破壊神の覚醒・その6・ソラリスの後始末と、神の決断と
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さて。
ストームとシルヴィ、そしてカレンの子供も無事に生まれ、神々の祝福が与えられてから一か月後。
ソラリスのラグナ・マリア帝国侵攻作戦はストームとマチュアの手によって無事に武力鎮圧?が完了。
結果として先王は退位、第一皇太子であるロリエンタールが第13代ソラリス王として無事に就任する事で一連の戦争は幕を閉じた。
そしてロリエンタール王の最初の仕事はラグナ・マリア帝国に赴き先王の行ったラグナ・マリア進軍に対しての謝罪と補償、そして囚われの身となっていたウェンリー侯爵及びラグナ・マリア帝国に潜入して作戦遂行のために動いていた男爵やその配下の騎士たちの身柄を受け取るなど、やる事が多過ぎて大変そうである。
「あのバカ親父が。俺があれだけ根回ししてラグナ・マリアには手を出すなと言っていたのにこの体たらく……」
ソラリス新王が時折り親父である先王に対しての恨み節を呟きながらも講和会議は続き、ソラリス連邦とラグナ・マリアは今まで通りの不可侵条約を締結。
その代わり白金貨250万枚という莫大な補償金を25年分割で支払う事を余儀なくされた。
………
……
…
場所は変わってエーリュシオン
創造神の間から『神々の書庫』へとマチュアとストームは向かっていた。
目的は一つ、THE・ONESの遺産である書をマチュアに見せる為。
それを見てもらう事で、今のTHE・ONESの世界に起きている歪みをマチュアにも理解してもらい、決断してもらわなくてはならないから。
「しっかし、ケルビム皇帝もエグいわ。年間白金貨10万枚の支払いはって、どうやって捻出させるかなんだろうなぁ」
「さあな。金額が多すぎてよくわからんな、それって日本円でどれぐらいなんだ?」
ひいふうみぃ、と指折り数えて計算するマチュア。
「白金貨一枚が1000万円だから。年間一兆円?」
「……ぼりまくったなあ。それで支払えるのか?」
「遺跡発掘魔導具を適正価格で下取るってさ。あの大型魔導帆船もそれで引き取ったらしいから、当面はヴァンドール大陸との国交もままならないってロリエンタールが嘆いていたらしいよ」
「そうか。マチュアが留守の間に、ラグナ・マリアでもヴァンドール大陸との国交をどうするかで話し合いがあったんだがな。当事者の一人であるマチュアがいないと話にならなかったんだが、どう思う?」
ほうほう、と詳しい説明を聞くマチュア。
そして多角的に考えてみて、導き出した結論は一つだけ。
「そうさなぁ。取り敢えずはヴァンドール大陸との貿易は、当面は禁止な。少なくとも、あの帝国とまともに交渉できる相手がいないと話になら……ないか」
ヴァンドール大陸皇帝は魔族、それも八魔将の一角であるハワード・フィリツプス・ヴァンドールである。まともな人間では話など出来る筈も無く、交渉さえまともに出来るかどうか不明である。
「そこまでの相手か?」
「メルキオーレやノッブと同じ。なので魔将クラスの相手でないと話にもならん……あ、一人いたわ」
マチュアの知る、ヴァンドールと話のできる相手とはアーカムである。
かつてはヴァンドール皇帝の側近でもあったし、今のアーカムはマチュアの眷属である。それ以外にまともに相手できる奴を探す方が難しいとマチュアは考えた。
「うちの眷属のアーカムなら、まともに交渉出来るけれどねぇ。まだ所属が確定していないから無理だわさ」
「そっか。どの道暫く先だな……と、ほら、これがTHE・ONESの遺書だ」
そんな話をしつつ、ようやく閲覧室までたどり着くと、テーブルの上に置かれている一冊の本をストームは手にとってマチュアに手渡した。
マチュアもそれを魔力分解する事なく、座ってゆっくりと目を通し始めた。
そして最後のページまで目を通したとき、マチュアはようやく全てを理解した。
「そっか。このTHE・ONESの世界、新しく生まれたラグナ・マリア世界も含めて、今が一番バランスが悪いのか」
「そういう事。その一つが、この前俺達の戦った異形の神の存在だ。ぶっちゃけると、今、俺達の能力は半減している」
天地創造を行って失った力の部分を除いても、破壊神マチュアの存在は負であり、創造神ストームの存在は正である。
お互いにお互いの能力を潰している。
そこを外世界から流れて来る異形の神が目を付けたのである。
そもそも、この世界の存在自体が異質であった。
負である破壊神ナイアールは流れてくる異形の神を取り込み続けて強くなり、更なる負を生み出していた。
結果として八つの神核に分解されて力を弱めたものの、THE・ONESでも膨大に膨れていくナイアールを止める事は出来なかった。
やがて狂気に染まった破壊神ナイアールが暴走したのを、マチュア達がどうにか止めたのである。
だが、同時に力を失ったTHE・ONESがストームに全てを委ねた時点で、このTHE・ONESの世界はようやく正常な状態に戻り始めた。
唯一の特異点である『破壊神マチュア』の存在以外は。
「つまり、私かあんたが、この世界から出ていけば良いと?」
「ぶっちゃけるとそうなるが、そうなるとまた別の歪みが生まれる。それをクリアしない限りは、歪みは大きくなり、また新しい歪みを生み出す。なので、他の方法を考えたい」
ストーム曰く。
このTHE・ONES世界でのマチュアの存在が、予定外に大きくなり過ぎてしまっているらしい。
カリス・マレスでは、カナン魔導連邦女王にしてラグナ・マリア帝国の白銀の賢者。
カルアドでは、秩序の女神として。
フェルドアースでは、異世界大使館責任者であり
ルーンスペースでも、破壊神の眷属を倒した異世界の勇者として名が売れてしまっている。
ジ・アースでこそ今はもう一人のマチュアが存在するが、あの世界に与えた影響は計り知れない。
そんな存在であるマチュアが、このTHE・ONESの世界を離れる事こそ‥‥新たなる歪みを生み出しかねず危険であるとストームは判断していた。
何よりも、マチュア‥‥水無瀬真央は三三矢善にとって親友であり、今この状態で彼をこの世界から追い出すという選択肢を考えたくはなかった。
「……んで、どーするよ? どうせあんたがこの世界から出ていくって言ったら、私がこっそりと善にばれないように出ていく事ぐらいまでは予想しているんだろう?」
「それぐらいは読んでいるさ。それでも、真央が出ていくっていう結論を出したとしても俺が色々と手を考えることぐらいは想像しているだろう? なので結論は一つだ」
さすがは哲学する獅子の異名を持つボディビルダー。
裏技のオンパレードのマチュア程ではないが、手は考えているらしい。
「簡単だ。お前、分身しろ」
「オッケー。それでは忍法影分身の術・発動!! って、できるかぁぁぁ!!」
激しく突っ込んだものの、ふと冷静になって考える。
「まあ、そうだよなぁ」
「いや、できるわ」
「‥‥出来るのかよ?」
「まあ、私の能力をコピーして、スキルオーブと魂のオーブとして対象者に譲渡する。譲渡相手は私の魂の分身体。残念だけどカルアドの秩序の女神だけは代役を立てないとならないけど」
そう説明を始める。
昔のマチュアでは不可能だが、今のマチュアなら可能な技。
それが『マチュア・マジックジャー』の作成と『並列思考』によるもう一人の自分を作り出すという手段である。
それも、この場合作成するのはマチュアの細胞から新しく作り出す完全なクローンでありアーカムの姉妹にあたる存在。
それにマチュアの記憶や全てを移す、後は並列思考で生活していれば、このTHE・ONESの世界にマチュアが居なくても、マチュアは存在出来る。
そして、破壊神マチュアが別の世界に旅立てば、この世界には破壊神としての力を持つ『破壊神マチュアの神核』は存在しないので、この世界にとっての法則性は元に戻っていく。
ただし、マチュア・マジックジャーに新しい権限を与えたとしても、せいぜいが管理神クラスの力であり、表向きは今までのマチュアと何ら変わりはない。
もっとも、それが必要なのはカナン魔導連邦とカルアドだけ。
カナン魔導連邦に居れば異世界大使館もクリアーするし、今更ルーンスペースに干渉する必要もない。
「……って事でどう?」
淡々と説明するマチュアに、ストームも頷く。
後ははカルアドの秩序の女神の問題だが、それはストームの一言であっさりとクリアーした。
「カルアドの件は、ジ・アースのマチュアに任せる事にする」
「……はぁ?」
「はぁ? じゃねーよ。ジ・アースのマチュアの魂は、そもそもTHE・ONESの力でマチュアと同等に引き上げられているんだよ。ほら、この本の258ページ12行目、あっちの水無瀬真央の魂に刻まれた『三つの世界を救え』、ここに繋がるんだが」
The・onesが水瀬真央に託したのは三つの世界を救うこと。
ここで問題なのは、水無瀬真央の存在。
『三つの世界を旅して、それぞれの世界の神の手助けをしてあげてほしい』
The・onesの言葉。
それはフェルドアースの水無瀬真央に与えられた枷。
そして今現在、彼はジ・アースで三つの大陸を人の手によって解放した。
最後の一つに手は掛かっているが、それは彼でなくても成せるように準備は出来ている。
これで、彼に託された一つ目の世界の手助けは終わったのである。
では、次に彼が手を貸さなくてはならないはものは何か?
「ははぁ。それで二つ目であるカルアドの再生を手伝ってもらうと」
「そういうことだ。ここに書いてあるだろう? 『新しい秩序の女神マチュアの力で‥‥』と、つまり、The・onesの見立てでは、真央がこっちの世界から出ていくのは必然なんだよ。その上で、もう一人の真央がマチュアを継ぐ所まで、全てここに記してあるだろう?」
立つ鳥跡を濁さずではないが、The・onesの残した書には、フェルドアース・水瀬真央の次の仕事について記されていた。
それが偶然なのかどうかはわからないが、ルーンスペース・真央にとっては渡りに船である。
後はマチュア・マジックジャーをこっそりと作り出して全てを引き継がせ、ジ・アースのマチュアをここに呼び出してからカルアドで神威継承を行う。
それでお膳立ては大体おしまい。
そしてそれが終わる時が、マチュアがストームと、真央が善との別れの時である。
「さて。そんじゃあとっとと始めますか。マッチュはマジックジャーを作成して引継ぎを頼む。どれぐらいかかる?」
「そうさなぁ‥‥素体とデータの引継ぎで、大体一週間って所か」
「そうか、なら少し余裕をもって‥‥一か月って所だな」
そんなに必要ないのだが、善としても真央と別れるのはつらい。
なら、ぎりぎりまで一緒に、真央自身にもこの世界でのんびりと過ごしてもらいたいと考えた。
その気持ちは真央にも十分に伝わっている。
「じゃ、残り二か月の時間、大切に使わせてもらうか」
「‥‥ずいぶんと伸ばしたなぁ‥‥」
「まあな。じゃ、自分の部屋でマジックジャー作ってくるわ、ジ・アースのほう頼むな」
――ガシッ!!
お互いの右拳を鳴り合わせて、マチュアはのんびりと部屋から出て行った。
そしてストームもそれを見届けてから、ジ・アースの白亜の世界へと転移した。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






