真章その2・お約束は一通りやってやるよ
『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。
NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、毎週月曜日の更新です。
村の真ん中にある教会。
豊穣神アークライトを主神として祀っている教会。
ここは、村人にとっての憩いの場であり、集会場の役割も果たしていた。
シスターの命がけの願いも失敗。
入れ替わりにやって来たマチュアとストームにより、どうにか村の外で発生したスタンビートに対する結界を作り出したのは良かったものの、これからどうするのか、皆、頭を悩ませている。
とりあえず現状を確認する為に、村長が村人全員に教会に集まるように連絡したので、ポチポチと人が集まってきた。
「ああ、ありがとうございます。あなたが私を助けてくれたのですね」
「まあ、そうなるかな。悪いけど、もう死なないでよ? 死者蘇生って莫大な魔力を持っていかれるんだからさ。それよりも、ここは何処なの?」
「何処と申しますと……ええっと、貴方たちは何処からきたのですか?」
「ああ、私はマチュア。そっちのおっさんはストーム。旅人でね、転移魔法に失敗したんだよ」
とりあえず真実なんて告げられるはずがないので、旅人であること、転移魔法に失敗してここにいる事を伝える。
それを信じたのか、シスターも村人も頷いて納得していた。
「そうでしたか。自己紹介が遅れました、私はミーシャと申します。豊穣神アークライトのシスターを務めています」
「ストームだ、よろしく頼む。おっさんではないので、そこんところは誤解しないように」
「はい、私たちの村を助けていただいて、ありがとうございました」
ミーシャが頭を下げ直すと、村人達もマチュア達に礼を告げる。
だが、どの村人も生気を失ったような、気力のない表情である。
「随分と疲れ切っているなぁ。外のスタンビートだが、自警団が騎士団は駐留していないのか?」
ストームが椅子に座りながら問い掛けるが、皆、頭を振るばかり。
「この村は、追放者の村です。国民である事を拒否した人々が送られる、流刑地のようなものです」
「どういうことだ? 俺たちはこの国の人間じゃないので、差し支えなければ教えてくれないか?」
「はい、実はですね……」
そこから先は、村長のサムが説明した。
この国の名前はユーティラス帝国。
広大な領土を持つ大帝国であり、大陸の殆ど全ての領土を掌握している。
この国は、国民すべてをランク分けしている。
古代の魔導具により、成人した全ての国民を教会でランク分けし、最底辺であるFランク国民には『無能者』というラベルが施される。
国教である戦神グラディアスの秘術により、無能者の体には『雷』の形をしたラベルという刺青が施され、国民として生きる為の二者択一を強いられる。
即ち、奴隷となって人権も何もかも失い、死ぬまでこき使われるか。
流刑地へと、片道通行の魔法陣で送り出されるか。
………
……
…
「それで、この地が流刑地という事か」
「はい。大陸のはずれであり、四方を山に囲まれた土地です。村の外には森があり、その向こうにはダンジョンもあります……」
「俺たちは、ここで生きて行くしかないんだ。魔法が使える者や、武器を自在に操る者もいる。鍛冶屋だって、農家だっている。街に戻れば、俺達よりもひどい技術の者達が大勢いるんだ‼︎」
「それなのに、どうして私達だけが無能者のラベルを貼られたのか、見当も付かないのです……」
悲痛な声をあげて、淡々と話をする村人。
時折、咽び泣くような声まで聞こえて来た。
「その上、スタンビートだとよ……もう、神様は俺達を見放したんじゃねーのかよ‼︎」
「そんな事はありません‼︎ 豊穣神アークライトさまは……」
そこまで告げたものの、ミーシャも言葉を失う。
彼女が信じていた神は、もういない。
村人の叫びの通り、神は、彼らを見捨てたのである。
──パンパン‼︎
その辛気臭い雰囲気を変える為、マチュアは手を叩く。
「はいはい、そんな辛気臭い顔していたら、いい事も何も思いつかないわ……よし、宴会だ、宴会を始めようじゃない」
「マチュア、俺はドラゴンステーキな」
「お前は、どこぞのフェンリル様かよ。まあ、作るけどさ……ほらほら、この教会で宴会するから、みんなはテーブルと椅子を綺麗に掃除して。一時間後に始めるから、掃除開始‼︎」
──ゴトゴトッ
空間収納から掃除用具を色々と取り出し、その辺に並べる。
かなり昔に、フェルドアースのウォルトコで買い占めたコンテナの山の中には、このようなものも収めてあった。
「ウォォォォ、い、今、どこから出したのですか?」
「まさか、伝説のアイテムボックスでは?」
「いいから、とっとと掃除をしろ‼︎ ストーム、食事前の運動に付き合わないか?」
「いいねぇ、そろそろかとは思ったが」
「やるっきゃ騎士だよな」
そう告げて、マチュアとストームは教会から外に出る。
二人が何をするのか興味があった村人が、マチュア達の後ろについて行ったのだが、そこから先は、信じられない光景が広がった。
………
……
…
──シュンッ
ストームの姿が、全身鎧に切り替わる。
力の盾とカリバーンを構え、いきなり結界を越えてモンスターの中に突入していった。
「「「「「ええええええ!!!!」」」」」
スタンピードの怖さは、村人は十分に理解している。
この結界が破壊されたら、自分たちも生きてはいないと。
そんな魔物の群れの中に、ストームは単身で突っ込んで行ったのである。
さらに。
「範囲拡大、威力増強……あいつ流に言うならば、『百二十五式炎の槍、本数は大量にフィーバー‼︎』ってやつ?」
──キィィィィィン
結界の中で、マチュアは二十四の魔法陣を起動。
そこから威力と爆発範囲を上げた炎の槍を一斉に射出した。
まさかの結界の中からの攻撃に、村人達は逃げ出す。結界が内側から破壊されるなど、誰も思っていなかったから。
だが、マチュアの放った炎の槍は、結界をすり抜けて魔物達の元に飛んでいった‼︎
──チュドドドドドドドン‼︎
爆風がいくつも発生し、大量の魔物が消し炭になっていく。
その少し先には、既にストームが到着し、カリバーンの柄に手を掛けている。
「……ドラゴンが一体、あれが指揮官か。その配下にオーガエンペラーと、オーガロード、オーガジェネラル。オーガの群れとはまた、気合が入っているなぁ」
──チン
ストームが素早く抜刀するのと、敵が一斉に襲いかかっていったのは同時。
だが、ストームはその程度でビビるようなヘタレではない。
「必殺‼︎ 爆裂刃・無限斬可変、隕石落としっっっ‼︎」
──ドッゴォォォォォォン
轟音と同時に、巨大なクレーターが発生する。
ストームの一撃で、周囲の魔物もまとめて吹き飛ばしたのである。
村の外で始まった、魔物の大虐殺。
絶望に打ちひしがれた村人は、目の前の光景に呆然とするしかなかった。
楽しそうに魔物達に向かって魔法を連射する魔女と、大地ごと纏めて魔物を吹き飛ばす剣士の姿に。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──カンパーイ‼︎
体を動かした後は、パーティ。
村を取り囲んでいた魔物の群れはもう存在せず、村人がスタンピードに怯える事も無くなった。
「こ、こんなうまい食べ物は初めてだ‼︎」
「ワインだ、もう飲めないと思っていた酒だ‼︎」
「こっちの煮物も最高です。香辛料がふんだんに使われていて、街に住んでいた時でさえ、食べられなかったのですよ‼︎」
皆、飲めや歌えやの大盛り上がり。
彼方此方に子供の姿もあったので、マチュアは空間収納から箱型ティラミスを取り出して、お裾分け。
これには子供達も大喜び。
「ふぅん。閉鎖された土地なのに、子供はいるんだね」
「ええ。この土地に飛ばされて来た者同士で結婚した方もいます。必要最低限のものすら満足にない土地ですが、生きる為にどうにか頑張っていますから」
「ふぅん。鉄とかの金属製品が少ないのは、持ち込んだものしかなかったからなのか?」
ストームは、村の中で金属製品が少ないことに気がついた。
「昔、アイテムボックスのスキルを持った人が送られて来た事があります。その方が、流刑が決まる前に、予め大量に購入して来たそうです」
「成程なぁ。鍛治師はいるのか?」
「いえ。私達は、ラベルを施されましたから」
「ん? ラベルが施されると、何かペナルティでもあるのか?」
「ええ。ラベルを刻まれると、スキルの制限を受けてしまいます。体力も半減されますし、生きるのが精一杯どころか、いつ死んでもおかしくない状態に衰弱する人もいました」
村長の話を聞いて、ストームは彼の首筋にあるラベルを見る。
(鑑定……)
『ピッ……落伍者の烙印。身体弱体化、スキルペナルティ1/5、寿命弱体化、身体抵抗半減、亜神ガルベッサに隷属』
うわぁ。
この表示には、流石のストームも顔を顰める。
ここまでペナルティが重ねられたなら、生きるのが精一杯だったろう。
「マチュア、ちょいとこれを見てくれるか?」
子供たちにケーキを配っているマチュアをストームが呼びつける。
その声が届いたのと、ストームが何かを見つけたのだろうと、マチュアもやって来る。
「ん? なんじゃらほい?」
「これを見てくれ、そして対応可能か教えてくれるか?」
マチュアは彼が指さした先、村長の首筋に浮かぶラベルを見る。
「ほう、そんじゃ、神威祝福か〜ら〜の、深淵の書庫‼︎ うわぁ、生きているのが奇跡だわ」
「やっぱりか。対応策は?」
「まあ、待て待て……」
深淵の書庫に表示された解析データを、マチュアはじっと睨みつける。
そこに記されたそれぞれの術式を理解し、解析する。
「……ふむ。すっごく面倒臭い。だが、この程度は私の敵ではない‼︎ 却下っ」
──パチィィィン
指を鳴らして却下を発動。
すると、村長の首筋のラベルが霧のように吹き出し、大気の中に消えていった。
「うっ……」
突然の事に、村長もその場に崩れる。
それまで抑制されていたものが、一気に体内を駆け巡ったのである。
脂汗が滲み始めたので、マチュアは空間収納から回復薬を取り出して飲ませる。
「ほら、これを飲んだらすぐに良くなるよ」
「そ、そうですか……ありがとうございます」
疑うことなく、村長はマチュアの差し出した回復薬を、一気に飲み干す。
──フゥゥン
すると、村長の体が淡い光に包まれ、身体中に活力が漲り始める。
「こ、これは、一体どうなったのですか?」
「あ〜。村長さんに施されたラベルを破壊した。スキルとかなんとか、まとめて制御されていたのも解除したので、いきなり活性化した体が過剰反応しただけだよ」
マチュアが胸を張って説明すると、周りの人達も村長のラベルが消えている事に気が付いた。
「す、すまない、うちの子供達のラベルも剥がしてくれるか? この子達は、この村で生まれた時にはもうラベルが刻まれていたんだ」
「うちの子もお願いします。お金はないけど、その分働きます‼︎」
「うちもだ、おっかぁの調子が悪いんだ……」
ラベルが剥がれるという事で、皆、マチュアの元に集まる。
これがある限り、無能者というレッテルは剥がれる事はない。
けれど、これがなくなれば、自分達は人としての尊厳を取り戻す事が出来るかもしれない。
「はーい、それじゃあ一列に並んで。順番に解除しますから、待っていてね」
──パチパチパチィィィン
両手で次々と指パッチンするマチュア。
途中からは楽しくなって来たので、ステップを踏んだり回転しながら却下を発動していく。
それでも三十分程で村人達はラベルを剥がされ、マチュアから受け取った回復薬で体調も取り戻す事が出来た。
「あ、ありがとう。本当に、ありがとう」
「まあ、これも仕事だからね。さて、ストームさんや……どっちに行く?」
マチュアの問い掛け。
この村をどうにかするのか、それとも元凶の調査を始めるのか。
「俺は、村をどうにかしたいな。スタンピードは収まったが、多分、ダンジョンは危険なままだと思う」
「私としては、情報を集めに一度、王都に向かいたい所だねぃ」
「「じゃあ、逆だな」」
お互いに、やりたいことを選ぶ。
それは、得てして碌な結果にならない事が多い。
それなら、自分が本能で選んだ反対をやればいい。
長年、共に歩んでいたマチュアとストームのやり方である。
「そんじゃ、俺は王都に飛ぶとするか……」
「魔力の残滓はここだ。ちょい待ち……」
マチュアがすかさず、王都からの転移先になる場所を見つけ出すと、そこに残った魔力の残滓を解析。
「どれどれ、みふぁそらし…ど? よし、おっけ」
「解析できたか。流石に王都直接はまずいから、少し離れた場所に頼むわ」
「了解。ちょいと待ってね。マジックアイ発動、か〜ら〜のGPSコマンド起動」
右手に魔力により目玉を生み出すと、それを上空高く放り投げる。
そのまま真っ直ぐに、雲を超えて天高くに飛んでいくと、目玉とGPSコマンドをリンクする。
──ピッ……ピッ……
目玉から見た下界。
今いる場所は、巨大な山脈の火口の中。
死火山らしい場所の火口の中に広がる森林が、マチュア達のいる場所。
そこからかなり離れた先には、巨大な都市が見えていた。
「GPSコマンド起動、座標確認……よしよし」
目標は、都市部外縁の森。
その座標を指定して、マチュアは転移魔法陣を発動する。
──キィィィィィン
「ほらよ、王都の外の森に繋げたから、行ってらっしゃいませ」
「応。こっちは任せたからな」
「まっかせんしゃい。お土産よろしく」
──シュン
サムズアップして、ストームは消える。
その光景を、村人たちは固唾を飲んで見守っていた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






