神々の戯れ・精霊ファイト、レディ・ゴー‼︎
『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。
NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、連載されるかどうかは神のみぞ知るです。
王を決める大闘技会の開催まで後一週間。
王都並びに各領地では、光精霊ルクスと闇精霊レクスが掲示板に文字を記していた。
…
……
………
告
来たる日、正当な王位を決めるべく大闘技会を行う。
参加者は自由であり、また、王位を望む者は三名までの代理人を予め登録する事が出来る。
もしも王位を望まない者が優勝し、その権利を譲渡する場合は、準優勝者が王位に就く。
但し、公平を期す為に準優勝が代理人であった場合はその次の者とし、代理人は譲渡権利を得る事が出来ないものとする。
大闘技会に参加を望むものは、光の精霊ルクス、闇の精霊レクスに参加する事を伝えよ‼︎
………
……
…
この掲示には大勢の者が驚いた。
中でも、旅や依頼を受けてこの国までやって来た冒険者達でさえ、この大会に参加すべくルクスとレクスを探そうとしたのであるが、残念ながら精霊魔術を修めている者、もしくはこの国の民でない限りはルクスもレクスも見る事はおろか呼び出す事さえ出来ない。
その為、魔術師ギルドには大勢の人がやって来て、下級光精霊ルクス魔術を学ぶために必死になっていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ヴィラール精霊王国・王城。
大広間では、バッハド王が腕を組んで右往左往している所である。
今回の大闘技会は是非とも優勝しなくてはならない。
だが、肝心の登録可能な騎士が、バッハド王が幽閉されてから行方不明となっている。
それどころか、こういう力自慢の大会には必ず顔を出していた冒険者の何名かもバッハド王からの招聘には辞退している。
現時点では、バッハド王の代理人を受けるものは存在していないのである。
「困った、これは本当に困った……どうするべきか、考える必要があるが……」
「お父様、冒険者ギルドに依頼を出してみてはいかがですか?」
「ナターシャよ。それはすでに行ってある。王位を決める闘技会となると、Aランクの冒険者でも実力不足だ、最低でもSランクはないと……」
そんな冒険者など聞いた事もない。
Sランクなど、伝説の勇者の仲間たちのランクである。そのようなものが市井にいるなど考えられないのである。
万が一存在していたとしても、とっくに他所の王国に仕えているのが関の山、フリーで冒険者を続けているものなど存在するはずがない。
「はぁ……どうしたものか」
ため息をついた窓の外を眺める。
そこには、湖畔に浮かぶ航空母艦・翔鶴さんの姿があった。
虹色の結界は外されており、今は有料で観光客を甲板上まで上げている。
あのアウレイオースの言葉の後に、ストームとマチュアはそんじゃあね、と翔鶴さんへ戻って行った。
それからは、バッハド王やナターシャの前には姿を現していない。
「……せめて、ストーム殿が助力してくれたなら…」
ボソッと呟くその声は、ナターシャの耳にも届いていた。
………
……
…
場所は変わって、航空母艦・翔鶴さん甲板上
「いかがですか? 報酬ならば望むだけ差し上げます。我がドリントル様の代理人として、大闘技会に参加していただけませんか?」
ドリントルの執事が翔鶴さんを訪れると、すぐさまストームに謁見を申し込んでいた。
その目的は一つ、一人でも多くの人材をドリントル陣営に引き入れるため。
ドリントルとしては、自分が王にならずとも、最悪でも自分たちの勢力で王位を奪えれば良いと考えた。
そのためなら、とにかくバッハド王の勢力を潰すために、有力な者を囲い込んでおこうと考えたのである。
「ふぅん。こ、と、わ、る。以上だ、あんたの雇い主に伝えてくれ」
「なっ‼︎ 断ると申すのですか?」
「当然だ。俺は泥棒に手を貸すつもりはないからとも伝えておけ」
「泥棒ですと? 我が主人を泥棒呼ばわりするのですか? 事と次第によっては、貴方はこの国にある事すら出来なくなるのですよ、さあ!今なら間に合います、頭を下げてください」
実にテンプレートな執事である。
主人も主人なら、その執事もまたとんでもないものである。
「こ、と、わ、る。何なら、俺を倒すために夜討ち朝駆け好きにしろ。全て返り討ちだからな」
「……その言葉、お忘れなきように……我々の陣営には、精霊女王の称号を持つティターナもいるのです。せいぜい、今の王に尻尾を振っている事ですなぁ」
にこやかに告げて、執事はその場を立ち去る。
「精霊女王? ティターナ? 誰だそりゃ?」
ボリボリと頭を掻きつつ、ストームは艦内へと戻る事にした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
大闘技会まで後2日。
いまだ、バッハド王のもとには代理人の姿はない。
それどころか、国内にいる有力な冒険者や騎士たちが、襲撃されて深傷を負うという事件が発生している。
「……だってさ。もう街の中は騒然としているよ、現王は代理人がいないので、ドリントルの王位は確実だってさ」
「……何だ、3日ほど見かけなかったから艦内に篭って魔導具でも作っているのかと思ったんだが、街に行っていたのか」
「その通りさ。って言うか、煮詰まったから街に出て散歩していた。まあ、私も襲われたけど一方的に返り討ちにしたし、その後でドリントル陣営の者が接触して来てさ、勧誘されたんだよ」
「へぇ。それで?」
「当然断るに決まっているでしょうが。この世界での私の立ち位置は中庸じゃないと駄目だからね。ついでに言うと、始祖神さまに言われて、この翔鶴さんは私の世界に持って帰ったら駄目だった」
おや、まあ。
確かに、そうなるのもわからなくはない。
「それで図面と材料だけ持って帰ると?」
「そ。箱舟は戻ってから回収するから同じものは作れるし。これはこっちの私が貰うことが確定した」
「なんだかややこしいなぁ。それでマッチュはバッハド王には付けないのか」
「そ、それなら別の人を付けることにするよ。幸いな事に、精霊についての第一人者が八葉騎士団にいるからさ」
元・幻影騎士団参謀のズブロッカ。
現在は幻影騎士団ではなく『八葉騎士団』というシルヴィーの私設騎士団に移籍している。
因みに八葉はズブロッカ、ワイルドターキー、ポイポイ、十四郎、十六夜厳也、ストーム、マチュア、ウォルフラムの八名によって構成されており、その権限は皇帝も認可している『辺境伯扱い騎士』として、帝国の影に存在している。
現在の幻影騎士団の団長はサイノスが、その補佐官にメレアが付いていた。
ロットはカレン・アルバート・ゼーン王妃付き騎士として、そしてミアは帝国付き白銀の賢者として日夜頑張っている。
「ああ、ズブロッカか。それならいけるかもな。そんじゃルクスよ、この事をバッハド王に伝えてくれ。代理人の一人は俺の知人が、それと俺参加すると」
「あ〜、ストームはやっぱり参加するよなぁ。後一人はどうするの? 私は参加できないよ?」
「そうだなぁ……ダークホースを一人呼んでくる。それも登録するか」
ストームの伝言はすぐにバッハド王の元に届けられた。
すぐさまバッハド王はルクスから告げられた名前を代理人として登録すると、大闘技会当日まで、精霊王に祈りを捧げていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ドーン、ドーン!
炎の精霊が空を飛び、大きな花火をあげている。
ヴィラール精霊王国北部山脈麓に突如として現れた、闘技場型古代遺跡には、大勢の人々が集まり、闘技会が始まるのを今か今かと楽しみに待っていた。
その控え室では、マチュアがぐったりと青い顔でベッドに横たわっている。
「いや、いくらアウレイオースの頼みでもさ、この規模の建造物を3日は辛いよ? 他にも手がなかったの?」
マチュアは眠そうな顔で、ベッドの傍で申し訳なさそうに立つアウレイオースに淡々と呟く。
『誠に申し訳ありません。私たち神界の存在は、下界のことには直接関与はできないのです。今回のように自分の加護のあるもの達に対してなら多少は…ですが、私には建造物を構築する魔術はないのですよ、魔導神マチュア様」
「破壊神だったり、創造神だったりしたけどさ、とうとう魔導神扱いですかありがとうございます」
「まあ、今回の件につきましては、感謝の言葉しかありません」
「いいよいいよ。物作っていると楽しいからさ、そんじゃ寝るから後はよろしく」
手をヒラヒラとふりアウレイオースに挨拶すると、アウレイオースも頭を下げてスッと消えた。
やがて会場では、大きな歓声が沸き起こる。
いよいよ、ヴィラール精霊王国王位を賭けた大闘技会が始まるのであった。
………
……
…
「一回戦はバトルロイヤルなのですね。ですが、私が参加して良いのですか?」
急遽呼び出されたズブロッカが、傍で大会のスケジュールを確認しているストームに問いかける。
「実際には参加者が多いので四つのブロックによる予選がある。それがバトルロイヤルで、それぞれのブロックから四人ずつ本選に進む。そして本戦はトーナメント形式で、代理人同士は極力当たらないようになっている……筈だ」
「今行われているのが予選一回戦ですか。あの、私とストーム様と、あと一人の代理人はどちらさまですか?」
「それは今やっているよ。これ以上ない代理人だからな」
ニィッと笑うストーム。
その笑みに何か怖いものを感じたズブロッカは、すぐに会場へと足を進める事にした。
──ウォォォォォォ
会場はまさに興奮の坩堝である。
現在、真紅の鎧を身に纏った女騎士が、長さ3メートルの巨大な両手剣を振り回して無双状態である。
「乾坤一擲奇々怪界。我が一撃は、王者の一撃、我に切れぬものはなし‼︎」
叫びつつ女騎士は両手剣を大地に向かって振り落とす。
それは刃の部分が地面に突き刺さると、そここら一直線に亀裂が走り、炎が吹き荒れた。
「え……あれって勇者系必殺技?」
ズブロッカの呟きと同時に、女騎士は大地から剣を引き抜く。
それは全長10mの、マグマを纏った炎の勇者剣。
「さあ、お前たちの罪を数えろ‼︎ 分かった言わなくていい‼︎」
ガチャッと肩越しに一直線に勇者剣を構えると、そのまま次々と参加者を斬り飛ばしていく。
やがて舞台の上には、その女勇者一人だけが立っていた。
「だ、第一ブロックの勝者は、バッハド王代理人である和国の騎士、レイフェで決定しました。残り三人についてはこれから協議を行います‼︎」
風の精霊を使った場内アナウンスが響くと、レイフェは武具を空間収納に納めて控え室へと戻る……途中で、自分が作った亀裂に落ちた。
──ブッ‼︎
この瞬間に会場は大爆笑。
そしてなんとか亀裂をよじ登ってきたレイフェは、にこやかに手を振って会場を後にした。
「……10年間、どこにいたのかと思ったら、ずっと和国にいたのですか?」
傍に来たストームに問いかけるズブロッカ。
すると、ストームはニィッと笑った。
「今のレイフェの役職は、幻影騎士団でも八葉騎士団でもない。『織田家筆頭剣術指南、兼、遊び人のレイフェ』だからな。俺の強さとマチュアの面白さを兼ね備えた剣士だからな」
「あの鎧とザンジバルは、マチュア様の?」
「いや、俺が作ったレイフェ用装備だよ。真紅の鎧もザンジバルも、マチュアしかまともには使えない。まあ、レイフェなら使えるが……」
そう話しているところにレイフェもやって来る。
「ストーム師父、やり過ぎました‼︎」
「あ、それが分かっているなら良いわ。出来るなら、このブロック予選終了後あたりに準決勝が来るのが良かったんだけどなぁ」
協議の結果、第一ブロック勝者の残り三人については審判団の投票により決定した。
残り三人、全てがドリントル派閥の登録者たちであったのは、偶然ではないだろう。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






