微睡みの中・その7・港町シェイエンから王都へ魔導機関車で
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
――ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
無事にアーカムとマチュアの地獄の特訓を終え、心力コントロールを身に着けたミレーヌ。
一日体を休め、マチュア達と行動を共にする事を許されたので、一路帝都サムシングへと向かう事となった。
シェイエンからは定期馬車に乗り、ふたつ向こうの中継都市トレルダへとやって来たマチュア。
町の大きさはそこそこ大きく、ミレーヌ曰く人口1万人弱。
「この町からは、魔導鉄道で帝都まで向かいます。マチュアさん達は身分を証明するものをお持ちですか?」
「鉄道に乗るのに必要なの?」
「はい。ギルドのカードでしたら、そのランクに応じた乗車料金が必要となりますし、貴族証をお持ちでしたら、その爵位に応じた寄付が必要です」
「へぇ。それで、その乗車料金はどこで支払うの?」
アーカムが問い掛けると、ミレーヌはマチュア達を伴って魔導鉄道の駅舎へと向かった。
石造りのそこそこ巨大な駅。
地球でいう、明治初期の鉄道駅のような雰囲気を持つ石造りの建物、その中にある発券場に三人はやって来ると、マチュア達はすぐさまギルドカードを取り出して提示した。
――スッ
無言のままギルドカードを受け取って横にある魔道具で照会する事務員だが、表示されていた文字を見て、何度も見直していくうちに顔色が真っ青になった。
普通に考えて、目の前に立っている小娘程度ならギルドカードのランクはせいぜいCがいいところ。
そう思い込んでみたものの、実際に表示されてるランクはS。
この世界には殆ど存在しない、王家の者でさえ手にする事は出来ないカードである。
カードコレクターなら喉から手が出るほどの一品、好事家に裏から販売すれば一国の年間予算など超える金額になる事もある。
そんなカードが目の前に、それも二枚。
――ゴクッ
思わず息をのんでしまうが、事務員は頭を左右に振った。
(こ、このカードのどちらか一枚でもあれば、一生遊んでも使い切れない富が手に入るわ。そうなったら、あの店の彼も私を見てくれるかも‥‥いえ、ダメよアンナ、あんな男に貢いじゃダメ。でも、あのガリガリ女やいけ好かない貴族に持っていかれるぐらいならもこのカードを売ったお金で彼を虜にすることだって‥‥)
「ねぇ、まだ?」
腕を組んで問いかけるマチュアに、アンナはようやく現実に戻ってきた。
この時間、わずか1ミリ秒。
とある宇宙刑事の蒸‥‥げふんげふん、とにかくアンナは現実に戻って来た。
「は、はい、カナン商会のマチュア様とアーカム様でございますね? 特等寝台車をご用意をさせていただきます。料金は金貨1枚で結構でございます」
「あら、ずいぶんと安いですね」
「そんなもんでしょ? それじゃあ後で合流するから、支払いはこれでね」
カウンターに金貨を三枚置くと、マチュアは受付から離れてホームに向かう。そしてそこに停車している魔導列車の前まで駆け足で向かって行った。
「はぁ、相変わらず自分の趣味を優先するのですねぇ‥‥」
呆れるようなマチュアの行動に、アーカムもやれやれと笑うしかなかった。
だが、その直後。
「え? 私の証明は無効ですか?どうしてですか!!」
「ミレーヌさんのカードでは、二等寝台車になります。それでよろしいですね?」
「納得がいきませんわ。ついこの間までは、私は一等寝台車の、それも★三つの個室のほうに泊まって いたのですよ? 」
「ええ。ドラゴンスレイヤーのミレーヌ様はそうでした。ですが、今のあなたはAランク冒険者のミレーヌさんですから」
そう告げられて、ミレーヌもハッと気が付く。
先日の勝負で、ミレーヌはドラゴンスレイヤーの称号を失っていた。
そうなると、彼女はただの冒険者、事務員の対応は間違ってはいない。
そして告げられたミレーヌも現実を目の当たりにして、愕然と落ち込むことしかできなかったのだが。
「それじゃあ、彼女も私達の部屋の並びでお願いします。警護を依頼している者が離れていては、仕事になりませんから。それでおいくらになりますか?」
アーカムが丁寧に事務員に問い掛ける。
「Aランク査定ですので、金貨15枚となります‥‥が」
――ジャララララッ
懐から金貨袋を取り出して、アーカムはカウンターに並べていった。
「アドラー金貨で問題はないわよね?」
「は、はいっ、それではすぐに発券しますのでお待ちください!!」
すぐさま手続きを開始する事務員。
「あ、あの、私はこんなに良くしてもらう義理もなにも」
そう話していたミレーヌの口元に人差し指を当てるアーカム。
「あなたは護衛でしょ? これも必要経費、いいわね? マチュアに余計な事を話したら怒られるから黙っていた方がいいわよ」
「は、はい‥‥ありがとうございました」
深々と頭を下げるミレーヌ。
そしてそのまま受付を終えてチケットを手にすると、二人は外で騒がしく話しているマチュアの元へと歩いて行った。
‥‥‥
‥‥
‥
一方、外のお騒がせマチュアはというと。
先頭車両に連結している魔導機関搭載の駆動車両。
その横に立って、マチュアはじっと車体を眺めていた。
『ピッ‥‥解析完了。データを深淵の書庫へと送ります』
次々と脳内処理するマチュアだが、入ってくる情報は今までマチュアの知らなかったもの。
「へぇ。基本設計はSL機関車と同じかぁ。動輪が2×2でテンダー(炭水車)もついている‥‥D型かぁ。でも石炭じゃないから、何を燃やして‥‥火属性魔晶石? へぇ‥‥」
失われていたマチュアの『男の子回路』が炸裂中。
魔導機関車は、一般的な原理は地球のSLと同じ。
燃焼機関は魔導式で、燃料は火属性の魔法石を使用、それをボイラーで熱して水蒸気を発生させ、それでシリンダーを回すという極めて簡単な原理である。
だが、形状は流線形であり、随所に魔力をコーティングした強化装甲が張り付けられている。
「へぇ、お嬢ちゃん、ずいぶんと詳しいなあ。魔導技師かなにかかい?」
あまりにもマチュアがキラキラとした目で見ているので、機関士も気になって窓から話掛けて来た。
「いや、私は錬金術師でね」
「へぇ。魔導工場では男の錬金術師はよく見かけたけど、女性の錬金術師は珍しいねぇ。旅行かい?」
「そ。帝都までね」
「そうかそうか。帝都にいくのなら、魔導工場を見学するといい。田舎では見れない貴重な魔道具が集まっているからな」
「そ、それはまた‥‥好奇心をくすぐりますねぇ」
ざわざわッと体が震える。
そしてしばらくは魔導機関車を眺めていたマチュアだが、アーカム達がやって来るとすぐに車両に乗り込み、束の間の旅行を楽しむ事にした。
申しわない、タイムリミットです。
半ば半分しかできていませんが、続きは木曜日にきっちりと仕上げますのでご了承ください
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






