微睡みの中で・その33・国境都市ラソーラで、隠れチートしてみた
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
とっても広い草地。
それが、マチュアの第一印象。
背後には聳え立つ巨大な城壁
正面には遠くにそびえる繁華街区画と一般区画。
広さにして延べ12000m平米の、子供たちの遊んでいる広い空き地。
そして、敷地中央にひっそりと立っている小さな木。
「いや、まさかとは思うけどなぁ……」
そっと木に近づいて手を当てて神威を注ぐ。
『いや、そのまさかなんじゃが』
「げっ‼︎シャダイのじっちゃんの声ってことは、これ、大樹?」
『うむ。この都市の大樹はとっくに枯れ果ててのう。イスフィリアからどうにかこうにかマナラインを通じてなんとかここまでは来れたのじゃが、ここが限界でなぁ』
さらに説明を聞くと、実にとんでもない事が次々と発覚した。
このラ・パヤーオでは大樹は失われて久しく、今では聖大樹教会の代わりに別の神が祀られているらしい。それも、はるか過去にこの世界に来た勇者が神様として祀られているというから驚きである。
結果としてこのパヤーオでは国境沿いでは魔族の侵攻がたびたび起こっており、その都度軍隊が派遣されては戦乱を収めているという戦争状態にある。
しかも大樹の加護がないために、ダンジョンがあちこちに発生し、定期的にスタンピードも起こり近隣の村や町がダンジョンから溢れ出したモンスターによって襲われているらしい。
『かくかくしかじか……という事じゃよ』
「いゃあ、見事に腐れ切ってますなぁ。そんで、ここから大樹を活性化できるの?」
『この街を起点にして神威を貰えるならの。いきなり王都に向かっても、そこには大樹の影も形もないから無理じゃし』
「逆に、ここでずっと神威注いでパヤーオの各都市に芽吹かせることは可能?」
『それは問題ないのう』
ならば腹を括るしかない。
「よし、ここでのんびりまったり行きますか」
『因みにイスフィリアの方は問題ないぞ、マチュア様から神威を注いでもらっておるからのう』
「それは良かった。じゃあ適当にやっておくから」
そこでシャダイの意識が切断された。
なら、あとはのんびりとやるだけ。
王都なんぞに向かって下手に目をつけられるよりは、ここでのんびりと楽しみながら過ごした方が良い。
「さて、まずは家から建てるとしますか……」
ゴソゴソと空間収納に手を突っ込んで探し物を始める。
今の今までずーっと忘れていたアイテム。
マチュアのオンラインゲームでの装備や持ち物が全て納められている空間収納ならば、あれもあるはず。
マチュアが初めてやったオンラインゲームにはハウジング機能があった。
まずは獲物を狩った素材を売ったり、そこから様々なアイテムを生産スキルで作ったりして稼いだ金で買ったもの。
『住宅権利証紙』
建築コマンドにより、指定座標に一瞬で建物が生み出される夢のようなアイテムである。
しかも一度建てた家ならば、住宅にある解体コマンドを使って証紙に戻すこともできる。
最初は小さな家、そこから二階建てテラス付きに買い換えたり石造りの巨大な塔を建てたりと、マチュアの空間収納にはゲーム内で集めたさまざまな権利証紙が納められていた。
それを今まで、こっちの世界に来て10年以上も忘れていたのであるから大したものである。
「お、あったあった……どれにしようかな……と」
ごそっと取り出した証紙を広げて、腕を組んで考える。
当面の問題としては、生産用のスペースと居住区があれば良い。
「ならば、城は無しだな。石造りの塔も小さいから無理だから……と、やっぱりこれだよなぁ」
いくつかの候補から決定したのは『二階建ての別荘』という証紙。
マチュアがお気に入りで、一番長く使っていた建物である。
それを土地の適当な場所に持っていくと、証紙の建築コマンドを開放する。
──シュゥゥゥゥッ
証紙が輝き、一瞬で別荘が完成した。
元々ゲームの中の建物ゆえ、大きさは30m×30mの木造と石造りの複合型ログハウスのような作りとなっている。1階は4LDK、2階はまるまる一部屋、そして庭の部分がとにかく広い。
建物の基礎以外が全て庭と考えるなら、広大すぎる敷地がマチュアの個人資産となっていた。
「よしよし、これで建築は完了と。後は権限の設定か……」
玄関を開けて中に入ると、すぐさま管理コマンドを開く。
これによって出入り可能な人物の設定なども簡単に行う事が出来る。
「基本的には私とその魂の反応があるもの。後、ストーム達、まあ、今の所はこれでいいか」
パッピッポッと管理コマンド画面に入力を済ませると、室内をガラリと見渡す。
「何もない。けど……チェスト起動」
──ブゥン
これまた管理コマンドにある『家具置き場』のコマンドを始動。
その中にはハウジングに必要な、マチュアの持っていた家具の全てが入っている。
「さて……久しぶりのガチハウジングを始めるとしますか」
腕をまくってグルグルと回すと、マチュアはのんびりとハウジングを開始した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日は敷地外周に塀を作る作業。
資材はカナン魔導学院を作った時の残りがいくらでもある、という事で外周全てをブロック塀で覆っていく。
直線距離にするととんでもない長さになるが、のんびりと数日掛けて塀を組み上げると、最後には正門部分に格子状の門扉を設置、その横には人が通れる程度の扉もしっかりと据え付ける。
これで全て完成、あとはガーデニングを適当にして完成であるが、そこは面倒なので業者に任せる事にした。
そんなこんなで一週間、どうにかマチュアの家は無事に完成した。
「よーしよし、私頑張った。目に見えないところの強度は魔法で補ったし、建物自体は破壊耐性ついてるから壊れないし風化しない。塀はまあ、普通の石壁だけど魔法で強度は上げてある。これで完成だぁ‼︎」
やり切った感満載で庭の草原に転がる。
草木の優しい香りと肌触り、近くの大樹もザワザワと風に揺れ、そして子供たちの楽しそうな声が聞こえてくる。
子供たちの声。
子供?
はぁ?
──ガバッ
勢いよく跳ね起きると、マチュアは家の前に広がる広大な庭で遊んでいる子供たちの姿を見た。
「あ、あれ? 君たち、ここは私の家なんだから、勝手に出入りしたらダメだよ……」
──クスクスクスクス
人数にして4人前後の子供たちがマチュアに話しかけられて、一斉に振り向く。
そしてニコニコと手を振りながら、スッと姿を消していった。
「……幽霊?」
そう呟きつつ、空間収納から魔導制御球を取り出して問いかける。
『ピッ……ゴースト、この地で殺された子供たちの無念の塊、魂の帰るべき場所に帰らず、この地に留まりたいという思念が魂を束縛している』
「あ〜、魔導制御球さんや、説明ありがとう。しかし、ゴーストとはねぇ。ちょいと全員集合‼︎」
神威を伴った声で号令を掛けると、地面の下から次々と子供たちが姿を現して来た。
「ヨンダ?」
「ナニナニ、アソンデクレルノ?」
「オネエチャンダーレ?」
人懐っこい笑顔で話しかけるので、マチュアも膝を折ってしゃがむと、子供達を手招きした。
「ちょいと記憶を読ませてね」
一人の子の額の部分に指を当てる。
そしてゆっくりと魂の記憶を読み取っていくと。
………
……
…
かつてこの場所には、古い聖大樹教会が建っていた。
まだ大樹の加護があった時代には、大勢の信徒や孤児たちが集まり、とても賑わっていた。
だが、王が死去し新しい王になった時、聖大樹教会は異端と認定されパヤーオ全ての聖大樹教会は国外退去を命じられた。
司教たちはやむなくパヤーオを離れたが、行く場所のない孤児たちは教会に留まっていた。
最初のうちは、地域の人々が少年たちを守っていたのだが、やがて聖大樹教会は必要ないと判断され、このラソーラの教会は燃やされてしまった。
最後まで教会から離れようとしなかった子供達は、燃え盛る炎に巻き込まれて全員が亡くなってしまった。
跡地は売却され、ラソーラの商業ギルド預かりとなったのだが、跡地を買い取った商人や貴族は半年も経たずに土地を売却してしまった。
彼は口々に、こう告げた。
『子供たちの怨霊が出る』
と。
それから既に100年以上が経過した今でも、この地は怨霊が住み着いた土地として人々の近寄らない場所となってしまった。
………
……
…
「そっか。そう言うことか……どうすっかなぁ。魂の輪廻システムはまだ回復してないから出来ないしなぁ。かといって、このまま子供達を放置するのもなぁ……」
腕を組んで、頭を捻って考える。
そのマチュアの仕草を子供たちも真似してクスクスと笑っている。
「うーん。仕方ない、やるかぁ」
ポン、と手を叩いてから、マチュアは屋敷の中に戻って行く。
そして研究室に入ると人数分の魔法陣を形成した。
「ゴーレムメーカー、スタンバイ‼︎ 作成するゴーレムは『マジックジャー』、数は予備も含めて10体。外見データはまだなしで素体のみ……それ行けレッツゴー‼︎」
──ヒュゥゥゥゥン
全ての魔法陣が同時に起動する。
ゆっくりと光り輝くドーム状の魔法結界の中では、納められている素材がゆっくりと溶け合い混ざり合い、人型を形成し始めた。
1時間後には10体のマネキンが完成すると、マチュアは窓から外で遊んでいる子供達をもう一度呼んだ。
「おーい。取り敢えずだけど新しい肉体は用意したから、ここに収まってくれるかな?」
「ハーイ」
「ナニナニ、アタラシイオモチャ?」
「オネーサンハ、ワタシタチガコワクナイノ?」
「うーん。怖いというよりはコワかわいいに分類されるからなぁ、ほらほら。ここの丸い水晶に手を当ててみて頂戴」
マジックジャーを抱き上げて胸元を開くと、魂の収納場所となる『水晶の心臓』がむき出しになる。
それを見た子供たちは興味津々で水晶に触れると、一瞬でその中に吸い込まれていった。
――プゥン
やがてマジックジャーの姿がゆっくりと変質していく。
子供たちの魂の記憶から外見データーを取り出し、それにマジックジャーの外見も変化していく。
それを見ていたほかの魂たちも次々と水晶に触れては変質を繰り返し始め、一時間後には四人の子供がその場で立って笑っていた。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






