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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
NEXT STAGE

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真章その3・調査をしよう、お約束を踏破しつつ

『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。  

NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、毎週月曜日の更新です。

 さて。

 マチュアとストームの話合いの末、ストームが王国王都に転移して情報収集を、マチュアは村に残って今後の対策について話し合いを行う事にした。

 村人全てのラベルを破壊して、一般人と何ら変わらない能力に回復させたまではいいのだが、これから、個々の村人はどうするのだろうか。


「さて、相方が国の調査に向かったんだけど、それはまあ、放置していいわ」

「え、ええっと、あの方が王国騎士に囚われたりする可能性はあると思いますが」

「ストームさんは、国が発行している身分証を持っていませんが」

「は、そんなのいるのか。まあ、その辺りは何とかすると思うから、気にしなくていいと思うよ」


 あっけらかんと告げるマチュア。

 村人も既に宴会を継続するという考えはないらしく、各々が後片付けを始めていた。

 そんな中、村長とシスターの二人は、マチュアの元に近寄って、今後はどうするのかと井戸端会議を始めていた。


「簡単に説明すると、今、この村の人達は全ての枷が外れている訳でね。何でも好きにしていいとは思っているけど?」

「好きにしていいのはわかりますが。私達は、国に戻る事は出来ないのですか?」

「マチュアさまの、あの魔法陣があれば、私達は国に戻る事が出来ます……」

「でも、その結果、あなた達は国に追われる可能性が出るよ? 向こうに戻るって事は、家族や知り合いに会いたいからでしょう?」


 そんな事をしたら、巡回騎士に見つかる可能性がある。

 この村で生まれ育った人達なら、そんな可能性はないと思うのだけど、そもそも、自分達の身分を示す身分証を持っていない。

 ラベルを刻まれた時に、彼らは、国民としての権利も全て失ったのである。


「そ、それはそうなのですが……」

「身分証を持たない国民は、どう扱われるの?」

「身分証を紛失した場合、再発行の手続きが行われます。ですが、その為には莫大な費用が掛かります」

「身分証がない国民は家畜以下、殺されようと売り飛ばされようと、誰も救いの手を伸ばす事はありません」

「つまり、この村の人は国に帰っても、人として扱われずに殺されるだけか。うん、私は、あなた達を今すぐに国に送り返す事はしないわ」


 キッパリと言い切るマチュア。

 これには村長たちも覚悟をしていたらしく、半ば諦めた顔で頷いている。


「つまり、ここで生きるしかないのですね」

「……この痩せた土地で、一生を過ごす……今までと変わらないですか」

「いや、そんな事はないと思うよ? 深淵の書庫アーカイブ、起動‼︎」


 そう呟いてから、マチュアは深淵の書庫アーカイブを起動する。


「広範囲調査を開始。この村を中心とした周辺環境を全て網羅、資源、動植物の生態、全てを解析‼︎」

『ピッ……了解です』


 これで、あとは深淵の書庫アーカイブに任せるといい。


「マチュアさま、その魔法陣は何ですか?」

「ああ、この周辺を調べてもらっているんだよ。うまく資源がみつかれば、それはこの村の活性化に繋がるからね……」

「資源ですか‼︎」

「まあね。今までは、それを採掘したり入手する力がなかったけど、ラベルを剥がしたから普通に出来る筈だよ。明日にでも、試してみたらいいよ」

「わかりました」

「明日の朝までには解析は終わるはずだから。それじゃあ、私はそろそろ寝るので、また明日ね」


 そう言いながら、マチュアは深淵の書庫アーカイブの中に潜り込むと、空間収納チェストから毛布を取り出してくるまって眠った。


「ありがとうございます」

「それでは、また明日、よろしくお願いします」


 サム村長とミーシャも頭を下げると、そのままその場を後にした。

 絶望しかなかった今日から、希望に包まれた明日を夢見て。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「森の中だなぁ」


 マチュアの転移魔法陣により、ストームは王都外にある森の中に転移した。

 鬱蒼とした森かと思いきや、人の手の入った綺麗な森である。

 ストームの立っている場所から少し離れた場所には草原が広がっており、人の気配も感じられる。


「植生は……南方系、魔物の反応はなし。人の気配が三人ほどか。草原の向こうに街道があるようだなぁ」


 目に見える範囲で確認してから、ストームは草原に向かって歩き始める。

 森を抜けて草原に出ると、人の気配が子供達だった事に気が付いた。

 見た感じでは、薬草採取のような事をしていたらしく、ストームの姿を気が付いた子供たちは一瞬だけ警戒したものの、ストームが軽く両手を上げて敵意がない事を示しているのに気が付いた。


「あ、あの、お兄さんはどこから来たのですか?」

「そっちは魔物の森があるから、冒険者でも近寄らないんだけど?」

「王都の人じゃないですよね?」


 少しだけ警戒しながら、ストームに話し掛けて来る。


「まあ、この国の人間じゃあないな。旅人でな、野営をしていたら道に迷ってしまってな。ようやく街道が見える場所まで来れたから、王都に向かうつもりだが」

「そうなんだ。冒険者?」

「いや、冒険者登録はしていない。僧侶だ」


 フルプレートに盾と剣を装備した男が、僧侶だと話しても誰も信じないだろう。


「へぇ。俺たちの国は、戦神グラディアスさまを信仰しているんだよ。お兄さんの神様は?」

「鍛治の神セルジオ。あまり有名じゃないから、知らないだろう?」

「鍛治神かぁ。聞いた事ないけど、地方の神様なんだね。ようこそユーティラス帝国へ」

「ああ、ありがとうな」


 軽く十字を切って子供達に祈りを捧げる。


──フワァァァァ

 ストームの体が淡く輝き、子供たちの全身も光り始める。

 何の事はない、神の祝福を授けただけ。

 これで一日ぐらい、大きな怪我もなく元気に過ごせるようになる。


「う、うわぁ、スッゲェ‼︎ 本物の神の加護だ‼︎」

「本物の僧侶さんだ」

「ありがとうお兄さん‼︎」

「ああ、こっちこそサンキューな」

「「「サンキュー?」」」

「鍛治の神の言葉だよ。『ありがとう』が『サンキュー』になるんだ。それじゃあな」


 手を振って子供達から離れると、ストームは街道に出る。

 馬車が三台ほど並んでもまだ余裕がある広い街道。そこをのんびりと、城門に向かって歩いて行った。


………

……


 王都城門。

 多くの人が並び、順番を待っている。

 ストームも怪しまれないようにと途中でバックパックを用意して背負うと、首から『セルジオの聖印』をぶら下げて並んだ。

 やがてストームの順番が来たので、深々と一礼して相手の反応を待つ。


「よし、次……旅のクレリックか?」

「ええ。鍛治神セルジオの僧侶です。巡礼で、各地を回っています」

「鍛治神か。聞かない名前だが、聖印を光らせられるか?」

「はい。これでよろしいですか?」


 右手に聖印を握り、神威を注ぐ。

 すると、聖印がゆっくりと、淡く光り始める。


「本物の僧侶だな。我が国の主神は戦神グラディアスさまだ、敬意を払うように……僧侶は入国税で金貨一枚を支払ってもらうが、いいか?」

「はい。こちらで」


 懐に手を突っ込んで、金貨を一枚取り出して騎士に手渡す。


「ふぅむ、異国の金貨か。『商売の神マイドデンガよ、かの価値を示せ』」


──ブゥゥゥゥウ

 騎士から祈りを告げると、手渡された金貨が光る。

 そして、魔法文字が浮かび上がると、騎士たちは困った顔をしている。


「あの、価値が低かったですか?」

「逆だ、逆。この金貨は帝国金貨25枚に匹敵する価値を持っている。差額を渡したいのだが、ここではそれほど多くの金貨を用意していない」

「それでしたら、差額は結構ですので、この国の教会に寄付しておいてください。多少の手数料は引いて構いませんので」

「いや、それでは騎士の名に反する。手数料は必要ない、差額は全て寄付しておこう。通ってよし‼︎」


 堂々とした騎士の物言いに、ストームは少し面食らってしまう。

 予想よりも、騎士達は普通であった。

 村人の話から察するに、この国はかなり荒廃していそうな気がしたのだが、騎士たちは実に普通であった。


「ありがとうございます。皆様に、神の加護のあらんことを」


 子供達の時のように祈りを捧げると、騎士たちの体も綺麗に輝いた。


「ありがとう」


 これで正門は突破。

 まずは、足元を固める意味でも、ベースキャンプとなる宿を探す必要がある。


「さて、宿はどこだか……まあ、適当でいいか」


 主街道を歩きながら、街の中を見渡す。

 特に不思議なところは感じなく、サムソン郊外の男爵領程度の賑わいを感じている。

 ただ、はっきりと違うのものが、あちこちに見え隠れしているのが気になる。

 

「奴隷か……」


 作業衣を着て首に奴隷を示す首輪をつけた奴隷が、彼方此方あちこちに見えていた。

 皆一様に生気を失ったような虚な目で、黙々と作業を続けている。


「ウィル大陸にはない文化だからなぁ。助けたい所ではあるが、まあ、こればっかりはなぁ」


 ストームはこの国の文化風習を否定する事はできないし、一人を助けても仕方ないと考える。

 助けるなら全て、それも徹底的に。

 それが出来ないのなら、何もしない。

 キッパリと思考を切り替えて、宿を探す事にすると、今日の所は体を休めて、明日の朝イチで活動を開始する事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 朝。

 マチュアは深淵の書庫アーカイブの中で目を覚ます。

 

「ふぁぁぁぁぁ。よく寝たわぁ、さて、調査結果は?」


──ピッピッピッ

 深淵の書庫アーカイブの中に表示されている文字配列を見る。

 現在の位置は、死火山の火口の中にある森の中。

 直径12kmの巨大な火口の中は森に覆われ、二箇所にダンジョンの入り口が見える。

 水脈はなく、火口外から流れてくる川が地下水路を通り、村の中に湧き出している。

 

「畑にするには問題はない。鉱物資源は……北のダンジョンが、鉱山系ダンジョンか」


 ダンジョンコアにより、北のダンジョン内部はさまざまな鉱脈が生み出されている。

 これらは自然発生した鉱脈ではなく、ダンジョンコアの魔力によって生み出された人工的な鉱脈であり、魔力を帯びた鉱石が採掘される。


「鉱山系という事は、ゴーレムがいるなぁ。村人じゃ無理だから、ここは私が出張ってみますか」


 すぐに南のダンジョンを確認するが、そこは魔族系ダンジョンであり、オーガ種が巣食っている。

 先日のダンジョンスタンピートは南のダンジョンで発生したものらしいが、既に収まっている。


「南はまあ、こっちも私が絞めるか……人が住むには少しキツイけど、難しくないよなぁ」


 資源問題も解決の道が見える。

 食糧についても、森の東西が果実や穀物系植物が多いので、うまく栽培すれば問題はない。


「まあ、この村程度が自給自足する分には問題はないよなぁ。後は、道具その他が足りないのだけど……」


 さて、この辺りは後で考えるとして、マチュアは、外でマチュアを待っているサム村長の視線に気が付いた。


「ん? 何かあったの?」

「い、いえ、朝食が出来ましたので、お持ちしようか考えていました」

「あ〜、教会に行けばいいの?」

「はい。それではお待ちしていますので」


 頭を下げてからサムが教会に向かう。

 それでは朝食タイムという事で、マチュアも教会に向かって朝食を取る。

 昨日の宴会の残り物だけど、しっかりと温め直したりして満足である。

 その食事中に、マチュアは集まっている人達に調査結果を報告する。

 その上で、これから村としてどうしたいかを話し合うように説明すると、マチュアはまず南のダンジョンへと向かって行った。


………

……


 南ダンジョン第十八階層。

 ここに至るまで、マチュアはノンストップで進んできた。

 途中のゴブリンコボルトオークオーガハイオークエルダーゴブリンゴブリンシャーマンetc。

 全てを叩き潰してドロップアイテムを拾い、ダンジョンコアの待つ最下層へと辿り着く。


──ギリギリギリギリ

 最下層にいたシルバードラゴンの頭を、魔神の腕ルシフェロンでアイアンクローでガッチリと締め上げる。


「おらおらぁ、今日のはキツイぞ、フリッツ・フォン・エリックじゃないぞ、グレート・Oカーンだからな」

「いやいや、意味がわからない……痛い痛い、ごめんなさい許してください‼︎」


 必死にシルバードラゴンが、床をタップする。

 プロレスなんて知らない筈だから、本能でこうすれば助かると思ったのだろう。

 既に戦意喪失しているのは分かったので、マチュアも魔神の腕ルシフェロンを解除してシルバードラゴンの頭に手を当てる。


「よっし、支配権を貰うわ……」


──キィィィィィン

 すぐさまダンジョンコアの支配権を上書きする。

 元の支配者は、魔族の一人。

 もうこの世界には存在しない、過去の魔族。

 五百年以上も書き換えられなかった支配権を、マチュアが奪い取ったのである。


「ウワァァォォァォ。今日から我は、マチュアさまに忠誠を誓いましょう……手始めに、何をすれば良いのですか?」

「食用の魔物を頼む。第一階層から順に、美味しい所を見繕ってほしい。余った魔力素は宝箱に変換して、出来のいい日用品や衣服を多めに」


 淡々とダンジョンコアの設定を書き換えていく。

 幸いなことに、この場所はマナラインの真上であり、龍脈の横にある。

 マチュアの持つ『錬金術』をダンジョンコアに刷り込んで、魔力を物質化してもらう事にした。


「あ、あの、これではダンジョンスタンピートが出来ないのですが」

「しなくて良し‼︎ 逆らうなら砕く‼︎」

「ヒッ‼︎ わ、分かりました……改造には二日程掛かりますので、お待ちください」

「オッケー。それじゃあ、後は任せるよ」


 これで南のダンジョンは制覇。

 翌日には北のダンジョンも同じように支配し、そっちは鉱脈を太くし、掘り出せる鉱石の種類や量も多くした。


 そして村に戻ってみると、どうやら話し合いが終わったらしく、皆、教会に集まっている。


「マチュアさま、おかえりなさい」

「あー、さまなんてつけなくていいよ。それで、話し合いは終わったの?」

「はい。この村で、生涯を終えたいと思います。王都に未練が無いわけではありませんが、残された家族や知人に迷惑を掛けるぐらいなら、私達はここで生涯を終えたいと思います」


 ミーシャが胸元に手を当てて、そう宣言する。

 周りを見渡すと、彼女の言葉に賛同した村人たちが、同じように頷いている。


「ふぅ。覚悟完了か。では、ここからは皆さんのターンだよ」


 南北のダンジョンの事を説明し、マチュアは空間収納チェストに収めてある簡単な装備を取り出して皆に配布する。

 ここから先は、みんなで頑張るしかない。

 まあ、多少は干渉するけれど、それはストームからの報告次第。


「それじゃあ、今日からここは国となります。村長とシスターを中心に、あの腐れ帝国よりも豊かな国にしましょう‼︎」

「えええええ」×村人


 パン、と手を叩いてマチュアが宣言した言葉。

 それは、村人達に、ここに国を作ってみなさいという話であった。

 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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