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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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剣聖の日常・その15・ストームの決断と復讐鬼

最終章への布石です。

そして長かった『悪魔っ娘ライフの楽しみ方』とストーリーが合流します。


別途、現在では凍結されている『悪魔っ娘ライフの楽しみ方』は、後日ダイジェスト版を持って完結とさせていただきます。



 ソラリス連邦国・ソラリス王国王都・ゼノム


 王城執務室では、現王であるサクシード・デ・ソラリス12世が静かに執務を行っている。


「すべて順調か。ラグナ・マリア帝国の繁栄も後数日で終わる。この大陸の覇権は我がソラリス王家が握らなくてはならないのに、いつまでも邪魔な存在よの‥‥」


 ボソリと呟いた言葉。

 その言葉を肯定するように、傍らの椅子に座っていた魔導士が静かに頷いている。


「ラグナ・マリア帝国など、所詮は古くから繋がる勇者の血筋というだけではないですか。そもそも、そんな血筋など今となっては薄くなり、往年の勇者の力など微塵も残っていません」


 深くフードを被っている為、男の表情は見えない。

 だが、どっしりと落ち着いた口調には、どこか説得力のようなものが感じられる。

 もしもこの部屋に『魔力感知』を行える者がいたなら、男の発する言葉には魔力が込められていたのに気が付いたであろう。

 だが、ここは選ばれた者しか入室を許されていない

 そして魔導士は選ばれた存在。

 だからこそ、サクシードの下にやってくる事を許されていた。


「かつて、この大陸南方に君臨していたバイアス連邦は、己の実力をはき違えた皇太子の暴走により消滅した。ラグナ・マリア帝国は盤石なれど、それは外部からの襲撃に対してのみ。人間の、それも内部からの一斉蜂起に対しては対抗策は皆無に等しい‥‥そうであろう、魔導士ベルゼよ」


 ベルゼと呼ばれた魔導士は、クックックッと笑いつつフードを外す。

 銀色の仮面に顔を隠したベルゼだが、隙間から見え隠れしている肌は老齢のそれに等しく、ミイラのように細い腕には数多くの腕輪や指輪などの魔道具が装備されていた。


「ええ。その通り。私は先代大魔導士であるヨギ殿より全ての英知を授けられ、そしてハルモニアの奇跡を受け継いだ存在。この『英知の書』がある限り、我らの敗北はありえないでしょう」


 スッと差し出した手に浮かび上がる一冊の魔導書。

 それはセフィロト世界で魔人ボストンが使っていた『戦術指南書』や、ハルモニア女王フランシスカが用いていた『博識の書』と並ぶ異世界の魔術書と同じスキルである。

 ベルゼの用いた『英知の書』は、この全ての世界の根幹である『アカスティアの木』と接続して、確定した未来を少しだけ知る事が出来るというとんでもない書物である。

 もっとも、それだけの強大な効果故、一度に消費される魔力は魔人クラスでも足りなくなり、ベルゼでも『英知の書』の本当の効果を使った事はない。

 せいぜいが『戦術指南書』や『博識の書』と同じ効果を発現する程度に留めているのであるが『魔人』であるベルゼでもそれらの効果を発動するのには魔力が足りていない。

 そのため、さまざまな魔道具を用いて自身の魔力を増幅(ブースト)しているのである。

 だが、その代償として肉体が著しく老化しているのも理解出来る。


「ベルゼ殿の魔術は独特なのだな。ま、それが我々の勝利をもたらすものであるのなら問題はない」

「ええ、このように‥‥」


 ベルゼはゆっくりと英知の書を開く。

 

「魔導士ベルゼが問う。ラグナ・マリア帝国の、現在のソラリス連邦に対しての動きを示せ」


――ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 ゆっくりと英知の書が輝く。

 そして静かに魔法文字が綴られていく。


『六代王家のクーデター対策について‥‥』


 そう記された序文から始まった、今回のクーデターに対してのラグナ・マリア帝国の反抗作戦。

 だが、それは全て予見されていたものであり、ラグナ・マリア帝国がそう動く事でここから更にもう一つの作戦に移行するタイミングでもある。


『不確定要素‥‥ベルナー双王国女王シルヴィー・ラグナマリア・ベルナーの動向に対しては、竜の加護があるため読み取る事は出来ない。剣聖ストームは亜神ゆえ、英知の書による対象とはならない』


 その文章だけが不安要素。

 だが、それ以外はすべてベルゼの予見していた通りである。

 

「それでは、連絡員を通して第二作戦に移行することにしましょう。後はそうですねぇ‥‥ウェンリー侯爵の『切り替え式・魔力の矢(コンバージョンアロー)』でシルヴィーを堕としてしまえばいい。あの魔法は亜神でさえ抵抗する事は出来ません。そのように調整して作りましたから」

「ベルゼのスキル、『魔術創造(マギ・クリエイト)』は万能だな。まあ、それが私に向くことはないよう祈っている」

「ええ。それでは失礼します」


 首を垂れると同時に、ベルゼは部屋から消えて行った。

 そして残ったサクシードは深いため息をつく。

 

 皇太子であるロリエンタールはラグナ・マリア侵攻には大反対であった。

 その理由の一つが剣聖ストームの存在であり、かつてロリエンタールはストームに命を助けてもらった事がある。

 まあ、異世界の魔神ルナティクスを倒したというストームの強さに心酔したというのが実情ではあるが、ロリエンタール自身はラグナ・マリア帝国とは友好関係を結ぶべきだと考えていた。

 だが、意見の食い違いによりロリエンタールは王城内に軟禁状態となり、自由に部屋から出る事は出来なくなっている。

 

「ロリエンタールよ、王というものは私情に左右されてはいかん。民があってこその国、その国を豊かにする為には、今まで通りのやり方では発展は望めないというのがわからないのか‥‥」


 まるで自身に言い聞かせるように呟くサクシード。

 そして頭を左右に振ると目の前に置かれている決裁書に目を戻す事にした。



 〇 〇 〇 〇 〇



 順風満帆。

 魔導士ベルゼは廊下を歩きつつ、仮面の下で即微笑んでいた。

 かつて破壊神ナイアール復活のために尽力した魔人ブライアン。その彼と行動を共にしていたマスター・ヨギの一番弟子であるベルゼは、自身から全てのものを奪い取ったマチュアとストームに復讐すべく、この地に降り立ったのである。

 もっとも、そのマスター・ヨギは現在もどうにか生き延びてグランアークに滞在。

 中国上層部と手を組んで、フェルドアースを監視する立場をとっているのだが、その正体については中国主席以外は誰も知らない。

 ベルゼ自身もグランアークの魔界に戻る為の力を失い、ヨギとの連絡も出来なくなっていた。

 そして破壊神が滅びた事、ブライアン麾下が全滅したとの報告を受けて、ヨギもまたマチュア達によって滅ぼされたと信じたベルゼは、マチュア達に対しての復讐を開始したのである。


 それは長い時間をかけての復讐。

 グランアーク式広範囲殲滅魔法陣、その構築の為に全てを掛けた。

 ハルモニアの女王を唆し、『魔術創造』のスキルを手に入れ、そしてラグナ・マリア帝国各王都にこっそりと仕込んだ魔法陣を全てリンクさせた。

 マチュアがいたらそれは不可能であったのだが、あらかじめ『英知の書』によってマチュア不在、そしてストームの動向を監視しつつ全てを準備した。


 後は、魔法陣を起動させる為の贄。


 六代王家すべてで同時多発するクーデター。

 これによって流れる血が1万人分。

 それで全ては終わりである。


 ベルゼは王城にある自室のベランダから空を見上げる。

 また彼の瞳には見えない、とてつもない力。

 それが広範囲殲滅魔法陣の発動によって、ゆっくりと軌道を変えてウィル大陸北方・カナン魔導連邦へと降り注いでいく。


 直径50kmもの巨大な隕石、それがカナンへと突き刺さったとき、この大地、いや、最悪星ごと消滅しかねない。


 それでもいい。ベルゼにとっては、こんな世界の命など塵芥でしかない。

 こんな巨大な魔法陣が発動した時、世界の神々が実力行使をするであろうか?

 いや、その力さえ今は失われている。

 ストームが新たな世界を作り出した事、その結果神々の力が大きく削がれているというタイミング。

 神々の動向については全ては記されていないものの、『英知の書』により全てのタイミングは記されている。

 後はそれを実行するだけ。

 それはあと数日以内。


‥‥‥

‥‥

‥ 

 

 神界・エーリュシオン。

 創造神の間では、ストームが椅子に座って一冊の書物に目を通している。

 この部屋の奥にある、他の神々にはアクセスする権限がない書庫に入り、ストームは一冊の書物を取り出していた。


『ほう、ストームよ、その書物に目を付けたか』

 

 椅子に座って本を開いたとき、ストームの脳裏にザ・ワンズの声が届いてくる。


「いや、あんなに堂々と、見て欲しいっていう感じでテーブルの上に一冊だけ置いてあったら見るだろうさ。それでザ・ワンズよ、あんたが滅びるのはいつ頃になる?」

 

 もし他の神々がこの言葉を聞いていたら、取り乱して原因を尋ねて来る事だろう。

 それがわかっていたからこそ、他の神々の入る事の出来ないこの部屋を選んでいた。


『何故それを?』

「この本に書いてあるだろうが。The・onesと破壊神は二つで一つの存在、それが二つに分かたれていてバランスが取られている。その片方が『消滅』したんだ、あんたもその内滅びるんだろうとな」


 確定した情報。

 その本には、神々の成り立ちが記されていた。

 The・onesとナイアール、もともとは一つの人間であり、そこから亜神となって世界を統べる神となり、そしてバランスを取るために二つに分かたれて世界の創造神の『一つ』となる事が許された。


 そのうちの一つが滅んだ以上、The・onesもいずれ滅びる。

 それを悟られたくないために、かの神は『中央神界』に引きこもった。

 その時、The・onesとしての力を二つに分け、それとなくわからないようにフィルターを掛けてストームとマチュアに『神々の祝福(ギフト)』として送ったのである。


『まあ、そうだな。儂ももう肉体としては意識はない。精神世界からの接続は可能ゆえ、ストームにこうして語り掛けているだけだ』

「それで、俺達にどうしろっていうんだ? 俺とマチュアを分断(・・)して、マチュアをあんたの作った結界の中に閉じ込めた。それもご丁寧に時間の流れの違う世界にな」


 ゆっくりと本を閉じて、ストームは問いかける。


『この世界の創造神、それをストームに託す』

「ふ・ざ・け・る・な。と言いたい所だが、あんたが消滅したらどうなる?」

『八人の管理神が代行としてこの世界に君臨するだけだが』

「まあ、今までとあまり変わらないという事は理解したが、それは正しい道筋じゃないな」

『うむ。なので、ストームには儂の跡を継いで創造神としてこの世界を管理してもらいたい。他の神々とは違い、正体と力を隠していれば人間と干渉するのも構わないぞ、創造神権限じゃし、ゼウスとかあちこちの神々も』

「あーー、わかったわかった、この件はこれでいい。それで本題だ。どうしてマチュアと分断した? ただ創造神を継ぐだけなら、べつにそこまでする必要はないだろうが」


 しばし答えが返ってこない。

 なのでストームは本をパラパラとめくっていく。

 そしてふと、とあるページで目を止めてしまう。


「一つの世界に二つの創造神は不要か‥‥それでマチュアをあの世界に閉じ込めたのか。でも、マチュアが破壊神となったらそれは‥‥って駄目か」

『うむ。儂とナイアールはもともと一つの存在。ゆえにバランスを取ってこられた。だが、マチュアとストームは、それぞれが創造神であり破壊神、つまり一つの神世界(・・・)を統べる神である。そのようなものが一つの神世界に二人いるだけでバランスは歪む。それにな』


 一拍置いて、The・onesは静かに一言。


『マチュアは間もなく、破壊神の神核を一つ得る。それでマチュアの持つ神核は4つとなり、体内にあるThe・onesの加護により完全なる破壊神となる‥‥その時、ストームとジ・アースのマチュアの体内の神核から『破壊神』の部分だけが抜き取られ、マチュアにすべて集まるであろう』


――ゴクッ

 思わずストームも息をのんでしまう。


「それでどうなる?」

『マチュアの体内にあるThe・onesの力が全て抜けてストームの下に集まり、ストームは完全なる創造神となる』

「そしてマチュアはその世界に幽閉して、出て来られないようにするっていう事か。あー、そうかそうか、八大神もこの件に絡んでいるだろう? あいつは本質バカだから、みんなの言う事を疑わずにほいほいとセフィロト世界に向かったんだろうさ」

『バカって‥‥素直といってあげてくれ。そのストームの意見については否定は出来ないが、万が一の破壊神覚醒を恐れての八大神の独断であろう事は理解出来る』

「ま、そうだよなぁ。それで、マチュアが破壊神となった場合、そこから出てきてここで共存は出来るのか?」


 返答がない。

 いや、The・onesも可能性から色々な事を考えている。

 一つの世界には唯一神は一人、その下にそれぞれの世界を統べる神がいて、さまざまな神がいて、そして亜神がいて人がいる。

 The・onesのいた世界はもともとは一つの神、それがThe・onesとナイアールに分かれただけでそのルールの範疇からは外れている。

 だが、ストームとマチュアは元々二人。

 なので、このルールには当てはまらない。


『不可能だ。が、ストームとマチュアが袂を分かつ覚悟があるのなら、それも不可能ではない』

「へぇ、それって難しいのか?」


――パラパラパラパラ

 ゆっくりと本が開いていく。

 そしてとあるページで止まると、ストームはそのページを読み始めて‥‥絶句した。


「い、いや‥‥そうか、そうだよなぁ‥‥」

『その方法しかない。そして真央()もそれなら納得する。そもそも、水無瀬真央に課せられた3つの世界を救うというのは、ここに終結する』

「あ、その話おれは知らんけど‥‥そういう事なのか?」

『ザ・アースを救い、セフィロトを救い、そしてわれらの世界を救う。これが成されたなら、全ては丸く収まるであろう‥‥』

「へぇ。まあ、それならそれで、『多世界の兼業創造神』っていうのも悪くはないからな。そんじゃ、この方法で進めていくわ」


 そう告げてストームはパタンと書物を閉じる。

 その瞬間、ストームの体内の神核が一気に覚醒した。

 全ての権限が解放され、そして‥‥The・onesは消滅した。


「最後まで俺達に気を使ってくれてありがとうよ。あんたの作ったこの世界、守り抜いてやるからよ」


 スッと拳を差し出すストーム。

 その先では、The・onesが拳を重ねたようにストームは感じた。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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