剣聖の日常・その6・亜神を探せと女王は言う
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どうにか神官のイチャモンから逃げたストームは、宿で待っていたロベルト達と無事に合流。
宿の外に繋いでおいたゴーレムホースには、近所の子供たちが集まって触ったり乗ったりして遊んでいる所である。
「ジンブさん、あれ、放っておいていいのですか?子供たちが遊んでいますけれど」
窓のすぐ外で遊んでいる子供達を見て、カタリーナがのんびりと食事をしているジンブに問いかける。だが、当のストームは気にする事なく、目の前の川魚のフライを堪能している所である。
「構わん構わん。子供が遊んでいるからといって、あれを持っていける筈もなし。ゴーレムホースは登録した所有者以外の言う事は一切受け付けないからな」
「遺跡発掘型は、その登録変更でかなりの魔力を必要とするからのう。プラウヴァルトの錬金術ギルドでも、それを行えるものが少ないので数が揃わないらしいし、何より一からゴーレムホースを開発する力は無いらしいからのう」
ロベルトがそう告げるので、カタリーナもふぅんと納得。
そんな会話の最中でも、宿にやって来た商人たちはゴーレムホースに目を丸くし、宿に入って来ては何かを考えているようである。
自分達の身の丈を知っている者は好奇心と羨望の目でジンブを見て、身の丈を知らないものは交渉しようとして失敗して立ち去る。
そんな事を夕方まで続けていると、やがてゴーレムホース騒動はひと段落する。
「さって、やかましいのがいなくなったのでようやく散歩に出られるが。ギブソンさん、この辺りの名産とかはあるのか?」
「この辺りの、というかハルモニアの名産は何と言っても『スキル屋』だな。ハルモニア信者しか売買できないのだが、自分の欲しいスキルを購入する事が出来るというのは他国にないハルモニアだけの技術だからなぁ」
腕を組んでウンウンと頷くギブソン。
「へぇ。スキルの売買かよ。そりゃあ誰でも欲しいスキルはあるだろうからなぁ」
「それに、いろいろな事情で食うに困った人々も、シャザニア信者になってスキルを売る事で、生活の足しにしている事もあるらしい……まあ、そんなことは一時的なもので、そこからどうやって立ち直るかはその人次第って所なんだけれどね」
カタリーナもストームに補足してから、傍に置いてあるツーハンドアックスを軽く叩く。
「私は盾スキルはそこそこに高いのだけれど、攻撃となるとね。でも、改宗してまでスキルは欲しいとは思わないから」
「カタリーナの言う通り。人は自然に、ありのままに。さて、明日の朝イチで出発して午後には王都に到着、そこで我らの依頼は完了という事で良いのじゃったな?」
ロベルトがギブソンに確認すると、ビールジョッキ片手にギブソンも頷く。
「ああ、それで問題はない。まあ、あのドラゴンの素材の交渉は明日昼以降になるが、それで問題はないな」
「ならば前祝いといこうじゃないか。すまんがエールの追加と、後は酒の肴をいくつか見繕ってくれ」
ロベルトが給仕の女性に金貨を握らせると、女性は嬉しそうに厨房へと向かって行く。
そして後は軽い宴会、そして終わった後は体を休めるのに部屋へと向かう一行。
そして翌朝、宿から外に出たロベルト達は、目の前の街道を進む騎士達を見て絶句してしまった。
………
……
…
シャザニアが死んだ翌日。
フランシスカはいつもとは違う気怠い朝を迎えていた。
昨日までとは違い体が何となく重い。
寝汗をかいていたのか全身がベタつく!身体を起こすのがとにかく面倒臭い。
元々朝は弱かったフランシスカだが、シャザニアから神威を奪ってからはすごぶる調子が良かったのだが、今朝のこの状態は何だ?
「一体何が……そうだ、ステータス!!」
自己鑑定スキルを使って自身の能力を調べる。すると、神威を失った時点からフランシスカの身体的老化が始まっていた。
それも普通の人間の老化速度ではなく、常人の数十倍の速度で進行している。
生身の人間が神の力を操っていたのだから、その代償は大きい。
「え、ち、ちょっと待って、私の体は神威を浴びることで擬似亜神じゃなかったの? 不老不死の体じゃなかったの?」
そう考えてみたものの、その力の源である神威を失い、さらにシャザニアが死んでしまったとなると、新たに神威を得る方法がなくなってしまった。
「冗談じゃないわ、回避策を示しなさい」
右手に魔力を浴びて掌に一冊の書物を生み出すと、すぐさま開いてそこに記されている文字を読み解いていく。
『百八十日以内に新たなる亜神を求め、生きたまま神核をえぐり喰らうこと。さすればフランシスカの体内に神核が生まれる』
「そうなのね。新しい亜神を探せば良いだけ。でも……、時間があまりないわね……私フランシスカが問います。喰らう神核は、ハイエルフと亜神のハーフでも問題ないかしら?」
そう問いかけてから再び書物を開く。
『可能なり』
──ニィィッ
それさえわかれば十分。
幸いなことにプラウヴァルトはハイエルフ、つまり亜人の国。
聖シャザニア教会でいう『汚れし種族、滅ぼすべき対象』である。何も隠れて手を下す事はせず、堂々と進軍すれば良い。
すぐさま神聖騎士団に亜神狩りを命じるべく、すぐ近くにいるであろうブラウヴァルトへと進軍し、女王コキリコを生け捕りにせよとの『神託』を受けたと告げる。
聖シャザニア教会では神託は絶対であり、すぐさまハルモニア駐留の神聖騎士団が神託を遂行すべくブラウヴァルトへ向けて出発した‥‥。
‥‥‥
‥‥
‥
「あー、そういう事か、それで朝から宿の前を騎士団が移動しているのかよ」
朝食を取るべく一階に降りて来たストームが、頭をぼりぼりと掻きつつそう呟く。
早朝にシャザニア教会の使者があちこちの施設を訪れ、今回の神託により出陣、すなわち『聖戦』の為に食料や資金を寄付せよとのお触れがあったらしい。
当然ながらシャザニアの加護を受けている町の宿は喜んで食料や資金を寄付し、神官から祝福を唱えてもらっていた。
そしてストームのゴーレムホースを供与せよとの通達もあったのだが、旅の冒険者でありシャザニア信者ではないという事を告げられて、神官たちは苦虫を潰したような顔で立ち去って行ったらしい。
「さて、ギブソン殿、こうなると王都での商売は難しくなってしまうのではないかな? シャザニア教徒相手では戦時景気は見込めそうにないがのう」
「そうですね。彼らは必要ならば供与せよというタイプですから、戦争需要はあっても無料提供せよと告げられてしまうのが落ちですね」
そう説明されると、商人であるギブソンは腕を組んで考えてしまう。
今積んでいる積み荷は毛皮や動物の骨材、希少な木材などの加工原料であり、用途によっては戦争に必要なものである。
となると、このまま王都の商会まで運んでいくと、そのまま必要物資ということで接収されてしまう可能性がある。
ここシャザニアの商会はそういった事を躱す為に、常に周囲の状況に目を配っていた。
一時は頻繁に行われていた他種族国家への『聖戦』についても、情報を察知するとすぐさま『供与する為の商品』と『供与の必要ない商品』を分けて保管し、利益率の少ないものを中心に供与して信頼を得て来たのである。
だが、ここに来てブラウヴァルトへの突然の進軍、まったく情報を得ていない商会は次々と赤字覚悟の供与を行っていたのであろう。
「そうですねぇ。では、今積んでいる積み荷はこの町の倉庫に収めておきますか。王都までの護衛ではなくこの町での積み荷の荷下ろしという事で依頼は完了する事にしましょう」
ギブソンの言葉でロベルトとカタリーナは頷く。
そしてジンブはどうするのかと二人はストームの方を向くので。
「あー、そうだな、それでいいか。それじゃあとっとと終わらせて、俺は次に進む事にしようか‥‥しかし、どうして突然進軍を開始したんだ? 何か裏があるのかもしれないな‥‥」
――コクリ
ストームのつぶやきは足元に潜む十四郎の耳に届く。
すなわち裏を調べてきてほしいとストームが告げていると十四郎は判断した。
『ご命令拝領したでござるよ‥‥では、拙者は一足先にハルモニア王城へ‥‥ブラウヴァルトには幻影騎士団の誰かに向かってもらう事にするで‥‥って、亜人ばかりでは逆にやられてしまうでござるなぁ』
すぐさま近くの影に移動する十四郎。そしてウォルフラムにこの件を報告するべきか考えてみるが、亜人に対しての絶対的戦闘力を有しているハルモニア神聖騎士団相手となると、亜人比率の多い幻影騎士団ではややまずい可能性がある。
『まあ、今回の件は拙者とストーム殿で十分でござるか‥‥では失礼』
そう告げて十四郎の気配がスッと消える。
それを確認してから、ストームはようやく腰を上げてギャザラー達と共に積み荷を移す作業を開始する事にした。
〇 〇 〇 〇 〇
同日夜。
明日からの行動についてストームは部屋で色々と策を考える事にした。
だが、いつになく手が足りない事、ハルモニア王都とブラウヴァルトの二つの場所を押さえる為の手段等々、どうすればいいのか未だに方向性が確定していない。
これがラグナ・マリア帝国の事ならば六王に依頼して兵力を出す方向もあるのだが、ことは隣国ブラウヴァルト、ストームがわざわざ手を出す必要があるのかといわれると、ない。
「ふぅ、このままブラウヴァルトを放置するというのもありなんだが、先にハルモニアをどうにかしてからブラウヴァルトに向かうか? それで手遅れになる事はないか‥‥」
ハルモニアからブラウヴァルトへと向かう場合、騎士たちの移動速度を計算してもざっと20日は掛かるであろう。
馬車や騎馬ならばまだ早いかもしれないが、全ての歩兵などの速度を考えるとおおよそそれぐらい、しかも道中はソラリス連邦国境を通過しなくてはならないので、そこでまた時間が掛かると算段出来る。
「作戦はシャザニアを取り返す事を優先第一、ハルモニア女王についてはそのついでか。問題は女王の持つ固有スキル『能力強奪』か。亜神の能力すら奪うっていうのはとんでもなく厄介なんだが、それを受ける前にどうにかしてその力を封じないとならんか」
カリス・マレス世界では普段のストームは亜神、能力を奪われる可能性が高い。
それならばと天を見上げてセルジオに問いかけてみる。
(セルジオよ、この件については俺が直接関与していいレベルなのか?)
『事は異世界の転生者であるフランシスカ女王のやらかしたこと。ゆえに本来ならば、関与する事適わずなのだが‥‥』
(はぁ? フランシスカって異世界人かよ、転生者か?)
『いかにも。ただ、問題なのはこのザ・ワンズの世界ではない外世界からの漂流転生者であること、そしてその原因にナイアールが関与しているという点でな』
その言葉だけで充分。
つまりフランシスカは異世界転生者で能力強奪というとんでもない能力をナイアールから受け取ったと、それを偶然漂流してきたシャザニアに使って神のスキルをすべて奪い、傍若無人の限りを尽くしていたと。
(おっけ。なら俺の関与する必要マックスと、破壊神である俺が宣言するわ。先代破壊神の面倒事を俺が解決する、で八大神すべてに宣言していいな?)
はい爆弾宣言きました。
『ち、ちょっと待ちたまえストーム。まさか破壊神モードで行くというのか?』
話を聞きつけたクルーラーが慌てて問いかけるが、ストームは首を左右に振る。
(いや、創造神代行として動く。悪いがそのフランシスカという存在は、この世界のバランスを著しく損なっている。その原因がナイアールという時点で俺の出番だ、悪いが人間に任せてはという話は無しだ)
事はナイアールのもたらしたスキルに問題がある。
フランシスカのスキルは最強スキルの一角であり、下手な奴が対処するとその能力すら奪われて終わってしまう。そうなるとフランシスカがどんどんと強くなっていくのが目に見えているので、ストームが対処するのが早いという結論なのである。
『八大神代表として、代行であるストームがこの件に関与する事は許さない!!』
(そっか、ならいいか。そんじゃあこのまま放置する。ただし、奴らがラグナ・マリア帝国に手を出した時点で、俺は全力でハルモニアは潰すからな。その時は創造神代行としてではなく、破壊神として完膚無きまでにやるが構わないな?)
『い、いや、ちょっと待ってくれ!! そんな事をしたら』
(最悪俺は破壊神に覚醒か‥‥それでもいいわ)
『か、かーいぎ、八大神会議を始めるので、そこで少し待つのじゃ!!』
イェリネックの一言で、八大神は一旦会議室に移動、そこで今回の件についての論議を行う事になった。
そしてストームは、今しばらく会議の結果が出るまで、そして十四郎の報告が届くのを部屋でのんびりと待つ事にした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






