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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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剣聖の日常・その2・精霊魔術師の本気を見せてみよう

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 ウィル大陸南方・ハルモニア王国に向かうには、ラマダ王領から南方に向かい、途中でソラリス連邦へと向かう主街道を使う必要がある。


 精霊の旅路エレメンタルステップを使うにも、一度行った場所しか行けないという条件がある。

 まあ、GPSコマンドによる座標検索という裏技もあるのだが、道中でも情報を集めたいのでストームは乗合馬車を利用して、のんびりと旅をする事に決定した。

 転移門ゲートでベルナー双王国からラマダ王領に向かい、そこからソラリス連邦へと向かう定期馬車に相乗り。

 それほど混雑しておらず、乗っているのは商人が二人と子供を二人連れた家族が一組、あとは旅の冒険者らしい男女と男一人のみ。それ以外には護衛の冒険者が四人同行しており、馬車の前後を馬に乗って周囲を警戒しつつ移動している。


「ふぁぁぁぁぁ。のんびりとした旅もたまには良いか」


 椅子に深く座って背もたれに体を預けると、ストームはウツラウツラの居眠りを始めるのだが。


『拙者、ハルモニア手前までは護衛するゆえ、何かありましたら影にでも話しかけてくれると』

(お、誰かと思ったら十四郎かよ。まあ、そん時は頼むわ。それでポイポイは王城待機か?)

『ポイポイ殿はマチュア殿と一緒でござるよ。じっと陰に潜んで、いつマチュア殿に見つかるかドキドキしておるのであろうなぁ』

(あー、道理で見かけないと思ったわ。隠れているということは、勝手についていったら怒られるからか?)

『左様。ですが、マチュア殿とストーム殿は極力単独で行動させるなと、シルヴィー様からお願いされている故‥‥』

(ま、そうだよなぁ。そんじゃ適当に頼むわ)


 暇潰しに読書したり家族連れと世間話をしたりしていると、色々と情報が入ってくるもので。



「ソラリス連邦付近で、最近は亜人狩りがあるようで。何でも冒険者ギルドに普通に依頼が出ているとかで、ソラリス連邦付近ではエルフやドワーフ、ロリエッタは見かけなくなりまして」

「へぇ。でも、冒険者ギルドがそんな依頼を受け付けるとは思わないんだけどなぁ」

「それがですね。ソラリス連邦は元々、宗教についての締め付けが弱い国でして。まあ、色んな種族や小国家が集まってできた国ですのでそれは仕方ないのですが」

「近年はシャザニア聖教が幅を利かせ始めまして、都市部では昼間から堂々と亜人が切り捨てられるという事件まで起こっているのですよ」


 聞けば聞くほど物騒なことこの上ない。

 すると、男女の冒険者がストームに話し掛けて来た。


「まあ、旦那がなんてソラリスに行くのかは知らないけどさ、うちら冒険者はソラリス連邦で大きな仕事があるっていう噂を聞いていくんだよ」

「そうそう。けっこう大掛かりな仕事らしくてね、かなり腕のいい冒険者や武具師が集められているんだよ」

「へぇ。それは凄いな」

「旦那は何しにいくんだい?」


 そう問いかけられた時のために、ストームは懐から商人ギルドカードを取り出して見せる。


「へぇ、商人さんかい。えーっと、登録は馴染み亭商会で、お名前はジンブさんね、あたいはショコラ、そっちの厳つい男はワンダラー。こう見えてもうちらはBランク冒険者なんだよ」

「へぇ、大したものだな。ホームグラウンドは?」

「うちらはパルテノ王領がホームでね」


 楽しそうに告げる赤毛の女性戦士。その横では、神官服を着たいかつい男がうんうんと頷いている。


「そりゃあ遠くからご苦労様だなぁ。なら、もしも武具で必要なものがあったら何時でも言ってくれ。俺は馴染み亭商会では武具担当でね、今回も南方まで商品を卸しに行くんだが、それ以外にも行商用で色々と持ってきているのでね」


 マチュアの用意した身分証明がここに来て役に立つ。

 ジンブとはストームの偽名であり、神威によって魂の護符(ソウルプレートの上でも書き換えが行われている。

 アバターのベースは基本ストームのままだが、年齢を20程上に設定し顔の頬と左眼には大きな傷跡を追加しておいた。こうして一見してもストームとはわからないようにしてある。


「武具担当かい、あたいは斧戦士でね。何か良い出物はあるかい?」

「ああ、ちょいと待っていろ」


 ならばと、ストームは傍らに置いてある拡張エクステバッグから一振りの戦斧を取り出す。

 ストームが鍛えたAランクの戦斧であり、切れ味強化(シャープネス)魔力刃(エッジ)、耐久力強化の効果が付与されてある。


「へ、へぇ、これは中々な……って、これ、剣聖ストームの銘が打ち込んであるじゃないか?」

「ん、ああ、サイドチェスト鍛冶工房から直接仕入れて来たからな。格安で白金貨10枚でどうだ?」

「い、いや、無理無理、こんなの冒険者じゃ買えないよ。それよりもジンブさんは剣聖ストームとは懇意なのかい? うちらもそろそろ定住する場所を決めたくてねぇ。幻影騎士団の下の、えーっと、なんとか騎士団の入団試験を受けたいんだけどさぁ」


 それって蜃気楼旅団な。

 蜃気楼旅団は常に入団試験は受け付けているのだが、ここ最近は合格者は殆どいない。

 数か月前に厳也マチュアの推薦で試験を受けた冒険者が辛うじて合格し、ヴィマーナにて訓練を受けているぐらいで、それ以外は腕があっても品行が宜しくないとか、品行があっても腕が足りないとか、どっちもダメとかそんなのばかり。


 そりゃあ幻影騎士団も人材……人間不足になるってものである。


「まあ、懇意ではあるが、誰彼構わずに紹介は出来ないな。あんたらの腕はこの旅の中で見させてもらうからさ」


 そんな感じで楽しい話をしているが、乗合の隅にいる男性冒険者だけはその輪に加わる事なく、じっとストーム達の会話に聞き耳を立てているのであった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 

 ラマダ王領を出て10日程。

 後数日もすればソラリス連邦の中継都市まで辿り着くという頃で、やはりお約束の法則は働くものである。



──ヒヒィィィィィィン

 突然馬がいななくと、街道の前後に大勢の人が姿を現す。

 バラバラな装備を身に着けた、いかにも『俺たちは盗賊です』と言わんばかりの男たち、総勢20名程。それがゆっくりと馬車を取り囲むように広がっていく。

 すぐさま護衛の冒険者も武器を構えるのだが、どう見ても多勢に無勢、うかつに戦うと命を散らしてしまうと考えたのか防戦の構えに出る。

 すると最前列から、ややガタイのいい男が前に出てきた。


「さて、楽しい旅はここでおしまいだ。命を取ることはしない、馬や馬車もそのままだ、積み荷と持ち金の半分を置いていけば命は助ける」


 そして一斉に武器を構える盗賊たち。

 馬車の中では、冒険者達はいつでも戦える準備をしているが、それ以外の家族などは馬車の隅に集まって身を震わせている。


「ジンブさんはじっとしていてください」

「ん? ああ。それでショコラ達はどうするんだ?」

「ボスを倒せば引いてくれると思うんだけれどねぇ‥‥護衛がどうするのか、それが気になる所だね」


――ドッゴォォォォォッ

 そう呟いていたと同時に、馬車の外で爆発音が響く。

 そして馬車が急速に走り出した。

 護衛がファイアーボールを最前列の盗賊に向かって放つと同時に、馬車は全速力で逃げ始めたのである。


「うおう!! やるな護衛っっっっ」


 思わず歓喜の声を上げるストームだが、後方からは馬に乗った盗賊が走ってくるのが見える。

 そこに向かって護衛たちも移動しつつ魔法や弓で応戦を開始するが、馬車の速度は遅くすぐに追いつかれるのが目に見えている。


「‥‥ワンダラー、行けるかい?」

「ああ。風の精霊よ、馬車を包みて矢をはじき給え‥‥乱気流結界(エアカーテン)


 ワンダラーの詠唱と同時に馬車全体が風の精霊の庇護下に入る。これで矢や第二聖典レベルの魔法は弾くことができるが、接敵されると乱気流結界(エアカーテン)は効果を発揮しない。

 徐々に盗賊たちは間合いを詰め、馬車の左右に分かれて馬車自体を攻撃してきた。


――ガギンガギン

 外の幌は破り捨てられ、むき出しになった馬車の席にまで刃が届き始める。

 それをショコラが予備武器であるショートソードを引き抜いて打ち払っているのだが多勢に無勢である。


「そこのあんたも冒険者なんだろ、手を貸してくれよ!!」


 馬車の隅でうずくまっている男にショコラが話しかけると、男はコクリと頷いて立ち上がると、腰のショートソードを引き抜いた。


――ズバァァァァァァッ

 そして御者台に座っている御者の首を一撃で跳ね飛ばすと、御者の死体を馬車から蹴落として御者台に飛び乗った。


「悪いが、俺は命が惜しいのでね‥‥」


 そうつぶやくと同時に馬を止め、男は御者台から飛び降りた。


「こっ、こん畜生がぁぁぁぁ」


 足を止めた馬車の周りは瞬く間に盗賊たちに囲まれてしまう。

 そして男は盗賊の頭らしき男に ゆっくりと近寄って一言。


「ここまでやったんだ、俺の命は助けてくれ。あの商人は武器商だ、剣聖ストームの武器を持っているぞ」


ニマニマと笑いつつ告げる男に、盗賊の頭は気をよくしたのかポンポンと男の肩をたたく。


「こいつには手を出すな、このまま逃がしてやれ‥‥それじゃあ楽しい虐殺ショーの始まりと行こうじゃないか!!」


――ヒヤッハァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!

 盗賊頭の声と同時に、盗賊たちが一斉に馬車に襲い掛かる。

 護衛の冒険者たちは抵抗むなしくその場に引きずり倒され、胸元や頭に向かって刃が振り落とされるが。


――キン!!

 突然すべての時間が停止した。

 正確には『ストームを除くすべての時間』であるが。


「さて、時と空間を支配する精霊マクスウェルよ、10分程止めておいてくれな」


 右手をかざして言葉を紡ぐストーム。

 そのまま影の中で停止している十四郎の束縛を解除すると、一言だけ。


「取り敢えず全員ふん縛ってくれ、十四郎は右を、俺は左をやるから」

「御意でござるが、これはいったい何の魔法でござるか?」

「マクスウェルだよ。時と空間を支配する精霊で、天狼の支配精霊でもある。緊急時にしか使わないし、使っている間の時間は人の時間よりもかなり早く進むからな、10分だと大体10日分の時間がここで経過するから、とっとと済ませないと老化するぞ」

「はっはっはっ。拙者は亜神ゆえ、この外見以上歳は取らないでござるが、急ぐでござるよ」


 そのまま次々と盗賊たちを縛り上げると、ストームと十四郎は盗賊たちを路肩に次々と放り投げる。

 魔術が使えないように丁寧に猿ぐつわも噛ませ、両手の親指をワイヤーで縛る事も忘れない。

 そして一通り縛り上げると、ストームは首を飛ばされた御者の元に近寄り、頭と首を魔術で接合する。


「さてと、蘇生開始‥‥ん? プルートよ、ちょっとこいつの魂を返してくれないか?」

『あ、蘇生するのですね、少々お待ちなのじゃ‥‥ほれ』


 地の底から聞こえる声。

 そして白く光り輝く玉がストームの足元から浮かび上がると、御者の心臓部分にスッと吸い込まれていった。


「ん‥‥と、これでよしと、後はどうすっかなぁ‥‥」

「このまま時間を戻してストーム殿の手柄にするというのは?」

「面倒くせぇ。まあいいか、心と精神の精霊エスプリよ、こいつらの記憶を1時間分消去してくれないか?」


――フワッ

 白く光る妖精が姿を現すと、馬車に乗っている人達全ての頭にそっと手を触れて祈りを捧げていく。

 その光景を、十四郎はじっと見ている。


「ほほう、ストーム殿はマチュア殿よりも強大な魔力を持っているのでござるか?」

「いや? 俺の魔力はマチュアの100分の1ぐらいじゃないか? 創造神代行の力で全ての世界の全ての精霊を使役する事が出来るからなぁ‥‥まあ、使役するには契約が必要だけれど、カリス・マレス世界なら大抵の精霊は俺の願いを聞いてくれるからな」

「時間も止められて心まで支配できるとは、ストーム殿はどこまでチートでござるか?」


 そう問われても首を捻るしかない。


「精霊については、できる事と出来ない事がきっぱりと線引きされていてな、特に元素系精霊以外は代償を必要とするからなぁ‥‥」


 ストームは右手を前に差し出す。するとマクスウェルとエスプリがストームの手のひらに触れて、そこから神威を吸い取っていく。それは普通の人間では支払うことのできない代償であり、MP換算で1万程度持っていかれてしまった。

 

「はっはっはっ。一万もの神威を吸われると、拙者干からびてしまいますなぁ 」

「だろう? しかもこんだけ吸われても神威は自然回復しないからな。エーリュシオンに戻るか神威回復用食材を食べないと治らない‥‥と、そろそろ時間だな、席に戻るぞ」


 そう告げて慌てて席に戻るストーム。 

既に全員を席に座らせており、時間が動いても馬車が止まっているだけという状態にまで戻しておいた。


――3‥‥2‥‥1‥‥プレイ!!

 マクスウェルの言葉で時間は戻る。

 

「は、っと、あれ、御者さん、馬車止まったの?」

「え、えぇっと、あ、馬がすねちゃいましたすね‥‥と、おや動き始めた。一体どうなっているんだ?」


 再び走り出した馬車。

 盗賊たちは路肩に放り投げられているが、十四郎がしっかりとカモフラージュしたので視界に入る事はない。

 そのまま馬車はゆっくりと走っていく。

 

 そして3日後、無事に中継都市に辿り着いた時、ストームは街道に放置しておいた盗賊の情報を警備の騎士達に告げて、中継都市の中に入って行った。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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