エピローグを語ろう・その14・マチュアの世界
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
──パッピッピッピ
心地よい電子音が鳴り響く自立思考型機動要塞・モーガン・ムインファウルの制御室。
その中央管制モニターの正面では、マチュアとイェリネック、アーカムの3人がじっとモニター上を流れる様々なパラメーターを祈るように眺めている。
世界創造スキルをシステム化し、モーさんの制御室で一括でコントロールする。
魔導を極めたマチュアならではの世界創造であり、その最終段階のデバッグ作業がずっと続いている。
96. 25986514%
これが現時点でのデバック完了数。
ここまでのバグはおよそ1万、それを次々とチェックし修正プログラムを組み込み流す。
この一週間はずっとこの繰り返しであり、そして96%という超えられない壁との戦いであった。
──ピッ
96. 25986515%……
96. 25986516%……
「よっしゃぁぁぁ、きたぁぁぁぁ」
「進んだぞ‼︎」
「ま、まあ、当然よね……良かったわぁ」
数値が動き出し、一同は安堵する。
残りのシークエンスはまだ1万以上、出来るならばその全てが何事もなく終わる事を、じっと祈っていた。
そして翌日早朝。
モニターに映っていた文字を見て、マチュアは拳を天に掲げた。
『full complete』
全て完了。
そして後は目的地にモーさんを移動し、そこでシステムを展開するだけ。
「は、はっはっはっ……モーさん、次元潜航シークエンスから移動シークエンスに移行、次元潮流を下ります……目標到達地点の座標軸セット、神威ジェネレーター出力80%、移動開始‼︎」
「移動開始じゃ」
マチュアの掛け声でイェリネックが操縦桿を弾く。
小気味良い振動が船体全体に響くと、モーさんがゆっくりと前進を開始する。
「アーカム、全次元レーダーを確認しててね。またあの外なる神が来たら面倒だから」
「了解ですわ。まあ、余程の敵でない限りは、モーガンに対して攻撃してくるとは思えませんけどね」
「まあね。最新装備『三連装・神滅の咆哮』が三門、対空連装神滅砲が12門、全自動機動兵器『自立式魔法鎧・鶴翼が28騎。まだまだ足りないけど、これで喧嘩売って負ける相手となると……ストームの所のヴィマーナか異世界大使館上空のナーヴィス・ロンガぐらいだろうなぁ」
「「負けるのかよ(ですか)‼︎」」
イェリネックとアーカム同時ツッコミ。
だが、マチュアの返事には納得してしまう。
「だってさぁ、私があの二つに攻撃出来る訳ないじゃない」
「まあ、そうじゃなぁ。因みにやりあって勝てる可能性は?」
「ガチでやったとしたら五分五分。ヴィマーナにはモーさんに潜入されて白兵戦になった時点で負け。ナーヴィス・ロンガには、神滅の咆哮の打ち合いになるけど、連射性で負け」
マチュアはそういう風にシステムを組んでいる。
仮にもマチュアは破壊神、神威全開で本気でやったらストーム以外には負ける気がしない。
ただ、そんな事になっても大事にはしたくない為、彼方此方で手を抜いてシステムを構築している。
「はぁ。お優しい破壊神じゃのう……」
「私の半分は、優しさで出来ているからね」
「残りの半分は?」
「好奇心かなぁ……と、間もなく指定座標だよ、全員スタンバイよろしく」
正面モニター上に点滅している指定座標。
そこにゆっくりと辿り着くとモーガン・ムインファウルは空間上壁に突き刺さる次元アンカーを全周囲に射出。
船体が次元潮流に流されないように固定すると、船体全体を包むシールドを展開した。
「よし、それじゃあ行くよ、私には創造神なんていう肩書は重すぎるから、私の世界では破壊神として通させてもらう‼︎ 破壊神マチュアの最初の仕事、世界創造システム起動‼︎」
破壊神モード5でのシステム起動。
モーガン・ムインファウルの神威ジェネレーターが超高音の悲鳴を上げつつ、モーガン・ムインファウルの周囲の次元潮流を押し広げるかのようにシールドを広げていく。
その中にマチュアの世界がゆっくりと広がっていくと、突然、次元潮流が消滅して小宇宙が発生した。
その中に、再び次元潮流が再生されると、モーガン・ムインファウルは宇宙空間に浮かんでいた。
「よっしゃ‼︎小宇宙創造終了、シークエンス2に移行。惑星創造システム起動、か〜ら〜の時間加速開始‼︎」
小宇宙にいくつもの星を生み出す。
その中心に向かって、マチュアはいくつものモノリスを放出、星の中心核にモノリスが埋没するように調整すると、ニィッと笑って万歳‼︎
「よっしゃ、後は時間との勝負、イェリネック、アーカム、お疲れ様々ってあれれ?」
満面の笑みで振り返るマチュアだが、そこには椅子に座ったまま口から泡を吹いて気絶しているイェリネックとアーカム、そしてポイポイの姿があった。
「うわぁぁぁ、しまった破壊神モード5には耐えられなかったか……って、なんでポイポイまでここにいるのよ?あんた何処から出てきたのよ?」
慌てて全員を魔法で浮かべると、大急ぎで治療室へと運んでいった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
今月のポイポイの仕事は、マチュアさん当番っぽい。
なので影に潜んで、都度何かあった場合に対応するのが仕事っぽい。
もっとも、マチュアさんに何かあった時点でポイポイよりも先にマチュアさんが対応するので、ポイポイは影の中に『影屋敷』を作って修行していたっぽい。
この前ストームさんから、ポイポイの魂が亜神化しつつあるって教えてもらったけど、元々ポイポイは静御前と旅した時に亜神化の兆候は出ていたらしいっぽい。
でも、そのまま忘れて旅したり、ズブロッカさんやワイルドターキーさんとパーティ組んで遊んでいたから、魂が堕天して亜神化失格になったらしいっぽい。
その後、マチュアさんと会って幻影騎士団に入って色んな事したら、また亜神化の兆候が出ていたっぽい。
ふぅんて無視していたら、マチュアさんの神威に引っ張られて亜神化したっぽいよ。
イェリネックさんが、そう話していたっぽい。
………
……
…
艦内居住区にあるマチュアの家。その応接間で意識が戻ったポイポイが事細かく説明している。
その横では、マチュアにアイアンクローで頭を鷲掴みされているイェリネックが、必死にマチュアの肩をタップしていた。
「いたたた、ギブ、ギブなのじゃ」
「何でそういう事、黙っていたかなぁ。ポイポイの守護神はイェリネック、あんたでしょ?彼女を亜神化するなんて話、私は聞いた事もないわよ?」
「そ、それはそうじゃ、魔人種の加護を与える妾じゃが、ポイポイは亜人で頑張ったし、実質二人の勇者の配下にいたから亜神化しても良いかな〜って」
──ミシッ
マチュアの右手の力が入る。
イェリネックの頭からミシミシと音がするので、そわっと離す。
「お、おう。生身じゃったら死んでおるぞ?」
「死なない死なない。あんた神核頭じゃないでしょ?」
「何処にあっても再生には時間が掛かるわバカモノ。して、どうするのじゃ?ポイポイに計画を知られたぞ?」
そう問われて、マチュアも腕を組んで考える。
「成程。じゃあマチュアさんは、隣の創造神になったっぽいか」
「そういう事よ。なので、あまり無茶なおねだりとかしたらダメだし、他の人にも話したらダメなのフバフッ‼︎」
これまでの経緯をポイポイに説明しているアーカム。
その背後に回り込んでドラゴンスリーパーを極める。
「あんたも何を話しているかぁぁぁぁ」
「うわぁ、アドニアン・アドニスの必殺技、グッドナイト・アイリーン っぽい」
「ちゃうわ、ジ・アンダーテイカーのTCBだから‼︎」
「ど、どっちでもギブですわ‼︎」
マチュアの腕をタップするアーカム。
なのでマチュアはアーカムを解放すると、ポイポイの横に座る。
「さて、ポイポイさんや、選択肢をあげよう」
「ポイポイは任務期間終わったら帰るっぽいよ?」
「あっそ、ならこれでおしまい」
「「えええ‼︎」」」
その切り替えの速さにアーカムもイェリネックも驚いてしまう。
「な、何でそうあっさりと決断できるのじゃ?」
「そうよ、ポイポイも亜神なのでしょう?マチュアと一緒にいるっていう選択肢があるのよ?」
そう二人に問いかけられるが、ポイポイは頭を捻るだけ。
「ポイポイは、仕事だからいるっぽい。次のマチュアさん当番の時には、また来るだけっぽいよ?」
「うわぁ、前からアホな子と思ったけど、ここまで天然とは思わなかったのじゃ」
「マチュアさんが隣の破壊神でも、うちのマチュアさんが管理神でも、ポイポイの幻影騎士団での仕事は御庭番衆統括とマチュアさん付き警備っぽい」
その言葉で、イェリネックは諦め模様。
「そもそも、シルヴィー様に言われているっぽいよ?マチュアさんとストームさんを警備できるのは亜神でないと無理って。なので今までと変わらないっぽい」
「そかそか。ならポイポイさんや、空間開放鍵でここを登録しておいて。それでここに繋がるはずだから」
マチュアが笑いながら説明するので、ポイポイは以前貰った座標登録して転移門を開く鍵を取り出す。
そして神威を込めて登録すると、このモーガン・ムインファウルが新しい登録場所として登録された。
「うわぁ、こんな簡単に話つけるなんて、マチュアも懐が広いというか、何というかのう」
「さっき話したでしょ?私の半分は好奇心で出来ているって」
「それなら、後は私の仕事ですわ。ポイポイさん、ようこそマチュアさんの世界へ。取り敢えずはモーガン・ムインファウルの説明と、ポイポイさんの部屋を用意しましょうね」
「了解っぽい、マチュアさんまたね〜」
アーカムとポイポイが管制室から出て行くのを見届けると、マチュアは椅子に座って笑い始める。
「は、はははぁ.…何だろう、ポイポイさんを見てほっとした自分がいるわ」
「こんな何もない、1から世界を作らないとならない状態ではなぁ。やっぱり寂しかったのじゃろ?」
「まあね。寂しくないなんて言わないよ。ただ、まだ向こうの世界に未練があるんだなぁって……」
そう告げるマチュアだが、イェリネックはやれやれという顔をする。
「何じゃ。あっちの世界にいる管理神マチュアとはマジックジャーとして繋がってあるじゃないか」
「いや。私がこの世界を作った時点で切れたよ。あっちのマチュアは独立稼働しているし、私とは別のマチュアになったみたいだから……」
破壊神として
モーガン・ムインファウルでこの場所にやってきて。
世界創造システムが起動した時、マチュアはマジックジャーとの繋がりが切れたのを感じた。
恐らく、向こうに戻っても、もう再接続する事はないだろう。
そしてマチュアの中にあった唯一の接点、シスターズや暦シリーズとの繋がりも全て切れた。
恐らくは、全て向こうのマチュアが引き継いだのだろう。
空間収納はマチュア本体が持っていたので、今頃向こうが大慌ての部分はあるかもしれないが、新しいマチュアなら、私ならなんとかしてくれる。
「そうか……やはり分割されたか」
「まあ、可能性は十分にあったからね。そして、私は向こうの世界じゃマチュアを名乗る事も出来ないと思うよ。私の魂は破壊神だし、向こうの魂はストームが管理神として昇華してくれたからね……」
「なら、向こうに行く時はどうするのじゃ?」
「そりゃあもう、新しいアバターで、名前もルナティクスで行くよ。良いでしょ?先代ルナティクスさま?」
そう笑いつつ問いかけると、イェリネックが真っ赤になる。
「な、な、ななな、何故その事を知っているのじゃ‼︎」
そう問われたら答えるしかない。
空間収納から、THE・ONESの残した書物の写本を取り出す。
「こちら、先代THE・ONESの残した『世界の書』でございます。これに、THE・ONESとナイアールの行った事、彼らの世界で起こった出来事全てが網羅されております」
「そ、それは……アガスティアの書ではないか‼︎写本じゃと?」
「イェース。このシステムはうちでも使わせてもらいたいから、ストームに頼んで写本を作ったの。ここに書いてあるよ、イェリネックがまだルナティクスだった時代のあんな事やこんな事」
ガバッとマチュアに飛びついて世界の書を取り上げようとするイェリネックだが、マチュアは軽やかに躱すと空間収納に収めた。
「後生じゃ、その部分だけ消しておくれ……」
「はいはい。そこは消しておくよ。私も向こうに行ったらルナティクスを名乗ることもないし。別の名前、別の身体で遊びに行くだけだよ、もう向こうには私の居場所はないからね……」
そう寂しそうに呟くマチュア。
すると、管制室の扉が開く。
──シュパーッ
「マーチューアーさーん。ポイポイお腹減ったっぽい」
「ですって。案内は終わったわよ….…って、何二人で真剣な顔しているの?」
呆れたような声を出すアーカム。
「そうだねぇ。なら、晩ご飯にしますか」
そう告げてから、マチュアは空間収納からディナーセットを取り出すと、楽しそうに食事の準備を始めた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






