エピローグ語るだけ・その13・前略、フェルドアース
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
中国視察から戻って来た翌日。
マチュアはのんびりと昼に異世界大使館にやって来た。
「いよーう、おはようございます!! 私のいなかった一週間、何か変わった事はあった?」
そうのんびりと昼食を取っている赤城や十六夜達に話し掛けながら、三笠の前に記憶のオーブをコン、と置いた。
そのまま卓袱台に座って空間収納から昼食の入ったバスケットを取り出すと、みんなの様子をのんびりと眺めている。
「毎日、小野寺さんと蒲生さんがやって来て大変でしたよ? マムはいつ中国から戻って来るんだ、ずっと中国にいるのではないだろうねって」
「ええ。それはもう必死でしたわよ、特に小野寺さんが。蒲生さんはいつものように付き合わされてやって来た感じでしたから」
「ふー、成程ね。今日はまだ来ていないの?」
「いつもなら午後一ですから、もうすぐ来るのでは? それとマチュアさん、この記憶のオーブの中の情報は事実ですかね‥‥」
弁当箱をしまいつつ、三笠がマチュアに問い掛けるので、マチュアもコクコクと頷く。
すると後ろにあったホワイトボードの右端に書いてあった『交渉不可国』の欄に書かれていた中国の名前をさっと消した。
三笠の受け取ったオーブには欧阳国家主席との話し合いが一通り網羅されている。
魔導兵器関連の部分についてはまだ早いと思ってマチュアは三笠にも公開していない。
「ええ。取り敢えずは一か月後には連絡が来るかと思います。その時にまた話し合いをしましょうという事で決着は付きました。あの国家元首が頭を下げて謝罪して来たので、全て水に流します」
「了解しました、ではそのように手配しておきますので」
「中国視察って、その話をしていたのですか。さすがマチュアさんですね」
「んー、ま、元々は当初の予定通りに異世界公司の除幕式典にゲストで招待されていただけだよ。そのついでに国家主席と話して来ただけ、特におかしな話はしていないよ」
ふむふむと一同納得。
そしてお待たせしましたマチュアが空間収納からお土産を取り出して皆に配布してから、のんびりと食事を再開した。
‥‥‥
‥‥
‥
そしてのんびりとした昼休みも終わり、仕事の時間。
――ドドドドドドドドト
「あ、小野寺さんと蒲生さんですよ」
赤城がそう告げるや否や、事務局の扉が開いて小野寺が顔を出した。
そしてマチュアの顔を見るや否や、ほっとした表情に戻っていく。
「ほっとしました。マム・マチュアが中国から戻って来ないので、何かあったかと思いましたよ」
「だから俺が話したじゃねぇか。マムはちゃんと帰ってくるってな」
「蒲生さんが話しても説得力がないのですよ。ああ、マム・マチュア、中国視察お疲れさまでした」
矢継ぎ早に話をつづけるので、マチュアも立ち上がって応接間に移動して、そこで話をする事にしたのだが。
最初のうちは簡単な世間話から始まり、異世界公司の話にスライド、そしてここからが本番らしい。
「マム・マチュアは‥‥中国製魔導潜水艦を見学できましたか?」
ほら来た。
まあ、特に隠すことはないし、そもそもマチュアが見て来た魔導兵器のほとんどは、『ヨギの話曰く』、地球人ではまったく起動しないらしい。
直接見て来た限りでは、危険なんて代物ではなかったのだが、起動に必要な魔力も戦術術式も何もかも、魔人仕様なので、確実に起動できない。
必要最低限の魔力値が15000、地球人なら平均10としても1500人いないとまともに稼働しない。
テストのときはヨギ一人で全て賄ったので欧阳も満足していたのだが、魔力の高い人材を育成する事こそが今後の課題らしい。
「あー魔導潜水艦ね、見て来たし内部も見せてもらってきたよ」
「そ、それはどんな性能でしたか?」
「ひ・み・つ」
カンラカンラと笑うマチュアと、それに釣られて大笑いする蒲生。
だが小野寺は憮然とした表情である。
「何故、私達には教えて貰えないのですか?」
「教えて貰えると思った時点で駄目だよ。一国の超技術だよ、私がリーク出来る筈ないじゃない。それに他国には教えるなって言われたし」
「い、いや、それは‥‥その情報があれば我々でも対処出来るようになるのではないですか」
そう言われてから、ちらりと蒲生を見る。
ふふんと鼻で笑っているような雰囲気なので、マチュアは端的に一言だけ。
「いや、ありゃ情報手に入れても対処不可能だわ。あそこまで予想上限超えたハイスペックな魔導兵器が稼働したら、世界を席巻できるレベルだね」
「マム・マチュアの魔法鎧でも対処は難しいと?」
「んー。私のと大使館職員騎なら何とか‥‥いや、私のと幻影騎士団騎で何とかってところか。大使館騎じゃちょいとだけ難しいし、アメリゴと日本に譲渡した奴なら100%無理だね」
きっぱりと言い切るマチュアに、小野寺ががっくりと項垂れてしまう。
「そ、それでは日本が危険なのですよ‥‥どうにか協力してもらえませんか?」
「無理だね。カナン魔導連邦及びカリス・マレス世界は、フェルドアースに対して一切の軍事協力は致しません。まあ、後はそちらの諜報で色々と探ってみてくださいな」
「という事だ小野寺さんよ、諦めた方がいいぜ」
「はぁ~、蒲生さんは何でそう、気楽なのですか」
「そりゃあお前、俺は防衛相じゃないからなぁ。マムの意見は大変参考になったよ、ありかとうな」
どうやら蒲生はマチュアの言葉の意味をしっかりと捉えたらしい。
小野寺だけが話を理解していなかったらしく、がっくりと肩を落としてそのまま転移門から永田町へと戻って行った。
そしてその日の夜。
中国国営放送で、最新型魔導潜水艦が公開された。
プロパガンダとして全世界にも見せつけるかのように公開されたそれは、水の抵抗を全て消滅させ、光学迷彩のように船体を透明化させ、そして如何なるレーダーにも捉えられないように船体表面に魔力シールドを展開していた。
スクリューなど存在せず、全て魔力によるオーラ推進システムを採用。
搭載されている兵器は今までの物と大して違いはないが、それを運用する潜水艦自体が未知のテクノロジーとして全世界に恐れられてしまった。
〇 〇 〇 〇 〇
その翌日。
新宿にある防衛庁舎A棟、統合幕僚幹部会議では、中国の最新兵器に対しての警戒が行われる事になった。
あの技術が量産化されたら、それこそ日本は未曽有の危機に直面する。
尖閣など一瞬で占拠され、沖縄ですら怪しい状況になるであろう。
小野寺をはじめとした幹部会議が行われるのだが、相手は未知の兵器、対応策が全くと言ってよいほど見つからない。
「マム・マチュアに協力を要請してはどうですか」
「すでに断られている。地球の事は地球で何とかしろというのがマム・マチュアの見解だ」
「そんな、小野寺さんはそれで引き下がったのですか、何とかしないとこの日本が危機なのですよ!!」
必死に小野寺を問い詰める幹部達だが、ここにきて小野寺も冷静になってしまう。
(でもなぁ‥‥あの日は蒲生さんがずっと笑っていたんだよなぁ‥‥あれって、何か知っているんだよなぁ‥‥マムは他国の機密だから話し出来ないとは言っていたけれど‥‥ひょっとして、まだ何かあるんじゃないか?)
ここに来てようやく小野寺も冷静に考える。
そして中国国営放送で流された映像をもう一度確認して考えてみる。
あれだけのハイパーテクノロジーを、中国の人間が扱えているのか?
むしろ外部協力者がいて当たり前ではないか?
マム・マチュアでさえ、大使館の魔法鎧で何とかって言っていたけれど、それを上回る技術や魔力を持っている人間が、この短期間で育成出来るのか?
様々な視点で小野寺が考え、辿り着いた答えが一つ。
「さて、私の知っている情報では、あれは見せ掛けだけの魔導潜水艦ではないかと推測出来ます」
「いや、小野寺さん、貴方も映像を見たでしょうが」
「あの映像も事実ではないというのですか?」
「いえ、おそらくは事実でしょう。ただし、全てではないかと思われます。今はレーダーなどで中国の監視を続けて、更なる情報を集めるのが先決かと思われます」
そう告げて小野寺は手元の資料を確認する。
そして見れば見るほど、あの日のマチュアの態度に違和感を感じた。
このフェルドアースにあのような未知の技術がやってきたら、マチュアはおそらくは第三帝国の時と同じように何らかの対策をして見せるはず。だが、その様子が全くないという事は、あれは脅威ではないとマム・マチュアは判断したのだろう。
そう考えると肩から荷が下りたかのように楽になった。
「では、今日はこの辺りで、対中国に対しての監視体制は密にしてください」
その一言で話し合いは終わった。
〇 〇 〇 〇 〇
中国国営放送が魔導潜水艦を公開した翌日。
アメリゴやルシアからも、マチュアに対して意見を求める連絡があった。
だが、マチュアはどちらに対しても小野寺に返答したものと同じものを返したのだが、流石は国家の代表。
マチュアの意図をすぐに読み取ったらしく速やかに引いたのである。
「‥‥まあ、大国のリーダーは話が早いわ」
「それで、あの魔導潜水艦ってマチュアさんでも作れるのですか?」
「ん~、ぶっちゃけると、赤城さんでも作れるようになるレベルの簡単な奴だね。でもミアに出来ない、これが判ると簡単」
科学を理解しているかしていないか。
「成程です」
そう告げてから、赤城がメモ用紙にさらさらと魔導潜水艦の概略を書き記してマチュアに手渡す。
普通の潜水艦に付与する魔術の一覧と、それに必要な魔力を全て書き出して手渡したのだが、ほぼマチュアの予測と同じ数字が来たのでウンウンと満足してしまう。
「赤城さん正解。この術式組み込めば、あの魔導潜水艦と同じようなものは作れるね。ただし、魔導ジェネレーターについては触れていないのでそこだけは駄目。あの潜水艦の起動システムは魔導ジェネレーターなのよ」
「うわあ、それはまだ学んでいませんよ‥‥」
「まずはゴーレムを8割マスターしてから。それがマスター出来たら、実は魔導ジェネレーターも簡単に理解できる」
「えーっと、魔導ジェネレーターってゴーレムシステムの一種ですか?」
「はい正解。この柏餅をあげよう」
空間収納から出来たての柏餅を12個取り出して、事務局の全員に配る。
「ついでにお茶にしましょうか。この調子だと、赤城さんが魔導潜水艦を作れるようになる日も近いんじゃないかなぁ」
「へぇ。なら、日本製のを注文したら作ってくれるのか?」
衝立の向こうで三笠を話していた蒲生の耳にも、今の会話が届いていたらしい。
「残念だけどこ・と・わ・り・ます。私は異世界大使館職員であると同時に、ベルナー双王国・女王付き幻影騎士団所属の賢者見習いです」
きっぱりと言い切る赤城に、蒲生もやれやれという表情をみせていた。
「何でぇ、マムよりも手厳しいんじゃないか? 小野寺さんがこの話聞いたら飛んでくるぞ」
「その時は、私は移民局に書類を申請して日本国籍を捨ててもかまいませんよ」
「という事ですので、蒲生さんもこの件はご内密にお願いしますね。その代わり、蒲生さんにもこれ差し上げますから」
そう告げてマチュアは空間収納から魔導スマートフォンを取り出し、蒲生の魂の護符とリンクして手渡した。
「おいおい、これって賄賂にならねぇか?」
「友人に対してプレゼントするのはカナンでは当たり前ですし、どうしてもやばいのでしたらレンタルという事にして構いませんよ。使い勝手を教えて欲しいという事で」
ニイッと笑いつつ告げるマチュアに、蒲生も悪い笑みを浮かべてスマホをポケットにしまい込んだ。
尚後日、蒲生のスマホについて国会でも追及されたらしいが、マチュアが正式に『量産の前のテストデータ回収用として貸与したものである』という書面を手渡してあったので事無きを得た模様。
今回は小野寺さんに合掌‥‥かな。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






