イェソドから・その42・破壊神と魔族と進軍と
かくかくしかじか。
地デジはもう実装されてかなり経ちますよとそんな事はどうでもいいわ。
アーカムがこのセフィロト世界に次元潮流を辿って……流されてやって来た事についてはいい。
問題なのは、次元潮流を遡る術があるのなら、この世界の住人もザ・ワンズの8つの世界に来る事が出来ると言う事。
ナーヴィス・ロンガのような大陸戦艦シリーズや方舟があれば来るのは容易いというのが理解出来たが、それがこの世界にどれだけあるのか分からない。
全くないと言い切れるほどマチュアも甘くはないし、むしろアーカムのような手を使って行く事も出来る。
「参ったなぁ。アーカム、あんたがここに来た方法を使えば、この世界の魔族も私達の世界に来る事が出来るのよ?それがどういう事がわかっている?」
「知らないわよ。この世界の魔族って、そんなに手強いのかしら?」
カウンターを拭きつつアーカムが問いかけるが、マチュアは腕を組んで考えてしまう。
今のところ、正面から闘った魔族はデトロイド一人だけ。それも、マチュアにとっては脅威でもなんでもなく、むしろ手応えが無くてややガッカリである。
だが、カリス・マレスの冒険者だとどうだ?
あんな奴相手に何処まで抵抗できる?
「……あ、そうでもないわ。レッサーデーモンと五分五分ってところかな?」
「へぇ。普通の魔族がそこまでの強さを持っているの。これはなかなか大変ね」
「いや、多分だけど幹部クラスだと思う」
「へぇ、幹部クラスがレッサーデーモン……駄目じゃない。人間で立ち向かえる……レベルよねぇ」
一昔前の冒険者なら勝ち目は無かったであろう。だが、今のラグナ・マリアの冒険者なら勝ち目は十分にある。
マチュアとストームという存在が、ラグナ・マリアの冒険者の下地を強固に変化させていた。
「でしょ。なので、しばらくこっちでのんびりするといいわよ。どうせ帰れないんでしょ?」
「ま、まあ……転移も結界で弾かれたからね。でも、それはマチュアも同じじゃないの?」
──チッチッ
軽く指を左右に振る。
「白銀の賢者の名前は伊達ではないわよ。白亜の回廊から帰る」
「何それ?」
「神々のみ使用を許された、いかなる次元にも出入りできる回廊。まあ、天狼様の許可無くては勝手に使えないんだけれど、回廊に出て天狼様にお願いしたら帰れるから」
「チッ。これだから神威を持っている奴は……なら、帰るときは連れて行ってくれるのでしょうね?」
「それは構わないわよ。まあ、後暫くはこっちだから、一緒に行動する?」
旅は道連れ世は情け。
マチュアとアーカムはガッチリと握手し、一時的な同盟関係になった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「という事で、私の旧友?のアーカムよ。今日からカナン商会の登録商人になったので」
掃除も仕込みも終わって夕食タイム。
ロシアンら五人も仕事から戻って来たので、紹介がてらの晩餐会となった。
「マチュアさんのお友達ですか。私はテルメアと申します」
「ライナスです。宜しくお願いします」
「マンチカーンじゃ。サムライを生業としている」
「アメショーよ。宜しくね」
「ロシアンだ。カナン商会登録冒険者のリーダーを務めている……マチュアの知人という事は、あんたも伝承種なのか?」
その聞きなれない単語にアーカムがマチュアを見るが、マチュアはコクコクと頷いている。
「信じるか信じないかは自由。アーカムは魔族よ」
──ガタッ
その言葉に一人を残して全員が一斉に立ち上がる。
いつでも戦えるように臨戦態勢を調えるが、ロシアンだけはのんびりと座ったまま一言。
「マチュアの知り合いの魔族ということは、伝承種の魔族か。という事は真祖クラスなのか?」
「へ?なによそれ。私はメレス八将の一人よ。真祖ではないけど、多分あんた達のいう伝承種じゃないかしら?」
「だそうだ。そもそも普通の魔人族なら、この街に入れるわけがないだろう?まだ大樹の加護は少しだが残っているんだ、普通の魔人族なら今頃浄化されている筈だ」
ロシアンがそう説明して、ようやく四人も席に座る。
そして話を続けるのだが、その内容はもっぱらアーカムの持つスキルや能力について。
この世界の魔人族はロシアン達とは違い、スキルスロットという概念が魔族にはないらしく、アーカムもその法則性が当てはめられていた。
「保有スキルが100以上?え?盾技ありますか?」
「それって私達でも覚えられるのですか?」
「ふむ、闘気についてちょっとわしの技を見て欲しいのだが、どうも伸び悩んでいてなぁ」
「私はパース。もう魔術と盗賊系でスロットが一杯なのよ。ロシアンもでしょ?」
「ああ。どうしても欲しいという程でもないし、寧ろ今持っているスキルを更なる高みに上げないとな」
そう告げられて、ライナスとテルメアはしょんぼりと椅子に座る。
その前では、マンチカーンが闘気を練り上げ、アーカムが細かいアドバイスをしている所であった。
「へぇ。アーカムって闘気コントロールできるんだ。魔族なのに」
「人間界では疑似体が無いと大変でしょ?なのでついでに修得しておいたのよ……それでもあんたの足元には及ばないでしょうけれどね」
「あっはっは。わたしゃ魔術師だよ賢者だよ?闘気なんてストームに任せたままだよ。少ししか使えないよ」
その言葉にアーカム以外があっけに取られる。
マチュアの闘気でさえ尋常ではないのに、その上をいく存在があるなど信じたくはない。
「そ、そのストームって誰ですか?」
「私が百人いてなんとか勝てる相手かな?ライナス達にわかりやすく説明すると、私のパーティー仲間でリーダー。世界最強の剣士だね?」
世界最強。
その言葉にマンチカーンがやや興奮気味になってしまう。
「そ、それでは、今度紹介してもらえますかな?是非一手お相手をお願いしたいのじゃが」
「まあ、機会があればね。それまでにスキルを磨いておきなさいな」
「うむ。ちなみにストーム殿のスキルレベルはやはり10で?」
「ないよ。あいつにはレベルなんていう概念が通用しないからね」
茫然。
その一言でテーブルの周りの雰囲気は察してもらえただろう。
そのまま雑談を交えつつ、マチュア達は楽しいひと時を過ごす事にした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
マチュアがアドラー王都にやって来て二十日程。
既に大樹は立派な巨木に戻り、街全体を覆い尽くす程の大樹に回復していた。
そしてアクア・ベネディクト教皇が病から回復した事、その最中に何者かによって大樹の加護についての嘘情報が蔓延してしまった事についての謝罪が行われた。
その上で、聖大樹教会は王都にある大樹こそが神木であり、人々の祈りを糧に大樹はこの大地に恵みをもたらすと宣言。
ゆっくりではあるが、人々の信仰は再び大樹へと戻っていく事になった。
ただ
そのような宣言が行われたにも係わらず、大樹の聖者であるマチュアの名前については一言も触れられていなかった。
ただ、大樹の聖女が存在すること、彼女は謝られるを嫌うので名前は出さないが、皆は知っているであろうと宣言。そして今まで通りに、彼女に接するようにと人々にお願いしたのである。
この教皇の宣言により、アドラー王国の聖大樹教会は盤石な地位を確立したのであるが、それが面白くないのは隣国ソーダフィル王家であろう。
………
……
…
魔人族の魔導士ルモールの支配国であり、日々を恐怖に怯える国民にとっては、魔人族や魔物の脅威から解放されたアドラー王国が羨ましくない筈がない。
何故自分達は魔人族の奴隷となっているのに、やつらは平和な生活を送っているのか。
妬みはやがて捻じ曲がり憎悪となり、アドラーを滅ぼしてあの地を我らがものにしたいと思う輩も現れ始める。
その悪しき心に漬け込むように、ソーダフィルの聖大樹教会はアドラー王国の聖女をソーダフィルに引き渡すよう再三通告を続けていた。
そして王家は、聖女がソーダフィルにやってきたら大樹が蘇る、そうすれば我々は魔人族の支配から逃れられると淡い希望を持ち始めていた。
だが、それを言葉にすれば魔人族に対しての反乱が成立する。すぐさまその魂は魔宝石に変化し、家族や血族も全て魔宝石に変えられてしまう。
なので、表向きはアドラー王国侵攻を唱えつつ、僅かな希望だけを心にそっと閉じ込める事にしていた。
………
……
…
交易都市ビバッスル。
ソーダフィル王国とアドラー王国の国境沿いにあるアドラー王国の交易都市であり、堅牢な城塞によって守られている都市である。
そのビバッスルを中心に、国境沿いには魔獣の侵攻を止めるための巨大な砦が連なっており、この砦が二国間の国境も示している。
その日の早朝。
砦の上からソーダフィルを眺めていた騎士たちは、朝靄の向こうに姿を現したソーダフィル騎士団の姿に絶句してしまった。
「な、な、何だあれは……何が起こると言うのだ?」
城塞より西方3km地点に作り出された巨大な砦、その前に並ぶ騎士や戦士、傭兵の姿。
中には鎖に繋がれた魔獣や、ワイバーンの背に乗って飛んでいる竜騎士と呼ばれるものまで存在している。
その光景に、報告を受けたビバッスル領主のカーナンデと駐留騎士団であるアドラー第十五騎士団団長のトリアーズは、城塞上まで駆けつけて思わず息を飲んでしまう。
「トリアーズ、あれは何だ?何故我が領都がソーダフィルの騎士に近接されている?」
「さぁ。何かの示威行為かとは思いますが。まさかこのビバッスルを攻撃するような事はないでしょう。軍事的示威行為であると思って結構です」
ニヤニヤと笑いつつカーナンデに進言するトリアーズだが、城塞に近寄るソーダフィルの騎士の姿を見て上から目線で叫んだ。
「ソーダフィルの騎士よ、このような行動に何の意味がある?アドラー王国とソーダフィルは不可侵の条約を結んでいるではないですか?この行為は明らかに条約に抵触しますぞ」
さあどうする?
この言葉で引いてくれれば、俺の株がまた上がるであろう。ビバッスルを無血で守った騎士、その名声があれば我が第十五騎士団は王都に凱旋することもできよう。
こんな辺境でこのまま朽ちていくなど耐えられない。
さあ、どうする騎士よ!!
「宣告!!大樹の意思に逆らい聖女を拉致したアドラー王国に告ぐ。速やかに聖女を解放し、ソーダフィル聖大樹教会に身柄を返還するのならば罪は問わない。だが、返還無き場合は聖女奪還の為に不可侵条約は破棄し、アドラー王国へと進軍を開始する!!」
は。
え?
何?あの騎士は何を言っている?
「明日の朝九時まで返答は待つ。魔導具にて王都に返答するように伝えよ!!」
そう告げて、手にした羊皮紙を懐に収めるとソーダフィルの騎士は自陣へと引き返して行く。
その言葉を聞いて、カーナンデはヘナヘナと腰砕けになりその場にへたり込んでしまう。
「な、何だ聖女とは?ソーダフィルの話の意味がわからない……急いで王都に連絡しろ!!」
カーナンデが叫ぶと同時に騎士たちが走り出す。
そしてトリアーズは目の前に広がる敵陣をじっと睨みつけてか、ぽん、と手を叩いた。
「成程、奴らは意味不明なことを叫んで宣戦布告し、自分達に正当性があるかのように見せているだけでしょうな。カーナンデ殿ご安心を、我が第十五騎士団が奴らを蹴散らしてご覧に入れましょうぞ」
「そ、そうなのか?」
不安そうにトリアーズを見るカーナンデだが、トリアーズは胸を張ってあご髭を撫でつつ一言だけ。
「わが十五騎士団は錬金術師を作戦に取り入れた騎士団でもあります。アドラー王国で唯一『赤油』の生成に成功し、それを用いた『爆弾』を所持しているのですぞ?その威力の前には魔獣や騎士など恐るるに足りません!!」
そう告げてから、傍で控えていた副官に指示を飛ばすトリアーズ。
そしてカーナンデの肩をトントンと叩くと、トリアーズは一度城塞から降りていく事にした。
戦は速度を制したものが勝つ。
そして勝ちさえすれば、トリアーズは英雄として凱旋できる。
その下心満載な思いが、この後に起こる絶望的な結末に繋がるなど誰が想像したであろうか。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






