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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
NEXT STAGE

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神々の戯れ・流されてアイランド

『異世界ライフの楽しみ方』のメインストーリーは完結しています。  NEXT STORYから始まる物語は全て後日談であり、連載されるかどうかは神のみぞ知るです。

 はぁ……。


 とにかく疲れたの一言に限る。

 つい前日まで、俺とマチュアは始祖たる神の勅令で、三つの世界に出向していた。

 何の因果でガノタの心を揺さぶる世界に行ったり、滅びし世界イルファーロで、見も知らないノームの女性に求婚された挙句ストーカー紛いの事をされたり、終いには歌を歌って世界を救ったり、もうね、俺は疲れたよ。


 退屈な日常に何かを求めていた俺が間違っていたわ、日々これ平穏、それが良い。



──スタスタスタスタ

 執務室でのんびりと体を休めていると、シルヴィーが部屋にやって来る。


「旦那様や、昨日はどこに行っておったのじゃ?」

「ん? マチュアと異世界に」

「あっさりじゃなぁ。まあ、マチュアと一緒なら何も案ずることはないか。それは置いておくとして、昨日の夜じゃな、港町に漂流船が到着した件は、ストームに任せても構わぬのか?」


 はて。

 まだそこまで書類に目を通していないぞ。

 そんな事があったのかよ。


「まあ、俺がやるわ。シルヴィーじゃ面倒な案件だろ? そもそもベルナー双王国で海があるのはサムソンだからな。こっちで対応するから心配するな」

「そ、そうか。では頼むとしようぞ……」

「了解だ、ベルナー双王国の方は、何か変わった事はないか?」


 そう問い掛けてみるが、シルヴィーは笑いながら首を振る。


「何かあったら幻影騎士団が動いてくれるからの。今のご時世で、ラグナ・マリア帝国に手を出す輩が存在するとすれば……おらんのう?」

「何で最後は疑問符なんだ?」

「いや、妾の知る限りではおらぬが、ストームには心当たりがあるとかないとか?」

「ないわ。うちに手を出して勝てる自信があるとしたら、カナン魔導連邦だけだわ。それも本気のマチュアが率いてな。それ以外ならないな」

「そういう事ぢゃよ。では、妾は戻る事にしよう」


 シルヴィーがスタスタと部屋から出て行く。

 その後ろを、のんびりとズブロッカが付き従っているのは、今の幻影騎士団のスタイルだから。


「さて、そんじゃ港に行ってみますか」



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 サムソン東方にある港町・マクドガル男爵領。

 その波止場には、ボロボロに崩れかけている大型帆船が係留されている。

 

 先日の嵐の後にマクドガル領沖合に流れてきていたのを漁師たちが発見し、数隻の船で港まで曳いてきたのである。

 乗組員はほぼ全滅、朽ち果てた楼閣の下から、辛うじて息のあった2人の人物がいたが、未だ意識は戻らず教会の治療室で手当てを受けている。



「しっかし、随分と酷い有り様だなぁ……」


 冒険者スタイルのストームが腕を組んで見上げている。よくぞここまで持ち堪えたと言いたい所だが、よく見ると不自然な破壊痕も見え隠れしていた。


「へぇ。船大工に調べさせましたけれど、落雷がマストに落ちて燃えたらしいです。船体に燃え広がらなかったのは嵐の中だったからだろうとかで。それでもあちこち焦げたり暗礁に乗り上げたのか、傷ついて浸水もしています」

「それでここまでか……」


 普通に考えて、ここまで流れて来ることはない。

 ならば、何か外因的要素があるはず。


「へいストーム‼︎ あんたの予想通り船体に対して強化魔法を施した跡があるよ。おそらくはレビテート系で、浸水しても浮かんでいられたのはこれだろうね」


 甲板で鑑識作業をしていたマチュアが叫びつつ甲板から飛び降りて来る。


「ほら、これが浮遊レビテートの術式を施した魔晶石な、もう魔力が残っていないから発動しないよ。それとこっちが特殊な魔導具でね」


 マチュアがゴソゴソとマントの下から取り出したのは古ぼけたランプ。

 それをフーッと吹いて魔力を注ぐと、ランプがゆっくりと灯る。


「特殊? 灯りじゃなくて?」

「ああ。こいつに施されているのはオリジナルの魔術式でね。術式名は緊急救命ライフセーバー、ランプが点灯している限り、その範囲内の人間、動物は飢える事なく生きていられる。例えその場所が水中だろうとね」

「何じゃ、そのチートな魔術は。マチュアでも作れないのか?」


 そう問われると、思わず頭を捻ってしまう。

 別に出来ない事もないんだけれど、そもそもそういう発想にならなかった。

 オリジナルの魔術は発想が勝負、しかも、これは魔導具化までしてある。

 

「思いつかない、というのが正解だね。今の私なら、深淵の書庫アーカイブを展開するだけで同じ事が出来るから、発想から抜けているよ」

「そういう事か。それで、これは複製できるのか?」

「当然。術式は魔導書にコピーしたから、もっと使いやすく改良も出来るんだけどさぁ。問題はこれ」


──トントン

 ランプのガラス面を指で軽く叩く。

 そこには何やら紋章が刻み込まれている。


「魔導術式か?」

「いや、見た感じから察するに、国章だね、それも王家の。『月桂樹の冠と地水火風四大精霊の紋章』なんて、おいそれと刻めるはずがないわさ」

「という事は、こいつはどこかの国の船か。西方大陸では見たことないな」

「和国でもないね、ついでに言うならウィル大陸にも、北方大陸でも見たことない。当然ヴァンドール大陸にもないはず」


 つまり、マチュアもストームも見た事がない大陸の王国、もしくは島国にある国家と推測される。


「あ〜、ないわぁ。恐らくだが、星の裏の大陸国家だわ、結構前に聞いた事がある『精霊信仰』している大陸と推測される」

「へぇ。なら、この船はそこの王家の船なのかい? 王家の国章のついた魔導具を所有している、『明らかに何者かによって攻撃された跡のある』船が」


 船体をコンコンと叩くマチュア。

 落雷によってマストが燃えたのは事実であるが、それより先に魔法か何かで攻撃された痕が船尾及び右舷から見て取れた。

 

「やっぱりかぁ。それなら、今教会にいるおっさんと娘さんは、その王家の関係者か……」


──ソーッ

 そのストームの言葉を聞いて、マチュアはコッソリと逃げようとして立ち止まる。


「あ、あれ? 止めないの?」

「どうせ止まるだろうと思っていたからなぁ。ここまで知ったマチュアが、知らぬ存ぜぬで逃げるとは思えないし」


 ニヤニヤと笑うストーム。

 案の定、ストームが止めると思ってマチュアは逃げる素振りだけ。


「はぁ、相変わらずだよ親友。それでいつ向かうんだ?」

「マチュアが船を用意してからだな。どれぐらい掛かる?」

「今から拾ってきて、改装してからだから一週間後でよろしく」


──ガシッ

 お互いに拳を打ち鳴らして、マチュアは手を振って転移する。

 そしてストームは、真っ直ぐに教会へと向かっていった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯

  


 ここは何処だろう。

 なぜ、私はここに在るのだろう。

 いや、どうして生きているのだ?

 奴らに追われて国を飛び出し、命からがら危険な西方海域に向ったまではいい。

 常に潮が荒れている上に、浅瀬と暗礁が入り混じった東方海域。我が国にやって来るには安全な南方諸島経由か北方の深く冷たい、そして潮流の早い黒潮海域を抜けなくてはならない。


 だが、南方も北方も奴らの軍船によって通行できなくなっていた。

 まだ幼い姫君を逃すためには、危険を覚悟で西方海域を抜けるしかなかった。

 あの、我らが主君を殺害し、王国を乗っ取った魔導師の手から姫君を逃す為には。


………

…… …


──ガバッ

 突然意識が戻る。

 慌てて体を起こして周囲を確認するが、小さな部屋であることと、隣のベッドにナターシャ様が眠っている事だけは理解出来る。


「ナターシャ様‼︎」


 すぐさまベッドに駆け寄り魔法を唱える!

 するとナターシャの周りに静かに妖精が集まり、にこやかに微笑んでいる姿が見える。


「ご無事でしたか。しかし、ここは何処だ?」


 改めて周りを見渡すが、同じような部屋に心当たりはない。

 まさか奴らのアジトか?

 そう考えたのは一瞬だけ、もしそうなら部屋になど運び込むはずもなく、一瞬で命を奪われて終わりである。


「光の精霊ラ・ルクスよ、我にこの地の座標を示したまえ」

『ウィル大陸北東海岸、ベルナー双王国マクドガル男爵領・港町……』

「ウィル大陸だと‼︎ あ 伝説では聞いた事がある星の裏側の世界ではないか‼︎」


 まさか自分が、伝説の地に辿り着いたとは思っても見なかった。

 だが、これは良き舵取である。

 いくら奴らが精霊の加護を得ていたとしても、この地までやって来る事はない。

 それなら、今はこの地で地力を付けて、いつか国に戻れば良い。



──ガチャッ

 すると突然、扉が開く。

 とっさに身構えたものの、部屋に入ってきたのは鎧を着た騎士1人だけ。


「お、意識が戻ったのか。どうだ、怪我は治っているだろう?」

「……貴様は何者だ?」

「ふぅ。そんなに警戒するなよ。俺の名はストーム、あんたらの怪我を治した者だ」


 そう告げられると、私としても礼を返さねばならない。

 すぐに胸元に手を当てて、腰から身体を軽く折る。


「それは失礼した。怪我の手当て、感謝します」

「貴族の礼か、そんなに硬くならなくていい。それよりもあんたら、何処からきた? ここはウィル大陸にあるラグナ・マリア帝国、ベルナー双王国のサムソン辺境国港町だ、どれか一つでも心当たりはあるか?」


 ウィル大陸しか分からないし、そもそも伝説の地である。分かるかと問われると分からないというのが本音である。


「ウィル大陸は星の裏側にある伝説の地であろう。破壊潮流を越えた嵐の壁の向こうに存在すると聞いた事がある」

「あ〜、俺達に言わせれば、あんたらの方が伝説の地なんだけどな」

「主観の違いだな、まあ、俺としては無事に生きていた事に感謝している。後は時間をかけて態勢を整え、本国に帰還して王位を取り返す……」


 グッ、と拳を握る男。

 だが、ストームは冷静に頷くだけ。


「成程な。その件についてはラグナ・マリアはノータッチだ、そっちで勝手にやってくれ。それで、これからどうする? あんたらの乗って来た船は既に残骸、持って来ていた魔導具らしきものも壊れて使い物にならない。帰るのか?」

「いえ、今は帰る時期では『はい。帰る手段を探して帰ります』姫様、お気付きになられましたか」


──ハッ‼︎

 慌てて口元に手を当てる男。

 その向こうでは、キリッとした縦ロールの金髪美少女がキリッとした目でストームを見ている。


「気が付いたかい、姫様よ」

「見も知らぬ私達を助けたいただき、ありがとうございます。それで、お願いがあるのですが、この地には冒険者ギルドはあるのでしょうか?」

「あると思うが、どうするんだ?」

「我が国に戻る術を探したいと思います。可能であれば、嵐の壁をその向こうに、破壊潮流を越える事が出来る船を探したいと思います」


 ふむ。

 可能性としては、ソラリス連邦から貰った魔導帆船ぐらいだろうなぁ。

 でも、あれは王都預かりだから無理だよな。


「悪いが姫さんよ、今のラグナ・マリアの技術では?星の裏側まで向かえる船なんかないぞ」

「いいえ、我が国に残された伝承には、遥か彼方の地に眠る箱舟なら、全てを越えられると記されています。それを探します」

「また箱舟かよ……つーことは、これも破壊神の残滓のヤラカシが原因なのかもなぁ。まあ、その辺りは好きにすればいい。それと一つだけ伝えておくが、この国の冒険者は義理人情なんかじゃなかなか動かないからな。先立つものがないと無理だし、成功報酬としての提案でも無理だぞ、規模が違いすぎる」


──ビクッ

 流石に今の言葉は効いたのだろう。

 だが、見も知らない国の王女を無償で助けるのは勇者の仕事だ。

 冒険者の仕事じゃあない。


「そ。それでは、この国の王に口添えしていただけますか?私が直接出向いて助力を申します」

「あ〜、それは無理だわ。うちの国にあんたらを助けるメリットがない。大勢の命を犠牲にしてまで、見も知らない国を助けるほど俺は甘くはないからな」

「なんだ貴様は‼︎ 我が国の姫様が頭を下げているんだ、騎士風情は黙って国王に連絡するがいい‼︎」


 姫様に対しての無礼な口の聞き方に男が激昂する。

 だが、今の状態ではそれは悪手である。


「まあ、そこまで言うなら王城まで案内してやるよ。ほら、動けるのなら手を貸しな」


 静かに王女の近くまで移動すると、ストームは男と王女と共に、ベルナー双王国へと転移する事にした。


「そんじゃ行くぞ、精霊の旅路エレメンタルステップと」


──シュンッ

 一瞬で目の前の風景が小部屋から謁見の間に変わる。

 これには王女も男も動揺して身構えてしまった。


「と、突然何者かと思ったが旦那様ではないか。どうしたのぢゃ?」


 王座に座って、正に貴族との謁見の最中だったシルヴィーが、呆れたような声でストームに問い掛ける。


「あ、謁見希望者だ、この後は大丈夫か?」

「後2件あるから、その後ぢゃな」

「そっか、そんじゃ時間が来たら呼んでくれ。王女さんとそっちの男もついて来い、待合室に行くぞ」

「は、はい……あの、ストームさん、先ほどの転移魔法は、まさか精霊の旅路エレメンタルステップですか?」

「ああ、そうだけど? おれは転移魔法はあれしか使えないからな」


 そう説明するストームを見て、王女と男は絶句するしかなかった。






 

誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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