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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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微睡のなかへ・その21・帝都サムシングに法皇がやってくる

さて。


このシャダイの世界で最も強い国、それは世界の中央に存在するカスケード帝国であろう。


初代カスケード帝国の国王は異世界転生者である。

かつて、このシャダイに魔族が侵攻を開始した際、大樹の加護を受けていた小国の王女がその命を賭してまで召喚した勇者により、この世界は魔族の侵攻から救われました。

その初代勇者と王女が結婚し、生まれたのがカスケード王国です。

やがてカスケードには多くの人が集い、国が繋がり、やがて一つの巨大な帝国へと進化しました。

ですが、カスケード帝国は血筋による帝位継承ではなく、全て『神託の巫女』が大樹より次代皇帝の名を教えられ、そして皇帝が代替わりをしてきたのです。


三代目皇帝は、スラムに住む一人の少女でした。

大樹に選ばれた少女は皇城に召し上げられ、そして皇帝としての勉学に勤しみ、慈愛溢れる立派な皇帝となったのです。

それが初代ロマネス・ハインリヒ1世となり、代々その名前は皇帝へと受け継がれ今に至ります。

それより前の皇帝の名前は、今は誰も知りません。

それが勇者の名であり、そして勇者の子供であったという事実さえ、悠久に流れる時代の中で、静かに人々の中から忘れられていったのです。



………

……



間も無くカスケード帝国からの来賓が訪れる。聖大樹教会法皇・ロマネス・ハインリヒ14世がイスフィリア帝国にやってくるのは四年ぶり、前回は帝都で大々的にパレードを行ったのだが、今回はどのようにもてなしたら良いか、王城の会議でもほとほと困り果てていた。

だが、貴族院代表の鶴の一声で、ミナセ大公に助力を仰ぐ事となったのだが。



──カナン魔導学院・理事長室


「だからって、なんでわざわざ陛下自らここまで来るかなぁ。正門受付が気絶したり、敷地内に入るためのゲストパスを余分に用意するのに大変だったんですけどねぇ……」


理事長室のソファーの座り心地に驚き、マチュアの用意したティーセットに舌鼓を打っているカエザルが、マチュアに突っ込まれて苦笑している所である。


「いや、事は重大でな。こちらから頼むというのに、わざわざ王城まで呼びつける訳にもいくまい」

「いや、あんた皇帝なんだからね。用件を書いた書面を持たせて指定時間に来いって言ってくれれば、重要な用件ならちゃんと顔出すんだからさぁ」

「いやいや、それではこのソファーと茶菓子を堪能できぬ。カナン商会のケーキは個数制限で、しかも並ばなくては買えないではないか‼︎私が侍女を遣いに出しても、一人三つまでと言われてな」


そんな理由で、わざわざここに来るかなぁ。

初めて出会ったときは威厳たっぷりのナイスミドルだったはずだが、今、目の前にいるのは甘い物好きな隠居おっさんだよ。

ほら、後ろに控えているロイヤルガードがもの欲しそうな目で見てるじゃないか。


「あ〜、こんな甘党のおっさんの護衛も大変でしょう。ちょいと待っててね」


すぐさま部屋の片隅に魔法陣を起動すると、そこに各種材料を放り込む。


「アニメイト起動。作り出すのは拡張エクステバッグ、時間停止を付与、3ボックスを……ロイヤルガードって何人いるの?」

「はっ、全部で24名です」

「おっけ。拡張エクステバッグを30個作成、神威モードでいざよろしく‼︎」


──チーン

亜神モードでアニメイトを起動すると、拡張エクステバッグ程度ならものの数分で完成する。

そのなかに、空間収納チェストから各種大量のケーキを放り込むと、23個を一つに放り込む。


「ほら、これは、私からのお疲れさん報酬だよ。内部拡張と時間停止の効果を付与してあるから、ロイヤルガード全員に配ってあげて」

「はっ!ありがたき幸せ‼︎」

「ついでに、バッグ一つにつき20個ぐらいケーキとか入っているから、後で食べてね」

「「「御意‼︎」」」


バシネットと呼ばれるフルフェイスヘルムを被った騎士達が全員マチュアに敬礼する。

すると、その様子を見たカエザルも何かそわそわしながらマチュアに目配せをする。


「余の分はないのか?」

「あからさまなおねだりだなぁ。ま、ロイヤルガードが没収されるのもなんだから、残りの6個はカエザルにあげるよ。こっちにもケーキは入れてあるから」

「うむ、良きに計らえ」

「まあ、話は戻すけど、要はその法皇とやらを出迎えて接待すればいいんだろう?」


ようやく話を戻すマチュアに、カエザルも真面目な顔で頷く。


「貴族院からの提案でな。今回の接待の仕切り全てを大公に任せてはどうかと」

「そんでもって、手を出さずに邪魔をして私のメンツを潰そうっていう腹だろうなぁ、あの侯爵たちは。ま、構わないわよ、私なりのやり方でやらせてもらえるのならね」



ニマーッと悪い笑みを浮かべるマチュアに、カエザルはやや不安そうな表情をする。


「あ、あの、相手は世界の頂点に立つ方だ、くれぐれも失礼無きように頼むぞ」

「それはもう。逆に今回の件で、貴族院の皆にどっちに付くのが正しいか教え込んであげようじゃないのよ……後、これも後日やるので、目を通して皇帝印押して返してね」


何処かの『ポーション頼みで生きて……』に出てくるヒロインのような、子供が見たら泣き出しそうな笑みを浮かべると、マチュアは別の書類を取り出してカエザルに手渡す。

それを受け取りチラリと見るが、すぐに頭を抱えてため息をついてしまうカエザル。


「まあ、この、国の為を思ってやってくれている事は認めるが、反発が激しいぞ?」

「しーらない。今の貴族院のように、公爵家侯爵家伯爵家が幅を利かせてその下の貴族が割りを食うような制度なぞ破壊してやるわ、物理的にも」

「まあ、許可はするのでお手柔らかに」


カエザルは、マチュアから貰った魔術印を右手の中に実体化すると、それで書類に判を押した。


「では、明日からでも準備に入りますか。その法皇御一行が来るのはいつ?」

「後二ヶ月後だな。間に合うか?」

「一ヶ月でも間に合うよ。では、私はこれで……そのお茶菓子とお茶は飲んでいいから、じゃあね」


バタバタと、部屋から出ていくマチュアに、カエザルはハァ。と、ため息ひとつ。


「と言う事だ、お前達も兜を脱いで寛ぎなさい。ここには私を襲う者など存在しないのだから」


ホッと一安心したのか、騎士たちもカエザルの言葉に従って、一休みする事にしたようで。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



この日からの一ヶ月、マチュアは自分の考えられるもてなしの準備を始めた。


魔導学院を作った時の資材を使い、敷地内に小さな宮殿のようなホテルを作ると、考えられる限りの魔導具を組み込み、ベルサイユ宮殿も裸足で逃げそうなホテルを作り出した。


更にカスケードの使者達が到着する港の整備、そこから帝都までの街道整備と、法皇御一行が使う専用馬車の作成。

その他あれやこれやとリミッターの外れた状態で様々な魔導具を作り上げていく。


その間にも、大樹の元に向かっては神威を注ぎ、弱っていた大樹達を活性化していく。


学院はアーカムとキングズマンがいればなんとかなる、そして何とかしてもらった。

それでも作業の手が足りないので、マチュアは禁じ手のミスリルゴーレムを11体ほど制作。

1から5番までは睦月、如月、弥生、卯月、皐月という名の美形男性型、6番から10番までは水無月、文月、葉月、長月、神無月の美女女性型、合計10体を制作。

そしてそれらを統括する0番の『こよみ』と言う名の女性型ゴーレムを最後に作り出すと、あとはそれぞれに指示を飛ばして作業の分担を行った。


そして一ヶ月もすると、法皇御一行がいつ来ても構わないような準備を全て終わらせたのである。


………

……

……


「いやぁ、怒涛の一ヶ月だったなぁ」

「まあ、そうよね。余りにも怒涛すぎて、こっちも独断と偏見で色々とやらせてもらっていましたからね」


理事長室でティータイムを楽しむマチュアに、アーカムが和やかに報告書を提出する。

それを受け取ってから魔力分解して取り込むと、ふむふむと脳内精査を行う。


「まあ、概ねオッケーか。中間試験の赤点追試が28人とはまた、随分と出たけどこれは予想よりも多かったね」

「まあね。でも仕方ないわよ。私は半分ぐらいは赤点と思っていたから。それとカナン商会のケーキなどの甘味はマチュアが主導でないと作れないので、こちらの方々に出張してもらったので」


そう告げるアーカムの後ろでは、カナン商会アドラー本店のジェイソンとロシアンが椅子に座っている。


「おやまぁ、ロシアンも久しぶりじゃない。二ヶ月ぶりかしら?」

「それぐらいだな。アドラーに資材の買い付けに来た時以来か。アーカムさんに呼ばれて一ヶ月だけこの魔導学院で店を開かせてもらったからな」

「アメショーや他の皆さんは仕事中ですので、私とロシアンがご挨拶に参りました」

「あー、それは申し訳なかったなぁ。でも、ここまでどうやって?転移門ゲートは私以外は作れないけど?」

「私が転移魔法で人だけ呼んできたのよ。設備はこっちにもあるから、それを使わせてもらったわよ」


ふむふむと報告を受けるマチュア。

なら、後は本店メンバーにはアドラーにお帰り頂いて、暦たちにそちらの運営も任せる事にしようそうしょう。


そんなこんなと報告も聞いた、後は、果報は寝て待てのスタイルで日常へとシフトする事にした。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



イスフィリア貴族院


いつもの定例議会が間も無く始まる。

形式上全ての貴族が参加する議会という事もあり、王族席なども全て準備してあるが使われた事はない。

その席に今回はミナセ大公が座っているので、議場はいつもよりも緊張した雰囲気が流れている。


各領地を治める貴族からの報告、そして問題があった場合の提起、それを話し合い解決して次の議題に進む、ただそれだけを淡々と進めるだけ。


「折角、ミナセ大公がいらしているのに今回の議題はそれほど大きなものはありませんので、今回は顔合わせで閉会としたい所ですが、大公はそれで宜しいですか?」


貴族院代表であるホールド・ウルティモ伯爵がマチュアの方を見てそう問い掛けるので、マチュアも軽く手をあげて立ち上がる。


「では、私から問題提起させていただいて宜しいかな?」

「い、いえ、議題は予め貴族院に提出してもらい、この場で話し合う必要があるかどうか査定する必要がありますので、いきなりというのは」

「まあ、時間があるのでそれは外して貰うとして。大したものではない、確認も兼ねてのものだから時間は取らせないよ」


そう告げられて、ウルティモもホッと胸を撫で下ろす。そしてマチュアが議席から壇上に転移すると、議会場全体に響く声で話を始めた。


「貴族とは、民を守るべく身分を与えられた存在であり、その代償として自領地の民を守らなくてはならない。民は、守られている代償として貴族に税を納め、そして貴族は集めた税を国に納めなくてはならない。ここまでは皆さんご承知のとおりかと思います」


貴族法の最初の一文、イスフィリア貴族法はこの条から始まる。なので、この場の貴族たちは全員が熟知しており、皆一様に頷いている。


「第二条、貴族は共に手を取り合い、お互いの領地を守り、そして繁栄させるために協力を惜しむ事なく努めよ、これもご存知かと思います」


ウルティモはマチュアが何を言い出すか心配そうな顔をしていたが、今更ながらの貴族法の話を始めたので笑顔で頷いていた。


「そして、このイスフィリアの貴族は幾つもの派閥はあれど、同じイスフィリアの貴族として連携を取っている。故に、難問を抱えた貴族の問題は、この場で解決しなくてはならない。時には助力を惜しむ事なく、時には間違いを正すべく叱咤する。それがイスフィリアの貴族である‼︎」


まるで演説のように語るマチュア。当然ながら魅了やカリスマ上昇系スキルはフルパワーで使っている。


「では、ここからは私が受けた相談なのですが、遠方にいる私よりも…より近い領地の方にも助力をお願いしたく頭を下げさせてもらいます」


──ドキッ‼︎

あれ?

ミナセ大公、何の話をするのですか?


「この場にもいるかと思いますが、マルコ・リカント領、デネル・マルコー領、そしてラウンデル・フォン・ミルドマイヤー領で起きている天災及び隣国からの盗賊の侵入による近隣の村への援助について、この話をしたいと思います」


その場にいるマルコ、リカント、そしてミルドマイヤーの顔色が真っ青になる。

次々とマチュアが用意した資料が貴族たちに配られると、早速話し合いをするべく議長に司会を渡す事にした。


「では、これは時間が余りなく急がなくてはならない案件ですよね?すぐに審議を始めてください。それと、今の三家の寄親の伯爵家及び辺境伯すぐにこの後で私のもとに来てください。今後の話し合いが必要かと思いますので」


ニィッと笑うマチュア。

そして、今、この場で貴族の不正を糾弾する会議が始まる事に、ウルティモ始め参加している貴族達はようやく理解し、この場にいた事に対して後悔を始めた。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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