微睡みの中で・その31・国境都市ラソーラで、冒険者してみた
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
サクサクサクサク
ラソーラ郊外の深い森の中。
その中で、マチュアはのんびりと薬草採取を行っていた。
途中から、周囲をダイヤウルフという狼に囲まれたのだが。
――ドッゴォォォォッ
何事もなく群れを全て撃破、拳で語らせて貰ったので外傷もない綺麗な死体をゲット。
サクサクサクサク
鑑定眼があるので、よくあるファンタジー小説のごとく薬草にマーキング施してから、襲い来るオーガの群れも倒していく。
――ドッゴォォォォォォッ
吹き飛ぶオーガ達。
ダイヤウルフとオーガの群れを全て空間収納に収納して、マチュアは再び薬草採取を続ける。
「‥‥ふぁぁ。しっかし大量にあるよなぁ。ここら一帯が群生地とは恐れ入ったねぇ‥‥しかも、殆ど人の踏み入った気配もない場所じゃないですか。これは、この依頼は当たりだね」
サクサクサクサク
10本を一束にして空間収納に放り込む。
途中で面倒になったので、空間収納コマンドにある『整理・整頓』で10本を一束にすると、それを次々と拡張バッグに転送する。
そんなこんなをずっと繰り返しつつ、飛んできたワイバーンも浸透勁により心臓を一撃で停止させてから無傷で空間収納に放り込む。
サクサクサクサク
あまり採り過ぎないように、全体の1/10程度だけ採取して、マチュアはのんびりと町に戻って行く事にした。
道なき道を、来た時と同じ道順で森から出て行く。
広大な草原、そこにはあちらこちらに冒険者の姿もある。
まだ若い冒険者はおそらくマチュアと同じ薬草採取であろう。
魔法薬がないこの世界では、錬金術師や薬師により作られた回復薬・毒消し・血止め薬が生命線である。その為にも薬草は大量に必要である。
だが、国選冒険者は薬草採取依頼を受けない。
そんな事は爵位持ち冒険者の仕事ではないと鼻で笑う。故にそれらの仕事はフリーの冒険者、それもまだ年若い者達の仕事となってしまっているらしい。
そんな光景を眺めつつ、マチュアは日が暮れる前に正門を越えて冒険者ギルドまで戻って来る事が出来た。
‥‥‥
‥‥
‥
冒険者ギルドに戻って来たマチュアを見た受付達は、アマレッティア以外全員がにやにやと笑っていた。
薬草採取クエストにも当然ながら時期がある。
そして今の時期は大抵の薬草は刈り取られた後であり、残っている薬草を探すのは非常に難しいのである。しかも、同じ依頼を受けている低ランク冒険者もいる為、マチュアがこんなに早く帰って来たのは依頼失敗とみて心の中で笑っているのである。
だが、アマレッティアだけはニコニコと笑っていた。
マチュアはちゃんと依頼を遂行すると、何となく確信していたから。
そしてその予感は的中していた。
「ほい、薬草採取終了だわさ。どこに出せばいいの?」
「カウンターで受け付けていますよ。今の時期は薬草はほとんど刈り取られた後ですから、探すのは大変でしたでしょう。一束だけでもちゃんと受け取りますのでご安心ください」
「あ、そういうことかぁ。道理で草原には大勢の若い冒険者がいた訳だね?」
そう告げてから、拡張バッグからヒョイヒョイと薬草の束を取り出すマチュア。
一つ二つ‥‥と数えていくうちに、ほかの受付の顔色が変化していく。
取り敢えず30程出してみると、アマレッティの顔も驚きで硬直してしまっていた。
「ま、待ってください!! 一体どれぐらい刈り取ったのですか?」
「さあ。300まではカウントしていたけど、多分500ぐらいはあるんじゃない?」
ちなみに一束の報酬は銀貨三枚、3000円ってところです。
それが500もあることを知って、アマレッティはカウンターに置いてある薬草を籠に詰め込むと、マチュアの手を引っ張って隣の倉庫へと連れて行った。
そこは大型モンスターの買取用カウンターが併設されている解体所であり、マチュアはそこに薬草を全て出して欲しいといわれたので。
「ほれ‥‥これで全部だよ。ちょうど520束あるから、確認してね」
どっさりと100束の山が5つと半端が20。
何が起こったのか奥から姿を現した解体職人や、建物から頭だけ出して見ている受付たちの顔は一様にこわばっていた。
「‥‥はい、数は問題ありません。鑑定盤で全てマチュアさんが、今日採取してきたものに間違いはありませんので、これで依頼完了です‥‥」
どしゃっと積まれた銀貨袋。
それを驚くことなくバッグに放り込んでいくマチュア。
「薬草採取依頼は10束が一回として計算されます。マチュアさんは52回分の依頼を遂行した事になりますので、ランクがFに上がります!! おめでとうございます!!」
嬉しそうにアマレッティがマチュアからギルドカードを受け取って鑑定盤にセットする。するとすぐさまランクの書き換えが行われ、マチュアはFランクになったのである。
「お、おおう。こんなに簡単でいいの?」
「GからFに上がるための依頼数は30です。これを三ヶ月以内にクリアしないとならないのですよ? それをマチュアさんは一日でクリアしたのですから大したものですよ」
「あ、あらー。それは何と言ってよいやら‥‥とそうそう、討伐の常設依頼の分も持って来たんだけれど、それも買い取ってもらえるかな?」
「はい、そのままこちらにおいてください。鑑定は親方が見てくれのますので」
アマレッティが告げると、その後ろから厳ついおじさんが歩いてきた。
実にマッシブで、それでいて切れのある肉体美。
古代ギリシアのラオコーン像にも似た感じの親方が、ブッチャーナイフ片手にニカッと笑っていた。
「俺の名はトキ。それで何を取って来たんんだ?」
「ええっと‥‥ダイヤウルフが32頭とオーガが13頭でしょ、それとワイバーンが3頭と、後はスライムが二匹かな? スライムは捕まえただけですぐ逃がしたけどね」
──ドサドサドサドサッ
次々と倉庫に並べられる獲物の数々。
ダイアウルフ一頭二頭ならDランク冒険者でもなんとかなる、だが群れとなるとランクが違う。
とくにオーガなど、Bランク冒険者のハーティーでも互角であり、群れとなるとAランクでないとかなりキツい。
ワイバーンに至ってはAランクパーティーで全滅は覚悟、一人生き残れるか怪しいぐらいである。
それが次々と並べられと行くと、呆然として見ていたトキが我を取り戻して鑑定盤で調べていく。
そして1時間後に出た結論は一つ。
「‥‥全てマチュアさんが一人で狩ったものに間違いはないな‥‥買い取りだがちょっと待っていてくれ、ギルドマスターに聞いて来ないとならないんだが」
「それなら必要ないですよ。受付から報告を受けて来たのですが‥‥」
年にして50前後の男性が建物から出てくる。そしてトキの前に置いてある鑑定盤に手を当てて映し出された文字をじっと見ている。
「マチュアさんと言いましたね。私はクラウザーと申します。このラソーラ冒険者ギルドの代表を務めています」
「あ、これはどうもどうも、マチュアと言います」
「それでですね。これらの鑑定と査定の結果から申しますと。うちですべて買い取りします。そしてマチュアさんの冒険者ランクを暫定Cまで上げさせてもらいますので」
このクラウザーの言葉には、トキやアマレッティも呆然としてしまう。
たった一日で新人冒険者がGランクからCランクまで上がるなど過去に前例がないのである。
その奇跡のような出来事が目の前で起こったのである、誰しも呆然とするのが当たり前である。
「じゃあ、これ、とっとと書き換えてね。それでいくらで買い取ってもらえるの?」
「解体して部位の状態を確認してみないとどうにも。明後日の午後に来ていただければ、それまでには終わらせておきますので」
トキがクラウザ―に告げたので、そのままマチュアにもそう告げる。
「ならそれでいいや」
「では明後日お待ちしています。それとマチュアさん、Cランクでしたら国選冒険者に登録を変更できますよ? そのほうが収入なども上がってきますがどうしますか?」
そのクラウザーの問いかけで、待ってましたとばかりにヘルゼを始めとする国選冒険者担当の受付がタタタッと駆け寄ってくる。
マチュアの実力を見て、これは自分が担当になれればランクも上がるだろうと計算してマチュアにすり寄って来たのだろう。
「そうですわ。マチュアさんほどの腕でしたら、すぐにでもAランクまで上がれますわ。ですので国選冒険者になるのでしたら、ぜひ私ベルゼと担当契約を結びませんか?」
「私は最初から分かっていましたわ。マチュアさんは実力を隠していると。あ、私はベルと申します。Cランクのギルド員ですがよろしいですか」
「私はニーナと申します。どうぞこの私を選んでください、各種サポートもしっかりと行いますので」
ニコニコと精いっぱいの笑顔で告げるヘルゼたちだが、マチュアは何も聞いていませんよーといったふりをしてアマレッティの方を向いて一言。
「んー、面倒臭いからいいわ。それに私の担当はアマレッティから変える気はないので‥‥それじゃあまた二日後にねー」
ぶんぶんと手を振って倉庫から出ていくマチュア。
それをアマレッティは満面の笑みで見送っているのだが、倉庫にいるクラウザーとトキは神妙な顔で倒された獲物をじっと見ていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日はギルドにも顔を出さずに街の中をプラプラする。
冒険者らしくしっかりと装備を身に着けて上からローブを羽織り目立たないような恰好で、のんびりと商店街を散策している。
まだ早朝という事もあり商店街は大賑わい。
仕入れた商品が次々と店先に並び、それを別の商人や主婦が買っていく。
このラソーラは国境市ということもあり、ラ・パヤーオとイスフィリア二つの国の商品や特産品が大量に並んでいる。
パヤーオから来た商人はここでイスフィリアの商品を買い求め、イスフィリアから来た商人はここで大量に買い付けて国へと戻って行く。
二つの国を相手に商売をしている都市であり、同時に郊外にある大森林の奥にはかなり古いダンジョンが存在し、毎日大勢の冒険者が攻略すべく挑戦を繰り返しているらしい。
そんな話を、マチュアは串焼きの露店で立ち食いしつつ聞いていた。
「へぇ。そのダンジョンって何があるの?」
「何がと言われてもねぇ。俺は串焼き屋で冒険者じゃないからね。まあ、古代の遺産とか色々と出て来るけど、基本的には魔物の牙とか爪とか魔石とかを回収して買い取ってもらっているっていうぐらいしか知らないよ」
「へぇ。お金になるんだ」
「ああ。ただね。10層より下に行く為には国選冒険者になるか、もしくはBランク以上の冒険者じゃないといけないみたいだね」
なるほどなるほど。
町の外にはダンジョンがあるのねオーケーオーケー。
それならちょっとだけ様子を見てみたい所だけど、どうやっていくのやら?
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






