浮遊大陸の章・その2 本気のストームとショートタイマーズ
幻影騎士団のメンバーが、レッサーデーモンを破壊してから。
「では、先程も話をしましたが、今戦って頂いたのはあくまでも尖兵です。此奴らは自分たちの力で自在に空間にゲートを作り、次々と仲間を呼びます」
マチュアはその場にいる騎士達に向かって、演説でも行うかのように話を始めた。
――ゴクッ
初めて聞く得体の知れないモンスターに、誰彼問わず息を飲む。
この場にいる騎士達にとっては、魔族など夢かもしくは伝承の世界でしか知らない。
そのようなものと戦うという事が如何に無謀であるのか、レッサーデーモンと戦って実感した筈なのに。
「なので、レッサーデーモンの撃破は、大体五分以内で出来るようにお願い致します。陛下、何処か騎士団の訓練施設を所望します。このレッサーデーモンは其処で誰もが使えるように配置しておきたいのですが」
「近日中に手配しよう。して、本番とは?」
との皇帝の言葉に、ストームは頷く。
騎士団にとっては、マチュアの言葉は死刑宣告のようなものである。
「此方が本番です。レッサーデーモンが尖兵ならば、恐らくこれが主な戦力かと推測されます。外見は違うかもしれませんが、その実力は同等かと」
と告げると、マチュアの影の中から、全長10mのグレーターデーモンが姿を現した。
常に周囲に『恐怖』を放出する危険な存在。
その岩のような深い緑色の体躯と巨大な翼、捻れた角と無機質な感じを窺わせる人ならざる顔。
その場にいた殆どの者が、死を覚悟した。
「伝承に伝えられるグレーターデーモンか。これは想像以上だのう」
「こ、これは私達が戦える相手なの?」
初めて見る脅威に、ケルビムやミストも数歩下がりつつ呟く。
――ザッ!!
そして皇帝直属の騎士団は、素早く皇帝の護りに入った。
「こ、こんなの勝てる筈がないだろう?」
と、騎士団の誰かが告げる。
「ティルナノーグの封印が解けたら、これが世界中に出現するらしい。諦めるのは仕方ないと思う。なので、勝てないと思う者は、騎士たる剣を返上してこの場から帰っても構わない」
とブリュンヒルデが叫ぶ。
何とか耐えている者もいるが、やはり命が惜しいのであろう。
騎士として無益に命を散らせるぐらいならば、ここで騎士位を降りるのも道である。
それに気付いたのか、一人、また一人と自分の主君に剣を返上して立ち去る騎士の姿が現れた。
それでも半数は、どうにかこの場に留まっていた。
「しかし。あれに勝つことは出来るのか?」
とシュミッツが呟く。
「やってみますか? シュミッツ殿」
「口惜しいが、実力差は肌で感じる。今のワシでは無理だ。幻影騎士団やストーム殿は行けそうなのか?」
とシュミッツに問われたのでストームは一言。
「流石にうちの幻影騎士団でも無傷では無理ですね。今から鍛え直して、どうにか一人で確殺出来るようにはしたいのだが」
その言葉を聞いて、ブンブンとウォルフラム達が首を左右に振る
「せめて、三人にして下さい。それなら出来るようにしますので」
と懇願するウォルフラム。
それでも出来ないと言わないのはさすがであろう。
「ならば、あれ相手だと流石に全力でいかないとなぁ」
と呟くと、ストームが一歩前にでた。
○ ○ ○ ○ ○
ゆっくりとストームがグレーターデーモンに近づいていく。
そして、いきなり特撮ヒーローお約束の変身ポーズを取った。
「変身っ!!」
――シャキーーン
ストームの全身が輝き、虹色に輝く光の玉に包まれる。
そして輝きがスッと消えると、その場に静かに立っている謎の人物の姿があった。
全身を覆う漆黒の鎧。
筋肉をモチーフにした、異形の生命体のような外見。
そして頭部を覆う、昆虫のような外見の金属の覆面。
覆面に付いているその赤い瞳に、不思議な力を感じる。
「ストーム殿が消えただと!!」
ある騎士が叫びながらストームを探す。
「何処だ、ストーム殿は何処に消えたんだ!!」
とある司祭もまた、周囲に聞こえるように叫んでいた。
「そして、代わりに立っているあいつは何者だ」
誰かが、そこにいる異形の人物を指差す。
「「「「何者だ!!」」」」
騎士団の声が、周囲に響いたその時!!
「お゛れ゛の゛な゛は゛」
――ズバァァァァァァン
マチュアのハリセンが、遠隔で異形の人物の頭部を直撃した。
「其処までやらんでもえーわっ」
「そ、そうか。なら改めて」
すかさずポーズを取り直すストーム。
「俺は『哲学する獅子』っ!! 仮面ビルダーストームっっっっっ」
バーンと名乗りポースまで完璧。
もし此処が地球の何処かの遊園地なら、チビッ子たちから拍手喝采であろう。
今のストームにパチパチと拍手しているのは、シルヴィーとブリュンヒルデ、後はノリのいい騎士団達だけである。
というか、この変身ヒーロー、ブリュンヒルデにとってはかなりツボに入った模様。
キラキラと目を輝かせて、じっとストームを見ている。
――トゥッッッツ
と勇ましくグレーターデーモンに向かって駆け出す。
其処からの戦いは実に見事である。
ボディビルダーらしくポージングを殺陣の中に組み込み、更にそれを実践レベルにまで磨き上げている。
時折攻撃を受けるものの、持ち前の戦闘技術で致命傷まではいかない。
手にしたカリバーンは聖属性の武器の為、魔族にとっては脅威なのかも知れない。
次々とグレーターデーモンの体に、抗う事のではない傷を叩き込んていく。
「‥‥グッ、オノレェェェェェ」
――キィィィィィン
とグレーターデーモンが右手を頭上に掲げる。
その手を中心に、膨大な魔力が集められる。
「くるぞ。推定温度10,000度を超える、グレーターデーモン最大の魔術っっっっっ」
と、マチュアが叫ぶ。
咄嗟にその場にいた騎士団は、自分の主君たる王を守るために走り出す。
マチュアも瞬時に印を組むと、防御魔法の発動タイミングに入った。
「クラエ、メルトブラストォォォォォォォォォ」
グレーターデーモンの手に集められた魔力が渦巻く炎となり、ストームに向かって叩きつけられる。
それは幾つものドラゴンの頭の形を取ると、ストームや周囲の大地に向かって飛来した。
――ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォッ
その炎は、闘技場全体に広がった。
大地は熱により溶岩の海へと変質していく。
触れるものは、瞬時に全身を焼き尽くされるであろう。
だが
――ビシィィィッ
マチュアは右手を前に差し出すと、王達の周囲に結界を施す。
そしてグレーターデーモンのメルトブラストが生み出した幾重もの焔は、マチュアの結界に阻まれて消滅していった。
周囲の騎士たちも結界で身を守っているが、次々と結界が破壊され、焼き殺されていく。
この攻撃が幻影投射でなければ、被害甚大であろう。
そして焔の中心にいたストームはというと。
「デンデンデンデンデンデン、カーン、デンデンデンデン‥‥♪」
左腕に発生した『波動の楯』でメルトブラストを弾き飛ばすと、何かを口ずさみながらグレーターデーモンに向かう。
そして鎧の腰の部分、ベルトのバックルに仕込まれた剣の柄を引き抜いた。
「聖なる光剣っっっっ!!」
先日、皇帝によって授けられた『剣聖の証』たる剣である。
その柄からはストームの意思を具現化した刃が生み出される。
素早くグレーターデーモンに駆けていくと、次々とその岩のような皮膚を切り裂いていく。
「トゥゥゥゥゥッユ、トォリャァァァァァッ」
次々と必死にストームの攻撃を躱して殴り掛かるのだが、それよりもストームは素早く動くと、隙を見て再びグレーターデーモンを切りつけていく。
やがて膝から崩れていくのを見ると、ストームは『聖なる光剣』を前に突き出し、その刀身に左手を添える。
――キィィィィィィィィィィィン
柄から生み出された刀身が更に輝きを増す。
そして弱り切ったグレーターデーモンの正面に立つと、ジャンプして光剣で一閃。
「『オリンピア3連返しっ』」
素早くグレーターデーモンを左右3連の袈裟斬りにすると、ストームはその場に着地した。
「一欠っ」
――チュドーーーン
と叫んで最後の名乗りポーズを取る仮面ビルダーストーム。
その背後で、グレーターデーモンが崩れていった。
○ ○ ○ ○ ○
――スパァァァァァン
「誰が完膚なきまでに破壊しろと言った。あれ作るの大変なんだぞ」
戻って来たストームに向かって、マチュアは力いっぱいハリセンを叩き込んだ。
あそこまで破壊されると、ここでの修理は不可能である。
「あ、それは済まなかった」
と変身を解くストーム。
そして箒とちりとりを手に、グレーターデーモンに向かって走り出す。
「まあ、皇帝直属の騎士団には、これぐらい出来るようになって貰いましょうかね。他の騎士団は、レッサーデーモンを五人で五分。此れを当面の課題にして良いかと」
マチュアがドヤ顏で呟く。
その言葉に騎士団員たちの背筋が凍りつく。
「ま、マチュアさんも今の倒せるのですか?」
とどこからか質問が飛んできたが。
「まあ、そんなに難しくは無いからねぇ‥‥」
と軽く返事を返す。
「では、諸王は自国の騎士団の戦力増強に努めよ。ティルナノーグの解放までの時間はあと僅かである。世界の存亡は、我等の腕に掛かっているのだ」
との皇帝の言葉に、騎士団は敬礼した。
そして皇帝が下がるのを確認して、其々の騎士団は自分の王の元へと集まったのである。
「やはり妾の騎士団は最強ぢゃ」
にこやかに告げるシルヴィーに、ウォルフラムや班目、アンジェラはため息一つ。
「此処まで強くなってるとは思っても居ませんよ」
「全くだ。ストーム殿の特訓の成果が出たのう」
「私なんて、高位司祭の魔術まで覚えさせられたのですよ」
と叫んでいる。
「あー、因みに、幻影騎士団は有事には、皇帝直属の近衛騎士団と同等の権利を持つぞよ」
「「「初めて聞きましたよ」」」
と三人が更に大声を出す。
「おや?説明しておらなかったか?」
キョトンとした表情でそう告げるシルヴィー。
ストームたちは知っていたので、皆知っているものと思っていたらしい。
「初耳ですよ。どうしてそういう事を教えてくれなかったのですか?」
とウォルフラムがシルヴィーに問いかけている。
「ちょっと待て。今現在、その制限は外れているはずだが。俺やマチュアが六王の任務を遂行する条件で、平時でも皇帝近衛騎士団と同等の権利がある筈ではなかったか?」
そう遠くから叫ぶストームの言葉に、シルヴィーが、ポン、と手を叩く。
「おお、そうじゃった」
――ガクッ
と膝から落ちる3名。
と、マチュアはついでという感じで、白銀のローブを身に纏う。
「あ、白銀の賢者タイムだな」
「賢者タイムいうなや。ストームも確か叙勲あるはずだよ。後で皇帝の所行って来ような」
と、近所に遊びに行く感じで話しかけるマチュア。
「ああ、先日略式であるが『剣聖』の叙任は終わったぞ。マチュアと同じ権力を貰ったが」
「もう好きにしてください。それよりも、私達はどうすればいいのですか? 他の騎士団は色々と打ち合わせをしているようですが」
「うむ。拙者たちも、もっと強くなりたい。今よりもな」
「回復魔法の真髄を、まだ見ていないのですよ」
あー、確かにねー。
という事で、マチュアはストームの肩をぽん、と叩く。
「なんだ?」
「ちょいと読み込ませてくれ…。」
と、ストームの戦闘データを、『GPSコマンド』で読み込む。そして深淵の書庫を起動すると、ストームから読みとったデータを元に、『知識のスフィア』『技術のスフィア』を作り出した。
そしてバックに仕舞ってあった『ミスリル製シルヴィーちゃん人形』を二つ取り出すと、そのうちの一つに組み込む。
そしてもう一体には、マチュアの知識のスフィアを組み込んだ。
「ほい、君達の教官だよー」
と二体のミスリルゴーレムを用意する。
「えーーっと。戦闘教官は‥‥ハートマンでいいか。こっちはハートマン。で、魔術教官は‥‥ディードという名前で行こう」
と、その言葉と意思を読み取ったのか、男性教官は帽子を被った壮年の男性に、女性教官はエルフの女性の姿に変化していった。
「仕上げと。コマンドセット‥‥どちらもマスター権限は私が、サブ権限はシルヴィーとストームが持つ。君たちの任務は、幻影騎士団の団員及び騎士団員の認めた者達が求める時には、自分達の持てる技術を叩き込んて欲しい」
と告げる。
「了解しましたわマスター。初めまして、私はディード、あなた達に魔法について色々と教えてあげますね」
と丁寧に挨拶をするディード。
「了解だ。よく聞け騎士団共。貴様らは人間ではない!オークのクソをかき集めた価値しかない!」
いきなり来たぞ。
とストームは喜ぶが、言葉に『恐怖』が乗せられているため、ストームとマチュア以外は背筋を伸ばして立っている。
「おれは厳しいが公平だ。人種差別は許さん。貧弱骨エルフ、酒漬けドブドワーフ、合法ロリをおれは見下さん。全て平等に価値がない!」
かなりノリノリで話を始めているハートマン教官。
そろそろ放置しましょう。
「で、なんでシルヴィーも騎士団に混ざってるの?」
「た、助けてたもれ‥‥」
シルヴィーも巻き込まれたらしく、抜け出せなくて困っている模様。
なのでマチュアがハートマン教官の元に歩いていくと、ザッと敬礼をする。
素早くハートマン教官も敬礼を返すと、その場でじっと立っている。
「ハートマン教官。シルヴィーは貴公らの上官にあたる。解放を願いたい」
「サー、イェッサー」
と踵を返して、マチュアに挨拶するハートマン。
「ということでシルヴィーはこっちね。後は、本国に戻ってからの特訓をよろしく」
と告げると。
「マチュア殿、済まないが、うちの騎士たちもそちらの教官の指導を受けさせたいのだが」
「うむ、それは頼みたいところじゃな」
「そうね。私の所もお願いしたいわ」
とシュミッツとケルビム、ブリュンヒルデがマチュアの元にやってくる。
「ではこうしましよう。まずはレッサーデーモンで試験をします。例の5人チームで、それをクリアしたチームから、ハートマン教官の特訓を受けるというのはいかがかと」
「それは構わないが、先にそちらで特訓した方がいいのでは?」
「あ、この方、グレーターデーモンクラスの戦術ですので、マジで死にますよ。特訓では『幻影』なんて使いませんから、死ぬ時は本気で死にます。それでよろしいのでしたら」
「「「「分かった。試験をクリアしたらだな」」」」
とその場の王達も皆叫ぶ。
かくしてその日は解散となり、其々が自国での訓練に突入した。
尚、訓練用レッサーデーモンはミストにサブ権限を持たせて取扱い方法を伝授し、闘技場での訓練に使用される事となった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
サムソンに戻ったストームは、取り敢えずはいつものように淡々と注文をこなす。
そして一通りの作業が終わった後、ミスリルの武器の量産を開始した。
「一つでも多く作っておかないとなぁ‥‥俺とマチュアで突っ込んでいってどうにかっていう問題じゃなくなったし」
幾つもの転移門が同時に開くと、マチュアとストームだけでは処理できない。
その為にも、今は一人でも戦力になる存在が欲しい。
各国の騎士団はその為に訓練を開始、魔族に有効な技術を身に着けようとしている。
ならば、魔族にダメージを通すために魔法金属で作った武器が必要なのである。
――キィィィンキィィィィン
と槌の音が響いている。
その横にある自宅では、現在もマチュアが『封印の水晶柱』の解読を続けている所である。
「ふむふむ。ほほうほうほう‥‥」
と深淵の書庫の中で色々と魔法を試みているマチュア。
「攻撃魔術以外には自動防衛は起動しないのか。しかし、これまたやっつけ仕事だなぁ‥‥」
と水晶柱に刻まれている術式に触れる。
――キィィィィィン
とマチュアの魔力に反応し、赤く輝く。
「一つ一つを剥がさないといけないとは、時間がかかる結界だねぇ」
とマチュアはゆっくりと解読を続けるしかなかった。
――ガチャッ
とストームが室内に入ってくる。
「おう、こっちの様子はどんなもんだ?」
「これがまたねぇ。術式はこの国の南方、古代ドワーフ王国の文字による術式。ドワーフの魔術師の仕業というところまでは分かった。だが、私の知る限り、そのドワーフ王国は遥か過去に滅んでいるんよ」
手がかりはそこにある可能性大。
だが、今は存在しない遺跡の調査となると、どれだけの時間が掛かるか分かったものではない。
「そこに行ってみないと分からないか。距離は?」
「ここからだと、シュミッツ殿の城から南下して7日っていう所な。ただ、そこにあったという噂しかなく、遺跡はそこでは確認されていないんだよ」
「ドワーフの知り合いにでも、話を聞いてくるか。何か分かったら戻ってくる」
と告げて、ストームは再び外に出ていった。
「‥‥ドワーフの古代王国?」
いつもの酒場『鋼の煉瓦亭』に姿を表したストームは、そこで食事を取っているウルスに話を聞いてみた。
「ああ、この帝国の南方にあったと聞いているが、実際に存在したのか?」
「さてと、ストームの話しているのは、『黄金郷エル・カネック』のことだな」
そう告げてから、ウルスは食事を終えてストームとゆっくり話を始める。
「エル・カネックは遥か昔に、人間によって滅ぼされてしまった国だ。ドワーフの秘儀とも言える技術が集まっている国とも伝えられ、そして豊富な金鉱石を有していた国でもあった。だが、欲に目がくらんだ冒険者がエル・カネックを訪れてから、滅びの歴史は始まったと伝えられている」
「今は存在しない、人によって滅ぼされた国か」
「うむ。奪い取られた金などは全て南方の国に持ち帰られた。現在流通している金貨は、その時に略奪されたものと伝えられている」
「そのエル・カネックには、魔術文化はあったのか?」
「ドワーフ氏族には、生まれながらに大地の加護が与えられておる。それ故に、大地の魔術を使える者も少なくはない。尤も、今はそれらの魔術の中でも鍛治や採掘に使う魔術のみで、それ以外は殆んど伝えられてはいない」
「と言うことは、昔はもっと様々な魔術があったと言うことか?」
「古くから、我等ドワーフは幾多もの民と交流して来た。その中でも、魔術に特化した水晶の民とは、様々な交流があった。エル・カネックにも、君たちの言う古代種、水晶の民が大勢住んでいたのじゃよ」
「ビンゴおおおおおおおおおお」
思わず叫んでしまうストーム。
「おおう、突然どうした?」
「いや、ちょっと嬉しくてな。そのエル・カネックにはどうやって行けばいいん?」
「今は滅びし廃墟の遺跡。しかも長き時によって、大地の下に沈んでしまっている。場所だけならば、南方のブラウヴァルト大森林の横、フェルゼンハント森林王国に住むドワーフは知っておるぞ。エル・カネックは我等ドワーフにとっては聖地であるからなぁ」
――ドン
とストームがテーブルに金貨を一枚置く。
「ウルス、ここのテーブルの支払いは俺が持つよ。釣りは全部飲んでくれ、いい話ありがとよ」
と頭を下げて、ストームは酒場から走って出て行った。
「と言うことだ」
「ふむ、何もわからん、ちゃんと一から話しろ」
突然自宅に戻ったストームがマチュアに話しかけたが、そんなこと言われてもさっぱり分からないので、ストームに最初から説明させることにした。
そしてストームも落ち着いてゆっくりと説明すると、マチュアは腕を組んで唸っている。
「さーて、どうやってそこに向かうかだな」
「道中の時間計算は、基本マチュアなら片道分だよな。10日って所だろう?」
「まあ、そうなんだが。現地での調査時間なども考えると、半月から20日は欲しい所だ。貴重な戦力を分割するのも考えものだし、何より留守中はここが手薄になるのはまずい」
と色々と思考を巡らす。
「ここの結界は中々破れないのでは?」
「いや、これが油断は禁物なんだ。破れないはずの結界なのだが、この前の鍛治師の大会の時、まんまと侵入を許してしまった。手練れのシーフの使うスキルをすっかり忘れていたよ。それにな」
と、マチュアはボルケイド戦で使った両手剣を取り出す。
「ボロボロだろ?」
「ああ、その程度なら幾らでも修復して……あ!!」
「そうだ。破壊不可耐性が機能していないんだよ」
ストームは自分で修復可能だったし、鍛治師であったので『破損したら修復する』という思考がある。そのため加護の一つである『破壊不可耐性』をすっかり忘れていたのである。
「何故今になって?」
と頭を捻るストームに、マチュアが困ったような顔をしている。
「予想だが、いいか?」
――ゴクッ
「あ、ああ」
「私たちの魂の修練は進んでいるんだ。それに伴って全体の難易度が上がったのか、もしくはこれ迄の加護が薄まったか、どちらかだ。今回のケースは多分だが前者、難易度の上昇だと思う」
これにはストームもある程度は納得した。
「今まで壊れなかったのは、直せるものが居なかったから。今はストームが直せるから、多少の損傷は発生すると言う事だと思う。だから、多分難易度が上がったと解釈していいと思う。現に、ストームや私の直せないアイテムは未だに破壊不可だと思うよ」
と告げると、二人は久しぶりにバックの中身を引っ張り出す。
案の定、オリハルコンや火廣金と行った材質は未だに破壊不可だが、アダマンタイトなどの武具の加護は『全体性能強化及び頑丈』に切り替えられている。
「はー、成程な。ずっと護られっぱなしだと修練にはならないと言う事か。まあ、この程度は、問題はない」
「加えて、この前発動した私の結界も、そんじょそこらのシーフでは破壊できない強度を持っていた筈なんだ。つまりほぼ侵入不可だった。が、他の職業やクラスの魔術。技術では簡単に突破可能だという事も判明した」
「具体的には? さっきのシーフスキルの話か?」
と荷物を片付けながら問いかける。
「そうゆうこと。忍者になってスキルを見たら、初期のシーフスキルで『結界効果半減』ていうのがあったんだ。エンジだとその上位の『結界効果無効』まで使えるから、手強い相手に対してなら、それなりの強度の魔術を使わないとならないという事。まあ、これはどこの世界でもそうなんだけれど、余りにも自分の強さを過信していたよ。もっと考えて使わないとやばい事もあるかもしれない……あれ?」
と、自分の言葉をもう一度考え直すマチュア。
「ふむふむ。そろそろ考え方も直さないといけないという事だ。私達の受けている加護は半分ずつなんだという事もね。改めて、これからは気を付けるようにしよう」
「そうだな。真っ先に権力と地位が手に入ったが、それ以外も構築する必要もあるか」
「魂の修練にゲージがあったら、うちらの権力ゲージは多分だがマックスだぞ」
と笑い合う二人。
まあ、そうかもしれない。
「と言うことでだ。此処には留守番でツヴァイを置いていく。ストームはエル・カネックの調査を頼みたい」
と銀色の旗を魔術で作り出すと、それをストームに手渡す。
「俺もツヴァイみたいのが欲しいのだが」
「あー、もう少しストームの魔力が強くなったら作ってあげよう、これのコントロール、意外と魔力使うのよ」
と、笑いながら説明する。
「それは仕方ないか。で、俺がエル・カネックに向かっている間に、マチュアはどうするんだ?」
「ティルナノーグについての調査をしてみるよ。それじゃあねー」
と告げてマチュアはツヴァイを召喚すると、留守番を命じた。
そしてストームもまた、旅の準備を終えると、『馴染み亭』の転移魔法陣から、シュミッツの城へと転移した。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






