微睡の中で・その12・帝都サムシングで、学校を建ててみよう2
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
アーカムが建築ギルドを出て。
アーカムは、とぼとぼとマチュアのいる商会ギルドに向かう。すると、ちょうどマチュアが笑顔で出てくる所にばったりと出会った。
「あら、アーカムの方は失敗?」
「ご存じで。どうも裏で誰かが暗躍しているみたいね。暇そうな職人が大勢いたけれど、忙しくて人を回せないって言っていたわよ」
「あー。そりやああれだね。私達の事を妨害しようとしている人がいるんだろうねぇ。デモイイヨベツニ、それならそれで、こっちとしてもいろいろと手はあるからご心配なく。と、ちょいとアーカムはこの場所に行って、中にいるエルダーリッチと話し詰めて来てくれない?」
そう説明してから、マチュアは必要書類一式をアーカムに手渡すと、もう一度商会ギルドに入っていった。
「は、はぁ、ここの場所に行って、エルダーリッチと話をつけてきたらいいのね‥‥ って、エルダーリッチ?」
がばっと書類に目を通し、そして震える拳を収めつつ書類を空間収納に収めていく。
そしてアーカムは諦めたような表情で、真っ直ぐに廃教会へと向かって行った。
‥‥‥
‥‥
‥
一方。商会ギルドでは
「たーのもう!!」
「あ、あの、マチュア様、大きな声を出さなくても問題ありませんよ。今度はどのような御用件でしょうか」
丁寧に突っ込みを入れてくれる受付に、マチュアはニイッと笑った。
「カナン魔導商会をこの町にも開設する。その為の手続きをお願いします」
そう告げてギルドカードを提示すると、受付の表情はサーっと真っ青になっていく。
一体なぜ、どうして青くなるのかと突っ込みたくなるところだが、すぐさま受付がギルドマスターを呼びに行ったので、マチュアはしばしカウンターで待つ事にした。
そして待つ事5分程。
「あ、あの、マチュア様、このイスフィリア帝国で魔導商会を設立するというお話を聞いたのですが、それは本当ですか?」
やや細身の男性職員。もとい、商会ギルドマスターがやって来てマチュアに問い掛けた。
なので、マチュアはのんびりとかいつまんで説明を開始する。
「ええ。この町でも魔道具を作って販売したいと思っています。それは可能でしょうか?」
「い、いえ、残念ですが、魔道具の修復と販売は魔道具ギルトの系列店でしか行えない決まりとなっています」
「成程。では、それらの取り決めについて記された書類を見せていただけませんか?」
そう告げてから、マチュアは大公記章を手に取ってギルドマスターに提示する。
すると、ギルドマスターは奥の事務室へと向かっていき、そして大量の書類を手に戻って来た。
「こ。これが全てです。魔道具ギルドの設営及び商会ギルドに対しての権利と義務についての詳細が記されています」
「結構です。では」
スッと両手で書類を掴むと。マチュアはそれを魔力分解して取り込んでいく。
そしてすぐさま書類を元に戻してから、並列思考ですべての内容に目を通し。
「成程。魔道具ギルドは遺跡から発掘された魔道具を修復し販売している、その権利を主張しているのですね。では、カナン魔導商会の手続きをお願いします。業務内容はカナン商会の持つ食品生産及び販売、サービス、その他雑貨の小売業となっていますが、ここに『自社製作の魔導具及び魔法薬品販売』も加えていただきたいのですが」
「え、あ、少々お待ちください。魔導具販売は魔導具ギルドが行っておりましてですね」
「いえ、それは書類上は『遺跡で発掘し修復した魔道具』となっていますね。では、私がカナン商会で開発した魔道具を販売していても、彼らの権利を脅かすものではありませんわ。私共は自社製作するのですから」
「そ、それです。自社製作というのを、どのように証明するのですか?」
「あら、鑑定盤で調べれば全てわかる理ではないですか? それとこの町の薬品ギルドにもこのことを通達しておいてください。私たちは一般的な薬ではなく、『錬金術を用いたポーション』を生産、販売します。そちらの権利などには抵触しない筈ですのでと」
そこまで告げて、マチュアはカナン商会のギルドカードを提出した。
「今までの説明で特に問題はありませんよね? では登録をお願いします」
「え、い、いや、あのですね‥‥これは私一人の判断でどうこう出来るものではなくてですね」
「それはなぜですか? 商会ギルドは、そこに登録する商会員の権利を守るためのギルドですよね? そして私共の商会は薬品ギルドや魔導具ギルドの権利を脅かすものではありませんわ。ちゃんと先程の登録書面を精査し、問題がない事は確認済みですので‥‥」
「え、あ、い、いや、その通りですが」
回答がしどろもどろになるギルドマスター。
この時点で、商会ギルドも魔導具ギルドなどと裏で手を組んでいるのが予測出来てしまう。
ならばあと一息。
「それと、当商会では人材育成の為の技術部もありますので、そちらも登録お願いします。当商会技術部は、自社製品開発の為に存在しており、どこの権利にも触れる事なく活動出来ると」
「そ、それは具体的には?」
「先程申した通り、当商会は魔導具の開発以外にも小物や雑貨も開発しています。それらを作る為の技術者の育成と成果物の管理運用とでも申しておきますわ‥‥」
それならばと、商会ギルドマスターも頭を下げて登録を開始する。
この時、彼がすぐに他のギルドに早馬なり伝令なりでも連絡を先につけていれば、後々面倒な事が起きても言い逃れる事が出来たろうに。
――カチカチカチカチ
鑑定盤でギルドカードの書き込みを終え、追加書類全てにサインをし、更にマチュアが別途登録用書面を用意してそれにギルドマスターにもサインをして貰い、しっかりと魔法印を施したものを作成すると、控えの一通はマチュアが空間収納に収めた。
「それではこれで失礼します。今後とも当商会をよろしくお願いします。これはほんのお礼とサンプルとして置いていきますので」
――ゴトッ
カウンターの上には、厳也がアドラー王国で作った『奇跡のポーション三種類』が、それぞれ10本ずつ並べられている。
それをギルドマスターは呆然と眺めつつ、マチュアが出て行くのを見送っていた。
〇 〇 〇 〇 〇
イスフィリア帝国帝都中央区。廃教会
廃教会とはいったものの、敷地面積はゆうに75万m2、その敷地内に大聖堂や教会本棟、寄宿舎、管理設備などが全て納められている。
外周には高さ3mの柵が綺麗に並んでおり、さらに神聖魔術により結界が施されている。
何人たりとも、この敷地内には足を踏み入れる事が出来ないようになっていた。
その正門に、アーカムは立っている。
「はぁ。魔術強度1万5千の神聖結界ね。契約書では、結界自体も自分で処理しろという事が書いてあるけれど‥‥」
ちらりとアーカムは右のほうを見る。
すると、通りを挟んで反対側の建物の陰から、アーカムを監視しているような視線を感じ取った。
なので、頭の向きは変えず、そちらに焦点を当ててアーカムは魔術を発動する
「光の精霊レクスさん、ちょっとあの物陰にいる者たちの姿を教えて、声を送って頂戴」
――フワッ
すると、自然光程度の輝きのレクスが召喚されると、まっすぐにアーカムの指定した方角へと飛んでいく。
『どうだ、あの女の動きは』
『特におかしいところはありませんぜ、あの結界は太古の秘術によるもので、何人たりとも開ける事が出来ない結界ですから』
『それぐらいは知っている。だが、相手は謎のスキルを持っている、どんな動きをするかわからないってはぁぁぁぁぁ?』
アーカムは静かに門に手を当てる。
「術式開錠」
――カチィィィィン
正門に掛けられていた鍵があっさりと外れ、ゆっくりと門が左右に開く。
とはいえ、結界があるのでそこから先は物理的に侵入することは不可能なのだが、アーカムは結界中和スキルを起動してスッと結界の中に入って行った。
「ち、ちょっと待て、あの鍵はどうやって開けた!! それにあの女、結界をすり抜けていかなかったか?」
「はぁ、兄貴、俺は夢でも見ているんじゃないですかねぇ」
「馬鹿言っているんじゃねえ、俺は監視を続けるから、お前はデラゴーサ侯爵に報告してこい」
「は、はいっ!!」
すぐさまチンピラ二号が駆けだしていくと、残ったチンピラ兄貴はアーカムの入っていった門をじっと凝視していた。
‥‥‥
‥‥
‥
結界内。
特に変わった雰囲気はない。
強いてあげれば『魔素』が濃い。
魔界メレスに充満していた魔障、こちらの世界では魔素と呼ぶらしく。普通の人間ではそれを軽く吸っただけで頭痛や吐き気を催し、濃度が濃いと呼吸器官が焼き付いて死んでしまうケースもあるという。
それが結界内に充満しているのだが、そもそもアーカムは魔族、この程度の魔障程度は気にもならない。
「‥‥カエレ‥‥カエレ‥‥」
すると、どこからともなく声が聞こえてくる。
「ふぅん。アンデットは生者の匂いを敏感に気が付けるっていうけれど、それって本当なのよねぇ‥‥ええっと、確か‥‥大司教カークグレイだったかしら? 素直に成仏してくれればそれでいいんですけれど、それってムリよね?」
そう誰となく問いかけていると、アーカムの前方に黒い霧が集まっていく。
それはやがて人の形を形成すると、豪華なローブを身に纏ったミイラが姿を現した。
「カエレ‥‥」
「まあ、帰るわけないのは知っているのでしょう? とりあえず実力行使させていただくので‥‥と、退治したらダメだったわね?」
スッと空間に手を突っ込んで得物を握りしめると、アーカムはそのまままっすぐに大司教に向かって走り出した。
――ブフゥォォォォォォォォォォォォォォォォ
すると大司教は口から瘴気のブレスを吐き出すのだが、アーカムは怯む事なく突っ込んで行く。
「ナ、ナンダト、瘴気ガ効カナイダト!!」
「あら、自我はあるみたいね。なら好都合よ」
「ナニヲイウカ、我ハモトモト自我ハフベシッ!!」
――スパァァァァァァァン
何かを告げていた大司教の顔面目掛けて、マチュア謹製アダマンハリセンを叩き込む。
すると、顔面を押さえていた大司教がその場にくずれ落ちて、頭を左右に振っていた。
「ぐうぉぉぉぉぉ、痛くないけど、材質的にきつい‥‥何するんじゃ!!」
「うわぁ、さすがはマチュア特製のハリセンね。ビカムアンデットでエルダーリッチ化した狂気の大司教が正気に戻ったわ」
「正気じゃと‥‥おや?」
その場でゆっくりと立ち上がり、全身を確認するカークグレイ。
その様子をアーカムは少しだけ警戒して観察を続ける。
「おや、じゃないわよ。取り敢えずあなたがカークグレイ大司教でいいのよね?」
「いかにも、私がこの聖大樹教会の初代大司教を務めていたカークグレイである。しかし‥‥儂はいったい、どれぐらいの間アンデット化していたのだ?」
「今でもアンデットよ、それも立派なやつね。思考と精神が戻ったのはいいとして、これからどうしましょうかねぇ」
「これからだと?」
「ええ。この廃教会の土地は私たちが買い取ったのよ。ここに魔術学院を創設して、世界の崩壊を防ぐためにね」
「世界の崩壊?今、何が起こっているのか説明してほしいのだが」
「それは構わないわよ。取り敢えずは場所を変えましょう」
そう告げて、カークグレイとアーカムは大聖堂へと向かっていく事にした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






