浮遊大陸の章・その6 真実の探求と、古の大地
話は少し前に遡る。
ストームがエル・カネックを探しにシュミッツ城へと向かった日。
マチュアはストームを見送った後、自前の転移でカナン郊外地下にあった転移門へと向かっていた。
その手前、マチュアが自分で埋めた部分に到着すると、マチュアは周囲の状況を窺ってみる。
「おや? 人が来た気配がある‥‥」
埋めた筈の場所を、誰かが人為的に崩した跡がある。
頭を捻りつつ、再度周囲を確認する。
だが、今は誰もいないようである。
「躊躇なくここをピンポイントで掘ったのか。これはまた面倒臭い話が見えてきたぞ」
と思い、『大地操作』で転移門までのトンネルを作る。
そしてマチュアが入った直後、すぐに入り口は閉ざしてしまう。
「サイノスたちか、もしくは‥‥けれど、サイノスがここを掘り返す意味は‥‥無い事もないか」
と笑いつつ進み、転移門へと辿り着く。
その手前で深淵の書庫を発動すると、右手はそのまま扉に触れる。
マチュアの周囲に展開した魔法陣が高速で回転する。
現在ティルナノーグに施されている魔術の解析。
それは賢者であるマチュアにすら分からない神秘の魔法である。
「浮遊大陸ティルナノーグを、時を止める魔術で覆い尽くし、空間を別次元へとシフトする魔術かぁ‥‥」
と呟く。
「転移門は、この世界とティルナノーグを繋ぐ『月の門』という名前かあ。どっかに『太陽の門』もあるのかなぁ‥‥と」
静かに扉に流れる魔力を感じ取ると、その流れを切り替える。
扉からマチュアへ、つまり扉に集まりつつある魔力をマチュアが吸収しているのである。
――キィィィィィィィン
やがて扉から魔力を感じなくなると、マチュアは静かに扉を開く。
短い回廊の後、ゆるやかな下り階段に繋がる。
――カツーンカツーン
とゆっくりと階段を降りていくと、突然広い空間に到着する。
高さ3mほどの水晶の柱が林立する空間。
それらの中には、老若男女様々な人間が眠っていた。
「封印の水晶柱。ティルナノーグから逃げ延びた人達が、魂を失わないために、ここで眠っている‥‥いつか、母なる水晶の谷に帰れる時が来るまでねぇ‥‥」
と再び深淵の書庫を展開する。
「‥‥魂は水晶の中に留まっているからおっけーです。ここの場所は、いつかまた開放されると‥‥」
どれだけ調べても、マチュアは封印の水晶柱を解除する方法が分からない。
ここに来た理由も、あわよくば誰かを解放して、ストームの家で眠っている王女の解放方法を聞き出すことであった。
だが、解放条件が全くわからないので、マチュアはため息を吐きながら、階段を再び登っていく。
「‥‥このあとは第二の方法かぁ‥‥」
と、扉の内側に立つマチュア。
「深淵の書庫とエンジの『結界無効化』をリンク。『月の門』から、対象の座標を認識‥‥」
再び魔法陣が高速回転する。
やがて魔法陣の回転速度がゆっくりになると、魔法陣全体が停止する。
「私の周囲に最小範囲で深淵の書庫を生成‥‥ティルナノーグへ‥‥転移開始!!」
アレキサンドラの施した空間封印と結界の一つと認識し、そこを通過しようというかなり強引な方法である。
ちなみに失敗すると、転移先の時間停止に巻き込まれてマチュアは帰って来れない。
(結講一か八かですけれど、まあ大丈夫でしょう‥‥きっと)
――ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
マチュアの姿が金色に輝き、スッとその場から消えていった。
○ ○ ○ ○ ○
辺り一面は廃墟である。
恐らくは神殿の祭壇か何かであったのだろう、崩れた廃墟にマチュアは立っていた。
その背後には一枚の巨大な門がある。
ふと空を見上げると、空全体がオーロラのような輝きに包まれている。
「ふむふむ。とりあえず到達かな?」
と周囲を見渡す。
そこには、この扉に向かって逃げようと必死の形相をしている大勢の人間と、その背後から迫ってきているレッサーデーモンのような化け物達がいた。
全て時間が止まっているのか、まったく動く気配は感じられない。
「ごめんね。助けてあげたいんだけれどねぇ‥‥」
と近くに落ちている瓦礫を拾い上げようとするが、全く動く気配がない。
時が止まっているため、外部からの全ての物理的現象は干渉しなくなっている。
「これはこれで楽しいけれど。取り敢えずは調査を行いますか‥‥」
と、廃墟から外に出ると、周囲を見渡して大きな建物を探す。
崩れた建物や必死に物陰に隠れようとしていてる人々、そしてレッサーデーモンと人型の魔族があちこちにいる。
いずれも時間が止まっている為、動く事はない。
「さてと、1つずついきますか‥‥結界を起動。かーらーのー、二重深淵の書庫っ!!」
瞬時に魔法陣を起動。
既にマチュアの体を包むように展開している深淵の書庫は、この世界でマチュアの時が止まらないようにする為。
そして2つめの深淵の書庫はいつものように球形に展開し、それで解析を行う。
――キィィィィィィン
と、近くにいるレッサーデーモンに触れて、データを取り込み解析を開始した。
「残存する魔障からの解析と‥‥ほほう」
この世界のレッサーデーモンの強度は、マチュアの作り出したレッサーデーモン型ミスリルゴーレムの三分の二程度の強さである。
周囲を見渡すと、目の前のレッサーデーモンと同等のものが10体前後。
そして魔族側の人間らしき人物がその倍以上。
「こっちは‥‥ああ、魔族だぁね」
と手近で止まっている魔族を観察する。
こちらも深淵の書庫を起動して、詳細を事細かく調べてみた。
――キィィィィィン
残存魔障からの解析を開始する。
「人間と同じ肉体構成‥‥じゃないか」
凡そ人間と同じ。
ただし、山羊のような角が生えている者や、背中に蝙蝠の羽のようなものを持つ者と、地球で言う所の『悪魔の特徴』を持つ者が多かった。
そして、全く特徴を持っていない魔族についても、その正体が解析出来たのである。
「‥‥魔障に汚染された人間まで、魔族化するのかい‥‥」
高濃度の魔障に汚染され、魂の質が変質している。
その結果、肉体までもが変質し、本物の魔族のように角や牙が生え始めている者さえいるのである。
「これは厄介でしかない。ティルナノーグが開放されたら、恐らくは地上で同じ事が発生する可能性もあるのかぁ‥‥」
と、時間を掛けて一人ひとり近くの人間を調べていく。
サンプルデータは一つでも多い方がいい。
厄介なのは、魔族化した人間の強さである。
魔障によって強化された体躯は、普通の人間の2倍以上になっている。
レッサーデーモンに加えて、この魔族の侵攻など堪ったものではない。本能の赴くままに戦うレッサーデーモンと違い、頭を使ってくる魔族の方がやっかいである。しかも、個体差で魔法を使うものやかなりの高等剣術を使うものまでいる。
さらに、子供や女性の姿をした魔族までいると、その外見で戦う意思を削がれてしまうかもしれない。
「‥‥どうしたものかなぁ‥‥」
と、しばし考えつつ、アレキサンドラの魔法について、何処か調べられる所は無いかと歩いていた。
――スッ
と、一瞬、目の前の廃墟で動く何かに気がついた。
「いやいや、それはないでしょ‥‥」
とマチュアの背筋に寒気が走る。
この時間の止まっている空間において、自由に動ける者など存在しない。
もしいるとすれば、それはマチュアと同レベルの魔力を持つ賢者クラスの存在であろう。
「ふん。こんなところでまさか人と出会うとは思っていなかったが。一体何者だ?」
巨大な山羊の角を持ち、背中には折りたたまれた黒い翼。
衣服は貴族のようにしっかりとした身なりで、あちこちに魔動器のようなアクセサリーを身に着けている。
「一体何者だと問われたら、答えてやるのが世の情け‥‥って、これなし、光になって吹っ飛ぶ」
と若干動揺しつつ、マチュアは目の前の対象をじっと見つめる。
(触れられないから解析不能。そりゃそうだ‥‥)
「水晶の民ではないか。人間? いずれにしても、この空間で自在に動けるとはなぁ‥‥」
と呟くと、目の前の存在はマチュアに向かって右手を翳す!!
――ヒュンッ!!
目の前の敵が一瞬で放った光の矢が、マチュアに向かって飛んで行く。
――パチィィィン
だが、それが命中する前にマチュアは指を鳴らす。
その刹那、光の矢は音も立てずに崩れていった。
「いきなり上位魔術を撃って来るとは、中々気合入っていますね」
「それを瞬時に消す貴様もな‥‥一体何者だ?」
と腕を組んでふんぞり返る眼の前の男。
「人に名前を聞くのなら‥‥まずは自分から名乗ってみろ」
とマチュアも負けじとニィィィッと悪い笑みを浮かべる。
「俺か。俺の名はファウスト。ティルナノーグ魔導院の責任者にして、メレスザイーレ七使徒の一人だ‥‥」
初めて聞く単語の羅列。
マチュアの深淵の書庫には、それらの単語は存在していない。
という事は、マチュアの知らない固有名詞であろう。
「知らないわねぇ‥‥私の名はマチュア。通りすがりの『白銀の賢者』だよっ!!」
と告げながら、魔術師の装備である『カロンの杖』を換装する。
(これ使うことになるとはねぇ‥‥)
カロンの杖は、マチュアがゲームの中で手に入れたイベント装備。
魔力増幅と消費魔力減少の効果を持つが、この世界ではこれがなくても大抵はなんとかなっていたので、使う事はなかった。
「さて、この停止した世界で自由に動けるとはなぁ‥‥貴様何処からきた?」
「と告げられて、そう簡単に教える訳ないじゃない‥‥だからとっとと帰ってちょうだい」
お互いに一歩も動かない。
先程の魔法のやり取りで、お互いの実力を感じ取ることが出来たのであろ。
(チートデータの私と同等の実力‥‥正直いってキツイわー)
と高速で思考する。
相手が動く様子がないのが幸いしていた。
「さて、申し訳ないけれど、私は貴方なんて知らないのよね。ファウストとかいったかしら? 一体何者なの?」
と努めて冷静に問い掛けるマチュア。
「ふん。その様子だと、あの忌々しい女の施した封印をすり抜けてきたのか。私は魔族に魂を売り飛ばした水晶の民だ。後少しでこのティルナノーグの全てを手に入れる事ができたのに、アレキサンドラとティルナノーグの騎士団によって肉体を滅ぼされてしまったのだ‥‥」
「ふぅん。それで、その滅ぼされたあんたがどうしてここで蘇っているのかしらねぇ‥‥」
と少し落ち着いて問い掛ける。
相手が知性を持つものならば、会話によって色々と情報を入手することができる。
「予め施した転生の秘儀。残念な事に、奴らが滅ぼしたのは私の魂の半分に過ぎず。時の止まっていたこの世界で、我は綻びが発生するのをじっと待っていた‥‥」
「そして時が近づき、綻びが生じたので再生したという事かしら?」
そう問い掛けると、ファウストはニィッと笑う。
「ああ。だが誤算もあった。転生によってこの世界で回収できたのは半身分、つまり転生の秘儀が成功し、完成した肉体は取り戻してはいない‥‥」
「‥‥成程ねぇ。それで、何もしてこない訳ね」
とマチュアは笑いつつ告げる。
このファウストの肉体の半身、つまり転生した肉体は現実世界にあるらしい。
それを取り戻して完全体になろうというのだろう。
その為には、この封印空間から出ようというのだろうが、この状態からは出る事も出来ないらしい。
ならば、この手のタイプがやる方法は一つ、
私がここから出るときに便乗して出ようという所であろう。
「ふん。何の事か分からないな‥‥」
と呟くので、マチュアは無視して調査に戻る。
「いずれにしても、この私の姿を見た以上、死んで貰うしかないのだがな」
――ヒュヒュンッ
と光の矢を次々と飛ばしてくる。
が、それはマチュアの目の前で消滅する。
「無駄だっていうのが分からないみたいねぇ‥‥」
とマチュアも走りながら右手をファウストに向ける。
「雷撃弾っ!!」
――キィィィィィィィン
一直線にファウストに向かって雷撃が放たれる。
だが、それをファウストは軽々と避けた。
「その程度の魔法攻撃など、発動光で軌跡が分かるわっ!!」
と叫んだ時。
「どっせーーーーい」
と放出しっぱなしの右腕を振り、『雷撃弾』を鞭のようにしならせる。
――ビシィィィィッ
その一撃は完全に不意打ち状態で、ファウストに叩き込まれた。
もんどりを打って後ろに倒れたファウストが、素早く体勢を立て直してマチュアに向き合う。
「クッ‥‥魔法の質を変化させるだと?」
「まあ、これぐらいは出来ないと、賢者って言えないよねー」
と呟くと、素早く雷撃鞭を蛇のごとく操り、ファウストに向かって叩きつけていく。
――ビシビジビシビシィィィッ
だが、流石に同じ攻撃は受けないと雷撃鞭の切っ先の動きから軌跡を読み取ると、そのまま右手に魔力を高めていく。
――ヒュヒュヒュヒュンンンンッ
次々と繰り出される光の矢。
その一つ一つをマチュアはギリギリで見切っていたのだが。
――ドシュュュッッッッ
右胸に深々と黒い矢が突き刺さる。
「ぐぶっ‥‥」
口からおびただしい血を吹き出し、膝から崩れていくマチュア。
「いっったい何処から‥‥」
「簡単なことだ。貴様はギリギリの軌跡で魔法を躱す。だから、光の矢の少し下に、『影の矢』を同時に発動しただけだ」
勝ち誇った表情を見せるファウスト。
「生きたまま此処から逃げさせて後ろから追いかける予定だったが、気が変わった。貴様はここで死ね」
と再び魔力を右腕に集める。
マチュアは右胸に手をかざして治癒魔術を発動しているが、傷が一向に塞がらない‥‥。
「回復し‥‥ない‥‥何故‥‥」
「傷口から魔障が体内に浸透するからな。この魔障の強い世界では、癒やしの魔法は弾かれるだけだ」
――ヒュヒュヒュヒュヒュュュンンンッッッ
再びファウストの右腕から大量の『光の矢』が飛び出す。
それはマチュアの全身を次々と貫いていった。
「グッ‥‥これはきっつい‥‥もう‥‥」
とマチュアは最後の気力を絞って、転移魔術を起動する。
「そのタイミングを待っていたんだっ!!」
素早くマチュアとの間合いを詰めて、倒れているマチュアの右腕を掴むファウスト。
「これで俺は、貴様と共に還る!!」
――スッ
と転移が発動する瞬間。
「あ、ま、いっ!!」
とマチュアが左腕に魔力を込めて、掴まれている右腕を切断した!!
―― プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
大量の血液が吹き出し、右腕に掴っていたファウストの顔に吹き掛かる。
それはファウストの目にも流れ込み、一瞬だけ視界を奪った!!
「あーーーばよっ」
と告げて、マチュアはスッと消えた。
「クッ‥‥こんな事までするとは‥‥いいだろう。封印が解けた時、貴様から先に血祭りに上げてやるわ!!」
と叫びながら、ファウストは何処かへと立ち去っていく。
――一方その頃
「ふん。ハッタリかますのならこっちの方が一枚上ですよっと‥‥」
転移して現実世界に戻ったのではなく、最初にこのティルナノーグにやってきた『月の門』へと帰ってきたのである。
「まったく‥‥死ぬって‥‥」
とブツブツ文句を言いつつ、マチュアは月の門に触れる。
「ファウストねぇ。覚えておくよっ」
と呟きながら、マチュアは門を通って元の洞窟に戻ってくる。
そして門に残っていた魔力を全て回収すると、そのまま傷を塞いで意識が途絶えた。
○ ○ ○ ○ ○
ポトッ‥‥ポトッ‥‥
頬に地下水が零れてくる。
スーッと、意識が戻り始める。
暗い空間。月の門にもたれかかるように、マチュアは座っていた。
「‥‥右腕返せ‥‥」
傷は魔法で塞がっているので痛みはない。
だが、血を流しすぎたらしく意識が少しだけ朦朧としている。
「右胸の傷はおっけー。傷は塞がっている‥‥参ったなぁ‥‥取り敢えず安全な場所に避難だな」
と呟きながら、マチュアは一旦ラグナ王城へと転移した。
――ヒュンッ
と転移の魔法陣から姿を出すマチュア。
「これはこれは‥‥ど、どうしたのですか血だらけではないですか!!」
と魔法兵団の魔術師が駆けつける。
「いやー、久し振りに負けたわーー。ミスト殿いる?」
と座ったまま問い掛ける。
「は、はい。只今‥‥」
と叫ぶように返事を返すと、一人の魔術師がミストを呼びに走った。
丁度近くの詰め所にいたらしく、話を聞いたミストが慌てて駆けつけてきたのである。
「マッ、マチュア、一体何がどうなったの? 生きてるの?」
よく見るとマチュアの右腕がなくなっているのにも気がついた。
「へっへっへっ。初黒星だぁよ‥‥ちょいと魔力使いすぎた。魔障酔い起こすので、ゆっくり休ませて‥‥」
と告げると、マチュアはスッと意識を失った。
魔障酔いから意識が戻るまで、今回は実に5日間の時間が流れていた。
しかも、ティルナノーグに居た時間が、こちらの時間軸と違う流れだったらしく、実際にこちらの世界では既に半月が経とうとしている。
「おや、ようやく目が冷めたかいマチュアっ」
とミストがベットの横に座っていた。
「ふっふっふっ。あいつリベンジしてやる」
と笑いながら体を起こす。
相変わらず右腕は失ったままである。
「さて、一体何がどうしたのよ」
とミストが心配そうに問いかけてきたので、とりあえずはここだけの話と、ティルナノーグでの話を説明したのである。
「‥‥まあ、そんな芸当出来るのは貴方ぐらいでしょうけれど、気を付けたほうがいいわよ。その魔術師、かなり強い魔術を使うのでしょう?」
「まあ、ご覧のとおりです。本気でやって負けそうになった。ちょっと右腕を直しますか‥‥」
と左腕を右腕の傷口に添える。
「範囲指定・浄化と」
――プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥツ
傷口から黒い霧が吹き出していく。
「うわっ、何この濃い魔障。こんなの浸透していたら傷なんて治らないわよっ」
「そうなのですよぉ。濃い濃度で、しかも肉体に浸透して組織を変性する『魔族』の魔障ですからねえ。これは本当にやばかった‥‥」
と霧が出なくなると、続いて回復魔法を発動する。
「範囲指定・完全再生っ」
切断面が輝き、筋肉と神経、骨などの組織がゆっくりと再生していく。
「パルテノ以上の再生魔法ねぇ‥‥それにしても、気になるわね。そのファウストっていう魔族」
「半身は既にこちらの世界で再生しているらしいですから、急ぎ探し出す必要がありますよ。イメージは‥‥赤い流星の人みたいな‥‥」
と外見的特徴を説明するマチュア。
1時間ほどで右腕は完全に再生したが、まだ動きが不慣れな状態である。
「つらそうねぇ。大丈夫?」
「まあ、なんとか‥」
――バーーーン
と突然扉が開き、涙目のシルヴィーが走ってくる。
「ぶぢじゃなぁぁ、心配したのぢゃゃゃゃ」
と泣きながらマチュアに飛びついてくる。
「はいはい。シルヴィー、大丈夫ですよ。貴方の幻影騎士団は絶対に死ぬ事はありませんよ。次は相手をぶち殺します」
と物騒な事を告げつつも、シルヴィーの頭をそっと撫でる。
「ミストの使いから報告を聞いた時は心配したのぢゃ。どうして負けたのぢゃ?」
と不安そうに問い掛けるシルヴィー。
「あー。あそこで強力な魔法使うと周りを巻き込むかもしれないので。時間が止まっていて物理的干渉しないとは思ったのですけれど、万が一という事もありますから」
と報告する。
「そうか。ならいいのぢゃが。今回の件は、取り敢えず六王と皇帝陛下には報告せんとのう」
「それは承知。とりあえず今からでも向かいますか?」
とベットから体を起こすマチュア。
「それがいいわね。大丈夫?」
そのミストの言葉に、マチュアはスッと『白銀の賢者』フル装備に換装すると、ベットから飛び降りる。
「ちょっとまってねー。深淵の書庫起動。全身のサーチ、少しでもおかしい部位のチェックを。『解析』発動っ」
魔法による身体解析。
これによって、少しでも以前と違う部分があるかどうかチェックするマチュア。
(右腕の神経が侵されていたのはいたいわねー)
右腕の反応速度が半分以下に低下している。
もっとも数日で回復するのだが、暫くは近接系戦闘は不可能である。
「この魔法は、賢者の『解析』かしら?」
とミストが問い掛ける。
「ほほう。よくご存知で」
と笑って答えると。
「私も、うかうかしていられませんからねえ‥‥深淵の書庫‥‥」
と、ミストの足元に魔法陣が広がる。
深淵の書庫の魔法だが、まだスキルのリンクが不安定らしく、ちゃんと球形に展開していない。
「ほほう。やりますなぁ。そこまで深淵を覗いているとは。で、そういえば弟子入りの件ですが、いい弟子候補はいましたか?」
というマチュアの言葉に、ミストは笑いながら首を左右に振っている。
「解読もまだよ。さ、問題ないのでしたら、六王の間へと向かいましょうか」
とミストが促したので、マチュアはシルヴィーと共に六王の間へと向かっていった。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






