エピローグを語ろう・その10・フェルドアース地区の攻防
グランドカナン、フェルドアース地区。
先日国会で可決した異世界移民法に基づき、この地区の5丁目商店街区画には異世界移民局が設立された。。
この施設にはフェルドアースの移民局員も定期的に駐在する事になっており、何かあった場合の対応が可能なように詰める事になっている。
尤も、移民した時点で日本国民ではないため、そこまで過保護に対応する必要がないのであり、ぶっちゃけると天下り職員の受け入れ施設とも取れる。
因みに管理神マチュアはと言うと、現在は神様研修ナウ状態である。なので、破壊神マチュアがオリジナルとして各方面の仕事を代行する事になった。
自立思考型機動要塞・モーガン・ムインファウルのほうは、今はシステム再構築などで手放しでいい状態。では、マチュアの本当の仕事をしましょうそうしましょうと、やって来ましたグランドカナンでございます。
「なあ棚橋さんや‥‥異世界移民局に転移門作る必要あるんだっけ?」
サウスカナンにある異世界ギルドから、臨時馬車に乗ってやってくる大勢の人々。その光景を、マチュアは棚橋大使と共にのんびりと見ていた。
法案可決後に、異世界移民者は随時手続きを終えて引っ越しを始めている。
といっても、荷物は家電製品は持ち込み禁止だし、植物や動物などのフェルドアースの生物は全て禁止されている。
結果として、簡単な着替えや日用製品程度しか持ち込めない為、引っ越しもそれほど大掛かりではない。
あらかじめ、引っ越し荷物は2m立方のコンテナ一つ分を手荷物以外に持ち込み可能としているので、フェルドアースで用意したコンテナに荷物を詰めておけば、あとで拡張バッグを所持している『異世界引っ越し商会』が届けてくれる算段になっている。
「‥‥いや、いらないんじゃないですかね。引っ越しなら、異世界大使館経由で、異世界引っ越しセンターでしたか? そこに依頼すればよろしいのですよね」
「異世界引っ越し商会ね。移民局の設立と同時に立ち上げられた商会で‥‥まあ、なんというか先見の明がある人というか、そこで請け負ってくれるので問題はないんだけど‥‥」
ぶっちゃけ、異世界引っ越し商会はかなり儲けを出しているらしい。
設立者はミスト連邦に拠点を置くガストガル商会。このカナン魔導連邦にも支店を持っているケリー・ガーランドだが、どこからか流れて来た『異世界移民』の話に食いつき、いち早くマチュアに『引っ越し屋』の商会登録が可能かどうか直接問いかけて来たのである。
この手の商会登録は早いもの勝ち、ケリーはマチュアから許可を貰い異世界移民局から引っ越し業務についての権利を勝ち取ったのである。
「はーっはっはっはっ。これはマチュアさんご機嫌麗しく。わがガストガル商会の引っ越し屋業務はいかがですか? この私、先見の明があるといいますか儲け話には敏感な方でして。この調子で、カナン魔導連邦の引っ越しも全てうちで行わせてもらいますぞ!!」
「あー、それは無理だわぁ」
ケリーの野望を正面から破壊する。
「それは異なことを。このガストガル商会、マチュア陛下から引っ越し業務についての許可を貰ったではありませんか?」
「ガストガル商会の引っ越し業務で許可が出ているのは、フェルドアースとカナン魔導連邦の間だけだよ。ちゃんと許可内容見た?」
――ツツー
ケリーの頬を冷や汗が流れる。
今までラグナ・マリア帝国には引っ越し代行という職種は存在しない。
ケリーが日本に行き来しているうちに独自に調べ、日本にある様々な職種で何か使えそうなものがないかと調査していたのである。
そこで目を付けたのは良いのだが、登録時にマチュアにうまく丸め込まれてしまった模様である。
「‥‥ふぅ。まあ、それならそれで構わないか。うちはこれで儲けさせてもらっているからな‥‥と、それじゃあ
失礼する」
ちょうど引っ越して来た人の下に、馬車を走らせるケリー。
「こっちの世界には、意外と地球にある職種がないのですね」
「結構ないはずだよ。冒険者がある意味、何でも屋っていう立ち回りではあるけれど。ほら、電気ありきの世界にある仕事は意外とないからねぇ‥‥」
「まったくで。それに目を付けたものが得をする、というところですか」
「それこそあれだよ、プロレスやサーカスとかの興行は儲かると思うよ。娯楽が少ない世界だからね。この前完成した娯楽場だって、まだボーリングとビリヤードとダーツしかないからなぁ」
「お祭りの縁日みたいなものを常設するのはありですか? それならこっちの世界でも簡単にできますが」
おっと、棚橋のナイスアイデアがさく裂。
それならばとマチュアも納得すると、すぐさま打ち合わせを始める事にした。
〇 〇 〇 〇 〇
「それで、たった三日でここまで作りますかねぇ‥‥」
グランドカナン・フェルドアース地区8丁目。
そこに作られた『神社』の境内で、ツヴァイが呆れたような声で目の前にいる二人を見ていた。
祭ってあるのは稲荷神、五穀豊穣を願ってマチュアが建てた神社であり、しっかりとウガノミタマを分霊・勧請して祀っている。
宮司はまだ決まっていないが、伊勢神宮にある神社本庁から派遣して貰うように話は通してあるので、到着まではマチュアが代理を務めていた。
「まあね。それでね、ここで縁日やるんだよ。参道に露店を出して、稲荷神社の例大祭をやろうと思ってね‥‥どう?」
「どう? と問われましても‥‥今回は棚橋さんまで巻き込んだのですか。しかし、よく作る気になりましたね」
「フェルドアース地区には日本人が住むからね。せめて故郷の日本の文化を一つぐらいは近くに置いておこうと思ってね。ほら、こっちの世界の神様については教会に行けば礼拝できるだろうけれど、日本人にはこっちの世界の神様についてはなじみがないだろうから」
マチュアなりに、移民してくる人達の心のケアを考えた結果がこれである。
なお、建設中にも引っ越してきた人達が近くを訪れては手を合わせていたので効果は絶大である。
「まあ、そういう理由ならよろしいのではないですか? それと5丁目に建設中のコンビニについては、どこのメーカーに依頼するので?」
「今のところは保留。基本的には、こっちの商店街で賄う予定だけどね‥‥クレームが入ったら対応はするけど」
一応、5丁目には商店街は設置する。
商業区と歓楽街にある地元の店の有志が、支店を作るという名目で商店街に出店してくれている。
既に店舗営業は始まっており、センターカナンの商店街の跡継ぎ息子や婿などが商売の腕を磨くために店を切り盛りしている。
神社を出て、マチュアとツヴァイ、棚橋は商店街をのんびりと歩いていく。
既に日本人が買い物をしている姿などがちらほらと見えているが、あまり積極的に買い物をしている姿は見られない。
店員と話をして、値段を見て離れていくという光景が彼方此方で見えていたので、マチュアも頭を捻りつつ近くの肉屋にやって来たのだが。
「いらっしゃいませ‥‥ってマチュアさん、ここはあなたが来るような店ではありませんよ?」
「まあ、なじみ亭で使う肉とかも仕入れているけれどねぇ‥‥ってうわ、値段高いっ!! センターカナンの5割り増しぐらいじゃないのよ!!」
並べられている肉の値段を見て、マチュアはおもわず突っ込みをいれてしまう。
まさかと思い近くの店の値段なども見て回るが、どこもマチュアの知っている値段よりも3割から5割ぐらいは高くなっていた。
「はぁ。これは買わないわ‥‥何でこんなに高いのよ」
申し訳なさそうにしている肉屋の主人に問いかけると、申し訳なさそうに頭を下げながら。
「いえ、その、フェルドアースの人は金持ちだから、多少高くても買うって親父が……」
「ははぁ。そう言うことか」
「それとですね、新鮮なものを取り扱っていますから、どうしても高くなってしまいます。1日で鮮度が下がってしまいますから」
へぇ?
マチュアの指示で、フェルドアース地区の生鮮食品を取り扱う店には魔導商会が特型魔導冷蔵庫を設置していたはず。
初期投資としてマチュアが設置するように命じたものであり、冷凍冷蔵二つの巨大なストッカーがあったはずであるが。
「……私が置いた魔導冷蔵庫は?」
ヒョイと店内を除くが、小型の古いストッカーしかない。
それも魔晶石に氷の魔法を付与しただけの簡易型。
マチュアが設置依頼した場所には、何もない。
「いやその……お前にはこんな良い魔導具は早すぎるって親父が持って行きまして……」
「ふぅん、成程ねぇ……ツヴァイ、この店の営業許可を取り消して。本店の方もね……さて、ついでだから近くの店、全て視察してあげますか」
ヘナヘナとその場に座り込んで困り果てている肉屋の主人を放置して、マチュアが商店街の視察を開始した。
………
……
…
夕方。
新しく作られたばかりの商店街は、あっという間にシャッター商店街状態。
木戸で店舗が閉鎖され、営業停止の札が貼り付けられていた。
「まあ、ものの見事に商店街がグルになってますなぁ。これはまた、とんでもない事ですよ?」
「はぁ。老舗だからって信用していた私がアホだったわ。ツヴァイ、商業ギルドに連絡して、フェルドアース地区の店舗募集をお願いしてきて……そうそう、あんたら二代目三代目店主の処分は保留。親と縁を切って独自採算でここでやるって言うのなら、新しく応募してきてね」
「「「「は、はいっ‼︎」」」
集まって困り果てていた跡継ぎ店主達にも、希望の光はあげよう。
「それでマチュア様、持っていかれた魔導冷蔵庫は如何するのですか?」
「ん〜。大事にするのと穏便にするのと、どっちが良いと思う?大事にするなら契約違反で騎士団派遣して犯罪者として捕らえるけど?」
「穏便な方で」
やれやれという表情で、ツヴァイが進言する。
尤も、マチュアもそのつもりなのであっさりと。
「コマンド……タイプ・特型魔導冷蔵庫……マスター権限一位のマチュアが命じます……指定ナンバーの回収を」
──ヒャヒャヒャシュシュッ
次々と商店街の一角に特型冷蔵庫が姿を現す。
そして一つずつ確認して設置し直すと、今度は移動できないように魔法でロックする。
中に入っていたものは全て拡張バッグに入れ直すと、それぞれの息子に預けて自宅へと送り返した。
「これで良し。そんじゃ、新しい店舗が決まるまでは、ここを開けるとしますか」
商店街の一角にある大型店舗、そのシャッターを上げて扉を開く。
既に中は完成しており、いつでも営業出来るように仕上げてある。
店の名前は『ディ&ナイト』。
マチュアにとってはご存知のコンビニエンスストア、その2号店である。
「はぁ、マム・マチュアは相変わらず準備の良い事で。こうなる事を予測していたのですか?」
「いやいや棚橋さんや、ここは元々日本のコンビニエンスストアに貸し出す予定の店舗だよ。フランチャイズ契約の関係でカナンでは店舗が建てられないので、そのままお流れしたんだけどね……暫くはうちで何とかするよ」
止む無くマチュアが営業を始めたコンビニエンスストア『ディ&ナイト』。
生鮮食品も何もかも取り扱っている為、商店街に新しい店舗が出来るまでは移民して来た人々を独占してしまっていた。
なお後日、商店街のクソジジイたちが王宮を訪れて頭を下げ、何とか息子達が営業を続けられるようになった事は言うまでもない。
今日はクソジジイ達に、合掌。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






