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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
NEXT STAGE

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神々の戯れ・一触即発の空気の中で

『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。

 NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、連載されるかどうかは神のみぞ知るです。

 会場は騒然とする。

 まさか、大闘技会で死者が出るなど思っても見なかった。

 相変わらず、この世界は死者に対して優しくない。

 死者蘇生の神聖魔術を唱えられるものは、一国に1人いるかいないか、しかも死後数時間で外傷がない場合のみ蘇生が可能である。


 この大陸の付近で死者蘇生を行えるのは、ヴィラール精霊王国の隣国であるミトラ聖教国の大司教ただ1人のみ。

 つまり、ケーニッヒ王子の死は確定事項であり、誰にも覆すことはできない。


 マチュアを除いて。



「マッチュや、あの死体の蘇生は可能か?」


 闘技会場の廊下を運ばれる死体。

 その横を通り過ぎるストームとマチュアだが、突然ストームが問いかける。


「ん? 許可さえ貰えたらね。たかが首が飛ばされた程度なら綺麗な死体だよ、ミンチからの蘇生よりは簡単だね?」


 そう返事を返していると、死体の近くを歩いていた騎士がマチュアたちの前に立つ。


「今の言葉は事実か? それならば、今すぐに王子を蘇生しろ‼︎」

「……あんた誰?」


 突然の無礼な言葉にマチュアは問い返す。

 いきなり人の行く道を遮っての命令である、お前何者かと聞きたい。


「あんたとは何だ‼︎ 俺はコードレット騎士団副団長のアラートだ。たかが冒険者風情が、王子を蘇生できることを光栄におまフベシッ‼︎」


──スパパパパーン

 ストームとマチュア同時のハリセンアタック。

 その衝撃でアラートは廊下の壁に激突する。


「お前こそ、誰に向かって口を利いている? こちらの方は、ラグナ・マリア帝国ベルナー双王国はサムソン辺境国の国王であるストーム・フォンゼーン様にあられまするぞ‼︎」

「そして、こっちの柄の悪いハイエルフは、元ラグナ・マリア帝国の白銀の賢者な。謝るなら今のうちだが?」


 威圧スキルのダブルアタック。

 その間にも、マチュアは念話で冥府神と交信中。


(あ〜もしもし、この私の前の死体なんだけど、『私』が蘇生して良いの? 輪廻の輪に乗っかっている?)

『う〜ん。どうしましょう。その王子の死については、ぶっちゃけどっちでも良いのですよ』

(何じゃそりゃ?)

『マチュア様の世界とストーム様の世界が繋がっているおかげで、二つの世界を魂が行き来していまして。結果としては、ここで輪廻の輪の中に組み込んでもいいし、蘇生してもいいし、と言うところです』


 はぁ。

 つまり、後世の歴史や運命的には、この王子は何も重要事項には干渉しないのね。

 それならとっとと蘇生してもいいけれど、その前に勘違いしている奴らを正す必要はあるんだよなぁ。

 ほら、騎士達が一斉に抜剣してストームと私に襲いかかって来てさ。


「めんどくせ。麻痺連撃・無限刃っ‼︎」


──チュドドドドドドドド

 ほら。

 一瞬で廊下を埋め尽くす、麻痺した騎士団の方々の出来上がりだよ。



「いくら自国の王子が殺されたとしても、その程度で感情を爆発させるとは、その程度の騎士団という事か。騎士ならば、最後まで主君の為に正しい行いを示せ‼︎ 騎士達の行動は即ち、主君の格を示す事になるぞ‼︎」

「あ〜、ストームさんや、悪いが誰も話を聞いていないから」


 そう説明すると、ストームは周りを見渡してから、マチュアに向き直る。


「うん、やり過ぎたか」

「まあね。と言う事で、ここの奴らは放置しておくとして、この王子様の蘇生をするとしますか」


 傍に置かれている王子の遺体を前に、マチュアは右手を伸ばす。


──パチィィィン

 軽く指パッチンひとつ。

 それだけで、王子は息を吹き返した。


「ゴ、ゴフガハッ‼︎」

「あ〜、気管にまで血が潜り込んだか。ほらよ、もう一発な‼︎」


 再び指パッチンをすると、王子の体は元通りに再生され、身体にこびりついていた血飛沫なども全て消える。


「わ、私は生きているのか‼︎」

「そ。そんじゃね」

「折角取り戻した命だ、大切にしろよ」


 それだけを告げてマチュアとストームは立ち去ろうとするが、近くで見ていた選手や運営スタッフは絶句する。

 まさか死者を蘇生する事が出来る程の高位司祭がここにいるとは予想もしていなかったのだろう。


「助かった、礼を言う‼︎」


 マチュア達の背後から、王子の声が聞こえて来る。

 それに手をひらひらと振りながら、二人は取り敢えず控え室へと向かう事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「さてと。これで面倒な事になったような気がするぞストームさんや」

「そりゃそうだ。何の準備もなく一発で、それも死後時間が経過している人間を蘇生したんだからな。どの国でもそんな強力な治癒師は欲しがるに決まっている」


 ストームの控え室でそんな話をしている二人。

 やがて試合もストームの出番となった。


………

……



 熱気にあふれる会場。

 その真ん中には、いかにも豪華絢爛な高レベル魔導具に身を包んだガルシア・マーレィ(隣国グリスタッド第三王子)と、いつものフルプレートではない着物姿のストームが立っている。



「異国の精霊騎士殿とお手合わせできるとは。万が一敗北しても、本国で自慢ができますな」


 ニカッと笑いながら、ガルシアがストームに手を差し出す。それをガッチリと掴んで握手すると、ストームも笑いながら。


「おいおい。まだ試合前なのに負ける気かよ。やるなら全力で来いよ」

「そうですな。では、そろそろ始めましょうか」


 開始線まで戻り、始まりの合図を待つ。


──ドゴォォォォォン

 大きな銅鑼の音が鳴ると同時に、お互いに走り出し間合いを詰める。


──ギン‼︎

 ガルシアの力強い横一閃を刀の峰で受け止め弾き飛ばすと、ストームはすぐさま納刀して腰を落とす。


「悪いが、今の一撃で分かった。お前、勇者クラスだな?」


 ガルシアの刀から感じた闘気は、紛れもなく勇者ラグナの勇者系身体強化術エルド・ラン

 この大陸でもラグナの系譜があったとは、ストームとしても驚きである。


「残念だけど、初代勇者ラグナ殿の血は受け継いていない。この技は、異世界からの漂流者から受け継いだ技だ」

「へぇ。それってどれぐらい昔?」

「今から600年も昔の話だ。それよりも、その構えでいいのか? 俺の全力の一撃は目で追う事など出来ないぞ?」


 ミシミシとガルシアの筋肉が隆起する。

 だが、ストームは構えを変えるつもりはない。


「なら、その刹那の剣術を見せてみなって」

「いくぞ‼︎」


──キン……

 ガルシアの踏み込みからの一撃は正しく神速。

 通常の人間なら目で追う事など出来ない。

 だが、ストームの抜刀術はそれをも凌駕する。


 一閃でガルシアの剣を真っ二つにすると、そのまま胴体を横薙ぎに切断する。


「……変異抜刀・御祓……」


──チン

 真っ黒に染まった刀を納刀すると、ストームはガルシアに頭を下げる。

 その瞬間、ガルシアはその場に倒れ落ちる。

 黄泉送りのように物理的に切断するのではなく、御祓は対象者の精神体を切断する。

 魔族なら即死間違いなく、人間だと魂からえぐられるような激痛で意識を保つ事など出来ない。

 それと同時に、相手の体内の不浄なものを刀身で斬り落とすため、意識が戻った時は晴れやかな感情になるだろう。

 

──ドワァァァァン

 試合終了の銅鑼が鳴る。

 そしてストームの勝利が告げられると、ようやくガルシアも立ち上がった。


「何だ今の一撃は。何かこう、悪いものが全て払われた気分だ」

「ああ。体内に蓄積していた毒素、暗示、洗脳も全て祓っておいたからな。それじゃあな」

「ありがとう。それしか言えないが」

「一国の王子の礼だ、ありがたく受け取っておくさ、じゃあな」


 後ろ向きに手をひらひらと振りつつ、ストームは控え室へと向かって行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 ストームの試合中、マチュアの元には大勢の貴族や神官が集まっている。

控え室まで押し入って来て、自分達の身分を笠に好き勝手な事を叫んでいる所である。



「いいか、貴様は今日から我が伯爵家に仕える事になる。異論は許さないからな」

「いえいえ、コンスターチ伯爵の言う事など聞く必要はありませんよ。私は隣国のコモンドール伯爵家のものです。マチュアさん、貴方には我が伯爵家の長男であるパットミート様の奥様として迎えられる事が決まりました」

「フォッフォッフォッ。双方それまでにしておきなさい。私はこのヴィラール精霊王国の精霊教会の第一神官を務めるマッカ・スァンと申します。先刻、精霊王アウレイオース様から神託がありました。貴方様を精霊の巫女とすると。ですので、あなたは今日から我が教会にいらして貰います」


 その他大勢も、我が家に仕えろだの本国で召し抱えるだのと、やたら面倒臭い人達が集まっている。

 その光景にハァ〜と溜息をつくと、マチュアはゆっくりと話をする。



「まず第一前提な。私はとある国の女王でお忍びでここに来ている。なので貴族家に嫁ぐとか国に仕えるというのはないからな」


──シュゥン

 一瞬で本気の女王モードに換装するマチュア。

 同時に『王の威圧』を起動して、集まった者たちに視線を送る。

 その途端、マチュアが本物であることを見抜いた貴族たちは震えつつその場に跪いた。


──パチパチパチパチ

 だが、マッカ神官だけは嬉しそうに拍手している。


「素晴らしい‼︎ 異国の女王を巫女として迎え入れる事が出来るとは‼︎」

「はいストーップ。そこの精霊王の神官を語る詐欺師は黙ってろ。他の事ならともかく、神託だなどと言って嘘八百を並べるお前は許さないからな」


 そうキッパリと言い切るマチュアだが、マッカ神官はニコニコと笑っている。


「それは異な事を。私は神の代弁者として、アウレイオース様からの言葉を伝えただけに過ぎません。そして私の言葉はすなわち、精霊信仰者にとっては神の言葉。貴方は神に逆らうというのですか?」


 最後の言葉には、その場にいた全ての貴族も震え上がる。

 それほどまでに、この大陸での精霊信仰は大きく、そこの第一神官の言葉となると王族以外は誰も逆らうことなどない。

 だからこそ、マチュアも溜息をつく。


「あ〜、はいはい。そこまで詐欺を続けるのなら、私が貴方に神託をくれてあげるわよ……

 『今までは見逃しましたけれど、そこまで腐っていたとは私の監督不行き届きですわ。よって、神官マッカ・スァンより、全ての精霊の加護を剥奪します』だってさ」


──パチィィィン

 マチュアがマッカ元神官に向かって指を鳴らす。

 その瞬間に、マッカの指に嵌められていた八つの指輪全てが粉々に砕け散った。


──ファゥゥゥゥッ

 そしてマッカの体から、様々な精霊が染み出すと、ス〜ッと消えていく。


「精霊使役の指輪が6つと言霊の指輪、最後は精霊から自分を見えなくする指輪かぁ。最初の六つで無理やり精霊と契約して、最後の指輪でアウレイオースから身を隠していたんだね」


 一つ一つ種明かしをするマチュア。

 するとマッカは顔を真っ赤にして震えている。


「貴様、何をした‼︎」

「何って、精霊女王アウレイオースからの言葉を伝えて、ついでにあんたのズルを暴露しただけじゃない」

『そのあたりですね。マッカよ、よくも今まで私の言葉を歪め、己の私利私欲のために使いましたね……』


 今度はその場の全員にも聞こえるアウレイオースの声。

 神威を伴う声故に、誰も偽物と思う事はない。


「ま、、待ってくださいアウレイオース様。これは何かの間違いです、そう、そのマチュアとかいうペテン師に私は騙されていたのです」

『そこにいるマチュアさんは私の友達ですが。その者が貴方を騙したとでも?』


 今度は覇気を伴う声。

 その場の誰もが、マッカの敗北を感じ取った。


「え、友達? それって使徒様?」

『使徒ではありません。私の大切な友達です。さぁ、この大陸全ての精霊教会に伝えます。精霊教会第一神官位、マッカ・スァン枢機卿はアウレイオースの名において破門とし、名誉爵位全てを剥奪します。諸国の王よ、この言葉が届いたなら、すぐに動きなさい‼︎』


 本物の精霊王の神勅。

 その瞬間にマッカは騎士たちによって拘束され、その場から引き摺り出された。


『さてマチュアさん。あの者の不正を暴いていただいて感謝します』

「まあ、不正を暴けたのは本当に偶然だけどね。って言うか自爆? そんじゃそう言う事で」

『ええ。また楽しいティータイムをしましょうね』


 神威が遠くに帰るのを感じる。

 そしてその場でずっと跪いていた人々は、ようやく立ち上がる事を許された。


「さて、そんじゃそう言う事なので、あまりしつこいとアウレイオースに言いつけるからね?」

「「「「 はいっ‼︎失礼しました 」」」」


 一斉に頭を下げて退室する一同。

 それと入れ替わりにストームが戻って来る。


「お? こっちは何かあったのか?」

「まあ、水戸黄門モードだね。そっちは勝った?」

「俺が負ける要素が何処にあるかと聞きたいんだがな」

「まあな。そんじゃ残りの試合を見てから帰るとしますか」


 後は最終戦まで見学し、船に戻って翌日の試合の為に英気を養う事にした。

 

誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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