閑話・精霊騎士と精霊女王の戦い
『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。
NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、連載されるかどうかは神のみぞ知るです。
ヴィラール精霊王国・大武闘大会決勝。
奇しくもバッハド派代表二人の戦いとなったこの試合は、後世に語り継がれるほどの大勝負となった。
「はぁ。まさかストーム様とこのような所で戦うとは、思ってもいませんでしたわ」
「まあな。因みにだが、俺はまだズブさんの全力を見た事がなくてな。悪いが本気で来てくれるか?」
「ええ。折角ですし、それに故郷での戦いとなりますと、後々笑い者にされたくはないものでして」
静かに意識を集中するズブロッカ。
それと同時に右手に精霊が集い、一丈の杖が生み出される。
「ちっ……七大精霊杖かよ。それも組み込まれているのは全て上位精霊球とは恐れ入ったわ」
すぐさまストームは装備をカリバーンと力の盾に切り替えると、首筋の痣に触れて亜神モードをマックスまで切り替える。
かたやズブロッカも、杖をゆっくりと回転させると周囲に精霊を召喚した。
炎の精霊・炎帝イグニス
水の精霊・水帝ハーキュリー
風の精霊・風帝ゼファー
地の精霊・地帝グランザム
四大精霊最上位が集い、その周りに配下の精霊が身構えている。
──ゾクッ
「……久しぶりに寒気がしたぞ……」
──ガギィィィィーン
刹那。
ストームの真正面にゼファーが転移すると、稲妻を纏った拳で乱打を繰り広げてくる。
それを必死に受け流すが、時折大地が震撼して足元が覚束なくなる‼︎
──ドッゴォォォォォォン
そして足元から巨大な水晶の槍が次々と飛び出してストームを襲う。
──ザシュッ‼︎
流石にバランスを失った状態で受け止めることは困難であり、いくつかの槍はストームの体を傷つけていった。
「……マジか」
「まだまだですわ」
──ヒュゥゥゥゥ
ゼファーの乱撃とグランザムの槍を受け止め躱していたところに、ハーキュリーの氷の矢が次々と飛んでいく!!!!
「一対一じゃなく一対五じゃねえか。流石に厳しいぞ」
飛んでくる氷の矢に向かってスマッシュ・無限刃で迎撃する。
その隙を目掛けてゼファーの拳が飛んでくると、ストームは受けきれずに後方に吹き飛ばされてしまう。
──ドゴォオォ
「いててて。亜神モードだから傷付かないと思ったが、流石上位精霊だな。神威体に普通に干渉して……嘘だろう?」
立ち上がりつつ口の中に溜まった血を吐き捨てていると、目の前でイグニスが天に向かって手を掲げている。
その手の中には、灼熱に耀く熱球が生み出されていた。
「……ナパームフレア……」
イグニスが呟くと同時に、炎の球はストームに向かって飛んで行く‼︎
「これは洒落にならないだろうがぁぁぁぁ‼︎」
力の盾に魔力を注ぎ前に突き出す。
巨大な結界が力の盾を中心に生み出され、それとナパームフレアがぶつかり合う。
──ミシミシミシッ‼︎
すると結界に亀裂が入って砕け散り、残った炎がストームに纏わり付く‼︎
「ウォォォォォォ!!!!」
絶叫するストーム。
現時点でのズブロッカの強さは、ストームの予想の斜め上にいっている。そしてそれは、会場にいたマチュアがナパームフレアを見た瞬間に観客席を『神威型複層多重結界』で覆う程のものである。
──ザッ
炎が消え、陽炎のように大気が揺らぐ。
その中で、ストームは尚も立っている。
炎に焼かれた皮膚を瞬時に再生し、熱気から内臓を守るべく体内にも結界を施す。
竜魔戦争前のストームなら確実に負けている。
そんな感覚が、ストームには堪らなく楽しかった。
戦闘狂の血が燃える。
あのカーマイン相手でも、ここまで恐怖を、愉しさを見る事はなかった。
目の前の相手は、マチュアと同等の戦闘力を持つ。
それが、堪らなく嬉しかった。
「そんじゃあ、反撃に行きますか‼︎」
──シュンッ
カリバーンが輝き、光の塊となる。それはストームの全身を覆うと実体化した。
それまで纏っていたフルプレートの形ではない。
全身を覆う黒いレザーアーマー。
そして頭部には、巨大な複眼を備えた虫をモチーフにしたフルフェイスのヘルメット。
「……マジか‼︎ ストーム、いつのまに再生したんだよ」
マチュアがボソッと呟く。
ストームは腰のバックルから光剣リプロティンを引き抜くと、周囲の精霊に向けて剣圧を放つ‼︎
──ドッゴォォォォォォン
たった一撃
それで上位精霊は全て後方に吹き飛ぶ。
消滅しなかったのは大したものだが、精霊たちは目の前のストームに恐怖を感じている。
「ふぅ。それが噂のビルダー装備ですわね。本物を見るのは初めてかも知れませんわ」
「まあな。まともに知っているのはマチュアだけだしな。アヴァロンでカリバーンを鍛え直すのに使っちまったからなあ」
カツーンカツーンとズブロッカに近寄る。
すぐさま精霊達はズブロッカの前に集まり、盾となり鎧となり刃となり兜
となる。
「精霊魔法最上位・精霊武具。これに私の精霊変化が加わると‼︎」
──カッ‼︎
一瞬でズブロッカが精霊化する。
精霊変化したズブロッカが精霊武具を身に纏う。
ヴィラール精霊王国に伝わる『精霊騎士』の真の姿がそこにあった。
──ガギィィィィーン
そしてどちらからともなく打ち込まれて一撃。。
炎帝剣を光剣が受け止め、躱し、流す。
先程までの激しい、派手な戦いではなく二人の剣士による一対一の戦いである。
だが、それも長くは続かない。
純粋に戦闘については、それも近接戦闘においてストームの右に出られる者はいない。
ましてやズブロッカは精霊魔術師、いくら精霊変化をしていても、肉体そのものの根幹は変えられる事はない。
──ガギィィィィーン
やがて炎帝剣が弾かれ、ズブロッカの後方に吹き飛んだ。
すぐさまストームは光剣を身構えて渾身の突きを打ち込む‼︎
それはズブロッカの喉元に突きつけられると、ズブロッカは静かに目を閉じる。
「降参よ……流石はストーム様ですわね」
精霊変化、精霊武具を解いで降参の意を示す。
──ドワァァァァン
「それまで! 優勝はストーム‼︎」
会場が破れんばかりの歓声に溢れる。
ストームの優勝により、一連の大武闘大会は幕を閉じた。
本来なら本編に組み込む予定でしたが、この戦闘だけで予定文字数の半分を注ぎ込んだので閑話にて公開します。






