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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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イェソドから・その48・後始末からの日常

 カッテージが騎士達に捕らえられ投獄された翌日。


 カッテージ付きの護衛騎士であるバーソロミューの姿はどこにもなく、王城内ではバーソロミューが魔人とカッテージを引き合わせたのではないかという噂が流れていた。

 サンシータ王子は母親の計画について何も聞かされておらず、ただただ母上が迷惑を掛けたと彼方此方あちこちで泣きながら頭を下げている。

 そんな姿に不憫さを感じたのか、サンシータには罪を問う事はなく、王城内で生活する事だけは許された。



「聖女マチュアよ、此度のソーダフィル王国の侵攻を止めてくれて感謝する……」


 玉座の間にて、マチュアはアドラー国王から感謝の言葉を受け取っていた。


「いやいや、フローラに頼まれて王子様の進軍を止めようとしただけですよ。そのついでにビバッスルの解放とソーダフィルに住みついた魔人を排除しただけですからね」


 ポリポリと頬を掻きつつ呟く。

 マチュアにしてみれば本当についでの仕事、ただフローラが泣くような事にはしたくないという配慮のついでである。


「ついでに魔人を滅するというのを聞くと、わが国としても是非とも滞在して欲しい所なのだがなぁ」

「それは断るけれど、そうね、うちの商会登録冒険者には魔人と戦う術を教えてあるので、今後は彼らから色々と教えを請うといいわよ」

「う、うむ……そうさせてもらおう」

「それと大樹、この国の聖大樹教会の教皇も病から解放された事だし、もう一度国を挙げて大樹を祀って欲しい所ね。大樹の加護は魔人に対抗する力となるのだから」


 手をヒラヒラと張りつつ、マチュアは部屋から出て行く。

 その姿に無礼であると言いたい家臣たちもいるが、相手は一国の王であり聖女、そしてアドラーの窮地を救った英雄である。

 国王からは礼を尽くせという命令が出ているので、家臣達も静かにマチュアを見送る事にした。



「さて、マーマル軍務卿、これからアドラー軍の再編と強化をする必要があるな」

「はっ。早速手配させていただきます」


 国王の一言で、マーマル軍務卿は部屋から出て行く。

 それに付き従うように騎士達も部屋から出て行くと、玉座の後ろ、タペストリーの陰からフローラが顔を出した。


「マチュアねーさまは、もう出て行くので……ヒック……」


 国王とマチュアの話を、タペストリーの裏にある隠し部屋で聞いていたフローラ。

 直接お礼を言いたかったけれど、今会ったら絶対に泣く。

 そしてアドラーから出て行かないでと泣きながら引き留める。

 そんな事はしていけないと母に言われた。

 だから、フローラはずっと我慢した。

 でも、もう我慢出来ない。


 玉座に座る国王に抱きついて、声を殺してフローラは泣いていた。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「と、いう事で、今月をもってカナン商会は、みなさんを登録冒険者から解雇します!!」


 王城からカナン商会馬車に戻って来たマチュアは、すぐさま店内で留守番をしていたロシアン達を集める。

 本日は休業、その為、カナン商会のメンバーには店内清掃をお願いしていた。

 既に店内至る所までピッカピカ、すぐにでも営業出来るレベルで仕上がっているので、各々が店内でゆっくりとした時を過ごしていた所にこの一言である。


「あ、いつか来るとは思っていたけれど、まさか今日言われるとはねぇ」

「短い間でしたけれど、ありがとうございました。残りの期間、精一杯勤めさせてもらいますね」

「拙者たちは、このままアドラーでマチュア殿の意思を継げばよいのであるな?」


チームおニャン子のロシアン、アメショー、マンチカーンは納得の一言であるが、テルメアとライナスは茫然としている。


「え、あ、あれ?」

「今月一杯でクビなの?ソーダフィルには行かないのですか?」


ライナスとテルメアが問いかけるが、既にこの大陸での仕事は終わったも当然。

大樹にいるシャダイから、ソーダフィル王国の大樹は枯れ果てている為、株分けをして育て直さないとならないらしい。

その為の手筈は整っており、マチュアがソーダフィルに向かって苗木を植えて神力を注ぐのみ。

大体一週間もすれば根付いてマナラインまで根が伸びるので、後は、シャダイの仕事である。


「行くよ。行くけど、みんなは連れて行かない」


そう告げて、マチュアはメンバー全員の顔を見る。


「ロシアン、貴方はこの王都の聖大樹教会登録冒険者になって。枢機卿の大樹の加護はもう直ぐ戻るけど、それに目をつけた強欲な奴らを監視してほしい」

「それと、俺の使える神聖魔術を広める為だな?」


ロシアンの言葉にマチュアは軽く笑う。

何だかんだといっても、ロシアンはマチュアの事を認めている。その上でどうして欲しいかまで汲み取ってくれている。


「ライナスとマンチカーンは冒険者として、闘気と気功のコントロール方法を広めること。出し惜しみはしないで、請われたら教えてあげて。でも、貴方達を抱え込もうとする輩には手加減なしで」

「うむ。拙者たちの仕事は近接系冒険者の底上げでござるか。魔人と互角に渡り合えるようになるまでしごいて見せましょう」

「お、おれは守り方を。闘気による防御力の強化、身を守るすべを伝えることにするよ」

 

最後はアメショーとテルメア。


「貴方たちは魔術を広めること。魔人との戦いでは、魔術の有無が勝敗を決めるといっても過言じゃないわ。二人はもう、魔力回路を開くための訓練方法も理解しているのでしょ?」

「まあ、私は特に問題ありませんけれど、隣の泣き虫っこはねぇ……」


ちらりとアメショーの隣で泣いているテルメアを見る。

カナン商会をクビになると言うよりも、マチュアと別れる事が辛いらしい。


「わっ、わたしっ、わたしはっ!!」

「いいことテルメア。わたしは貴方に魔術を教えたわ。貴方を強くする為、そして、もっと多くの人に魔術を教えたいから。だから、今度は貴方が私の意思を継ぎなさい」

「はっ、はいっ!!」

 

涙を零しつつも、テルメアはマチュアにこくこくと頷く。


「私も昔はねぇ、いろんな無茶な事をしていたのよ。まだ私が駆け出しのヒーラーだった時代、とある暗殺者の人がいてね、危なく死にそうだった私を助けてくれたのよ……」


ふと思い出す昔の記憶。

それは現実ではない架空空間での出来事。

オンラインゲーム初心者だった時代のマチュアを助けた、『ハヤブサ』という名前のアサシン。

マチュアはその人から、オンラインゲームの世界で生きるすべを教えてもらった。


そして一人前のプリーストに転職した時、ハヤブサはマチュア達の前から消えた。

マチュアは、育ててくれた恩を返そうと必死に探したのだが、ついにハヤブサと会えなかった。


ただ、マチュアは今でもハヤブサの言葉は覚えていた。


『自分がしてくれた事を、今度は別の人達にしてあげてください。助けを求める手は、決して離さないでください……』


これがマチュアの中の絶対不変、譲れない法則。

でも、今は、神に等しい存在となってしまった今は、これを実行してはいけない。

だからこそ、この意思はもっと多くの人に伝えたい。


「正直いうとね、ライナスとテルメアを助けた時はどうしようかなぁって考えていたのよ。自分達の知らないスキルを欲しいと言ってくるような子供にはってね。でも、長く付き合って、この世界を知るとね。それが当たり前に通用するんだなぁって思ったのよ」


淡々と告げる。

ライナス達は、そのマチュアの話をじっと聞くしかなかった。


「でもねぇ。何だかんだ言っても、貴方達は私を騙そうとはしなかった。まあ、無理やり何とかって考えていた三人はいたけれど、性根は腐ってなかったみたいだし、むしろ自分に正直に行き当たるんだなあって思ったからねぇ……だから、みんなに私のスキルを教えてあげたんだから」


思わず困った顔のロシアン達だが、今でもマチュアには感謝している。

あのままマチュアに心をへし折られなかったら、自分達は何処かで野垂れ死んでいたかもしれない。

だが、今は全員が爵位を得て、地位のある立場になろうとしている。


「という事で、私からの願いは一つだけ。あんた達は今のままでいい、真っ直ぐに生きなさい。何か困った事があったら、この五人で考え答えを出しなさい。カナン商会の従業員ではなくなっても、チーム・カナンの一員であった事を誇りに思いなさい」


ロシアン以外は涙を浮かべ頷くしかなかった。

そのロシアンでさえ、込み上げてくる気持ちをどうにかしたくて必死である。

そして彼の出した結論は一つ。


──ドン


マチュアの前で、テーブルに肘を立てる。


「あれからどれだけ強くなったか見てくれ」


アームレスリングの構えを見せるロシアン。

そこにマチュアも頷いて腕を出して構えた。


「いいわよ、本気でかかってきなさい」

「それでは、ロシアン対マチュアさんのアームレスリング、レディーゴーッ!!」


──ドゴッ……ズデェェェェーン

一撃で決めようとするマチュア。

当然一撃なのだが、以前のロシアンなら肘から腕が千切れている所であるが、それに耐えていた。

まあ、肘を支点にクルッと一回転したので当然といえば当然である。


「イテテテ。ま。まあ、前よりはもったか」

「そうね。一瞬で闘気による身体強化、瞬発力の向上、特に問題ないわね。私に負けた理由は一つだけ、基礎ステータスの違い。いまのロシアンなら二倍三倍程度の差ならひっくり返すけど、二桁違うと無理ねぇ」


ニマニマと笑うマチュア。


「二桁かよ。それで、魔人には通用するか?」

「三下程度ならソロで。この前ライナスとマンチカーンで戦った幹部クラスなら、この五人で何とでもなるわよ」


それだけを告げて、マチュアは立ち上がる。

そのままカウンターまで向かうと、何事もなかったかのように仕込みを始めていた。


「あ、あの、マチュアさん……何をしているの?」

「何って、午後からは普通に営業するんだけれど。何?私達の感動は如何するのとかそんなこと言わないわよね?まだ今月一杯は全員カナン商会の従業員なんだから……働け!!」


「「「「はいっ!!」」」」


全員が一斉に立ち上がると、急ぎカナン商会開店の準備を開始した。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



場所は変わってソーダフィル王国王都。

王城執務室で、国王ドルフ・ラングリッサーは腕を組んで考え込んでいた。


此度のアドラー王国への進軍、いくら魔人の手引きであったとはいえ平和条約を無視しての強引な進軍であった事に変わりはない。

しかも、アドラーの中継都市を、一瞬とはいえ支配下に置いた責任、これはただの謝罪程度では許される筈がない。


「一体どうすれば良いのだ。我がアドラーに赴き膝を折る、それがもっとも平和な道であることは理解している……」


既に国民からの信頼は皆無、いくら魔人から民を守るためとはいえ、国王はソーダフィルを魔人に捧げたに等しい。

理解している国民も多々あるものの、無益な抵抗をして死んでいった民も多い。

それを理解しているからこそ、今はアドラーに縋るしかない。


大樹の加護を失ったソーダフィルでは、近隣の魔人族の集落から国民を守る事は出来ない。

ならば、何もかも捨ててアドラーに従属し、聖女さまの奇跡に助けを求めるしかない……。


街は以前のような平穏を取り戻した。

だが、大樹による結界の無いこの国を離れようとする民も多い。


「ならば、行くしかないか……誰かいないか!!」


すぐさま部屋の外で待機していた騎士と執務官がやってくると、国王はすぐに書状を手渡した。


「これをアドラー王家に届けるよう。外交信書である、必ずアドラー国王に渡すように」


今は時間が惜しい。

一刻も早く国民に納得のいく説明をしなくてはならない。


ソーダフィル王家の最後の務め、それを無事に終わらせる為に。



今回のストーリーに出てくる、ハヤブサというアサシンのくだりは実体験です。

まあ、どのゲームかは大体予想できるでしょう。

もう会うこともありませんが、ハヤブサさんに感謝の意を捧げます。


『マチュアは、ゲームの枠から飛び出して小説の世界で頑張っています』


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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― 新着の感想 ―
[一言] ハヤブサさんのエピソード良いですね、私もガラケ時代にオンラインゲームで一緒に戦った戦友を思い出し少しセンチな気分になりました。
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