表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

594/701

微睡の中・その4・港町シェイエンの隣の領地

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 平原都市・シトローン。


 港町シェイエンから馬車で6時間の小さな街。

 辺境男爵と呼ばれているコユキ・オオユキ男爵の領土にして唯一の都市。

 特に大した特産物も観光資源もなく、更には見通しの良い平原ゆえ魔物まで姿を現さない程の辺境領土である。


 帝都からやってくる定期馬車も年2回程度、商人達がこぞって来るほどの特産品もなく、それ故に物流もそんなに頻繁に行われてはいない。

 シトローンの特産品は、特に変哲のない麦。

 この街が胸を張って自慢できる唯一の特産品であり、どこにでも溢れている帝都の過剰在庫の一つでもある。

 それでも都市はそこそこに活発であり、人々は不満なくのんびりと暮らしていた。


 そう、人々は。

 この平原都市一帯の領土を任されたオオユキ男爵は、元々は帝都中央では飛ぶ鳥を落とす勢いの新進気鋭の貴族であった。

 自らの力を主張するために周囲に大量の金をばらまき、見栄の為に商人からツケで様々に美術品を購入し、己の懐の深さを知らしめるために連日パーティーを開き、大勢の貴族や商人を招き入れていた。


 元々の彼の領土は3等級と呼ばれる区画であり、税率もそこそこに抑えてあった。

 だが、己を強く見せるために浪費した金を回収するために、彼は税率を上げて民から徴収を始めた。

 『贅沢税』という、買い物にかかった金額にさらに30%の税金を付加する条例を施行し、帝都内では無税であった領都へ入るための『通行税』も施行。

 領内にある大樹教会への寄付金を減らし、更に商人が領内で物品を販売する時に徴収する『販売税』も引き上げた。

 

 結果として領都内の人々の暮らしは貧しくなり、中には領内から夜逃げして近隣の男爵領へと避難する者まで現れた。

 当然、領内の帝国市民の流入などは貴族院がしっかりと管理しているので、すぐさま流出元となったオオユキ男爵の下に視察が入った。

 

 結果、数々の不正が発覚し、オオユキ男爵は3等男爵から10等男爵に格下げとなり、領地も国境沿いにある僻地へと移されてしまった。


 そして彼は考えた。

 いつか、力を付けて中央に戻ると。

 この地はそれまでの踏み台であり、民はオオユキを中央に送るべく頑張るものである。

 そう考えてはいたものの、監視としてついて来た監察官の目が厳しく、オオユキはじっと我慢の生活を送っていた。

・・・・・・・・

‥‥‥

‥‥


「な、何だってぇぇぇぇぇぇぇ」


 静かな朝。

 のんびりと朝食を取っていたオオユキの下に届けられた一通の報告書。

 そこには、先日、シェイエンを襲ったブロンズドラゴンが討伐されたという報告が記されていた。


「ち、ちょっと待て、ここに書かれているブロンズドラゴンとは、竜遺跡の主のことか? あれは人間の手では討伐不可能だといわれているのだぞ」

「おっしゃる通りです。ブロンズドラゴンは飛竜種であり、弓矢などでなくては倒す事が出来ません。ですが、あの鱗を貫く矢など存在する筈がありません」

「そ、そうだ、そうだろうさ。しかし、ここにはしっかりと討伐と記されている。カルロス、あの女はどうやって倒したというのだ?」


 傍らに立つカルロスという壮年の執事にオオユキは問いかける。

 すると、カルロスはウンと頷いて話をつづけた。


「ドラゴンスレイヤー・ミレーヌではありません。噂では流れの剣士と聞いております。名前はたしか‥‥マチュアとか」

「流れの剣士だと!!」


 バン、とテーブルを叩いてオオユキが立ち上がる。


「よく見つけたカルロス。すぐに冒険者ギルドに依頼を出せ!!」

「依頼‥‥ですか?」

「そうだ、ブロンズドラゴンの討伐依頼だ、指定依頼でそのマチュアを指定しろ!! それが受理されたら、すぐに依頼書をここに持って来い!!」


 パチンと指を鳴らすオオユキ。

 するとカルロスはすべてを察したのか、頭を下げて部屋から出ていった。


「よーしよしよし、俺にも運が回ってきたぞ。依頼さえ成立させれば、後は俺の能力でどうとでも出来る!! これで俺はブロンズドラゴンを退治した剣士の雇い手としてその功績を手に入れる事が出来る!!」


 大手を振って喜ぶオオユキ。

 彼の持つユニークスキル『書き換える力リライト』は、あらゆる文章の内容やサインを自在に書き換える事が出来る。

 それも、一度でも見たことのある文字に自由に書き換えられるものであり、これによって冒険者ギルドに提出した依頼書の日付を数日前に変更できれば、マチュアはオオユキの依頼でブロンズドラゴンを討伐した事に出来るのである。

 それはすなわちオオユキの手柄となり、中央復権間違いなしの手柄となる。


「はははっはっはっはっ。これでようやく、こんな辺境ともおさらばだ‥‥ははっ‥‥はっ‥‥はーっはっはっ」


 声高らかに笑うオオユキだが、やはりツメは甘かった。


‥‥‥

‥‥


 シトローン中央街区・冒険者ギルド

 

 カルロスはオオユキの依頼でブロンズドラゴン退治の依頼書を作るため、冒険者ギルドマスターの部屋にやってきていた。


「‥‥まあ、事情は理解している。俺もあんたの所の親方と同じ罪で、一緒にここまで飛ばされた口だからなぁ」


 冒険者ギルドマスターである彼、フィルド・ミニックもオオユキと共に地方に左遷された一人である。

 ゆえに、自分の下に登録している冒険者が手柄を立てたとなると、彼自身もオオユキとともに中央に戻る道があるかもしれないとカルロスに話を持ち掛けられている。

 だが、実際はそれ程簡単なものではなかった。

 なぜならば。


「そのマチュアとかいう剣士なんだが、どこの冒険者ギルドにも登録されていない。つまり、彼女のサインはどこにも存在していないから、依頼書を偽造する事が出来ないんだよ」

「は、はぁ? では、その人はフリーでドラゴンを倒したという事ですか?」

「そういう事になるんだよなぁ‥‥」


 そんな馬鹿なとカルロスは問いかけた。

 大抵の冒険者は、どこかの道場や腕の立つ師匠に師事して腕を上げるのが通例である。

 そして一定の腕前になると冒険者ギルドに登録する事が出来、そこでいくつもの依頼をこなしていって腕を磨いていくものである。

 だが、今の話から察するに、マチュアという剣士の師匠が誰なのか、そしてどこで修行したのか、その流派すらまったく予想がつかないのである。

  

「では、この策は実現不可能ということですか」

「いや、そのマチュアとやらが冒険者ギルドに登録してくれればいい。腕の立つ剣士なら、生計を立てるためにはどうしてもギルドに登録しないとならないからなぁ‥‥」


 フィルドには勝算があった。

 先程の話からマチュアは必ず冒険者ギルドに登録する筈だと。

 そうすれば、登録リストはすべて『名簿』という魔道具に自動的に登録される。

 それさえ見る事が出来れば、あとはオオユキの能力で文字を写しとる事が出来る。

 あとは計画通り。


「ま、後は時間の問題だ。冒険者ギルドは全ての町に存在するんだから、どこかの町で登録するだろうさ」

「そうですな。出来れば早い方がよろしいのですが‥‥」

「そう言われても、こればっかりはなぁ‥‥」


 腕を組んで考えるカルロスとフィルド。

 作戦としては待ちの時間が多くなってしまう、その事をどうオオユキに伝えるべきか。



 〇 〇 〇 〇 〇


 

 シェイエンの隣・シトローンとは反対側に位置する山岳都市・キリマン

 

 ここの領主は、シトローンのオオユキとは全く別の理由でこの山岳都市を統治していた。

 不正により地方送りになったのではなく、この険しい山脈こそ強い騎士を育成する場所であると、領主であるニュルンブルク男爵は自らの進退をかけて帝国騎士団長に直訴し、それが真実である事を証明する為に自らこの地にやって来たのである。

 事実、この山脈には古代遺跡がいくつもあり、魔法武具も幾度となく出土している。

 そして騎士達の修練場と名付けられた深い迷宮は、若い騎士達にとっての格好の訓練場となっていた。


「そ、それで、王室ギルドがその女を騎士団長に任命したいと申していたのか?」


 それはとある情報屋からもたらされた話。

 シェイエン郊外にいたブロンズドラゴンが、無名の女剣士に討伐されたという事実。

 そしてドラゴンスレイヤーの称号を辞退し、その代わりに第三騎士団の騎士団長に任命されるのではないかという噂が流れていたという事。


「はい。王室ギルド特使の方がおっしゃっていたそうです」

「馬鹿な、皇帝陛下は、この私におっしゃったのだぞ、第三騎士団長は、このキリマンにて実戦を経験した騎士に与えるものとすると」

「ええ。ですが、その期限は間もなくです。今まで、この試しの迷宮の最下層まで到達した騎士は一人もいないではないですか」


 そう問われて、ニュルンブルクは拳を握る。

 確かに、第三騎士団設立までに、騎士団長にふさわしいものを選出せよといわれていた。

 だが、皇帝から告げられたレベルまでは、未だ到達する者はいない。


「ううむ。し、しかし、試しの迷宮の奥にいるドラゴン、あれを倒せなくては‥‥」

「では、それを倒せる武器があればよいのですね?」

「ミレーヌの持つ剣か。あれは主を選ぶというが」

「いえ、その無名の剣士の持っていた武器。それもまたドラゴンスレイヤーらしいのです。それが手に入れば、あるいは‥‥」


 悪魔のささやき。

 そしてニュルンブルクは、男の奸計に乗ってしまった。


「な、なら、その剣を手に入れるのだ!! 経費はいくら掛かってもかまわぬ」

「かしこまりました。それでですね。その剣士の処遇につきましては」

「儂は知らぬ。まあ、いないほうが都合は良い、好きにしろ!! 」

「御意‥‥」


 話はそれで終わった。

 男はすぐさま裏稼業の冒険者を雇い入れ、マチュアの下に送り込んだ。

 その後どうなったかは、ご存じの通り‥‥。

  


あ、あれ、マチュアの出番がない?

ということで、誤字脱字の報告ありがとうございます。

指摘の部分につきましては、都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 2シリーズ絶賛発売中 ▼▼▼  
表紙絵 表紙絵
  ▲▲▲ 2シリーズ絶賛発売中 ▲▲▲  
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ