神々の戯れ・聖剣伝説を調べてみようの壱
『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。 NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、連載されるかどうかは神のみぞ知るです。
ある日の、THE・ONES世界エーリュシオン。
ストームの管理する世界は先代創造神の名前をそのまま残し、THE・ONES世界と言う名称で固定された。
統合管理神は全ての世界の管理を行うため、このエーリュシオン中央にある大神殿で執務を行なっている。
そこに始祖神から回覧板が届けられ、ストームの元に届けられた。
内容的には神々の戦争がどーだとか、新しい創造神が生まれたとか、神々が集まって行われるフェスティバルの紹介とか。
実に容易い内容ばかりだが、中には不穏なものもある。
「反逆の神々一覧ねぇ……」
創造神の中には、自ら悪神や破壊神となり近隣の世界を破壊する事に楽しみを覚える者もある。
そのようなものはリスト化され注意喚起するために回覧板に掲示されるのだが。
「破壊神マチュアの世界で、初めての統合管理神に対しての粛清措置ねぇ。このオーニ・ソプターって何やらかしたんだ?」
詳細は載っていないものの、ここに載るということは始祖神レベルで何かやらかした事になる。
そして責任者はマチュア。
オーニ・ソプターは神威剥奪・記憶消去のち人間に8度転生させられるという『八回輪廻刑』という罰を受けた。
「おおう、これはキツイなぁ。まあ、うちの神様方は真面目なやつばかりだから、平和だわ」
のんびりと創造神としての仕事をするストームであった。
………
……
…
フェルドアース・異世界大使館。
いつものように非常勤異世界大使館責任者として、マチュアはちゃぶ台の前で、のんびりと魔導具の図面を書いている。
「……あの? マチュアさん? 何を作るのですか?」
赤城がティーセットを手にちゃぶ台までやってくると、細かい魔法陣の集合体が記されている図面を見て頭を傾げている。
「ん? これ? いつもの魔導ジェネレーターの図面だよ? よりコンパクトに出来ないかなぁと思ってさ」
「はぁ、それはまた突然ですね。何か使うのですか?」
「魔導鎧用だね」
因みに以前使っていた魔法鎧・イーディアスシリーズは全て破壊神マチュアが別世界に持っていったので、一から作り直しとなったのだが、その際に、よりコンパクトに出来ないかと思案して今に至る。
「マチュアさん、その魔法鎧ですが、各国の軍事部が喉から手が出る程欲しいという事で、頻繁に連絡が来ていますけれど」
──バーン!
「そうですわ! 私の会社でも、魔法鎧の図面が欲しいと泣いて頼まれましたわ‼︎」
今年の春から採用された新卒の大使館職員・マリア立花が、腕を組んで事務局の扉の前に立っている。
「立花重工は、この日本の軍事設備の4割を担っていますわ。そこに魔法鎧の開発が始まれば、日本は世界のトップに立つ事が出来ますわ‼︎」
「はいはい。それで、本当の用事はなに?」
「高島主任から、秋のゲームイベントの打ち合わせ資料と、冬のコミケでの出展スケジュールですわ」
マリアの仕事は事務局ではなく文化交流部・国際部門。簡単に言うと諸外国での各種イベントの統括を行なっている。
「これで問題ないわ。ほい魔法印をポチッとな」
──ピコン
異世界大使館職員なら全員が使える生活魔法・魔法印。これを押すことで承認となるので、マリアは高らかに笑いながら戻って行った。
「そういえば、国際政治部でマリアさんが欲しいって話してましたよ。マリアさん、勇者の加護があるので全ての言語の自動翻訳機能があるじゃないですか?」
「あ〜、成程なぁ。そこは三笠さんに任せるよ。確かに異世界転生初期セットがあると便利だよなぁ」
「まあ、必要に応じて手伝うという方向で調整していますよ。後、これはマチュアさんの管轄ですか?」
見たことのない羊皮紙を手に取り、三笠がマチュアに手渡す。
それを軽く眺めて、もう一度真面目に眺めて、最後は頬を引き攣らせつつ額に怒筋を出しつつマチュアが呻く。
「うわぁ……ついにここにも来たかぁ」
「ん? 何か重要案件で? 流石に神代文字は私でも読めないのですが」
「まあ、私の管轄なのでこっちで処理するよ……」
書き記されている内容は極めて簡単。
近所の神世界からの移住者についての報告。
『これから行きますよ』ではなく、『もう来たからよろしく頼む』、である。
「はぁ、有限会社・異世界トラックか。面倒な奴らに目をつけられたわ」
「なんですか? その物騒な会社は」
「ああ、赤城さんや十六夜さん達には隠す必要感ないか。神威世界幾百層、全ての世界の神々の依頼で、必要な人材を異世界に送り出す組織さ。
その手段がちょっと荒っぽいので、異世界トラックって呼ばれているけれど、ターゲットは逃がさないし、速やかに必要な人間を異世界に転移・転生させる事が出来るのよ」
うわぁ、なんて物騒な。
そんな顔で事務局のメンバーは眉を顰めているが、今のご時世、『あんた、これから異世界に行くからね、異論は認めないよ』って言われて、ホイホイと喜んでいく連中が多く存在する。
「あの、それって、突然人がいなくなって騒動になりますよね?」
「プロの異世界トラッカーは、対象者の魂のみを持って行くのよ。そして、その魂が任務を終えて戻って来るまでは、『擬似魂』が本人の代理を務めるから問題なし」
「へぇ。それならバカンス程度に楽しめるので良いのでは?」
「異世界トラッカー次第だよ。中にはノルマをクリアするために強硬手段に出るやつとか、ターゲットを間違えて神々に莫大な損害金を支払わないとならないらしい。そうなると後が面倒でね」
不良異世界トラッカーは、社内規則で強制転生が待っている。
しかも『ダイオウグソクムシ』として転生し、その命を全うしなくてはならない。
「はぁ、マチュアさん達が私達の世界に来て、ファンタジーが現実になったのは良い事だと思いますけれど。意外とファンタジーって世知辛いのですよね?」
「うちの事務局を見ればわかるでしょ? 獣人やエルフが事務処理したり、ドワーフが経理担当だよ? そのトップだったハイエルフは今やご意見番でお茶飲んだり子供達と遊んでいるし」
実際、今の異世界大使館でもマチュアの仕事はカルアドゲートの候補国選択と開放、ラグナ・マリア世界への転移門の設置などしかない。
それ以外の折衝は大使館職員で手が足りているのである。
「それで、今日の予定は?」
「カナンから魔導空母を持った来たので、それを浮かべて遊んで来る」
「はぁ、それではお気を付けて」
あまり驚く事はない。
いきなり空を破って空中空母で遊びにくるレベルである、今更魔導空母などと言われても如何という事はないのだろう。
まあ、マチュアが出掛けた直後、蒲生総理がやってきて頭を抱えそうになる光景まではテンプレートという事で。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
来客あり。
今日、異世界大使館を来訪したのはグランドブリテンの外交官三名。
何やら笑顔でやって来たのだが、三笠がすぐに何かを察知したので、急ぎカナン魔導王国王城に連絡が入り、馴染み亭でのんびりしていたマチュアとストームが召集されていた。
「これはこれはミナセ陛下並びにストーム親王。私はリチャード・ワイズマンと申します。こちらは副官のジョセフ・ラーバンスとディオ・アルカナイカです」
カイゼル髭の紳士が、丁寧に頭を下げる。
まあ、マチュアとストームは公式の場でなければ相変わらずの低姿勢なので、軽く会釈する程度で挨拶をした。
「それで、私に用事って何ですか?」
「実はですね、マチュアさまにお願いがありましてやって参りました」
「……カルアドゲートの追加? もしくはカナン魔導連邦に追加の転移門設置ってところかしら?」
既にカルアドにもラグナ・マリア帝国にもゲートを持っているグランドブリテンが望むとしたら、そのどちらかしか無いだろう。
と、思っていたのだけれど、予想外の話が出てきた。
「マチュアさま、ストームさまは、私達の世界の聖杯伝説と言うのをご存知ですか?」
「齧った程度かなぁ?」
「では、我がグランドブリテンに伝わる聖剣伝説は?」
「そっちは、おおよそ見当が付く。もったいぶらないで話を進めてくれないか?」
ストームがやれやれと言う顔で三人を見る。
それで相手も察したのだろうか、神妙な面持ちで話を始めた。
「実はですね、マチュア様たちに我が祖国に伝わる聖剣を探してもらいたかったのですよ。と言うのも、まもなく我が祖国は開国1000年期を迎えます。その記念行事として、女王に聖剣を捧げたいと思っているのですが」
「今現在、我が国に収められておる聖剣はレプリカであり、本物がどこにあるのか見当もつかないのです」
「そこで、マチュアさまとストームさまに、是非ともご助力頂きたく、頭を下げにやって参りました」
成程納得。
そりゃあ、普通に探すのは無理だとマチュアも感心した。
そしてストームは頭を捻ってから、腰に下げた剣を鞘ごとテーブルの上に置く。
──ゴトッ
「あんたたちの探しているものとは違うが、これも聖剣だ。名前はカリバーンG3、俺が神鉄から鍛え上げたカリバーンに、アバロンの女王が祝福を与えたことによってエクス・カリバーンに変化したものだ」
──ザワッ
三人の雰囲気が変わる。
驚きと歓喜、そして羨望の色が見て取れる。
「こ、これを献上することは?」
「ないな。そもそも、これは別世界のアヴァロンで祝福を受けたものだ、更に言うなら、俺以外では鞘から引き抜く事など出来ない」
「まさにエクスカリバーという所でしたか。では、マチュアさま達は私達の願いを聞き入れていただけるでしょうか?」
そう問われても、マチュアとストームは腕を組んで渋い顔をしている。
何せ物がものだけに、二人が干渉して良いのか頭を捻る案件である。
力が亜神クラスのマチュアでさえ、深淵の書庫を起動して地球の龍脈と接続すれば、そんなもの簡単に調べがつく。
ストームに至っては、アヴァロンに行って直接女王に話を聞いて来るだけ。
ストーム曰く、アヴァロンはTHE・ONES世界の別階層にある精霊世界の総称であり、全ての世界の精霊がそこに集まるらしい。
なので、エクスカリバーという名の聖剣は全部で4本存在するし、カリバーンに至ってはストーム製のものが10本ほど存在している。
時代が違うため、フェルドアースのエクスカリバーはストーム製では無いのだが、何らかの神の干渉はあったのだろうと予測さえ出来てしまう。
「ど、どうなされました? やはりお二人でも難しい案件なのですか?」
「い、いや、ぶっちゃけるとだね、私の力なら聖剣どころか聖櫃さえ見つけ出せるよ?」
「エクスカリバー程度なら、俺がアヴァロンに出向いて聞いてくるだけだからな」
「「 だから、やらない 」」
同時にハモる二人。
「な、何故ですか?」
「だってさぁ、そんなに簡単に見つかるなんて浪漫がないんだよ?」
「俺はロマン理論ではなく、正論で説明する。俺たちは異世界の民であり、このフェルドアースには必要最低限の干渉しかする気はない。横の阿呆は別として、だ」
「誰が阿呆だ。ちょっと見境なしにやり過ぎるだけじゃないか」
「それが阿呆以外なんだというのやら……」
この説明で、外交官たちはどんよりとした顔になってしまう。
期待して異世界大使館にやってきて、別の意味で期待を裏切られたのである。
「それでは、どうしても助力は頂だけないと?」
「俺は無理だ。まあ、資格を持つものがいるなら、アヴァロンに話は通してやる」
「ちょいと待ってね。深淵の書庫起動‼︎」
──ブゥン
すぐさま深淵の書庫を起動して、フェルドアースのエクスカリバーの位置を特定する。
(ははぁ、なるほどなるほど。これは普通に考えたら、発見不可能だわさ。さて、どうしたものか?)
マチュアの調査結果として、エクスカリバーだったものの位置は確定できた。
でも、それを教えた所でどうしようもないし、何より今の形を知ったら、絶望してしまうかもしれない。
「ひとつだけヒントをあげるわ。エクスカリバーはグランドブリテンの守護剣、それは今でもグランドブリテンの大地の上にある。『本物の1/15』を探すこと」
「本物の15分の1?」
「後は教えない。それじゃあ頑張ってね」
手をひらひらと振るマチュア。
それでも、何もヒントがないよりもマシと思い、外交官たちは礼を告げて異世界大使館を後にした。
さて、聖剣エクスカリバーは、どこにあるのでしょうか。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
アイシャルリターン。






