破壊神の覚醒・その3・一難去ったのでもう一難行ってみようかぁ
クイーンから記憶のオーブを受け取ったマチュアたち三人。
すぐに取り込んで、マチュアの留守の間の出来事を理解したのだが、マチュアだけはニィツと笑っていた。
「そうかそうか。もう一仕事あったか‥‥」
「あ‥‥ポイポイも行くっポイ」
「私はパスするわよ。何でそんな面倒な事をしなくちゃならないのよ」
いつもマチュアと一緒にいたいポイポイは同行し、逆に一人でのんびりとしたいアーカムは面倒事には巻き込まれたくないという事で、絶対に行きたくはなかった。
なので、マチュアの取った方法は一つだけ。
「行くのは私一人。ポイポイはウォルフラムの下に戻り状況を説明、彼の指示あるまで通常任務とします。アーカムは‥‥私の代わりにここにいなさい、クィーン。一時的だけどアーカムにカナンの執務官権限を与えてください」
「り、了解っぽい‥‥」
「あら、取り敢えずはここで雇ってくれるのね」
「そ。という事で私はストームと合流する。奴が飛び出したのが昨日なら、今日中には追いつけるわ‥‥そんじゃ後はよろしく哀愁!!」
チャッと右手でvの字を作って告げると、マチュアはニイッと笑いつつ天井を見上げた。
GPSコマンドでストームの魔法鎧の座標は確認できる。なら飛べない道理はない。
「まあ、そんなに面倒な事はないから、チャッチャッと終わらせてくるわ」
――シュンッ
一瞬で王都城壁外に転移すると、マチュアは足元から魔法鎧を召喚して乗り込む。
「さて、それじゃあ行きますか。一人よりも二人がいいさ、二人よりも三人がいいってか」
笑いつつ魔法鎧を起動すると、マチュアは一瞬でストームのいる座標へと転移していった。
〇 〇 〇 〇 〇
創成の世界。
この世界には、いくつもの創造神が存在し、それぞれが一つの世界を管理している。
創成の世界を誰が作ったのか、それは定かではない。
ただ、古くから創造神たちに伝えられている口伝では『始祖たる神カルリマコス』が創成の世界を作り出し、そこに創造神達を作り出したのである。
そしてそれぞれの創造神は自分に与えられた空間に自分たちの世界を作り出し、さらにカルリマコスを真似て自分達で小さな世界を作り出し、そこを管理する管理神を作り出したという。
このカルリマコスの作り出した創成世界は決して破れることのない壁で区切られているが、いらないゴミを廃棄するために各世界には小さな川がつなげられていた。
これが次元潮流であり、やがてそれぞれの神はその流れをつかって 他の創造神の世界に行くすべがある事を知ったのである。
だが、例え創造神と言えども、その川を遡る事は不可能に近く、ただ流れに身を任せて行くしかなかった。
それぞれの世界は大きく進化し、ある世界では永遠とも言える世界を作り出し、また別の世界では幾度となく作り直しが繰り返され、やがて作るのが面倒になって廃棄されてしまった世界もある。
そんな廃棄された世界から捨てられた失敗作と呼ばれる管理神たちは、次元潮流の中で他に捨てられた廃棄物を吸収して進化を開始した。
いつの日か、どこか創造神が弱っている世界にたどり着いた時、その世界を自分達の世界にしてしまおうと。
そんなよからぬ神々は廃棄神、あるいは混沌神とよばれ、それぞれの創造神の世界でも警戒されていた。
マチュアとストームのいた世界は偶然であるが創造神が二人いた。
The・onesとナイアール。
二人の神は自分たちの役割をしっかりと区分し、世界を創造していたが、破壊神ナイアールは流れ着いた廃棄神の力を取り込んで強くなり、そして野望を持つに至った。
ナイアールは世界を破壊するべく動き始め、The・onesはそれを止めるべく動き始める。
結果、二つの創造神がこの世界では戦闘を始めてしまったが、破壊神はその力を8つに分割されて封じられてしまった。
そしてそれを取り戻すべく、ナイアールはさらに流れて来た廃棄神を取り込み力を蓄え、再度The・onesに戦闘を仕掛けたのである。
いつまでも続く、二つの神の戦い。
そんな戦争に終止符は打たれた。
破壊神ナイアールの眷属たちが創造神The・onesの眷属に打ち破られ、創造神The・onesの眷属が封じられていた破壊神の神核を奪い取っていったのである。
そしてナイアール自身も力を奪われ消滅したのであるが、The・onesも同じく力を失ってしまっていた。
結果としてThe・onesはその最後の力をストームに与えて彼を創造神に神格化し、その背後ではマチュアが取り込んだ破壊神の神核によって破壊神へと昇華してしまったのである。
そして、ある魔導師が施した強大な禁呪により、マチュアたちの住む星に隕石が高速で飛来していた。
その魔術師は知らない。
自身が呼び出した隕石が、実はただの隕石ではなかったという事を。
むしろ、隕石の方がよかった‥‥そう思いたくなるようなとんでもない存在が、まもなくカリスマレス世界に来訪しようとしていた。
〇 〇 〇 〇 〇
真っ暗な宇宙。
時折瞬く星々を眺めつつ、ストームと十四郎はターゲットである隕石に向かって進んでいた。
「‥‥まだ見えないか。後二日しかないから急いだ方がいいんだがなぁ」
魔法鎧の中でモニタを確認しつつ、目標である巨大隕石を探しているストーム。その背後では、アンカーによってけん引している十四郎の魔法鎧もあった。
「あの、ストーム殿、拙者の意見であるがよいであるか?」
「構わないぞ」
「星を出たときにあと四日。一日進んだから後三日ではござらんよ? 相対的に進行しているのであれば、実質後一日で辿り着く筈でござるが」
‥‥‥
‥‥
‥
「まあ、その通りだ」
「今の間合いはなんでござるか?」
「いや、すまん失念していた。というか、まったく反応がなくなっているのはどういう事だ?」
「そこが問題でござるなぁ。こういう時にマチュア殿がいてくれたら、簡単に解決するのでござるが」
「まあな。ここ一番の時には助かっているからなぁ‥‥」
「そっか。なら今から確認してみるわ。深淵の書庫起動っと」
いつの間にか真横に転移してきたマチュアは、すぐさま機体全体を包むような深淵の書庫を起動すると、グランドセンサーで周辺に存在する全ての存在をサーチし始めた。
「‥‥お前、いつの間に帰って来た? あっちは終わったのか?」
「ん? 終わったよ。そんで報告受けたんでここにいますが何か」
「そっか‥‥‥」
コクピットの中までは見えないと安心したストームが、安堵の表情を見せる。
それと同時に、この後でマチュアととんでもない話をしないとならない事を思い出すと、突然胃が痛くなって来る。
キリキリと胃が痛むのだが、こればっかりは魔術でもどうにも出来ない。
「お、ターゲット発見したけれど‥‥なあストームさんや、私たちの敵は隕石だよね?」
「ああ、座標と映像を送ってくれ」
「そやね。まあ見て頂戴よ」
――ピピピッ
マチュアの解析した映像と座標をストームと十四郎の機体にも転送する。
そこには、巨大な隕石に擬態した異形の生命体の姿があった。
アメーバーのような無機質体に百以上の目、繊維状の鋭利な棘を生やした全長100m程の物体。
それが超音速どころかとんでもない速さで飛んで来るのが見えた。
「んー。隕石はどこ行った?」
「あいつの後ろにあってね、ヤドカリみたいに背負っているね、そんで‥‥あれ、異世界の神なんだけど勝てる自信ある?」
パン、と思わず額を平手でたたいてしまうストーム。
そんな突然な情報を与えられても、ストームにはすぐに判断はつかない。
だが、やることは一つだけ。
「やらないという選択肢はないなぁ。あっちが一体の神なら、こっちは二人の神と眷属神が一人だ。負けるという選択肢もない」
「という事で話はついたか‥‥ならストームや」
――ガシッ
マチュアのイーディアスⅣがストームの長船の肩に触れる。
その瞬間に、ストームの体内にあった破壊神の神核すべてがマチュアの下に移動していった。
だが、それは必然であり必要な事、The・onesからも話を聞いているので抵抗する素振りも何もない。
そして神核を受けたマチュアの外見は真ルナティクスの姿へと進化した。
「はぁ。ま、破壊神マチュアとしての責務を果たしてくれよ。余波が後ろに行かないように神域結界は張っておくから」
――ブゥン
長船の左腕に実体化した力の楯が、その右手にはカリバーンが握られていた。
そして素早く神威を力の楯に注いで前方に向けると、巨大な結界を展開した。
「さんきゅー。という事で、あんたの相手はこの私だぁ!!」
――ブゥン
マチュアの咆哮と同時にイーディアスⅣの前方に1000もの魔法陣が展開する。
そこから無数の炎の槍が生み出されると、全てが異形の神へと飛んでいく。
――チュドドドドドドドドドドドドドドト
隙間なく飛来する炎の槍に、異形の神も一瞬だけひるんだがすぐに前方に結界を展開した。
だが、その瞬間にマチュアももう一つの術式を展開する。
――ブゥン!!
すべての炎の槍が光り輝き、異形の神の展開した結界を『中和』して貫くと、粘液状の体に次々と突き刺さっていく。
目にも棘にも突き刺さり燃やしていくと、異形の神の全身が震えだした。
そして目に見えない速度で体表面の棘を次々と射出すると、鞭のように振り回してイーディアスⅣを攻撃していく。
その程度の攻撃など全て躱せばよいと、イーディアスⅣの背部スラスターと全身の姿勢制御スラスターに魔力を集めて一気に噴射すると、飛び交う棘を次々と躱していく。
だが、それが全て囮であり異形の神の体にばっかりと巨大な口が開くと、そこから神威を纏ったレーザーブレスが打ち出された。
――グウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
一直線に伸びたレーザーブレスはマチュアの横をかすめて真っ直ぐにカリスマレスへと飛んでいく。
「‥‥甘いよなぁ」
――ガシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ
レーザーブレスの直線上にストームの長船が移動すると、力の楯でそれを受け止め、弾き飛ばしていく。
その光景に対して、異形の神は大量の目をしばしばと動かして驚いているようだが、マチュアは涼しげな顔で笑っていた。
「相手が悪いよ。私はストームに対してダメージを与える事なんてできないんだから。それだけストームの防御は鉄壁でね‥‥それに」
――ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
魔法鎧・備前長船の背部スラスターが真っ青な精霊力を噴き出して前進する。
それと同時にイーディアスⅣは急速後退すると、両手に魔力を纏わせた。
「攻撃に転じたストームを誰が止められるんですかってぇの!!」
「その通りだ、誰も俺を‥‥いや、結構止められるぞ!!」
そう叫びつつカリバーンを構えると、備前長船は異形の神の体表面に近寄っていって、力いっぱい剣を振り落とした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






