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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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剣聖の日常・その16・賽は投げられたが落ちてこなかった

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 ソラリス連邦の使節団がやって来た翌日の正午。

 6大王家の統治する王都では、次々と異変が起こっていた。

 

 最初に起こったのは、酒場や冒険者ギルドでの小さな小競り合い。

 やがて小競り合いは建物の外へと広がると、さらに近隣であらかじめ待機していた『ソラリス連邦にやとわれた暴漢』や、奴隷契約をして行動を束縛されている『ソラリスの奴隷戦士』たちにまで広がる。

 そうなると奴隷や暴漢たちは好き勝手に暴れだす始末、町中にも拘わらず大規模破壊魔術やコンバットアーツを好きなだけぶん回していく。


 暴漢も奴隷も犯罪によってソラリスに拘束された者たちばかりであり、この作戦が成功したら無罪放免、奴隷解放という契約を施しての大暴れ状態である。

 当然ながら各都市の自警団や騎士たち、そして在住冒険者たちも暴動鎮圧を開始するのであるが、片や制御の外れた暴徒たち、片や都市を守るために攻撃手段に制限のある者たちとなると、鎮圧に時間がかかるのは当然である。

 そして、ソラリスの使った手はこれだけではなかった。



‥‥‥

‥‥


――ミスト連邦・王都王城

 

「魔法兵団の出撃要請を!! 何故今になって北方からの襲撃があるのよ!!」


 王都内部でのクーデターについては、幻影騎士団が既に調査を終わらせており、各都市に対して報告は上げられていた。

 問題はその規模、幻影騎士団が調査をしていた数のおよそ5倍の規模でクーデターは発生していた。

 そしてミスト連邦では、北方大陸から飛来したドラゴンの群れが、海岸から王都に向かって進軍を始めている。


 ミストの指示で、王都城塞にある『竜抵抗の宝玉』が始動すると、竜たちは上空をぐるぐると旋回し、魔法による攻撃が届かないところでじっと睨みを利かせている状況である。

 市民たちは、都市内のクーデターに怯え家に籠もると、いつ結界が破壊されるのかと不安に陥ってしまっていた。



「‥‥シルヴィー、あなたの予想よりもかなり大規模な侵攻のようだけど。それに竜族までやって来ているわよ? これってソラリスの作戦なのかしら?」

『ううむ。敵の行動が予想以上になっている、というよりも、こちらの対策まで読まれているとしか思えないのぢゃが。ミスト殿、ドラゴンについては妾の方で何とかしてみようぞ』

「あら、そっちは任せていいのね。ではお願いね」


 遠話の水晶でのやり取りの後、ミストはドラゴンについては結界の維持を最優先に留め、残りの戦力を全て暴徒鎮圧に回す事にした。



――ラマダ王国・王都王城


「はぁ。ミストの所はドラゴンの飛来で、こっちは魔族化かよ‥‥」


 王座でどっしりと座っているライオネルの下に、次々と報告書が届けられる。

 そりらは暴徒による破壊活動と、それを鎮圧したという報告が記されていたのだが、先程から届いた新しい報告書には信じたくない一文が記されていた。


『奴隷たちが魔族化し、人々を襲い始めている。魔法もしくは魔法の付与された武具でなくては止める事は出来ない』


 人間が突然魔族化する、そんな馬鹿な話があるものかとライオネルは立ち上がるが、すぐに孔明がセンスで手をポン、と叩く。


「私のいた大陸の中央には、古い魔族の住んでいた都市が眠っているという話がありまして。その中に伝説的に伝えられているものですが、なんでも古い時代には人間を魔族化する薬が存在していたという話を聞いたことがあります」

「そんなものが存在するというのか?」

「はい。薬を投与されたものは、人間でいう心臓が魔人核というものに変化してしまいます。ですが、それは一時的な薬であり、投与された者は魔族化はしますが長く生きる事は出来ず‥‥」


 『魔人薬』によって魔族化したものは、早くて半年。長くても3年は生きられないという。

 中韓大陸に古くから伝わる言い伝え程度ではあるのだが、まさかソラリス連邦が中韓大陸にまで詳しいとは誰も思っていなかった。

 そして、ライオネルたちは予想よりも多い暴徒の鎮圧と、予定外の魔人対策に更に追われる事になってしまった。



――その他諸王国

 クーデータの規模は予想外の大きさであり、パルテノ王国領ではさらにアンデットの進軍も確認されていた。

 城塞都市はすべての城門を閉じてアンデットの侵入に対しての警戒を高めるのだが、城内では暴徒によるクーデターも発生しているためどうしても手が足りない。

 そもそも、こんなに大勢の冒険者や市民に変装していた奴隷、暴徒が突然都市内部に発生する筈がなかった。


 その種明かしは、ハルモニア教徒たちの持っていた『聖印』にある。

 あれを魔導士ベルゼが解析し、範囲内の大規模な人数を指定した場所に一瞬にして転送する事が出来るように改造を施したのである。

 魔人薬の調達についてもベルゼが手を回し、北方のドラゴンの群れや南方から上がって来ているアサシンの集団などは全て東方大陸のオネスティが関与している。

 あれだけマチュアにこってりとやられたために、直接手を出す事はなかったオネスティ。

 当然動いたのは下部組織である南方の『黒帽子』と呼ばれている奴隷商人たちである。

 全てはベルゼの持つ『英知の書』に記された作戦。

 そしてそれは今、成功に向かって着実に進んでいるように思われていた。



 〇 〇 〇 〇 〇

 

 

――ベルナー双王国、王都ベルナー


 他国に漏れず、ベルナーでもクーデターまがいの騒動は起きていた。

 既にそれらは過去形であり、暴徒の殆どは蜃気楼旅団によって完全制圧されている。

 これは英知の書によれば不可能であったはずだが、亜神である十四郎の動向までは英知の書では知る由もない。結果として、十四郎が中心となって情報を集めだし、ベルナー王都でのクーデターは完全に失敗してしまっていた。



「こ、こんな筈がない‥‥急ぎシルヴィーを堕としてしまわなくては!!」


 町で起こった喧騒が落ち着きを取り戻した頃、ウェンリー侯爵は自身の作戦を完遂する為にベルナー王城へと向かって行った。


「ソラリス連邦のウェンリーである。シルヴィー女王との謁見を申し込みたい」


 堂々と門番に告げる。

 既に門番もウェンリー侯爵の魔術によって傀儡となってしまっていた為、そのまま門番は疑う事なくウェンリーを謁見の間へと案内していった。


――ギィィィィィッ

 重い音が響き渡り、ゆっくりと扉が開かれる。

 襟を正してウェンリーが室内に入っていくと、王座にはシルヴィーが座って側近たちに指示を飛ばしているところであった。


「おや、ウェンリー侯爵、一体どうしたのぢゃ? 今は軍議ゆえ席を外してもらいたいのじゃが」


――ドシュッ!!

 ウェンリーはすぐさま切り替え式・魔力の矢(コンバージョンアロー)でシルヴィーの心臓を貫く。

 これで矢は二本目、好感度はかなり高くなっている筈である。


「何をおっしゃいますかシルヴィー殿、私とあなたの仲ではありませんか。その軍議、私も同席させていただいてよろしいですな?」

「はぁ? いくら隣国の侯爵家といえど、これはわがベルナーの問題、とっとと部屋から出るがよいぞ」

 

 うんうん。

 シルヴィーが自分を受け入れる光景を期待して頷いていたウェンリーだが、そのシルヴィーの言葉に一瞬沈黙してしまう。


「‥‥‥‥い、今、何と?」

「何ともかんともないぞ。ベルナーの問題に隣国の侯爵家で出しゃばる事はないと申したのぢゃが」

「で、ですが私とシルヴィーはもう恋人のようなものではないですか!!」


――カチャカチッカチャッ

 そう呟いた刹那。 ウェンリーの首元に黒い苦無を突き立てた十四郎の姿が浮かび上がる。


「魅了の矢とはまた面倒なものを打ち込んでおりましたなぁ。拙者、その魔法に興味があるでござるよ」

「な、何だ貴様は!!私とシルヴィーの事によそ者が口をはさむな!! 私を誰だと思って‥‥」


 そこまでで言葉は止まる。

 ウェンリーの背後からおびただしい殺気が感じ取れる。

 そしてカツーン、カツーンと足音が近づいてくるのがわかった。


――ゴクッ

 思わず息をのんでしまうウェンリー。

 そして恐怖に打ち勝つために自身に『精神強化』の矢を打ち込むと、ウェンリーはすぐさま振り向いて叫んだ。


「貴様は何者だ!! この私がソラリス隣邦の侯爵家の者と知っての狼藉か?」

「あー、お前こそ、人の嫁さん拐そうとして一体何者だぁ?」


 聖騎士モードのストームが、カリバーン片手にのんびりとウェンリーに向かって歩いて行く。

 そして左手を頭上でくるっと回すと、ウェンリーが打ち出した魅了の矢を実体化して放り投げる。


――カーン

 軽い金属音と同時に、ウェンリーの頬に冷たい汗が流れている。

 一体なぜ?

 この魔法は打ち込んだあとは魔力分解して証拠は残さない。

 効果は瞬時に発動して対象に留まるはず。

 それなのにどうして魅了の矢がこんな所に?


「そ、そんなものは知らない、俺はそんな矢など何も知らない!!」

「あー、すまんが。誰もお前がこの矢をどうにかしたとは言っていないんだが? ついでに言うとだな、シルヴィーには状態異常系魔術の類は一切効かないからな。世界最強の大賢者が作った腕輪があるからな。という事で十四郎、そいつから洗いざらい聞き出しておけ」


 そう呟くと同時に、ストームの姿が消える。

 そしてウェンリーの正面に現れたと思ったら、ウェンリーの体は胴体から真っ二つに切断されていた。


「妙技・断空斬・黄泉かえり‥‥って所か」


 胴体を真っ二つにされても、ウェンリーの意識は消えることはない。

 以前マチュアもやっていた、胴体を空間ごと真っ二つに切断し、それでいて感覚はすべて殺さずに接続している状態。

 その上半身を十四郎は担ぎ上げると、そのまま影の中へと消えていった。


「ふぅ。これで黒幕の一人は捕まえたと。それでシルヴィー、戦局はどうなっている?」

「かなりの被害者が出ているのぅ。一度ミスト連邦に向かってドラゴンを止めなくてはならぬし、諸国に幻影騎士団を派遣する必要もある。ここはウォルフラムと斑目で間に合うであろう?」


 そのシルヴィーの意見についてはストームも容認。

 すぐさま幻影騎士団と蜃気楼旅団が各地に派遣される事となったのだが、ベルゼの最後の仕掛けについては、ストームでも気が付く事はなかった‥‥。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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