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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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微睡みの中で・その39・国境都市ラソーラで、パーティーに出てみた

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

「パーティーに出てみませんか?」


 いつものように納品でディラン商会を訪れたマチュア。

 カウンターで納品作業を終えて代金を受け取って帰ろうとしたのだが、商会長のキアヌが用事があるとかでその部屋へと向かった。

 そして椅子に座ったマチュアに対しての、キアヌの第一声がこれであった。

 何事かと身構えていた所に予想外にぬるい話が飛び出してくると、マチュアの思考も一瞬でフリーズしてしまう。


「パ、パーティ? どこで何のパーティーがあるのよ」

「年に一度行われる園遊会がありましてね。王家主催でさまざまな貴族や商人、冒険者達などから招待された者のみが参加出来るのですが、今年も大勢の招待客が集まるようなんですよ。そしてうちにマチュアさん宛の招待状が届きましてね、どうにか参加して欲しいって‥‥」

「フリーランスの冒険者が参加していいものなの?」

「いや、カナン商会製シルクドレスシリーズの製作者として、らしいですよ。もっともそれを知っているのは王室執務官と王家のみのようですけど」

「‥‥まさか、私を売った?」


 ジト目でキアヌを睨むのだが、キアヌ自身は笑っていた。


「まさか。私と同じレベルの鑑定眼を所有者している商人はかなり少ないですけれど、王室執務官の一人に『神眼』という鑑定眼の希少上位スキルを持っている人がいるのですよ。その人がマチュアさんの正体を確定してしまったらしくてね」

「大公家って所だけじゃなく? シルク製作者っていう所まで?」

「いやいや、マチュア・フォン・ミナセ大公家がカナン商会の責任者だという所、マチュアさんが偽名を使ってここにいるっていう所までしっかりと見切られてしまっていたんですよ」


 まあ、遅かれ早かれいつかバレる。それが今来たという所である。

 そしてキアヌが机からマチュアあての招待状を取り出して来たので、その場で開封して内容を確認してみる。


「ふぅん。大公家ではなくカナン商会関係者としての参加かねぇ‥‥それならいいか。どうせ私が卸しているっていう事は結構知れ渡っているし、この際堂々と出てあげてもいいか」

「そういう事です。今更マチュアさんがシルクドレス製作者だってばれたところで、納品と販売がうちで行っているっていう事は周知の事実ですからね」

「まあ、そうだよなぁ‥‥って、いつもよりも多めの注文って、そういう事なの?」

「はい。貴族家の奥方や子女からのドレスの注文が多いのですが、素材の生地が間に合わなくてですね。ちなみにマチュアさんも当日はドレスですか?」

「いや、スーツで行きますよ。私はドレスは好きではないから」


 あんなヒラヒラしたものを着ていたら、何かあった場合に対処出来なくなる。

 それよりも、マチュアの中に残っている水無瀬真央としての記憶が、女性用の服に対しての拒絶反応を示していた。

 上着や下着はまあ仕方ないとしても、どうしてもスカートとワンピースだけは着たくはない。ここが最後の砦なのである。


「そうでしたか。では、当日のマチュアさんの姿を楽しみにするとしましょう。足元を見られてもあれですので、出来る限りの正装でお願いします」

「あー。そうね。そうさせてもらうわ。じゃあ疲れたから、もう帰るね‥‥」

「いえいえ、長く掛かってしまい申し訳ありませんでした」


 そのままキアヌに建物の入口まで付き合ってもらうと、マチュアはそのまま一路帰宅する事にした。



‥‥‥

‥‥


 

 翌日からも、マチュアはのんびりとシルク製作。

 と思ったが資材である繭が切れてしまったので、いったんワームの巣まで転移して繭を回収する事にした。

 危険を考慮して暗黒騎士装備に身を固めると、寄り道せずにワームの巣に飛んでいく。

 そして新しく捨てられていた繭をいくつか回収すると、ふとのんびりと壁の鉱石を食べているワームを見てひらめいた。


「オリハルコンって、食べさせたら糸にしてくれるかなぁ?」


 そもそもオリハルコンは鉱石ではなく魔法合金であるため、ワームが食べるかどうか心配であったが、やってみてから考えようと空間収納チェストからオリハルコンのインゴットを取り出して、モクモクと鉱石を食べているワームの近くに持ってく。


――ヒクヒク

 すると、オリハルコンに気が付いたワームが顔先の部分をヒクヒクと動かし、マチュアの下にと通っていく。そして触手を伸ばしてオリハルコンをコンコンと叩いてから、ゆっくりと口元に運んで行ってモクモクと食べ始めた。


「お、食べるのか。一本でどれぐらいの糸を吐き出してくれるかなぁ‥‥また明日にでも来てみますか」


 その日はそれでおしまい、自宅に戻って製糸作業を行ってから、のんびりと晩酌して眠りにつく。

 そして翌日の午後に再びワームの巣に転移すると、マチュアは見た事もない繭があるのに気が付いた。


 虹色に輝く綺麗な繭。

 その中から、昨日オリハルコンを食べていたワームがひょこっと顔を出すと、マチュアの下に近寄ってキュイキュイと鳴いていた。


「ほうほう、どうやらオリハルコンが気に入ったようだねぇ‥‥なら、あげよう」


 昨日のように空間収納チェストからオリハルコンを取り出して差し出すと、嬉しそうにモクモクと食べている。そしてその姿に気が付いた他のワームもやってくると、マチュアにねだるようにキュイキュイと鳴いているので、再び空間収納チェストからオリハルコンを取り出して差し出す。

 

「あまり数はないから、これは今日でおしまいだからね。まあ明日も繭をもらいに来るからね」


 そのまま帰宅して虹色の繭の製糸作業。翌日も繭を回収して製糸すると、マチュアはオリハルコン糸を使ってローブを一着と武闘着を一着仕上げた。

 それでも反物としては二反残っているので、それは空間収納チェストに放り込んであとはシルクでドレスとスーツの製作に没頭する事にした。



 〇 〇 〇 〇 〇

 

  

 パーティー当日。

 マチュアは自慢のゴーレム馬車を用意すると、ダンに御者を任せて王城へと向かっていった。

 ゴーレムホースの外見も普通の馬と同じく見えるように加工してあるため、一見した程度ではゴーレムとは気づかれない。

 途中、キアヌの屋敷の前で彼を乗せてから王城に向かうが、馬車のあまりにもよい乗り心地にキアヌから納品して欲しいという注文を受けてしまった。


「‥‥いゃあ、これは実にいい馬車です。どうですか? この馬車も登録してしまいませんか?」

「それは別に構わないけれど、私はこいつを量産する気はないからね」

「いえいえ、盗難防止としてですよ。登録した時点で、この馬車を盗んで複製するという事は出来なくなりますし、馬車を持っているのがマチュアさんと私だけとなりますと、おいそれと盗んで使う事も出来なくなります。すぐに発見されて捕まってしまいますから」

「はぁ、そういう目的で登録するのもありなのかぁ‥‥なら、近いうちに私の作ったものを纏めて持っていくから、全て登録しに行きますか」


 そんな話で盛り上がりつつ、馬車はやがて王城へと到着する。

 そのまま中庭にある庭園手前まで案内されると、馬車はそこで預けることになり、後はのんびりと庭園の中にある立食パーティー会場へと案内された。

 まあ、その案内もキアヌは主賓扱いで案内されるのだが、マチュアはその後ろをのんびりとついて行く。

 やがて中庭まで辿り着くと、既にかなりの来賓客が集まって歓談をしていた。 


「さて、それじゃあ着替えますかねぇ」


 マチュアもそう呟きつつ腕に装備している『換装の腕輪』を起動する。


――シュンッ

 外出用のチュニックスタイルから一瞬で『白銀の賢者』装備に換装する。

 外も中も、先日作り出したオリハルコンシルク製の装備、しっかりとネックレスや指輪も装備している。

 その姿には、その場にいた貴族たちも一瞬目を奪われてしまうが、そんなものは全て無視してキアヌの後ろをのんびりとついて行く。


「そんで、これからどこに向かうの?」

「あそこが王室用の席でしてね。そこに国王がいるのでご挨拶に向かうだけですよ」

「あ、成程ねぇ‥‥逃げていい?」

「招待状を受けている以上は、ちゃんと挨拶はされた方がいいですからね」


 やれやれ。

 面倒だが礼には礼を尽くすか。

 キアヌとともに国王の前に跪くと、まずはキアヌが挨拶をしている。

 そののちマチュアも顔を上げて。


「初めまして。国王様に於かれましてはご機嫌麗しく」

「うむ‥‥いや、そのような堅苦しい挨拶は抜きにしてもらえると助かる。キアヌよ、今日は楽しんでいってくれ‥‥」


 その言葉で、国王が席を外してほしいという意図をキアヌはくみ取り、すぐに後ろに下がっていく。

 そして国王はマチュアのほうに手を伸ばして、コイコイと手招きした。


「ん? 離れていると都合が悪いのですか?」

「う、うむ。もう少し近寄ってもらえると、遮音結界の魔導具の範囲内に入るのでな」


 あ、そういう事ね、はいはい。

 そのままマチュアは国王に近寄って行くと、周囲を結界が包み込む感覚に気が付いた。


「あ、これで外には聞こえないのね?」

「うむ、ここの話は私とマチュア様にしか聞こえない。立場ゆえ、この場でこのような待遇をしているのは平に謝らせて欲しい、神の眷属殿」


――ブッ

 思わず吹き出すマチュア。


「何でそれ知ってるの?」

「儂の持つこの王冠は、その者の魂の質を鑑定できる。マチュア殿は異世界の創造神の眷属にして秩序の女神である事は重々承知している。最初はイスフィリアの大公がお忍びで遊びに来ていると聞き、その次は噂のカナン商会のシルク職人としてやってきたと伺っての。もし可能なら、王室にもシルクを献上して欲しいと考えてこの場を用意したのだが、そこで入口から入ってくるマチュア殿の魂を見てしまったという訳じゃよ」

「あ、今日初めて理解したのか。ならいいわ、私がこの国にいる限りは、イスフィリア大公家でありカナン魔導商会筆頭である事は全て外には出さないでね。あくまでもカナン商会のシルク職人のマチュアさんですので」


 その言葉で国王の顔色もよくなり、どことなくほっとした表情になっていた。

 なので、マチュアも空間収納チェストからアダマンタイトとミスリルの反物を取り出すと、ハサミと針もセットで木製のトレーに乗せると、それを国王の前に差し出した。


「ええっと‥‥国王って名前なんといいますか?」

「‥‥儂の名前も知らなかったとは‥‥悲しいな。私はウルク・ラル・パヤーオである」

「ではウルク王にこれを。まだ出回っている数はほとんどない新作のシルクです。こちらを献上品として差し上げますので、何卒よしなに」


 外からは声は聞こえないものの、マチュアの取り出した二つの反物は太陽光を浴びてキラキラと輝いている。

 その美しさに他の貴族の婦人たちも色めき立ってしまうが、今はマチュアと国王が近距離で話している故、近寄って話をする事も出来ない。

 そもそもマチュアの服装自体がこの国にはほとんど見られないものであり、興味の的の一つになっているのは確実である。


「では私はこれで。王城からの招集には私は一切従う気はありませんので、それだけは念頭に入れておいてください」

「そうか。では、なにか用事があったら直接出向くことにするとしよう」

「それも駄目ですよ。そうですね‥‥使いの者を送ってくれる程度でお願いします」

「うむ。では、この話はこれで終わりということで。この布はありがたくいただくとしよう。それと‥‥シルク製品については、王室御用達としたいのだが」

「それも駄目。別に欲しければ使いを寄越してください。特別に融通して差し上げますので」

「う、うむ‥‥では下がってよし」


 ウルク王が軽く手を上げたのでマチュアは再度頭を下げて挨拶する。

 そして後ろに下がって近くのテーブルに向かうと、のんびりと食事を楽しむ事にした。


 食事中の女性に話しかけるのはマナー違反である、このルールを逆手にとって、マチュアはのんびりと食事を楽しんだ後、少し早めに会場を後にした。

 

 明日はどんなことがあるのかなぁ。

 楽しい事があるといいなぁ。


 そんな事を考えつつのんびりと帰路に就く。

 そして楽しい明日を夢見て、マチュアはゆっくりと眠りについた。


 そう。

 これはマチュアの体験した事実であり、過去の思い出の世界。

 間もなく、マチュアは目を覚ます‥‥。

 


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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