剣聖の日常。その7・王城・イン・ジンブ
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八大神会議。
カリス・マレス世界の八大神及び冥府の神プルートゥを加えた9神による緊急会議である。
世界の存亡に関わる時にのみ行われ、その結果を創造神に報告し採決を下すというのが本来のこの会議なのであるが、今回は少し様子が違う。
創造神代行自ら下界の人間相手に戦闘を仕掛けるという事案である。
こんな横暴を許す事は出来ないというのが実情ではあるのだが、いかんせん相手は代行とはいえ創造神の力を受け継いでいる。意見具申するのが手一杯である。
「それで、ストームがハルモニアに手を出すという点についての意見ではあるが、賛成の神は手を上げてくれ」
――スッ
賛成派は武神セルジオ、魔神イェリネックの二人のみ。
「では残りは反対ということでいいのだな?」
「それは早急、ちゃんと反対も挙手してもらうべきですわ。という事で、反対の方は挙手をお願いします」
秩序神ミスティがそう告げると、ミスティと正義神クルーラーが挙手。
「ち、ちょっと待て、ゲセルシャフトとエクリプス、それと天狼、アウレオースはどうしたんだ?」
「んーー。ストームに逆らうのは怖いという事では賛成、行動は反対、なので中立」
「エクリプスの言葉に俺も賛同だ。魔神エクリプスとゲセルシャフトは中立を貫く」
「われは次元管理ゆえ、下界の争いには不干渉ゆえ中立」
「同じく、精霊を統べる立場としてはストームの行動には反対ですが‥‥中立という事で」
八大神のうち半数が中立支持、となると最後の一票が賛成か反対か。
「プルートゥ、忌憚ない意見を頼む」
「ん? 妾は賛成じゃが?」
「な、なんだって?」
冥府の女王は賛成。
そしてクルーラーががっくりと力なく机に突っ臥してしまう。
「何でそうなるかなぁ‥‥なあミスティ、この戦争には正当なる正義を感じない」
「神が関与する時点で秩序もありませんわ‥‥ですがプルートゥ、どうしてあなたまで?」
「今回の件、破壊神の残した残滓による所が大きい。そしてそれは私たちの世界だけでなく、異なる神々の世界まで浸透を始めていた。なら、まずは内部からだけでも破壊神の残滓、それに伴う障害を排除する必要があると感じた」
真面目に淡々と告げるプルートゥに、クルーラーもミステイも止むなく頷く。
「それに、ストーム殿についてはダメというのではなく神威を持つものとしての制約を施せばよい。ストーム殿も馬鹿ではないし、そもそもあのマチュアのダチ公だぞ、裏技のオンパレードという点ではマチュアに次ぐものがある
「そうか。なら決定だな。あとはストームにどこまで許すかだ‥‥」
そうこうしている内に会議は終わり、あとはストームに告げるだけである。
‥‥‥
‥‥
‥
――ピッピッピッ
静かな室内。
ストームは武具の手入れを行いつつ、会議の結果をじっと待っていた所である。
「おう、会議は終わったのか?」
『ああ。賛成3反対2中立4でストームが直接動くことに異議はない。ただ、破壊神モードの使用と創造神モード3より上は使わないでくれ。それとブラウヴァルトへ進軍した神聖騎士についてはストームは直接関与しないこと、この2点を頼む』
「あ、了解だ。元より出来る限り亜神モードで行く気ではあるからな。これで方向性は決まったという所でいいな‥‥色々と便宜を図ってくれて感謝する」
誰かが見ているわけではないが、軽く一礼するストーム。
それで神々もとりあえず胸を撫で下ろすと、そのままストームとの交信を切断した。
「さて、これで方向性は確定、俺が単騎で女王と決着をつけるというのはよしとして‥‥十四郎、そっちの調査はどうなった?」
足元の陰に問いかけるストーム。すると窓辺から十四郎の姿がスッと現れた。
「拙者、まだ影転移は習得しておらぬゆえ‥‥。取り敢えず報告でござるが、亜神シャザニアは既にこの世には存在しないでござるよ」
「まあ、その可能性は読んでいたんだが、悪い方向に当たっちまったか。それで、フランシスカの動向は?」
「王城でフランシスカを鑑定したのでござるが、神威枯渇現象で急激に老化現象が始まっているでござるよ。ぶっちゃけると、放っておいても一月で老衰するでござるなぁ」
そこまでは想定外。
「それで、なんでフランシスカは亜神狩りなんて命じているんだ?」
「予測でござるが、亜神の神核を体内に取り込んで擬似亜神化を考えているのでござろうなぁ。吟遊詩人の古い物語の一説に、そのようなものがあるのでござるよ」
「全くもって意味が分からんわ。確かに神核というのは取り込んで融合させるのはそれほど難しくはないが、それは神核の持っている固有の『格付け』によるものでな。元々神核を持っていない人間の体内に神核を移植しても、それがちゃんと肉体に融合するかなんて‥‥よくて五分五分、悪くて2割だ」
そう説明するストームに、十四郎も頷く。
そして今のストームの言葉が事実であるということは、今のフランシスカはそれほどまでに追い込まれているのであろうと二人は簡単に推測してしまう
「ここからブラウヴァルトへの進軍、そして帰還までどう考えても一か月以上かかるだろうが。そんなこともわかっていないのか?」
「聖印の力で帰還だけは一瞬でござるよ、なのでこの進軍は意味があるのでござる」
「そういうことか。なら、明日にでも行動を開始するか。十四郎はブラウヴァルトへ向かった騎士団の動向を追跡調査してくれ」
「了解でござるよ」
――シュンッ
一瞬で姿を消す十四郎。
そしてストームはウインドウを開いてステータスをあちこち調整し始めた。
〇 〇 〇 〇 〇
翌日昼過ぎ。
ストームは朝一で宿から出発すると、真っ直ぐに王都へとゴーレムホースを走らせた。
そして正午に差し掛かる頃、何事もなく王都の城門をくぐると、真っ直ぐに王城へと向かって行く。
先日の神聖騎士団の出兵の為か、城下町はいつになく人通りは少ない。
そんな中を、ストームは堂々と王城へとたどり着くと、正門横にいる立番の騎士に向かって一言。
「俺はジンブという冒険者だが、ぜひとも女王陛下との謁見をお願いしたい」
懐から冒険者ギルド―カードを取り出して提示すると、騎士はそれを確認してから頷く。
「今、このハルモニア王都は厳戒態勢なので、何人たりとも女王との謁見は許されていない」
「なら女王陛下にこう伝えてくれ。『亜神についての情報を持って来た』と」
そう告げてから、ストームは手のひらに金貨を5枚出現させると騎士の手にそれを握らせた。
最初は何事かと訝しんでいた騎士であるが、手の中に握らされたのが金貨であるとわかると、ストームにちょっと待つように告げて王城内へと向かって行った。
「ま、この程度は当たり前か。うちの国でも賄賂掴ませて謁見の順番を速めている奴らはいるらしいからなぁ」
それも全て想定済みと、ストームは敢えて咎めるような事はしない。
襟を正しすぎても堅苦しくなり過ぎる、それはわかっている。
そんなことを考えていると、騎士が急ぎ足で戻ってきた。
息を切らせている所から、謁見室からここまで走り通して来たのだろう。
「と、特別に許可が出た。今から陛下がお会いしてくれるそうだ、光栄に思うがいい」
「それは助かりました。ではよろしくお願いします」
そう頭を下げて騎士の後ろについて行く。
豪華絢爛な城内を眺めつつ、ストームは騎士に案内されるがままに3階にある謁見の間へと案内された。そして謁見の間の前で待っていたりであろう綺麗な執務服に身を包んだ老人が、ストームに頭を下げる。
「私はハルモニアの宰相を務めるジャーナルです。ではこれより陛下がお会いしていただけるという事で、くれぐれも陛下の機嫌を損なわないように」
「承知しました。それではよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げるストーム。
その姿に好感を持ったのかジャーナルもうんうんと満足そうに頷くと、静かに扉を開いた。
‥‥‥
‥‥
‥
謁見の間では、玉座に座ってややソワソワしているフランシスカの姿があった。
そしてストームの顔を見るや一度立ち上がってしまうが。、すぐにゴホンと咳ばらいをして椅子に座りなおしてしまう。
そしてストームはゆっくりと深紅の絨毯の上を歩いていくと、示された場所でスッと膝をついて頭を下げる。
「貴殿が冒険者ジンブか。遠路はるばる貴重な情報をもたらしてくれたそうだな」
「はっ。噂に聞きましたが、陛下は私の持っている情報に大層な価値があるとみていただけたようで」
「世辞はいい。情報の精度によっては高額の報酬を支払おう。それで‥‥」
今にも前のめりにならそうな体勢のフランシスカだが、ストームはチラチラッと周囲を見渡してから、フランシスカに一言だけ。
「できれば人払いをお願いしたいのですが、何分情報が情報ですので。もし私を疑うのでしたら、そうですね‥‥陛下の最も信頼している方を一人だけ、護衛としてつけていただけると」
「ほう。そこまで重要な情報があるというのか」
「はい。それはもう、陛下のお体の具合にもかかってくるかと、神威、と申せば理解してい」
「みなまで言うな!! ジャーナルよ、一旦護衛の騎士たちを伴って隣室で待つがよい。この者は信用に値する」
フランシスカがそう告げると、ジャーナルと護衛の騎士たちは謁見室から出ていった。
そして室内に自分とフランシスカの二人しかいないことを確認すると、ストームはゆっくりと立ち上がって両手を広げる。
「神威を失ってから、陛下の身体は徐々に老化を始めてしまったようですね。私の持つ『真贋の瞳』が、今の陛下のお身体に起きている異常を告げていまする」
「お、おお、そのようなスキルを持っていたのか、それは固有スキルか?それともユニークか?」
「いえ、そのどちらでもございません。私の持っているこのスキルは、いうなれば『神々の祝福』でございます」
そこまで告げると。フランシスカが立ち上がってストームに向かって右手を差し出した。
「神々の‥‥じゃと? まさかとは思うが、貴殿は転生者か?」
「はっはっはっ。陛下の口からそのような言葉が出るとは思っていませんでしたが、それは違います。私は転生者などどいうものではございません」
「それにしては訳を知っているような素振りじゃが。ジンブは私の事がどこまで見えている?」
お、食いついた食いついたた。
なら、そろそろその澄ました化けの皮を引っ剥がしますか。
「私が知っているのは、フランシスカ様が聖女シャザニアから神威とスキルを奪い去ったことです。そして、神威を失った反動が肉体に出て来ている事。今のままですと、後ひと月程で老衰してしまうのでしょうなぁ」
「そ、そこまで見えているのか‥‥そうじゃ、確かに私は神威を失ってしまった。だから、今はどうしても亜神殿に救いを求めなくてはならないのだ!! 亜神殿なら、この私の体を癒してくれるはず‥‥ジンブよ、そなたの知っている亜神についての情報を教えてほしいのだ、報酬なら望みのままに支払おう」
すがるようにストームに語り掛けるフランシスカ。
ならば種明かしと、ストームは体から放出している神威を亜神レベルの最大限まで高めてやる。
――フーーーーッ
ゆっくりとストームの体が淡く輝き、室内に神威があふれていく。
そしてフランシスカは、その光景を見て驚愕してしまった。
亜神の情報どころか、目の前に亜神がやって来たのである。
「そ、そんな‥‥まさか貴殿が?」
「ええ。私は亜神です。それで、この私にどのような御用でしょうか?」
口元に笑みを浮かべつつ、ストームは今後のフランシスカの出方をじっと観察する事にした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






