剣聖の日常・その13・そして時代は受け継がれる
レックス先帝の葬儀は、国を挙げて盛大に行われていた。
マチュア不在の六王会議の日。
早朝に、レックスがストームの元を訪れていた。
身体は間もなく終わりを迎える、後は全て任せたいと。
ならばと、ストームはレックスの魂を連れて六王会議に参加した。
ケルビムとパルテノだけはその場にレックスの魂がいる事に気が付いたが、残りの五王はレックスを見る事が出来なかった。
そして次代皇帝の話、隣国などの問題がほぼ何事もなく終わり、これで心置きなく逝けると思った矢先の、勇者ロットの話である。
ケルビムにとっても大切な事案、なら、それだけは見届けたいと二人について行く。
そして全てを見届けると、レックスはストームに連れられて転移門を潜った。
行き先は神界、もう戻る事ない旅路であった。
………
……
…
神界・エーリュシオン
八大神の神殿のさらに奥、THE・ONESのいた創造神の間で、ストームはのんびりと八大神と話をしている所であった。
「魂の修練、それはそのものの魂の資質を問い、その世界が存在し続けて良いかどうかを見極めるものだったな?」
「ええ。この世界は創造神と破壊神、二つの神によって管理されていたのよ。その二人の神が、世界が正しい道を歩んでいるのか確認するための儀式が『魂の修練』なのよ」
「それは以前、神様研修の時に説明しただろうが?」
秩序神ミスティと正義神クルーラーが返答する。
「ま、今の所はそれでいいか。それで、滅んだ世界の魂は冥界に送られる。そして、新しく世界が再生するまでは、魂は全て冥界に留められる、そして冥界は全て繋がっている。プルートゥ、これは合っているな?」
ストームの問い掛けに、プルートゥはカクカクと頷く事しか出来ない。
目の前のストームは、創造神・レベル1を解放して座っているのである。
「仰せのままですじゃ」
「それじゃあ聞くが、冥界はTHE・ONESの作った、この全ての世界と繋がっている、これは嘘だろ?」
「どどどどどどうしてそのような事ををををを、わらわ妾が嘘をもも申していると」
全身から汗が吹き出すプルートゥ。
はい、嘘ついてました。
ストームが自分の頭をトントンと叩いて一言。
「データはここにある。近所の創造神の作り出した世界とも一部繋がっているな、世界法則も何もかも違うにも拘わらず」
「あうあう……はい」
プルートゥ、諦めの境地。
「近所の創造神、あれは、魂の修練を終えて亜神化し、さらに準創造神まで昇華した人間の成れの果てだな?」
「う、うむ……じゃが言い訳させてくれ」
「あ、責めているんじゃないから言い訳は要らんよ。まずはそこまでの確認だ。次、THE・ONESの世界は今は8つと、マッチュの向かったセフィロト世界の10で合計18個。過去にはもっと多くの世界があったらしいが、それは滅んでから『新しく生まれた準創造神』に分与した。それも合っているな?」
──コクコクコクコク
その場の全員がコクコクとうなずく。
そこでストームは理解した。
「このエーリュシオンは、THE・ONESの全ての世界と繋がっている、言わば管理神を管理する為の世界でもある。当たりだろ?じゃなければ、あんたらの持つ権限が、他世界の神々よりも高い理由がない」
──コクコクコクコク
遂にバレたか、全員が諦めの顔をする。
神様研修でも説明していなかった部分、そしてストームとマチュアはTHE・ONESが目覚める迄の代行程度でしかないと考えていた神々は真っ青になっている。
「ま、引き続き頼むわ。さて、そんじゃプルートゥ、飽和した魂を送り出す準備を頼む」
「送り出すじゃと?一体どこに?まだ滅びし世界は再生を始めたばかりじゃが」
「新しく作るに決まっているだろうが。ということでこちらが本日のゲスト、ラグナ・マリア帝国先帝のレックス・ラグナマリア・キャラバンです」
ストームがそう告げると、彼の真横に若々しい姿のレックスが姿を現した。
「あ〜、ストーム、やっちゃったか〜管理神権限つけちゃったか〜」
イェリネックが遠くを見つめるように呟く。
「はっはっ。レックスを管理神まで高めたのか。これはいい、彼はよき正義を執行するであろう」
「ええ。秩序の神としても、彼の正しさは認めざるを得ませんから」
「武についても文句なし。勇者系身体強化術の正当継承者でもあったからなぁ」
クルーラー、ミスティ、セルジオも手放しで喜ぶ。
という事で八大神の四神までが認めたので、ストームは更にレックスの魂を引き揚げた。
「なあストーム殿、わし、この場で滅されるのか?」
ただ、レックスのみが今起こっている事態に付いて来られず、動揺しているようなので。
「あ、レックス、俺、実は創造神代行だから。そんでマチュアが破壊神な。なので、レックスは転生枠から外して亜神化し、更に管理神にした。そんでここからが本題だ」
その真面目なストームの言葉に、全員が息を飲む。
「世界を一つ追加する。他所に作るじゃなくて、ここに追加だ」
「「「「「「アホかぁぁぁ」」」」」」
「あ、良いね」
「宜しいかと」
天狼とアウレイオース以外のツッコミ。
だが、ストームは指を立てて左右に振る。
「その世界の管理をレックスに頼む、配下になる神々はこのエーリュシオンの亜神から適当に見繕ってくれ。カリス・マレスを纏め上げた手腕で、今度は一つの世界を管理してくれ」
「そういう事か」
「ああ。管理神になる為には勇者以上の気質が必要でな、頼むぞ」
とん、とレックスの肩を叩くストームだが、六人の神々が慌ててストームに駆け寄る。
「ストーム殿、いきなり世界を追加するなど危険すぎる‼︎次元回廊から虚無の世界へと渡り、そこに世界を作るのなら容認しますが、この我々の世界に一つ追加など不可能で……」
「いや、THE・ONESとナイアールの作った世界は全部で二十四、今残っているのは8つと10。外世界に移したのは4つ、まだ一つ分、余剰空間は存在するよな?」
そう問いかけるストームに、クルーラーもやむなく頷くしかない。
THE・ONESとナイアールの作り出した世界の許容量は24、マチュアの向かったセフィロトがそのうち10を使用しているので、実質14の余剰世界が存在する。
それは全て天狼が管理しているのだが、いつ創造神が戻り、新しく世界を生み出すと告げるかもしれないのでストームには告げられていなかった。
万が一にも、新たな世界が生まれるとなると、八大神の誰かが、その世界の創造神として遣わされるかも知れなかったから。
「天狼、新しい世界の創造を。世界空間を一つ解放してくれないか?」
「御意。全ては創造神様の命ずるままに」
「「「「「「待て待て待て待て‼︎」」」」」」
天狼とアウレイオース以外が止めに入るが、天狼は空を見上げてから何かを唱え、そしてまたゆっくりとしゃがみ込んだ。
「空間解放……あ〜、やっちゃったか」
イェリネックがボソリと呟くが後の祭り。
すでにTHE・ONES世界には、新たな世界を生み出すための空間が作り出されていた。
「さてと。俺の神威が何処まで使えるか分からないからなぁ……創造神の神威解放、リミッターカット、かーらーの『天地創造』っっっっ」
──キィィィィィン
ストームの全身が輝く。
そして体内の神威がごっそりと引き抜かれるが、ストームには手応えがあった。
新しく生まれた世界の手応えを。
「次っ、プルートゥは冥界の接続、エクリプスとクルーラーは生命創造、イェリネックとセルジオは生まれた種に加護を。世界の法則はミスティとゲゼルシャフトが行え‼︎」
ストームの命令で、神々の体が輝く。
そして各々が命じられた事を、神々は次々とこなして行く。
「天狼、世界の固定化を頼む」
「ファァァ。すでに終わらせてあるぞ」
「ありがたい。アウレイオースは精霊を生み出し、豊かな大地を」
「かしこまりました」
生まれた世界に小さな命が芽生える。
美しい植物が生まれ、猛々しい動物が大地を歩き出し、生まれたばかりの精霊たちが楽しそうに飛び回っている。
「これで良し。さてレックス皇帝……と、レックス、汝に新たな世界の管理を任せる。準創造神として、世界の管理神筆頭として新たな世界の名前を」
「私の作る世界なら、名前は一つだけ。新しい世界の名前は『ラグナマリア』です」
──キィィィィィン
刹那、レックスの身体が輝く。
すべての条件は揃った、後はレックスがラグナマリア世界に連れて行く亜神達の選抜を行うだけである。
だが、ストームの目の前では、グッタリと力を失った八大神が床に転がっている。
「おお、死屍累々」
「あのなぁストーム。新しい世界の創造がどうして行われなかったか知っているか?」
「知らん」
クルーラーの言葉にキッパリと告げるストーム。
「新世界の創造は、私たちの力も大きく奪って行くのよ。それが回復するまでは、THE・ONES様の世界は少し無防備になるのよ」
「他世界の邪神や魔神が目を付けて、新世界に乗り込んでくる。けれど、それを防ぐためには同等以上の神威を持つものが必要なのじゃ」
ミスティが、イェリネックが説明する。
「まあ、その時はマッチュが何とかしてくれるわ。正義の破壊神だからな」
「「「「「「人任せかよ」」」」」」
フルパワーでツッコミを入れる一同。
それでもストームは笑いながら。
「ま、何とかなるさ。それよりも協力ありがとうな。これで創造神も落ち着いて休めるだろうさ」
「あ、あれ?ストームは創造神殿が何処に居るのか知っているのか?」
クルーラーが問いかけるので一言。
「THE・ONESとナイアールの作った最後の世界『アカスティア』。これで24すべての世界になる。まぁ、その場所は八大神でも分からないだろうなぁ、という事で秘密だ」
カラカラと笑うストーム。
だが、その言葉で八大神は理解した。
ストームがTHE・ONESの命を受けて、新しい世界を作ったという事を。
そしてそれは事実であり、ストームもまた、新しい世界を一つ作って魂の拠り所となる場所と繋がるようにとお告げを受けたのである。
「そんじゃ、後は任せたからな」
そう呟いて、ストームは意識を失う。
一気に体内神威の殆どを失ったので、身体がもう自由に動く事が出来なくなったのである。
「はぁ。全くこの代行神殿は、何処まで規格外なんだかなぁ」
「そもそも天地創造は二つの神が行う儀式、それを単独で行うなんてどこかで歪みが出来そうよ」
「ま、それは我々の干渉する事ではないので、取り敢えずストーム殿を寝かせて来る事にしよう」
神々は笑いながらストームを寝室へと放り込む。
そして、自分達も神威の回復の為に、身体を休める事にした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






