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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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剣聖の日常・その12・勇者とロットと

六王会議も無事に終わり、諸王はそれぞれの統治する王領へと戻って行く。


そしてケルビムとレックス、ストームのみが会議室に残ると、レックスはケルビムに問いかけてみた。


「ケルビム皇帝、まだ皇帝の座を誰かに譲るつもりなのかな?」

「そろそろ歳でもあります。初代ラグナ直系であるレックス殿とは違い、わたしの血筋は一つだけ離れています。ならばこそ、今は若い者に後を譲るというのが道理では」

「そうなるか。ストーム殿はどう思う?」


話を振られたので、ストームは腕を組んで一言だけ。


「次代皇帝ならライオネル一択。ライオネルがいなかったらミスト一択だったがな。そう言えばミストとかパルテノって結婚していたか?」

「はっはっ。ミストは結婚しているし子供も二人いる。パルテノは大司教ゆえ婚姻はできないが、養子は三人いる。まあ、その子たちは相続権は持つが王位にはつけないがな」

「あ、それでパルテノは大司教を辞して後進にと話していたのか。そうすれば結婚して子供も成す事が出来ると」


これにはレックスとケルビムも頷く。


「ブリュンヒルデも結婚しているのか?」

「結婚して子供もいる。但し、夫は十年戦争期に竜族に殺されたがな……」

「そうか。なら、ラグナとマリアの血を残す事も前提とした考えが必要なのか」

「その血が色濃いのはアルスコットとライオネル、シルヴィーの三家になるな。アルスコットとライオネルは男ゆえ濃い血を残せるだろうが、シルヴィーは女性ゆえ……まあ、シルヴィーの子にはストームの血が入るので、剣聖の血を残す事が出来るか」

「血を残す事で、ラグナの何かが解消されるという事か」


その言葉で、ケルビムはレックスをチラリと見る。


「ラグナの血には、勇者の技が眠っている。代々男系血筋にしか目覚めない勇者系身体強化術エルド・ラン勇者系必殺技バリスティックソードの二つがそれにあたるのだが、女性直系にはマリアのスキルしか継承されないからな」

「となるとシルヴィーにもマリアのスキルがあるのか。しかし……その二つのスキル、本当にラグナ直系だけなのか?」


ストームの疑問はごもっとも。

幻影騎士団には、この二つのスキルを自在に使いこなすものが二人存在する。

一人はロット・シュピーゲル、そしてもう一人はガイスト。

何故この二人が使えるのか。


「それは事実。そして今使えるのはレックス先帝とワシ、そしてライオネルだけじゃな。アルスコットはまだこのスキルに目覚めていない」

「そうか。いや、幻影騎士団に二人ほど使いこなしている者がいてだなぁ」

「「何だと?」」


思わず前のめりになるケルビムとレックス。

もしもそれが事実だというのなら、そのものはラグナ直系の血を色濃く受け継いでいる事になる。

しかし、しっかりとした血統管理されているラグナ・マリア王家において、そのような見逃しなど存在する筈が。


「ん?」


あ、見逃しあったのね。

ケルビムが腕を組んで首を捻る。


「おいおいおいおい、まさかケルビムがどっかでこさえた子供とか言わないよな?」

「そんなはずは無いが……わしの孫娘が一人、王家のしきたりというか、とある貴族家との婚姻に嫌気がさして家を出てしまってな。這々の体で調べていたのだが結局見つからなかったのじゃが……」

「ケルビムの孫娘で家出したというと、セリーヌか。夫と二人で北方に駆け落ちしたのだったな」


へぇ。

そんな事があったのか。


「もしもそれが事実だとしたら、多分だがロットがその子供ににあたるんだよなぁ。けど、娘さんからは勇者系身体強化術エルド・ランとかは受け継がれないんだろ?」

「いや、ほんの僅かな可能性で覚醒する事もあるらしい……」

「へぇ。ま、ロットの両親に会えばわかるか。ちょいと聞いてくるわ」


そう告げて腰を上げるストーム。


「聞いて来ると?ストーム殿はロットの両親と会った事があるのか?」

「会うも何も、サムソンの住人でご近所だ。それじゃあ、何かわかったら報告するわ」


手をひらひらと振りつつ、ストームは銀の鍵を取り出してサイドチェスト鍛治工房へと扉を開いた。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



サムソン王都、馴染み亭


転移門ゲートを開いて帰ってきたストームは、真っ直ぐにロットの生家へと向かう。

ここからなら徒歩5分、実にご近所なのでストームも油断しまくっていた。


「その鍵は新しい魔導具か。何処にでも転移門ゲートを作れるのか?」

「マチュア殿が作ったと聞いてはいるが」


ストームの背後からケルビムとレックスの声が聞こえる。


「うぉあっ‼︎ あ、そうか扉は誰でも通れるんだったか…それでついて来たのか?」


その問いかけには、ケルビムは罰が悪そうに頭を下げる。

レックスはというと、そんな事気にする様子もなくサイドチェスト鍛治工房へと向かって行った。


「い、いやな、本当にセリーヌだったら、頭を下げて謝りたいのでな」

「ま。いいんじゃないか?とりあえずケルビムはフードを被って付いてくると良いさ」

「う、うむ……」


………

……


歩く事5分。

剣聖モードのストームと皇帝印の入ったローブを身に纏ったケルビム、実に目立つ。

まあサムソンではストームは普通にこの格好で歩き回っている事もあるので、それ程気にはならない。

ゆえに、ストームも今のこの視線が自分のものだと思い込んでしまい、まさか皇帝ケルビムに注がれていたとは思っていなかった。


──ヒュンッ、ヒュンッ

ロットの家の外、庭ではロットが素振りをしている。

そして、全身に闘気を纏い、両手はだらりと下げたまま、


「ふんっっっ、雷神剣っっっっっ」 


ロットが叫びつつ大地を凝視する。

すると突然、大地に亀裂が走り稲妻が吹き上がる。

ロットはその稲妻の中に手を突っ込むと、そここら一振りの剣を生み出した。


「はぁはぁはぁはぁ……で、できたのだ、勇者系必殺技バリスティックソード奥義の1、絶対無敵な雷神剣なのフベシッ‼︎」


──スパァァァァァン

嬉しそうに叫ぶロットの後頭部に、ストームが力一杯ハリセンを叩き込む。


「なんで休暇中に、街中で必殺技の特訓するかなぁ……お前アホだろ?」

「何だとっ……て、ストーム様、こ!これには訳があるのだ」


雷神剣を大地に突き刺し、ロットが頭を下げる。

するとストームも呆れたような顔で、


「その訳次第では、お前の異世界渡航回数券ツアーカード没収な。ほら、言ってみろ」

「じ、実は、最近の訓練じゃ物足りなく感じて、ひょっとしたらおいらには勇者の力が宿っているんじゃないかって思って……それで、ジ・アース時代の必殺技が使えるかどうか試してみたのだ」

「あー、成程な。それで出来たのか?」

「絶対無敵雷神剣は召喚できたのだ、でも、熱血最強五竜剣はまだまだなのだ……」


あ、お客様、それ以上いけないと思いつつ、ストームは頭をポリポリと掻きつつ。


「その前の体術系が出来ないと無理だな。闘気爆発・頑張牙はまだ未習得、しかも勇者系身体強化術エルド・ランの秘奥義、勇者装甲衣の実体化も出来ていない。という事で、二ヶ月間の渡航禁止な」

「ぬぁぁぁぁ、そ、それだけはご勘弁なのだ、来週はミアと映画を見にいくのだ」

「アウト。ついでにヴォルフラムにも伝えとくわ、ロットの訓練メニューのレベルを一つ上げるようにな」


へ?

一つあげる?


「ストーム様、それってどういう意味なのだ?」

「今のロットの訓練強度はAランク冒険者レベルに設定してあるだけ。ま、そろそろかなと思ったのでSに上げとくように伝えておくから安心しろ」


──ガクッ

震えつつ膝から崩れるロット。


「お、おいら強くなったと思ったのに……」

「いや、十分強いが、それだけじゃ駄目だな。訓練中は勇者系の技全て禁止な。基礎から作らないと駄目だ、そんじゃあな」


そう告げてから、ストームはロットの頭をポンポンと叩く。

そのまま玄関に向かおうとしたが、ちょうど玄関からミアとロットの母親であるセリーヌが姿を現した。


「何かロットが叫んでいるから、何かあったのかなーと思ったらストーム様でしたか、お疲れ様です」

「あら……ストームさん、いつも息子がお世話になってい……」


ペコリと頭を下げるミアと、同じように頭を下げようとして背後のケルビムに気がついたセリーヌ。


「……どうして……どうしてここに来たのですか、お爺さま」


震えつつもしっかりと告げるセリーヌ。

そしてケルビムもローブを外して顔を出すと、セリーヌに頭を下げた。


「セリーヌ、済まなかった……あの時のわしはどうにかしていたようじゃ……孫娘の幸せなど考えず、ただラグナの血を守る為だけにお前に無理強いをしてしまった……」

「……それで、ラグナ様の血を受け継いだロットを取り戻しにしたのですか‼︎」


キッ、とケルビムを睨みつけるセリーヌだが、ケルビムは頭を左右に振った。


「いや、ただ、セリーヌが元気だと聞いてな、一言謝りたかっただけじゃ。確かにロットには祖王ラグナ様の血が、技が受け継がれている。それは先程見てわかったのじゃが……」


そう告げてから、ケルビムはチラリとストームを見て。


「ロットは幻影騎士団所属の、シルヴィーの為の騎士。それをいきなり王家に迎えるなど言ったら、ワシがストームに殴られてしまうわ」

「ぷっ‼︎」


笑いつつ呟くケルビムに、セリーヌも思わず笑ってしまう。

そしてケルビムに近寄ってギュッと抱きつくと、静かに涙を流す。


「ごめんなさいお爺さま。私は、セリーヌは幸せになりました。王家の血に囚われることなく、一人の女として幸せになりました」

「うんうん。それでいい、それでいいのだ。王家の事は気にする必要はない。祖王の血はライオネルとアルスコットが護る。セリーヌは、ロットは今のままでいいのだよ……」


祖父と孫娘の感動の再会に、ストームはウンウンと頷きつつ二人に家に入るようにと勧める。

まだ玄関前の外、剣聖と皇帝という身分の二人が、市井の人の家の前で普通に話をして良い案件ではない。


後は家庭の問題と、ストームはその場を離れようとしたのだが。


「え?あれ?ストーム様、ロットのお母さんがケルビム陛下の孫?へ?ロットは皇太フベシッ」


──スパァァァァァン

軽く混乱しているミアの後頭部を、ミスリルハリセンでパシパシと叩く。


「国家機密ラインだ、それ以上は話さない事。まあ、混乱の外にいるあいつの相手でもしてやってくれ」


未だしょんぼりとして素振りをしているロット。

どうやら玄関先での話は彼の耳には届いていないようで。

すぐさまミアは頷いてロットの元へと駆け寄って行った。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「ケルビムの方は話が終わったぞ、帰らないのか?」


ロット宅を後にしてサイドチェスト鍛治工房へと戻ってきたストームは、大月が刀を打っている所を見学しているレックスに話し掛ける。

だが、レックスは大月の仕事ぶりに興味津々のようで、ストームが真横に来るまで気が付かなかった。


「おお、戻って来たか、それでどうなった?」


掻い摘んで説明するストーム、それを聞いてレックスもウンウンと頷く。

ケルビムの孫娘の件は、レックスも気に掛けていた案件だったらしく、無事丸く収まったと聞いてほっと胸を撫で下ろしていた。


「さて、そんじゃそろそろ行くか?これで心残りはないだろう?」

「そうだな。それじゃあ済まないが頼む」


ストームの問いかけに、やや悲しそうに告げるレックス。

そして二人は工房の中へと入っていく。

その姿を、大月は首を捻りながら見送っていた。


「ストーム、何独り言・・・を話していたんだろう?」


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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