神々の戯れ・欲する者、手に入らないもの
『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。
NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、連載されるかどうかは神のみぞ知るです。
──グォングォングォングォン
魔導ジェネレーターの音が静かに響く。
甲板上では、偵察に向かうためにストームが『震電・改』の発艦準備をしている。
「ほう、これは中々ロマン溢れるな」
「そうだろそうだろ。もうね、浪漫しか追求していないからさ。それよりも、いざ作ったのは良いんだけれど、ストームはこれ、操縦できる?」
ふとした疑問。
戦闘機は、魔導鎧のように意志力でどうのこうの出来る代物ではない。
普通に意志力だけで動く戦闘機も考えたのだが、それをやるとガウォークやバトロイドにも変形させたくなって来るので、そこはぐっと押さえた。
「それについては大丈夫。以前エストラードで傭兵をしていた時に、暇つぶしに覚えた事があったな。まあ、エースパイロットとまではいかないが、普通に飛ばすぐらいなら出来る……筈だ」
「うわぁ、それ、一番不穏だわ。まあ、ストームを信じるから、偵察よろしく」
「おうさ。そんじゃ、ロード・エストラード・ストーム、行く‼︎」
──ブォン
魔導カタパルトによって、震電・改が勢いよく飛び出す。そして上空をゆっくりと旋回すると、そのまま進行方向である精霊王国へと向かって行った。
「おーおー、派手に飛んでいったなぁ。頑張れよー」
慣らし運転のようにゆっくりも飛んでいく震電・改に手を振ると、マチュアは後ろからの突き刺さるような視線に振り返った。
……
…
「さて。何か言いたそうなんだけど、この船については一切説明しないからね。当然、二人を送る為にしか使わないし、王家を取り戻す為になんてこの船は使わないので悪しからず」
甲板上で何かを言いたい二人に対して、マチュアは先手を打つ。
この船があれば王家を取り戻す事も難しくないと思っているのかもしれないが、そんなに簡単に話が進む筈がない。
ヴァンドール大陸でアルマロス公国奪回のために手を貸したマチュアではあるが、今回はそれとは事情が違う。
まだ国王は生存しているし切り札はこちらにもある。
王位簒奪がどのように起きたのか、どうすれば王位が移るのかなんてマチュアは知らない。
「そ、それは理解している。だが、このような巨大な魔導具があれば、一国を手に入れるぐらいは容易いのではないか?」
「そりゃあ、ぶっちゃけると私が本気を出したら、この船自体いらないよ。単騎で王城に入っていって、王族皆殺しだって簡単だよ」
「そ、それならば、此度の王国奪還にも」
「元宰相さんのその手には乗らないよ。事実、ナターシャさんは私に手伝って欲しいって言わなくなっているでしょ?」
その問いかけにブレンダークはナターシャの方を見てしまう。
「姫様、そ!その、私は王国の為にですね」
「わかっていますわ。ですが、これでブレンダークも理解したでしょう? マチュア様は、王国の女王です、その方が他国の王家の揉め事に首を突っ込むような事はないと以前仰っていたではないですか」
そう嗜めるように告げると、ナターシャはマチュアの方を見直す。
「私は、今は国に戻れるだけありがたいと思っています。後僅かで王位継承の儀が始まりますので、それまでに王位の証を取り戻して儀式に臨めば良いだけですから」
キッパリとした物言い。
マチュアの目にも、それは自分に対しての決意の表れだという事はすぐに分かった。
彼女は、本当に自分達で王国奪還を為そうとしている、それなら、マチュアとしては優しく見守っているだけ。
「って思ったんだけどなぁ。まあ、ここからは臨機応変に行くとしましょうか。取り敢えずはお昼の準備だね。艦内で自由にしていいから。ご飯の準備が出来たら呼ぶからさ」
「それならお手伝いしますわ、私にも何か手伝わせてください」
「あっはっは。それなら手伝ってもらおうかな。それと、ブレンダークさんは罰ゲームで甲板50周ね。私は最初から言っていた筈だよ、手伝わないって。なのにしつこくしたから罰ゲーム‼︎」
「な……はい。そうですね、このような奇跡の魔導具を見てしまい、気が焦ったのかもしれません。では、速やかに60周走ってきます」
パン‼︎ と両頬を掌で叩いて気合を入れると、ブレンダークは上着を脱いで走り出した。
「まあ、こんなの見たら誰でもそうなるよ。それにさ、私が手伝えない理由もちゃんとあるんだからね」
ボサッと呟いてから、マチュアはナターシャの背中を押して厨房へと向かう事にした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
場所は変わってヴィラール精霊王国王都、クリスタルレイク。
巨大な湖の湖畔に存在するヴィラール精霊王国の王都であり、東西は豊かな大森林、その北は広大な山脈に囲まれている。
湖から注ぐ大河を南下した先には、ヴィラール最大の港町バフマスがある。
このバフマスから、ナターシャ達は内海に逃げたのである。
──ゴゥゥゥゥゥゥ
既にストームの目の前には、その港町バフマスが見えている。
「はぁ、成程なぁ。これは面白い作りの国だわ」
大陸に近づくことで、ストームははっきりと理解した。
このヴィラール精霊王国の大陸地下には、マナラインが殆ど接続していない。
僅かな細いマナラインがいくつかあるだけで、この国では魔力を必要とする魔術師たちには厳しい大陸である事が理解出来た。
その代わり、広大な自然からは溢れんばかりの精霊力が流れているのも見える。
「あ、こりゃあマッチュは詰みだ。精霊魔術はまだ中レベルだったよなぁ。こりゃあ賢者殺しの大陸なのがよくわかるわ」
そのままバフマスの上空を旋回すると、真っ直ぐに大河を遡る。そして湖を確認してその先にある王都を一望すると、念話でマチュアを呼び出す。
──ピッピッ
「俺だ、現在は王都の湖畔を旋回中。座標も確認したがどうする? 因みにマナラインが細いから賢者には厳しいぞ?」
『あ〜そう来たかぁ。それなら王位継承の儀まで匿ってさ、その儀式の場で直接対決するのが安定だよね?』
「まあ、それでも構わんが、儀式の場でお姫様殺されないか?」
『そこんところは相談だよ。護衛が必要なら私とあんたで付いたら無双だよ? 別に私は修練拳闘士でいくから構わないし』
確かに、護衛を伴って行けるのなら、それが一番安定であろう。
「じゃあ、そうすっか。いや、それならそれでこっちとしても今は手を出す必要がないよな」
『何だ? まさか単騎で王様救出する?』
「……保険は必要か。それやってから戻るわ、ちょいと久しぶりに無双してくる」
『いや、ちょ、おま、待て待てぇぇぇぇ』
──ピッピッ
無事に念話も終わった事だし、久しぶりに本気を出すとしますか。
「光の精霊ルクスよ。我が名に応え、かの者を探し出せ。それはこの国の王、何処かに幽閉されているだろう」
──シュゥゥゥゥゥ
ストームの問いかけに、一つ、また一つと光の精霊が震電・改の周囲に集う。それはやがて1000を超えると、一斉に王都全域に散っていった。
そして震電・改を王都上空100m付近に垂直に立てると、その場でホバリング状態にする。
やがて震電・改に気がついた人々が近くまで集まり、ザワザワとざわめき始めた。
「報告します‼︎ 王都上空に奇妙な物体が浮かんでおります‼︎」
王城で今後の対策を考えていたドリントルは、街を巡回している騎士からの報告に耳を疑う。
空に浮かんでいる?
そんなものは普通は存在しない。
風の精霊魔法で空を飛ぶ事なら出来るが、物体を浮かべる事など出来ない。
そして、そのような奇妙な行動をする魔族や精霊も知らない。
そうなると、騎士の報告通りの奇妙な物体が何であるのか、興味が湧いて来る。
「なら、それを捕縛してこい」
「それが無理でした。物体の周囲に何か結界のようなものが張り巡らされておりました」
「なら風使いにでも偵察させろ、一々指示をしないと何も出来ないのか‼︎」
「ま、誠に申し訳ございません」
慌てて飛び出していく騎士に侮蔑の笑みを浮かべると、ドリントルも気になったのでコートを纏って外に出る事にした。
………
……
…
「成程なぁ、これは確かに奇妙だ」
報告のあった場所までドリントルは馬を走らせた。
ちょうど王都中央にある貴族院の上空に報告にあったものが浮かんでいる。
そして現在、その物体の周囲を取り囲むように大勢の光の精霊が集まっているのが見えた。
「何だ? 何故あそこにルクス様達が集まっているんだ? あれは一体何なんだ?」
動揺するドリントルだが、その言葉に返事を返せる者は、その場には誰もいなかった。
……
…
「ふむふむ、東方住宅区画にもいないと……ありがとうな、ほら、ご褒美だ」
ルクスから報告を受けると、ストームは米粒大に神威を集めて手渡す。
それにルクスは嬉しそうに齧り付くと、ゆっくりと輝き、下級光精霊ルクスは中級光精霊フルージオに進化する。
すると、我も我もとルクス達はストームににじり寄り、報告を続ける。
そして一人、また一人とフルージオへと進化すると、その場を離れていった。
「ふむ……この王都にはいないか。だが、面白い報告を聞いたな」
一人のルクスの報告、それは王都地下にある古代城塞の一部は精霊を寄せつけないため、そこは見えないということ。
可能性で考えるなら、そこに囚われている可能性がある。
「地下城塞ねぇ。それならそこまで行ってみますか。フルージオの誰でもいいから、そこまで案内出来るか?」
そう問われると、大勢のフルージオが我も我もと手を挙げる。なので一番早かったフルージオを呼ぶと、ストームはコクピットキャノピーを開いて外に飛び出した。
「マッチュの持ち物だから、俺の空間収納に収納は出来ないか……って、入るし」
──シュンッ
ストームのやる事などある程度は予測しているのか、彼の空間収納にも震電・改は収納出来た。
もっとも、マチュアとしてはこんなに早く行動するとは予想もしていなかっただろう。
突然、見た事もない物体から人が飛び降りたかと思うと、屋根を駆け抜けて裏路地に走って行くのを大勢の人が見た。
当然巡回騎士達も慌ててストームを追いかけたが、路地に着く頃にはその姿はどこにもなかった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「いや、ちょ、おま、待て待てえぇぇぇぇ」
──プツッ
今日の昼食はパスタ三種。
作り置きしていたミートソースと作りたてのカルボナーラ、そして最後のペペロンチーノを作っていた所にストームからの念話である。
慌てて話を聞いていたおかげでニンニクと唐辛子が焦げてしまったので作り直しである。
「ぬぁぁぁぁぁ、こーげーたぁぁぉぁ。くっそ、食材さんごめんなさい」
焦げたニンニクと唐辛子に謝ってから、もう一度作り直す。
ストームが動いたのなら安心なのだが、マチュアとしては腑に落ちない。
「あの、マチュア様、突然どうしたのですか?」
「今ストームから連絡があった。先に王様救出してくるって」
「そ、それは危険なのでは‼︎ 急いでストーム様に助力しないと大変な事に‼︎」
狼狽するナターシャだが、マチュアは別の心配をしていた。
「くっそぉぉぉぉ、もう私の出番がなくなったぁぁぁ。手伝わないふりをしてこっそりと手伝おうと思ったのにぃぃぃ。もう終わりじゃないかぁぁぁぉぉぁ」
あ、悔しいのはそこですか。
そのマチュアの言葉に呆然とするナターシャ。
「あ、あの、心配じゃないのですか?」
「何で私がストームを心配するの? 寧ろ出番を取られた私が可哀想だよ」
「王都にはドリントルの精霊騎士団が駐留しています。王付きの近衛騎士団はまだ動かせるとは思いませんが、それよりも心配なことが‼︎」
必死にストームを心配するナターシャ。
「もっと心配なこと?」
「はい。ドリントルの直属の騎士ですが、実は亜神を隷属させています。しかも精霊王アウレイオース様から二つの上位精霊を賜っています」
──ガーン!!
これにはマチュアもかなりショック。
それが顔にも出ていたので、ナターシャは必死にマチュアを励まそうとするが。
「くっそぉぉぉぉ、完全にストームのワンサイドゲームじゃないか。私の出番なんて皆無だよ」
そこから先は、マチュアは何も言わずに料理を盛り付ける。
そしてのんびりと、沈黙のランチタイムを取った後、マチュアは翔鶴さんに指示を出す。
「王都上空までフルバースト良いね?」
「了解しました。今から1分後に翔鶴さんは最大戦速で王都に向かいます」
「宜しく。このままだと私の出番がないから‼︎」
食後、どうやってマチュアを励まそうとするか考えていたナターシャだが、マチュアが笑顔でそう告げると思わず頬が引きつった。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






