エピローグを語ろう・その15・途切れた絆
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
──プツッ
Stormの世界・エーリュシオンでは。
大神殿にある大広間で、マチュアが他の管理神から神としての講習を聞いている所であった。
ちょうど今は秩序の神パスティから世界の天秤についての説明を受けていたのだが、突然、マチュアの中で何かが途切れた感覚が駆け抜けていった。
「ん? 今何かあった?」
「何かと問われましてもですね‥‥マチュアさまに判らないものが私にわかる筈がないですよ」
「そうなんだよなぁ‥‥何があったんだろう」
管理神マチュアから破壊神マチュアに呼びかけても反応はなく、意識を切り替えようとしても、切り替わらない。
「はぁ!! ちょいまち、緊急事態発生、ウィンドウオープン!!」
──シュンッ
すぐさまマチュアの目の前にいつも見慣れたステータスが広がっている。
名前 :マチュア・ミナセ
年齢 :1
性別 :女性
種族 :ハイエルフ/カリス・マレス世界の統合管理神
レベル:存在せず
体力 :測定不能/1~∞(概念でのみ存在)
瞬発力:測定不能/1~∞(概念でのみ存在)
感覚力:測定不能/1~∞(概念でのみ存在)
魔力 :測定不能/1~∞(概念でのみ存在)
心力 :測定不能/1~∞(概念でのみ存在)
スペシャルアビリティ:森羅万象、可能性の実体化
創造と再生、一期一会
調理、雑学、絶対魔力
固有スキル:神威解放、絶対無敵、生活リミッター
スキルメーカー
習得スキル:可能性の顕現(この世界のいかなるスキルも如何なるレベルにて作成し適用できる)
‥‥‥
‥‥
‥
「あれ? 破壊神マチュアのスキルが使えなくなっていますが、これって何じゃろ?」
「何々、マチュア様、何かおかしな事あったの?」
「いや、それがさぁ破壊神スキルが使えなくなっていてね、ついでに本体との回線が切断されてしまったのよ‥‥」
取り敢えず落ち着くために、空間収納に手を突っ込んでティーセットを取り出そうとして、空間収納の中が空っぽになっている事に気が付いた。
「あ、あれ? 空間収納も空っぽだよ?」
「そんな筈はありませんのでは? あなたはマチュア様の分身体であり、今はストーム様から新しい神としての肉体を得ています。ですが本体である破壊神マチュア様とは魂がリンクしているので、全て共有している筈ですよね?」
「深淵の書庫起動!! 現時点での私に起こっている出来事を全て精査して」
──ピッピッピッピッ
マチュアの指示で深淵の書庫がフルパワーで精査を開始する。
そして5分後に出た結論は一つ。
『破壊神マチュアサイドとの接続が全て分断。破壊神マチュアがThe・onesの世界から消失した可能性99.2%。現時点での管理神マチュアの能力は破壊神マチュアの能力をそのまま継承、加護を与えた対象についてはそのまま引き継がれております。なお、空間収納は本体依存のため、こちらのマチュア様の中には一つも存在しないと推測』
次々と流れる表示を見て、マチュアはがっくりと頭を下げる。
「まじかぁ‥‥本当についさっきだよ? あっちのマチュアが自立思考型機動要塞・モーガン・ムインファウルで次元潮流を越えて空間収納接続して世界創造を開始して‥‥って、そのタイミングかぁぁぁぁ」
あ、ようやく理解出来た模様。
思考は全てマチュアのままなので、実に理解力が速くて結構。
もっとも、本人にしてみれば緊急事態以外の何物でもない。
「ちょいとあっちと合流してみるわ‥‥転移門オープン、対象座標は私の本体‥‥」
──ピッ‥‥指定できない座標軸です
転移門は完成するが扉は開かない。
「ノォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ。私の装備が、ザンジバルがぁぁぁぁぁぁ」
「あ、こだわるのはそこなのですね」
「そーだよ。別に私がこっちとあっちになったからと言って、私が変わるわけじゃないし。ただ、ザンジバルは私の‥‥んー。ま、いいか。ストームに新しい武器を作って貰うことにしよう」
あっさりと思考を切り替える。
あっちとこっちに分かれたからと言って、私は別に困らない。
むしろ、寂しがりな本体の精神が持つのかどうか、そこが心配ではあるのだが、あっちにはイェリネックもアーカムもいるので、何とかなるでしょといつもの楽観モードに突入するマチュア。
「まあ、マチュアがそれでいいのなら構わないけれど‥‥と、そのstormが来たわよ?」
頭をポリポリと掻きつつ、The・onesの間からstormがやってくる。
そしてマチュアを見た瞬間、stormは顔に掌を当てて天を仰いだ。
「やっちまったかぁ‥‥本体と、いや破壊神マチュアと連絡付けられるか?」
「ん~。神域が違うので念話も転移門も転移も不可能だぁ。しかも空間収納の中身まで全部持っていかれたのでうわぁぁぁぁぁぁ、魔法鎧・イーディアスⅣも持っていかれたぁぁぁぁ、畜生めぇぇぇぇぇ」
「いや、マッチュの本体がやらかしたことなんだから、そこは素直に諦めろよ‥‥装備ぐらいなら作ってやるから。それで、他にまずいとこはないのか?」
「‥‥加護はすべて切り替わっているし、魂もそもそも分体なので同じ、神威波長はstormが調整してくれたので同じだし、スキルも問題ない‥‥つまり」
「何だ。ノープロブレムかよ‥‥じゃあいいわ」
あっさりと呟くstorm。
「いやいや、ちょい待てstorm、あんたの友人でもあるでしょが」
「意識も魂も、同じものがこっちにもあるんだろうが。記憶もそのまま、オリジナルが二人いて一人があっちにいっただけだろうが‥‥本体の真央がいなくなったのは感覚的には寂しいものでもあるが、あんたもマチュアでマッチュで水無瀬真央なんだろ?」
「‥‥ん‥‥そやね、という事で本体と同じ装備をプリーズ」
「はいはい、ちと作ってくるから待っていろや。それと、あっちにいる本体のことはここだけの話な、下界では一切他言無用だからな」
そう告げてから、stormはサムソンへと向かって行く。
そしてマチュアも手をひらひらと振りながら見送っていた。
「さて、そんじゃ戻って来るまで続きやっていますか」
「そうね。私としては貴方が問題ないのなら構わないわよ。統合管理神になっている時点で、破壊神マチュアよりも少し弱いだけの存在だけど、私達よりは強い事に変わりははないのですからね‥‥」
そう説明して、パスティは再び講習を始める事にした。
(でもねstorm様。貴方はこっちとあっちのマチュアをもう区別しているのに気付いているのかしら?)
そんな事を思いつつも、地獄の講習会は続くのであった。
〇 〇 〇 〇 〇
とある日の午後、カナン魔導連邦・なじみ亭
いつものベランダ席で、マチュアはのんびりとティータイム。
目の前にはフェルドアースから遊びに来ていた蒲生と小野寺の二人が座っており、マチュアと歓談をしながら食事を楽しんでいた。
「……小野寺さんよぉ。そろそろマムに軍事関係を頼むのも諦めた方がいいんじゃねえか?」
「いえいえ。既にアメリゴは自国で魔法鎧タイプのプロトバージョンを作っているのですよ? 我が日本国もそろそろ錬金術師の育成に力を入れなくてはならないとは思いませんか? その為には是非ともマムの力添えが必要なのですぞ。魔法省大臣であるこの小野寺、伏してお頼み申し上げたい」
小野寺が防衛相を退任してはや6年。
今の小野寺は魔法省大臣の地位についたものの、相変わらずカナンに出ずっぱりの状態である。
安倍野政権は任期満了により安倍野が退陣、その次の総裁選で蒲生が首相として再任を果たしている。
とはいえフェルドアース・日本とカナンの付き合い方は今までと全く変化はなく、そんな短期間では大きな改革は行われてはいない。
フェルドアース・ゲルマニアは国としては正式に消滅し、エイブラハム・ゲオルグ・ヒトラー・セカンドを大統領とした新しいゲルマニアが誕生していた。
名前もブンデスレプブリークに変更され、ヨーロッパの一国としての道を歩み始めている。
アメリゴやルシアは特に変わることなく、ラグナ・マリア帝国と正式に国交を樹立、魔術の恩恵を受ける事が出来ていた。
カルアドの地には、現在は25の国がドーム都市もしくは領土を与えられ、第二の地球としての文明を広げ始めている。
もっとも、カルアドの地に元々いた神々についてはマチュアから各国に対しての説明があり、地球の神が存在していない為、宗教についてはカルアドに準じたほうが良いという提案も受けている。
中国はグランアークに接続していた転移門を広げる事が出来ないまま今に至るが、カルアドの地をマチュアから正式に譲渡されてからはそれほど大きな騒ぎを起こす事はなくなっていた。
それでも世界は、今だカリス・マレス世界とカルアド、そしてまだ見ぬグランアークの地を求めている。
魔術の恩恵についても、全くわからなかった時代から手さぐりのするレベルになっただけであり、自分達の世界に古くから存在していた魔術についても研究が進んでいる訳ではない。
6年経っても、まだまだ、世界は異世界との国交を必要としていた。
‥‥‥
‥‥
‥
前略。
あっちの私へ。
毎年書いていた手紙もこれで6通目です。
空間収納に放り込んでは、あんたがそれを受け取ってくれる日が来るのを楽しみにしていました。
ここまではテンプレートなので良しということで、今年の近況報告です。
赤城さんがカナン魔導連邦所属の賢者に正式に就任しました。
そしてミアは、私の跡を継いで正式にラグナ・マリア帝国の『白銀の賢者』となりましたよ。
そりゃあもう、ロットを始めとした幻影騎士団は諸手を挙げて大喜びしましたとも。
幻影騎士団も代替わりが始まりまして、初期メンバーは後進育成のために一線を退きました。
まあ、ロットとミアはまだまだ未熟なので、幻影騎士団の正式メンバーとして頑張っていますし、ロットが今は副騎士団長ですよ、あの子も偉くなったものでしょ?
それと先日。
斑目さんが静かに息を引き取りました。
あんたがそっちにいった直後に体調が悪くなっていまして、まあ老化によるものだったのですけれどストームの魔法でも老いだけはどうしようもなかったのですよ。
私は亜神化する? っていつも笑いながら聞いていたんですけれどね。
斑目さんは、人として、幻影騎士団のメンバーとして、静かに息を引き取りましたよ。
もしこの手紙が届いたら、すぐに墓参りに来るように。
ストームとシルヴィーの子供たちも元気ですし、カレンの所も子だくさんに恵まれていますよ。
フィリップさんも寄る年波には勝てないそうで、異世界ギルドのギルドマスターを退任しました。
今はツヴァイがギルドマスターとして頑張っています。
まあ、シスターズは相変わらず元気ですし、そろそろ新メンバーが欲しいって催促までされていますよ。もうこっちには増やすつもりはないっちゅーねん。
異世界大使館は相変わらず。
池田さんと高島が結婚したぐらいが大きな出来事かなと。
今はツヴァイの代わりにドライが事務局出向の形をとっていますけど、あっちの世界は相変わらず大きな変化はないですね。
今となっては第三帝国の侵攻やカーマインの襲撃が夢であったかのようにも思えています。
この6年は、本当に平和でした。
私やストームは歳を取らなくなってしまっているので、これからも世界をのんびりと見ているでしょう。
そして、あんたも私と同じように年を取らないのだから、いつかちゃんと遊びに来るように。
エーリュシオンでは、あんたがいつ戻ってきてもいいように、ちゃんと部屋が用意されています。
いい加減、こっちに顔ぐらい出してくださいな。
たまに、カナンの町の中で十六夜厳也の姿を見たっていう情報があるんだけど、あれあんただろ。
こっちの世界にマチュアとして帰ってこれないのは理解しているんだから、厳也でもいいからこっちに来たら顔ぐらい出せ。
まだまだ話したいことは一杯あるんだから、来年末にまた手紙を書くまでに‥‥顔を出してください。
ではまた。
最愛ではない、大切な私へ。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






