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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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剣聖の日常・その4・お約束の法則は無視するのがお約束

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 さて。

 ハルモニア目指してガラガラと馬車は走る。

 ソラリス連邦では中堅であるアウトランド商会の隊商護衛として、ストームとカタリーナは馬車の前後をのんびりと馬に乗って移動している。

 馬車ではロベルトとパムパムが待機しており、いつでも飛び出す準備も出来ているのだが、商会主であるギブソン・アウトランドは気が気でないようで。

 前方をゴーレムホースに跨って進んでいるストームが気になってしょうがない。

 いや、正確にはストームの乗っているゴーレムホースがである。


「ジンブさん、どうしても売っていただけないのですか?」

「うむ、断る。たとえ白金貨を1000枚積まれようと、こいつを売る気はない」


 きっぱりと言い切るストームと、ハァとため息をつくギブソン。

 道中、このようなやり取りが幾度となく繰り返されていた。

 このやり取り、実は訳があった。


‥‥‥

‥‥


 ストームは知らないのだが、ソラリス連邦の商人ギルドでは今、ゴーレムホースが大人気である。

 ラグナ・マリアの商人たちが度々隊商(キャラバン)を組んでソラリス連邦を訪れるのであるが、大商会クラスの隊商(キャラバン)には決まってゴーレムホースが何頭か組み込まれている。

 その様子を見ていたソラリス連邦の大商人は是が非でもゴーレムホースを手に入れたいと様々な伝手を使い入手しているのであるが、それがどういうことか、『一流の商人はゴーレムホースを持っていて当然である』という風習となってしまったらしい。


 その結果、ラグナ・マリア帝国に伝手のない商人は、隣国ブラウヴァルト森林王国の地下遺跡から最近になって発掘された『旧式ゴーレムホース』でも構わないから手に入れたいと躍起になっている。

 こうなるとブラウヴァルトの錬金術ギルドはとにかく大忙しである。

 遺跡から発掘したゴーレムホースのメンテナンスや解析作業、そしてレストアしたゴーレムホースをソラリス連邦に輸出と、とにもかくにも手が足りない。

 しかし遺跡発掘型ゴーレムホースは年代が古いせいか丈夫さや速度が足りず、維持費が莫大に掛かってしまう。

 そうなると、ストームの乗っている『カナン魔導連邦製最新型ゴーレムホース』を見たら欲しくなってしまうのは仕方のない事であろう。


‥‥‥

‥‥

 

「なあロベルト、ゴーレムホースっていうのはそんなに高価なものなのか?」


パムパムが興味本位でロベルトに問いかけると、ロベルトは顎髭を撫でつつ頷いている。


「そうじゃなぁ。見たところジンブ殿の乗っているものはカナン製最新型、限定販売で諸王でさえ手に入れるのは難しいという‥‥一介の冒険者がそうそうたやすく手に入れられるものではない。となると、あのジンブ殿はかなりの実力を持っていると思われるがな。おそらくはあの竜魔戦争でかなりの手柄を立てた猛者であるかと」

「あー、またロベルトの10年戦争の話かよ。ま、本当にあの戦争期を生き抜いて来たというのなら、ジンブさんの腕は確かなのかもなぁ‥‥と、来たぜ」


 パムパムは周囲に漂っている殺気にすぐさま気が付く。

 そして外にいたストームとカタリ―ナも周囲をゆっくりと包囲されている事に気が付く。


「カタリーナは後ろか。敵の数は‥‥」


 ゆっくりと心力を放出する。

 アクティブセンサーのように周囲に心力を広げていくと、周囲の木々や茂みの陰に潜んでいる者たちを感じ取ることができた。


「‥‥全部で24か。最大でもランクB程度の盗賊集団‥‥と、来るぞ!!」


 ストームの叫びにロベルトが矢避けの結界(アロープロテクション)を発動、馬車を結界で包み込んだ。それと同時にカタリーナも抜刀して周囲を警戒、パムパムは勢いよくナイフを引き抜いて御者台の護衛に回り込む。

 

――ガサガサガサガサッ!!


「さて、ここから先は通行料が必要だ。積み荷の半分を置いていけ、そうすればここを通る事が出来るぜ」


 堂々と姿を現した細身の男。

 額から延びる一本角は、男が魔族である事を表している。

 そして一人、また一人と姿を現した盗賊たちには角や魔族の証である翼などは存在していない。。


「はぁ、盗賊の頭が魔族とはねぇ‥‥世も末だな」


 呆れたように呟くストームだが、その言葉は魔族の逆鱗に触れた。 

 

「う、うるせぇ!! こう見えても俺は魔王エルコーンが直属、戦術指南役のテイ=イクという名を持っている!! さあ、魔王軍に逆らうとどうなるか判っているよな!!」


 腕を組んで堂々と叫ぶテイ=イクだが、ストームはハァ、とため息をつくしかなかった。

 そしてゆっくりと馬から降りると、ゴーレムホースを空間収納チェストに収納して。


「あー、面倒だからとっとと掛かって来い、ハンデとして素手で相手してやるから」


 コイコイと魔族を手招きするストームだが、魔族はフン、と鼻で笑う。


「どこに馬鹿正直に決闘を受け入れる盗賊がいる。おいてめえら、まずはその男から血祭りにあげろ!!」

「「「「アイアイサーー!!」」」」


 すぐさま武器を引き抜いてストームに駆け寄って行く盗賊たち。

 だが、そのすべてがストームから2m離れた場所で次々と倒れていく。

 近接格闘系ジョブはマチュアの18番、修練拳術士(ミスティック)が最強クラスであるが、ストームには使えない。

 だが、ストームは侍の徒手空拳が使える。

 無手による剣術スキルを使用できるため、そんじょそこらの人間程度では全くといっていいほど歯が立たない。

 

――バシバシッ

 かけてくる敵に向かって、無手の衝撃拳(ソニックプロー) を叩き込んでいく。

 後方と側面はロベルトやカタリーナが引き受けているので手加減なしでやっているストームだが、その一部始終は御者台で警戒しているパムパムが見ていた。

 やがて、正面に五体満足で立っているのは魔族のみとなった。

 周辺には一撃で急所を突かれて気絶している盗賊達の体が転がっている。

 こうなるとプライドも何もあったものではないと、魔族は腰に下げていた剣をスッと引き抜く。


「き、貴様、ただの冒険者じゃないな、名を名乗れ!!」

「まあ、あんたも名乗ってくれたから素直に名乗ってやるよ。俺はジンブだ、大陸北方のラグナ・マリア帝国に所属する冒険者だ」

「ラグナ・マリアの冒険者か。ならその強さは理解出来るが相手が悪かったな!!」


 素早く走り出す魔族。

 その姿が左右に動くと同時にカスミのようにスッと消滅する。


「ふははははは。このテイ=イクの強みは速度、人の目では捉える事のない超神速のこの動きこそが、わが最大のフベシッッッッッッ」


 勢いよくステップをつけてストームに肉薄するテイ=イクだが、その顔面にストームは力いっぱいオリハルコンハリセンをカウンターで叩き込んだ!!

 もしもカリバーンやミスリルの武器だったらテイ=イクの顔面は真っ二つに切断されていただろう、それ程までの鋭い一撃で、テイ=イクもその場に倒されてしまう。


「あ~、何が神速だよ、肉体構成を解除して精神体にスイッチして、そして相手のスキを見て再構成からの奇襲。よくある三流魔族の使う手じゃねーかよ!!」

「な、なんだ貴様、どうしてそれがわかった!! それよりもその武器はなんだ、精神体の魔族を捉えて一撃を入れられる武器など見た事も聞いた事もないぞ」

「あ、これか、これはハリセンだ。痛みはないが心が痛くなるという曰く付きでな、ついでにオリハルコン製の特注品だ」



 そもそも、何故か知らないがハリセン程度は旅の商人が露店を出して売っている事がある。

 もともと遺跡発掘品だったものを錬金術ギルドが解析して作ったものであり、子供のおもちゃ程度にしか考えられていない。

 それを偶然マチュアが手にした時から、ハリセンの知名度はグンと上がっていった。

 ミスリル製、クルーラー製、ルーンメタル製などなど、さまざまなハリセンを作っては試行錯誤を繰り返し、そして到達したのがこの『全種族対応型ハリセンスレイヤー』である。

 まあ、普段は面倒臭いのでハリセンと呼んでいるのだが、これ一本でドラゴンも気絶するという優れもの。

 ストームには作れなかったのでマチュアからもらった一品であり、当然魔族にも十分に効果は発揮される。



「そ、そんな馬鹿な、オリハルコンだと?」

「あ、俺っちの知り合いが普通に精製できるのでな。ということで、悪いがテイ=イクさんにはご退場願おうか。こっちも先を急ぎたいのでね」


 ハリセンをブン、と一振りして刀剣に切り替える。

 これもハリセンスレイヤーの効果である『バリアブルウェポンシステム』、ベルナーの鍛冶師が考案した可変武器である。


「ま、まて、オリハルコンソードだと? そんなもので切り付けられたら‥‥」

「心配するな、魔族核ごとたたっ切ってやるから」


――キン

 一瞬だけ聞こえた金属音。

 その直後にストームは剣を元のハリセンに戻して腰に下げる。


「い、今何をした?」

「あ、悪いが動くと死ぬぞ。秘剣・黄泉送りといってな‥‥そのまま動かなかったら一刻ほどで傷は元に戻るが」

「そんな馬鹿なブハフフフファァァァッ」


 ストームの忠告など無視して剣を振るおうとしたテイ=イクだが、その刹那全身が蒸散してしまった。


「な。言った通りだろ? という事で盗賊達に告げる。貴様達の首領は死んだので、抵抗するならば皆殺しだがどうする? 降伏するなら命は助けてやるが」


 後方で戦っている盗賊たちに叫ぶストーム。すると盗賊たちはテイ=イクが倒された事を知って一目散に逃げて行く。

 捕まったら死罪となるのは確実なので、だれも降参などする筈もなく蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。


「ま、こんな所か」


 逃げる盗賊を追いかける事もなく、ストームは再び馬車に戻って行く。

 そして御者台で呆然としているパムパムの肩をトン、と叩いて一言。


「護衛ご苦労さん。そんじゃ一休みして先に進むとしますか」

「あ、ああ‥‥って、ジンブさん、あんたは本当にBランク冒険者なのか?」

「さあ?Bから先の昇級審査受けた事ないからなぁ。ま、Aぐらいじゃねぇの? それよりも盗賊は逃げた事だし、一休みして先に進もうぜ」


 その言葉でようやく緊張感がほぐれたロベルト達も、ストームの言う通りに一旦馬車を路肩に寄せて一休みする事にした。


‥‥‥

‥‥


 ストーム達が盗賊に襲われて7日後。

 ようやくハルモニア王国の国境沿いにある要塞都市ガスベルの姿が見えて来た。

 ちなみにここまでの道中、ゴブリン、コボルトは言うに及ばず、オーク、レッサーデーモン、はてはスモールドラゴンといったモンスターと遭遇。

 それらを次々と撃破してようやくガスベルに辿り着く事が出来た。


「は、はは‥‥ようやく安全圏だ。もう戦わなくていいんだよな?」

「うむ。カタリーナはよく頑張った。よくぞここまで護衛を勤め上げたものだ」

「お、俺だって、もう生きた心地はしなかったぜ‥‥でも、ドラゴンやレッサーデーモンって、人間でも倒せるものなんだなぁ」

「ロベルトさん、ドラゴンの素材は当商会で高値で買わせていただきますよ」


 そんな事を話しつつ馬車の中は賑わっている。

 そして外では、ストームが目の前に見えて来た城塞都市をのんびりと眺めていた。

 ガスベル全体を包んでいる、見たことのない怪しい結界が何物であるのか、それを解析する為に。


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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