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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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微睡みの中・その2・港町シェイエンとドラゴンスレイヤーと

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 人口12800人、弧を描くように湾曲しているリトリート湾のほぼ中央に港町シェイエンはある。

 歴史的にも、この町は帝都ができた時代、今から800年前には既に地図自体には存在していたが、その当時は町などど呼ばれる程大きくもなく、常に大自然の脅威と戦い続けていた。

 その大自然の脅威の一つである古竜の巣は、リトリート湾北方にある高台、その更に奥に広がる大森林の中央にある古竜遺跡にある。

 そして古竜とシェイエンの領主との間では、古い協定が結ばれていた。


 年に一度、16歳の処女を生贄に捧げよ。

 さもなくば、シェイエンは炎に焼かれるであろう。


 それは古い古い言い伝え。 

 だが、歴代シェイエンの領主はこの約束を忠実に守り続け、今のシェイエンの基盤を作り上げた。

 結果として、この町はイスフィリア帝国東方では最大規模の貿易都市として栄える事に成功した。

 したのだが。


 現領主であるコントラ・グレイザー男爵は、この古い慣習に終止符を打つべく、一計を案じた。

 それは、生贄の乙女とともに捧げられる様々な食材、その中に強力な睡眠薬を混ぜた酒を混ぜておいて、ドラゴンが酒に酔って眠った隙に討伐してしまおうと計画したのである。

 しかも生贄の乙女は、近隣の冒険者ギルドでは有名な『竜殺し』の称号を持つ女剣士ミレーヌ・バクレン。これだけのお膳立てをしておけば、ドラゴンになど負ける筈がないとコントラはふんぞり返りそうになりつつも、万が一の為に町の皆に対してお触れを出していた。


『 竜降臨の儀式の日、町の者は家から出ないように 』


 そのお触れを見た人々は、儀式の日には家から出ないようにしていたのだが、何しろ相手は伝説の竜。ほんの僅かでも竜の素材が手に入れば一生遊んで暮らせるかもしれないと、欲に煽られた者たちが儀式の祭壇近くに隠れていたり、竜の最後を見届けたついでに素材が手に入ればなぁと町の人々も隠れていたりと、一部では収拾がつかなくなっていた。

 

 それでもどうにか騒ぐことなく儀式の夜を迎えたのだが。


――ブワサッ、ブワサッ

 満月の夜。

 遺跡を飛び出したブロンズドラゴンは、町の中央に作られた儀式の祭壇まで飛来して来た。

 既に祭壇にはフードに身を包んだ女剣士が、愛用のドラゴンスレイヤーを忍ばせて貢物である食材などと一緒にじっと待機していた。後は竜が着地して酒を飲んだ時に行動を開始する。

 そんな手筈であったのだが、ブロンズドラゴンは賢かった。

 そして、とんでもなく鼻が利いていた。


『お、おおお? なんだ今年のいけにえは阿婆擦(あばず)れではないか、男の匂いが体中に染みついているぞ、どこの誰とわからぬ男に抱かれた阿婆擦れが、まさか処女とはいうまいなぁ!!』

「ふざけるな、誰があばずれだっっっっっ。こう見えても体を許したのは今の彼氏だけだ!! たかがドラゴン風情が人を男癖の悪い女みたいに言いやがって!!」


 バッとフードを外してドラゴンスレイヤーを構えるが、残念ながらブロンズドラゴンは上空でホバリング中。いくら必殺の武器があろうとも届かなくては何の意味もない。


『ふはははははは。領主よ。長年の盟約を破ったのだな!! ならば、この町の住人はすべて我が糧となってもらおう。われら竜族をたばかった罪は、万死に値すると思え!!』


 すぐさま上昇を開始するブロンズドラゴン。

 そして口の中に魔力を集めると、一直線に溶岩流のブレスを放出した。

 超高温のマグマにより、建物は次々と燃え上がり、人々は逃げ惑う事となってしまった‥‥。


‥‥‥

‥‥


「という事なのですよ、はい」


  シェイエンにある商業ギルドのギルドマスターであるカルド・ゾーニックが淡々と説明している横で、マチュアはティータイムの準備を始めている。

 もっぱら話を聞いているのは合流したアーカムの仕事であり、マチュアはマルムティーとティラミスを人数分用意してテーブルに並べている所であった。

 ようやく事の顛末を話し終えたカルドは、傍らで待機していた商工会議所のお偉いさんなどを紹介しつつも流れている汗をぬぐうので必死のようである。


「成程ねぇ。それで、領主としては作戦が成功して町を救った英雄になりたかったのですね? それで陞爵を狙っていたとか」

「はい。功績を上げて陞爵されれば、帝都近くのもっと豊かな領地を任される事にも繋がります。と、その質問から察しますに、お二人はこの国の方ではないのですね?」

「ええ。私たちは海の向かう、アドラー王国のある大陸からやってきました。ですので、この国の事情についてはあまり詳しくないのですわ」

「そうでしたか。では簡単に説明してあげますね‥‥」



 そこから淡々と話が行われた。

 イスフィリア帝国は、まもなく建国1000年を迎える超国家である。

 歴代王家のものはみな、伝説の『魔術』を使える血筋であり、王位継承権はより強い『魔力』を有するものが第一継承権を持つことになる。

 長い年月の果てに、王家の血筋である公爵家やその娘たちの嫁ぎ先である侯爵家・伯爵家などにも魔術師としての血は受け継がれているのだが、王位を継承するほどの強い魔力はそうそう公爵家以外からは生まれて来ないらしい。

 結果としてイスフィリア帝国は、一つの血筋によって長年支配されてきた国として繁栄を続けて来たのである。

 

 このイスフィリア帝国は帝都を中心に放射状に領土が広がっている。

 全ての領土は綺麗に区分されており、帝都に近い程大樹の加護は強く豊かな土地であるらしい。

 それゆえ貴族達は功績を積み陞爵(爵位を上げる)する事で、より帝都に近い領土へと移る事が出来るのである。

 マチュアやアーカムの常識では、一度与えられた領土をよそに移す事などありえないのだが、この世界、この帝都ではそれが当たり前になっているらしい。

 辺境に行けば行くほど開拓が遅れ、蛮族や亜人種、果ては魔物といった自然の脅威に晒されてしまう。

 その為貴族は、とにかく功績を上げる事と『他の貴族の足を引っ張る』事に一生懸命であるらしい。

 辺境の領主は開発に成功すれば功績として認められる。

 コントラが竜種退治に手を出したのも、それが英雄的行為であるからであり、中央政権に対してこれとないアピールが行える事を知っているからである。

 スモールドラゴンのような、全長5m程度の小型の竜でさえ、魔法が使えなくてはそうそう勝てる筈もなく、対抗手段が殆どない。唯一の対抗手段が、今は滅んでしまった古代魔法王国の遺跡などで発掘されるマジックアイテムであり、その中でも『スレイヤー能力付与』という武器については絶大な効果を発揮出来る者も存在し、スモールドラゴン程度なら十分に対抗出来る事もある。

 だが、ブロンズドラゴンともなると脅威どころの話ではない。

 それを退治しようという無謀な賭けに出て、コントラ男爵は失敗したである。

 せめて首だけでも手に入れてしまえば、後は自分が退治したとか適当な理由をつけて中央に報告すればいい。

 目撃者など金を掴ませてはいおしまい、言うことを聞かなければ捕らえて強制労働というのが道筋であったようだが、まさかのジャッジメントの判定でコントラの野望は潰えてしまったのである。



「という事だって。話の筋から察する所、このままだとマチュアがイスフィリア帝国最強のドラゴンスレイヤーっていう事になるわね。この後の展開はどう見るのかしら?」


 ギルドマスター関係者、そしてアーカムにティーセットを差し出しているマチュアにアーカムが問いかけるが、マチュアはニイッと笑って。


「一つ、私がコントラに雇われた冒険者という事にしてくれないかと頼まれる。そしてコントラは陞爵して内陸に移り住む、私は報酬を得るっていう筋書き。次に二つ目、私を亡き者にして手柄を奪い、コントラは本来の目的を遂行する。まあ、これは悪手だろうけれどね」


 淡々と説明するマチュアに、アーカム以外の全員は目を丸くしてしまう。

 何故そんな発想になるのかという疑問もあるのだが、今は黙って話を聞いている事にした。


「そして三つ目。ここの情報を聞きつけた近隣他領の領主も私にすり寄ってくる、作戦的には1と同じだけど相手が変わるだけね。さあ、どれがいい!!」


 笑いつつ呟くマチュアだが、アーカムは、遠くから駆けてくる重量感のある足音に気が付いていた。


「じゃあ、その4。あんたと私、どちらが本物のドラゴンスレイヤーか勝負だ!! というのは?」


――ガチャッ

 アーカムが告げた直後、部屋の扉が勢いよく開かれて一人の女冒険者が部屋に入ってくる。

 そしてマチュアを見つけると、いきなり腰に差していた剣を引き抜いてマチュアに向けた。


「私の名はミレーヌ・バクレン。貴方と私、どちらが真のドラゴンスレイヤーか勝負して貰いたいのです!!」


――ブッ!!

 その一言で、飲みかけていたマルムティーを噴き出すマチュア。


「なんだ、誰かと思ったらミレーヌか。今は大事な話をしている所だ、それになんだね不躾に!!」


 ギルドマスターがミレーヌを窘めると、さすがにバツが悪かったのかミレーヌは軽く頭を下げた。


「す、すいません‥‥ですが、これだけははっきりと白黒つけたかったのです。私はイスフィリア帝国王室ギルドから、直接ドラゴンスレイヤーの称号を受けました。ですが、その私が手も足も出なかったブロンズドラゴン相手に、その女は一撃で首を切断したのですよ!! ならば、私とその女、どちらがイスフィリア帝国のドラゴンスレイヤーなのか称号を賭けて勝負したいのです!!」


 身振り手振りを交えつつ熱く語るミレーヌ。

 だが、マチュアはそんな彼女の言葉に耳を貸すことなく。


「私は、そんな称号いらないから勝負もしないよ。それでいいでしょ?」

「そ、そうはいかないわ。先日のあの戦いで、貴方がドラゴンを一撃で屠ったのは間違いない事実、大勢の目撃者もいるのよ。そんな状況で貴方が勝負をしなかったとしても、貴方がミドルドラゴンを倒した真の英雄という噂は既に流れ始めているのよ!!」


 必死に食い下がるミレーヌ。

 彼女自身がドラゴンスレイヤーであるという事実は覆すことはできない。

 だが、この国においてドラゴンスレイヤーの称号は一人にだけ与えられる。

 そしてマチュアは、ミレーヌでさえ討伐できなかったミドルドラゴンを一撃で倒してしまったのである。この事実が帝都にある、称号を管理している王室ギルドに伝えられれば、彼女の称号は剥奪されマチュアに与えられてしまうだろう。


 この国において、スレイヤーの称号を持つものは伯爵位と同等の権力を持つ。

 ミレーヌはその地位を失いたくはなかった。

 だが、そんな事情など知らないマチュアは、やれやれというポーズをとって一言だけ。


「それで、私が勝ったらあなたはどうなるの?」

「な、何、勝負をしないうちから勝利宣言ですか!! いいでしょう、そこまでの自信があるのでしたら私としても願ったりかなったりですわ。今から決着をつけようじゃありませんか」


 マチュアの言葉を挑発と見たミレーヌだが、マチュアはそんな意味で問いかけたのではない。ないのだが、やっぱり聞き方が悪いとアーカムは思っていた。


「はぁ。これはマチュアが悪いわよ。素直に勝負して来てあげなさいよ」

「えええ、私何かおかしいこと言った?」

「なんで交渉の最中に、自分が勝つこと前提で話をするのよ馬鹿たれさん。いい、いくら実力ではあなたが上だからって、相手を見下したような話し方をしてはダメよ!!」


 いや、アーカムのその言い方にも棘があると思うのだが、傍らで聞いていたミレーヌは耳まで真っ赤になって部屋の外へと向かう。


「い、いいでしょうついて来てください!! 大衆の前で赤っ恥を掻かせてあげますから!!」


 吐き捨てるように叫んでどしどしと階段を下りていくミレーヌ。

 その姿を見てマチュアはがっくりと肩を落としてしまっていた。


「あ~、なんだろうなぁ。私は別に称号なんて欲しくないんだけどねぇ」

「仕方ないわよ、とっとと終わらせて話の続きをしましょう」


 そんなことを話しつつ、マチュアとアーカムはミレーヌについていく事にした。



あれれ、おっかしいなぁ。

概略で行こうとしたのに、普通に書いているぞw

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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