるよなぁ。
話では、この世界で回復魔法が使えるのは豊穣神アークライトを信奉する貴族の、それも伯爵位以上の者だけらしい。
そう言う輩は大抵は、教会に仕えているか独自に治療院を設けて荒稼ぎしているらしい。
しっかし。
随分とずさんな世界だよなぁ。
神がいなくなったので、亜神程度の存在が幅を利かせているって言うのが、その証拠だよ。
「よし、こうなってしまってはらちがあかない。彼を入団させるチームを、俺たちが決めようではないか」
「決闘だ、バトルロイヤルだ。勝者の登録されているクランもしくはパーティーに、彼を登録する。これで依存はないな」
「上等だ‼︎」
ふむ。
勝手に話が決まって、これまた勝手に闘技場に向かって行くのだが。
面倒くさいから放置しておくか。
俺が用事があるのは、冒険者じゃないからな。
──ガラガラガラガラ
しばらくすると、外に馬車が止まった。
四頭立ての立派な馬車、装飾が施されているところから、貴族か教会かといったところだろう。
「こちらにストームという冒険者がいると聞いたが」
「俺だ。あんたら誰だ?」
「私はこの街の【グラディアス教会】の修徒で、ヤッチマだ。階位は赤の信徒である。我が教会の司教さまがお呼びだ、ついてこい」
「こ、と、わ、る。俺は用事がない、用事があるのなら、本人自ら来い。以上だ」
「き、貴様、司教さまの言葉は、戦神グラディアスさまの言葉に等しいぞ、天罰を恐れないのか‼︎」
はぁ。
こいつ程度の雑魚では、話にならん。
──シッシッ
「俺は鍛治神セルジオの信徒だ。何でグラディアスとか言う神の教会に顔を出さないとならんのか、説明してもらおうか?」
「そ、それはだな、貴様の持つ神の加護を、我がグラディアス教会で祓ってもらう為の勧誘であろうが。喜べ、貴様は、グラディアス教会に入信する事が赦されたのだぞ‼︎」
──オオオオオ
おや、なんで周りの奴らが驚くんだ?
教会なら、誰でも登録出来るんじゃないのか?
「なあ、一言だけ言って良いか?」
「構わん。我らグラディアスの信徒は偉大だからな」
「お前、馬鹿だろ?」
「……はぁ?」
「何でセルジオ神から加護をもらって奇跡を起こせる俺が、グラディアス教に入る必要がある? 神聖魔法は神の奇跡だ、俺がセルジオ神から離れた時点で、神の加護は使えない」
淡々と説明する。
こいつはどうやら、神の加護と神聖魔法の繋がりを知らないんじゃないのか?
だとすると、本当にお粗末な宗教だなぁ。
「ま、待て、神聖魔法と神の加護は別物じゃないのか?」
「そんな訳あるか、バーカ。神聖魔法とはな、自らが信じる神から与えられた奇跡の顕現。それを改宗した元信徒にまで授けるような、酔狂な神様なんて……」
マチュアなら、事と次第ではやらかしそうだよなぁ。俺も含めて。
「いる訳ないんだわ。わかったか?」
「そ、それじゃあ、お前の理屈が正しいのなら、我がグラディアス教会の信徒たちも神の加護が使えるではないか‼︎」
「神託は受けたか?」
「神託だと?」
「ああ。神様から直接、『あんたは俺を信じてくれるから、力貸してやるわ』みたいな感じで。神から直接、声を授かる事を神託っていうんだが……その様子じゃあ、受けていないな」
淡々と説明していると、信徒が真っ赤な顔で震え始める。
「わ、我が神グラディアスは戦の神だ‼︎ 人を癒すなどと言う緩い加護など与えない。見よ、我が授かった神の鉄槌を‼︎」
いきなり叫んだかと思うと、腰に下げているメイスを引き抜いて、俺に向かって殴りかかってきた。
ふむふむ、激昂すると周りが見えないタイプか。
いや、違うな。
『ピッ……狂信者モードに突入しています』
鑑定眼では、こいつがバーサーカーに変化しているのがわかる。
でも、これは神の加護じゃなく【コマンド】ってやつか。
要は武器スキルとか、コンバットアーツとか言う類の、いわば必殺技だよなぁ。
それを神の加護だなんて片腹痛いわ。
さて、思考加速はこれぐらいで良いか。
──ガシッ
右腕にムルキベルの篭手を換装して、メイスを受け止める。
「な、なんだと? グラディアスの鉄槌を受け止めただと?」
「あー、これも説明するか。お前の使ったグラディアスの鉄槌はな、【バーサーカー】と【スマッシュ】の複合技だ。前者により身体能力の強化、筋力上昇による打撃力増大。後者は振りかぶって力一杯、武器を叩きつける技で、打撃力が二倍になる」
俺が説明を始めると、あちこちの冒険者が慌ててメモを取り始める。
今の技が分かっている奴らは、チッ、と舌打ちしたり、勘弁してくれって言う顔で俺を見ている。
「そ、そんな筈があるか‼︎ これは、この技はグラディアスナイトから授かった、聖なる技だ」
「と、教え込まれているだけ。どうやって授かったのか知らんが、所詮は【初級コンバットアーツ】だ。出直してこい」
──ゴギゴギッ
ムルキベルの篭手で力一杯、メイスを握り砕く。
すると、信徒は大慌てでギルドから飛び出して行った。
「ウォォォオオォォォォ」
「グラディアスの戦闘信徒を負かしたぞ‼︎」
「あの神のメイスが砕けるのなんて、俺は初めて見たぞ‼︎ あの技はなんだ?」
あ、何だか盛り上がって来たなぁ。
まあ、俺には関係ないし。
そんなこんなでのんびりしていると、外から血塗れの戦士が入って来た。
「す、ストーム君。君の登録先を決める戦いでは、我々『竜の牙』が勝利した。喜びたまえ、君ら今日から我らの一員だ」
「断るが?」
「……ち、ちょっと待ちたまえ、冒険者にとって、一流のパーティーやクランに入る事は光栄なのだぞ? だから、君を我がクランに特別に迎え入れてやろうと」
「俺の所属は【八葉騎士団】だ。この辺りでは馴染みがないかもしれないが、規則で、団長の認めたクランやギルド以外に登録する事は出来ない。そもそも、ここのギルドって、複数のクランに登録する事は許されているのか?」
そう問い掛けてみると、男は言葉を失う。
そもそも、俺が勝者のチームに入るとか言うのも、お前たちが勝手に決めたルールじゃないか。
俺の許可なく勝手に始めて、勝ったから来いっていうとは、片腹痛すぎる。
「そ、それなら、なぜ、その事を話してくれなかった?」
「勝手に盛り上がって、勝手に外に出て行って、勝手に始めたお前たちが悪い。まあ、怪我人が出ていそうだから、手当てだけはしてやるか」
まあ、早めに説明しなかった俺のミスといえば、それまでだが。それよりも早く動いたお前たちも悪い。
ギルドの裏の訓練場で、倒れている奴らに中治療を範囲拡大で掛けてから、もう一度ギルドの中に戻る。
教会関係者か貴族のどちらかが釣れるまで待つ予定だったけど、あの信徒が教会に戻って、どう説明したのか楽しみである。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ウォォォオオォォォォ
こちらは開拓中の流浪の村。
新しくついた名前が『レスティア領』。
この山の名前がレスティア大山脈というらしいので、レスティア領。
領主さんの名前もサム改めてサム・レスティアになり、現在の領地は加速的開発状態。
森を切り開いて畑を増やし、腕のある若者たちは鉱山に向かって採掘を開始。
領内に唯一ある鍛冶屋では、私の監修の元で作業を始めていた。
──ガギィィィィーン
「温度が低い‼︎ もう一度、炉に放り込む」
「イエス、マム」
「マムはいらない。もっと高温に、ふいごを動かす、酸素を送らないとダメ。炭を追加して、そう、それを大量に‼︎」
鍛冶屋のビルは、家が代々鍛冶屋だけあって、筋はいい。
だが、彼もまた成人の儀で『Fランク』の判定を受けて、この地に流されたのである。
それから十五年、ずっと独学で鍛冶屋を営んで来たらしい。
「よーしよし、それじゃあ、薄く伸ばした板状の金属を水にぶち込んで冷やす‼︎」
「え? このまま剣の形にするのではなく?」
「そんな鈍はいらん。ストームがここにいたら、もっとキツかったぞ‼︎」
──ジュゥゥゥゥゥゥ
水に放り込んで一気に冷却する。
それをハンマーである程度の大きさに砕くと、それを積み重ねるようにして再度、加熱。
私が教えているのは、西洋の刀剣ではなく『刀』。
伊達に鍛治師スキルはマスタークラスではない。
まあ、それよりも2段階上のGGMのストームがいるし。
そう考えたら、私のマスタークラスはそんなんでもない。
一通りの工程を教え込み、後は繰り返して体で覚えてもらう。
いつまでも、鍛冶屋だけに張り付いている訳にはいかないからね。
………
……
…
翌日は、朝から雑貨屋が騒がしかった。
「……なるほど、こう来たか」
雑貨屋横の買取店舗。
そこには、森で獲物を仕留めた人々が、素材を持ってやって来たのである。
「閉鎖領域での狩りは、気を付けた方がいいよ。狩り尽くしたら、もう増えないんだからさ」
「それは分かっていますよ。昨日は一日中、獲物の数や生息域を確認していました」
「今日はそこから、間引きの意味合いで仕留めて来たのです」
「マチュアさんの所で、これが換金できるって聞きました‼︎」
瞳をキラキラと輝かせる狩人たち。
私の目の前には、シックスパックディアーという筋肉質の鹿の死体が六頭、並べられている。
「では査定……こいつは安くなる、傷だらけで皮が使い物にならない。こいつはツノが折れているじゃないか、折れてなかったら装飾品に使えたのに残念。こいつはしっかりと血抜きされているから高く買うよ」
一つ一つを鑑定も交えて調べ、彼らの目の前で解体してみせる。
どこにどんな臓器があるのか、どこが有効打になるのか、そして。
「……あった。これが魔石だね。魔獣の類は、空気中の魔素を吸収して体内で生成するから、覚えておくといいよ」
大きさは親指の先ほどだけど、これ一つの買取金額で、残り全ての魔石のない鹿の金額に等しい。
これには驚いているんだけど、まあ、私からすれば当然である。
ついでに昨日のうちに作った『領内貨幣』で支払いを終えると、狩人達は雑貨屋に向かう。
うちの雑貨屋はカナン魔導連邦準拠だから、商品のラインナップはいい。
ついでに領民の女性を二人ほど雇って店員として使ったので、皆顔見知りばかりである。
「マーサ、イライザ、店の方は任せるから。あたしゃこいつの解体をしてくるよ」
「はい、わかりました店長」
「ごゆっくりどうぞ」
ハキハキした返事なので、これは頼もしい。
万が一にも商品が盗まれる事はない。
だって、うちの店で盗まれたなら、最初に疑われるのは店員だからなぁ。
それに、この閉鎖空間でそんな事したら、あっという間にばれて村八分になるのは分かっている。
欲しければ働いて稼げ。
それが、この領地の方針だってさ。
子供達には、私から『薬草』を探してもらって来ている。
それを買い取ってポーションに加工して、店で販売しているんだよ。
さて、いつ、子供達がポーション作りの方法を聞いてくるか、楽しみだよね。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
昨日は、目的の人物は来なかった。
だから、今日は朝イチで討伐依頼を受けて、森の奥まで行ってきた。
「……おや、ストームさん。何かあったのですか?」
「何かって、討伐依頼を終わらせて来たから、納品と報告なんだが」
「フリーの討伐依頼でしたら、報告は必要ありませんよ。そのまま裏の買取カウンターで引き取りますから」
「そうか、そういうシステムなのか……」
この辺りの感覚は、狩人という立ち位置にも似た感じか。
自分で処理しないで、ギルドで解体してもらい、そのまま必要ないる部分は買い取ってもらう。
腕に自信のある奴なら、討伐依頼だけで生計を立てる事も出来るのか。
「ちなみにですが、何を狩って来たのですか?」
「ん? 討伐依頼の中でも、かなり古いのがあったからな。埃をかぶっていた挙句に、何別の依頼書が上から重ねてあったから……これだ」
受付嬢に見せたのは、フォレストドラゴンの討伐。
森の奥、湖の畔に住み着いたらしいドラゴン種の討伐なのだが。
こっちの世界のドラゴンは、俺たちの世界でいうワイバーンのような立ち位置なのだろう。
真竜というのが知性あるドラゴンらしいから、そうじゃない野生のドラゴンはワイバーンとなんら変わりはない。
「フ、フォレストドラゴン……ええええ‼︎」
──ガタガタガダゴタ
ロビーの冒険者が立ち上がる。
おいおい、こんな雑魚なら、うちのロットでも単独で狩れるぞ?
ドラゴンとは名ばかりの、でっかいトカゲ程度だからな。
「まあ、古い依頼書だったから、適当に終わらせておいた。それじゃあ、裏なんだな?」
「は、はい、ありがとうございます‼︎」
討伐報酬が出ないのは残念だが、常設の討伐依頼なら仕方ないか。
さて、買取カウンターで解体してもらうのが早いのだが、この程度ならマチュアでも捌けるよなぁ。
だったら、やめるか。
ギルドの外に出るのはやめて、仕事上がりの一杯と洒落込むか。
「あれ? 買取カウンターには持っていかないのですか?」
「ん? ああ、知り合いがドラゴンの解体ができるからな。そいつに任せるとするよ」
「ドラゴンの素材は、ギルドに卸さないので?」
「そういう事になるが。別に、困りはしないだろう?」
素材が欲しいのなら、そういう依頼があるはず。
それがなく、常設だというのなら、素材は俺が好きにしていいだろう?
「困りませんが、売っていただけたら、ギルドも潤いますし、運営費も楽になります。せめて半身でも」
「肉はダメだな、俺が食べるから。後、血液や内臓は薬になる、骨は武器の強化に使うし、瞳は儀式魔術の媒体にもなる。爪……まあ、爪と牙程度なら、少しは売ってもいいが?」
「それで構いません。よろしくお願いします‼︎」
まあ、そういうのなら。
一旦飲むのをやめて、買取カウンターの前でフォレストドラゴンを引っ張り出す。
俺の様子を見に来ていた受付や冒険者たちは、馬車が荷車で運んでくるのだと思っていたのだろう。
いきなり目の前の空間収納に手を突っ込んで、フォレストドラゴンを引っ張り出した時には、全員が驚いていたんだが。
「あ、あの、今、何をしたのですか?」
「ん? ああ、アイテムBOXは知らないのか?」
「古の空間魔法……ストームさんは、それが使えるのですか?」
「それよりも、このフォレストドラゴンはなんだ? ほとんど傷がついていないじゃないか‼︎」
喉元一撃、からの打撃によるトドメの一撃だからなぁ。
浸透勁による一撃だから、全身隈なく肉が柔らかくなって美味しくなるんだけど。
これも、知られていないのか。
「まあ、爪と牙、何本必要なんだ?」
「それじゃあ爪を三本、牙を五本でどうだ?」
「成立だな」
──スパァァァァァン
ミスリルナイフで爪と牙を切断して手渡すが、買取カウンターの解体屋が、目を丸くしている。
「そ、そのナイフはなんだ? なぜ、ドラゴンの素材が簡単に切断できるんだ?」
「普通のミスリルナイフだよ。魔力を刃に浸透させれば、これくらいは造作もないだろうが」
「そんなバカなことがあるか、ミスリルは魔力伝導率が0.1で、殆ど伝導しないのだぞ?」
「……じゃあ、見なかった事にしてくれ、ほらよ」
予想以上に、この世界の人々の知識が偏っている。
この程度の事は当たり前だと思ったのだが、何か違和感があるよなぁ。
俺の感覚がズレているだけならいいのだが、それとも違う気がして来たぞ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






