神々の戯れ・聖剣伝説を調べてみようの弍
『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。 NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、連載されるかどうかは神のみぞ知るです。
探し物はなんですか。
見つけにくいものですよ。
図書館の文献も、じっちゃんばっちゃんの口伝も
探したけれど見つからないのです。
「あの、マチュアさん、グランドブリテンの聖剣って、どうなったのですか?」
「マチュアさんの残した謎解き、あれからもう三週間も経つのに、未だ発見したっていう報告もないのですよね?」
異世界大使館事務局で、赤城と十六夜の二人がマチュアに問いかける。
そのマチュア本人はというと、いつもの卓袱台でのんびりとお汁粉を食べている最中である。
「ん? あ〜、あれかぁ。謎解きでも何でもないよ、あれ自体が答えなんだよ」
「「 へ? 」」
「へ? じゃないよ。そもそも、このフェルドアースには、もう聖剣は存在していないの。そういう説話とか、伝承として祀られていた剣はあるけどさ」
そうマチュアが説明すると、二人だけでなく、事務局の全員が呆然としている。
いや、正確にはマチュアと三笠を除く全員、である。
「そういえば、マチュアさん、少しよろしいですか?」
「ん、 何じゃらほい?」
「聖剣の話にも少し絡むのですが、バチカンからの親書が届いていましてですね。人を癒す神代の奇跡、これを行えるマチュアさんを『聖人認定』したいとの事ですが」
「却下だわさ。聖人認定って、確か、キリスト教信者じゃないと無理だよね? それは私には無理。そもそも、私の信じている神様って……まあ、こっちの神様じゃないし」
今のマチュアに加護を与えているのは、秩序の女神ラスティ。
というか、正確には、マチュアには『破壊神マチュア』本人の加護が組み込まれている。
そのため、他の神様については、『実在しているなら全て認めているし、加護も何もその最上位がストームなんだから、ちゃんちゃらおかしいわ』というスタンスなので、今更、キリストの加護をといわれても、ピンとこないのである。
「そういう事なので、そっちからもよろしく」
天井を見上げて呟く。
それだけで、神界にいる神々はコクコクと笑いながら頷いている。
「あ、あの、マチュアさん。一体、何とお話ししているのですか?」
「あ〜。ほら、聖人認定なので、該当神のキリ『それ以上はダメです』あっそ。まあ、そういう事なので、三笠さん、断りの連絡だけしておいてね」
「了解しました」
その後はいつもの通り。
昼休みには、売り切れになっているガチャガチャの景品を補充したり、敷地内の雪かきをするついでに魔導鎧・イーディアスΣの稼働実験を行うなど、いつもののんびりとした日常を満喫するのであった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
グランドブリテン。
リチャード・ワイズマンとジョセフ・ラーバンスの二人は、真剣な面持ちで文献を読み解いていた。
グランドブリテンに伝わる伝説の聖剣、それを求めてマチュアの元に向かったものの、難解なヒントだけを与えられて帰国する羽目になったのである。
この事実を女王陛下に伝えたところ、クイーンは軽く微笑みつつ、こう伝えた。
「全ては、神のみぞ知る……ですか。ディオ・アルカナイカ、あなたは、マチュアさんの言葉の意味を理解しましたか?」
「はっ‼︎ い、いいえ、残念ですが理解しかねました。ワイズマン卿もラーバンス卿も同じ意見です」
冷や汗を流しつつ、クイーンの前で跪くディオ。
だが、今の報告を受けても、クイーンは笑みを浮かべているだけであった。
「そうですか。私には、マチュアさんの言葉の意味が分かりましたし、聖剣のある場所も理解できましたわ」
「な、なんと‼︎ それは何処なのですか?」
思わず顔を上げてしまうディオ。
だが、クイーンは意地悪そうな、まるで悪戯が成功した少女のようにクスリと笑って一言。
「神のみぞ、知る。ですわね。私が答えを出せる事を、マチュアさんは理解していたのですね。私が、このグランドブリテンの大地の上にあるもの、全てを知るからこそ……さすがは、異世界の賢者ですわね」
「では、その場所を教えていただけますかすぐにでも聖剣を回収しましょう」
「いいえ、それには及びませんわ。このグランドブリテンは、常に聖剣の加護の元にある……そういう事なのです」
クィーンの言葉の意味を、ディオが知るのはかなり後になる。
そして二ヶ月後、グランドブリテン開国1000年記念式典は行われた。
ウェストミンスター宮殿で、厳かな空気につつまれて、式典は静かに進行する。
そして女王が腰に指していた儀礼剣を引き抜いて天に掲げると、ビッグ・ベンが鳴り響いた。
奏でられる音は、ウェストミンスターの鐘。
本来なら、今の時間には鳴るはずのない音。
だが、確かに、鐘の音は響き渡った。
かつて、ヒビが入り交換された鐘の舌。
四半時鐘(15分鐘)を叩くそれこそが、かつては『聖剣エクスカリバー』であったものであり、今は姿を変えて、高き時計台の上から、グランドブリテンを見守っている。
このことを知るのは、女王陛下とマチュア、そしてもう一人。
「……ふぅ。ギリギリ間に合ったか。わざわざすまないな、ここまで来てもらってよ」
ビッグ・ベンの真下。
ストームが、一人の女性と話をしている。
「いえいえ、私は構いませんわよ。この地のエクスカリバーに祝福を与えた者として、今一度、その力を開放するべく来たまでですから」
「そう言ってもらえると助かるわ。これで、今暫くは、グランドブリテンも安泰ということか」
「この地を支配する女王が、正しき心を持つものならば、ですね。今の女王の血は、古くはこの地を治めていたかのアーサー王の騎士なのですから」
「ふぅん。そんなに大物とはねぇ。まあ、今回は感謝するわ、殆ど力を失っていた聖剣に、もう一度、命を吹き込んでくれてさ」
マチュアと別れてから。
ストームは独自に動いていた。
この地に存在していたエクスカリバー、それが真贋確かなものなのか、それを見るために。
そして、ビッグ・ベンの鐘の舌に姿を変えているのを見た時、既にエクスカリバーはその力の大半を失っていたのである。
この地を襲ったいくつかの戦争、自然災害、それらから国を守るために、エクスカリバーは加護を与え続けていた。
その結果、エクスカリバーは力の大半を失い、眠りにつく所であった。
いつものストームなら、そのまま放置していたかもしれないが、事は、彼自身とマチュアも少し絡んでいる。
もしも、グランドブリテンからの使者の話を聞いていなかったら無視する案件であったが、そこはほら、『聞いちまったものは、仕方ないなぁ』である。
天狼から力を借りて、かつての修行場であるアヴァロンに向かうと、事情を全て説明した上で、今一度、エクスカリバーに加護を授けてもらうべく、管理人の一人であるグリーデンに同行してもらったのである。
「さてと、それじゃあ、私の仕事は終わったので、これで失礼するわね……」
笑顔で手を張るグリーデン。
そして、その姿がスッと消えると、ストームもその場を離れていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「つまり、今でもグランドブリテンは聖剣によって守られていると?」
異世界大使館。
グランドブリテン建国1000年式典の同時刻、大使館では残業組と夜勤組が、のんびりと食事をしているところであった。
テレビでは、式典の生中継が映っていたので、たまたま夜勤組だった高嶋がマチュアに問いかけていたところである。
「そういうこと。種明かしをするとだね、わざわざ探さなくても守られているから大丈夫、クイーンにヒントを告げたら、すぐに理解してくれるよっていう事。だから、私は何もしていない」
「へぇ。それじゃあ、マチュアさんに聞いたら、世界中の不思議が解決するんですよね? 例えば聖杯とかも場所がわかるとか?」
笑いながら問いかける高嶋に、マチュアは手にした銀のカップを差し出す。
左右に一つずつ握り手のある、古いアンティーク。
それを差し出されると、さすがの高嶋もゴクリと喉を鳴らす。
「あ、あの、まさかとは思いますが、これって聖杯……」
「そんなわけあるか。ちなみに中に入っているのはサングリアだよ。カナンで取れた果物を漬け込んだワインだよ、飲むか?」
「いやいや、俺はまだ仕事中ですから。それに、確か映画では、聖杯って木製でしたよね? あ〜、びっくりしたわ」
ようやく落ち着いて食事を続ける高嶋だが、総務部の夜勤の男性は、マチュアが手にしている銀のカップを見て、ガクガク震えていた。
(いやいや、高嶋、映画の見過ぎだって。聖杯ってあれだろ? 最後の晩餐の絵の中に写っているやつだろ? マチュアさんのそれって、同じデザインだよな)
「ん、どうした? 私の顔に何かついている?」
「い、いいえ、その、そのカップですが、メノウ製でも、エメラルド製でもないのですよね?」
「そりゃそうだよ。これは、エルサレムの近くの教会にあったアンティークだよ?」
「な、成程。サングリアは自家製ですか……今度、ご相伴に預かりたいですが、よろしいですか?」
「夜勤日じゃないならね。厨房の冷蔵庫に、樽ごと放り込んであるから。時間は停止しているから熟成は進まないけどさ、良い感じに寝かしてから収納したからいつでも飲んで良いよ」
「ま、マチュアさん、俺も飲んで良いっすか?」
「休日とか、仕事終わりならね。一杯だけだよ」
そう笑いながら話をしていると、食堂にストームがやってくる。
ちょうどグリーデンと別れてから、精霊の旅路で異世界大使館に食事に立ち寄ったのである。
そして、マチュアを見て一言。
「何だ、また聖杯で飲んでいるのかよ。ちゃんと許可とったのか?」
「本人から、直接とったから問題ないわ……って、ストーム、せっかく誤魔化していたのに……」
「あ? 何のこと……そういう事か、すまんな」
ストームの爆弾宣言で、その場の全員の目が点になる。そのあとの、絶叫のような声が、建物中に響き渡った事は、いうまでもない。
今日は、マチュアに合掌。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
だってさ。
 






