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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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イェソドから・その37・動き始めた権力者たち


──ザッザッザッザッ

歩調を揃えた騎士達がカナン商会を遠巻きに囲み始める。

その様子に、外に並んでいた客たちは慌てて離れ出し、遠巻きに眺めているしかなかった。

その一種異様な雰囲気にマチュアも気付いて外に出るが、既に大盾を構えた騎士達によって馬車は完全包囲されていた。


「あ〜楯の紋様から察するに聖大樹教会の騎士ですか。営業妨害なんで、この包囲を解いてもらえないかなぁ」


また揉め事かと呆れていたマチュア。

そう声高らかに叫んだものの、騎士たちは一向に動く様子がない。

そしてマチュアの正面から、立派な礼服を着た女性がゆっくりと前に出できた。


「貴方が伝承種レガシィのマチュアですね。聖大樹教会で枢機卿を務めるジルベール・ルフランと申します。聖女様をお迎えに参りました」


丁寧な口調に高圧的な雰囲気。

笑顔ではあるもののそれが作り笑顔なのはマチュアから見ても明らかであった。


「お迎え?何故に?」

「大樹の奇跡を使える貴方は教会に仕える義務があります」

「あっそ。なら聖女辞めるわ。それで良いでしょ?」

「聖女を辞める事なんて出来ません。貴方は大樹に選ばれて奇跡を使えるのではないのですか?その奇跡があれば、多くの民を救う事が出来ます」


へぇ。

ならばとマチュアは大樹を指差す。


「その大樹を崇める教会の足元で、あの大樹が枯れそうになっているのはなんでかなぁ。あんたら本当に教会の使徒なの?だったら大樹がどうして枯れたのか理由はわかるよね?」


ややきつい剣幕で問いかけるが、ジルベールはやれやれと首を振る。


「あれはただの木です。本当の大樹には妖精が宿り、加護を得たものには大樹の意思が届きます。あれは、偶然大きくなった木でしかありません……本当の大樹は聖地にひっそりと存在しています」

「その聖地はどこにある?」


そう問いかけるが、ジルベールはマチュアを凝視するだけ。


『ピッ……洗脳スキルに抵抗しました』


ウインドウからのメッセージが脳裏に浮かぶ。

なのでマチュアはニィッと笑った。


「では、聖地については教会でお伝えしましょう。御同行頂けますよね?」


勝ち誇った笑みで手を差し出すジルベールだが、マチュアは腰に手を当てて一言。


「断る。どうやらあんた達が偽物の教会関係者だというのは理解した」


上から目線で告げると、今度はジルベールが驚愕したように一歩下がる。


何故洗脳スキルが効いていない?

私より格の低い者は抵抗など出来ない筈。

スキルの効果は絶対、なのにどうして?


そんな疑問がジルベールの脳裏を駆け巡る。

目の前の偽聖女マチュアが、聖大樹教会枢機卿である私より格上の筈がない。

私は枢機卿でありこの国の侯爵家の人間でもある。

にも拘わらず、どうしてこの女は降らない?


「どうやら聖女様は混乱しているようですわね。皆の者、聖女様を捕縛しなさい。教会で手当てをすれは、まだ間に合うはずです」


意気軒昂に叫ぶジルベール。

そうすることで周囲の者達に、自分達が行う事を正当化出来る。

そして騎士達は隊列をゆっくりと狭めていく。


「あ〜、この偽教会騎士団どもが。大樹の加護。受けてみよ!!」


素早く白銀の賢者モードに換装して杖を払う。

その瞬間、マチュアと馬車の周囲には広範囲敵性防御エネミープロテクションが発動した。

いつもとは違う、目に見える虹色の結界。

これには騎士達も歩みを止める。


「これは大樹の加護によって作られた結界だ。もしも貴様達が教会所属のものならば、この結界を通り抜ける事は容易い筈……そして結界に阻まれた者は、大樹の加護のない敵対する者として処分する!!」


既に騎士達はジルベールの命令によってマチュアと『敵対する存在』となっている。

そんな奴らが結界を越える事など出来はしない。


「そ、そんな奇妙なものに騙されるものですか。早く聖女を確保しなさい!!」


ジルベールの叫びで騎士達が歩みを進める。


──ガギィィィィン

そして結界に向かって剣を振るうが、結界には傷一つ付く事なく弾き返されてしまう。

恐らくはスキル持ちであろう渾身の一撃さえ、結界はいとも容易く弾き飛ばしてしまう。


「それ見たことか!!貴様達は大樹の意思に逆らって私に危害を成そうとしているから結界によって阻まれている。大局を見よ、大樹の加護を得ているのはどちらかわかるでしょうが!!」


マチュアの叫びに騎士達は士気を失い、その場に崩れ始める。

そしてジルベールもガクガクと震えつつ、一歩、また一歩と後ろに下がり始めた。


「そ、そんな事があるものですか……わ、私は次期教皇よ、その私の命令は絶対、私こそ人々を統べる力を持っているのよ……」

「あ、そういう事か。その教皇はどこよ?まさかあんた達監禁していないでしょうね?」

「教皇様は病に伏しておられます……」


そう呟きつつも視線を外すジルベール。

そこでマチュアはニヤリと笑う。


「では、私自ら出向いて教皇様の病気を癒して差し上げますわ。ご安心ください、聖女の魔力は万能で……いやいや、このネタはマズイ。兎に角私に任せていただければ全て解決ですので」


この言葉にジルベールの表情は曇るどころか力一杯引きつった。

このままでは不味い、マチュアが教皇を癒す前に手を下さなくてはならない。

そう考えたジルベールは手を高く掲げると、騎士達に告げた。


「この場は私が預かりましょう。一度教会まで撤収します。聖女様には後日、教皇様を見舞っていただく事にしましょう」


負け戦フラグ全開のままにジルベールは急ぎ撤収を開始、騎士達も慌てて追従していく。

それを腰に手を当てたまま、マチュアは素直に『見逃して』あげる事にした。


「さ、邪魔者は消えたので営業再開しますよー」



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



アドラー王城、謁見の間。

どうして俺達はここにいるのか、ロシアンは改めて首を捻っていた。

冒険者ギルドで手頃な討伐依頼を受けてから、準備のため一度カナン商会に戻ろうとして。

商会馬車が騎士団によって包囲されていたので救出に向かおうとした所を、フローラ姫の馬車によって遮られ、そのまま騎士達に馬車に詰められて今ここですそうだそうです有難うございました。


そして目の前にはアドラー国王ヴォルフガングが座ってこっちを見ている。

アメショーもマンチカーンも跪いてガクガクと震えているし、俺自身もやっぱり跪くしかない。


「カナン商会登録冒険者だったな。面を上げて構わない、楽にしてくれ」


威厳のある声。

これにロシアンたちもホッとしてゆっくりと顔を上げる。

いくら無頼漢で名を馳せたロシアン達でも、相手が国王となると恐縮してしまうしかない。

壁側に立っている王家直属親衛隊が動けば、ロシアン達など瞬きする間に首を飛ばされてしまうだろう。


「恐れながら。私達がどうしてここにいるのか理解出来ません」


ゆっくりと、出来るだけ無礼な口調にならないようにロシアンが問い掛ける。するとヴォルフガングは口元に笑みを浮かべていた。


「我が娘 フローラが拐われたのを助けてくれた褒賞を授ける。カナン商会会頭のマチュアにもと思ったのだが、フローラからそれはダメだと釘を刺されてな。それに、君達の持つスキルの有用性も考えての褒賞だ」


そう告げると、傍にいた宰相が羊皮紙を開いて……絶句する。

どうやら宰相にもその内容は伝えられてはいなかったらしい。


「どうしたカトル卿、早く読み上げぬか」

「は、はっ!!」


ヴォルフガングがそう諌めると、カトル宰相がゴホンと咳払いを一つ。


「此度のフローラ姫救出の褒賞として、カナン商会には王室御用達を授与するものとする。また、登録冒険者は全て男爵位を授けるものとし、ロシアンは聖大樹教会司祭位を与えるものとする。異議あるならば十日以内に進言する事」


その言葉でロシアンは今一度ヴォルフガングを見る。

どうしてもマチュアを他国に渡したくないヴォルフガングのとった最大限の譲歩であるが、それでもロシアンにしてみれば悪手でしかない。


「恐れながら。私はまだ商会登録冒険者であり、教会に仕える事は出来ません。爵位についてはありがたく承りますが、商会の王室御用達は謹んで遠慮したく思います」

「うむ、そうであろうそうであろう。陛下、マチュア殿の臣下がこう申しているのです、王室御用達については再考してはいかがでしょうか?」


満足げに告げるカトル卿。だが、ヴォルフガングはロシアンをじっと見据える。


「やはり登録冒険者というのは儘ならぬなぁ。教会については再考する、王室御用達については不服ならマチュアが直接来いと伝えよ。登録冒険者5名の叙爵は後日通達する。以上下がってよし」


これ以上は話を続ける事が出来ない。

なのでロシアン達は一度謁見の間から外に出ると、慌ててカナン商会に走って行く。

そしてロシアンたちが下がった後で、カトル卿は王の近くに歩み寄ると。


「陛下。王室御用達の件は本気なのですか?」

「うむ。出来るなら序列二位か一位に迎えたい所だ。現在の四位はヨントリー商会、貴公の甥の商会らしいが……残念な結果になるな」

「何卒御一考ください。我が甥の商会に何か不服があるのなら改善させます故」


必死に取り繕うカトル卿だが、ヴォルフガングは一言だけ。


「ならばより一層努力するよう。ヨントリー商会は他の王室御用達に比べるといささか劣る。オロッパス商会、サンライズ商会、キリン屋、どれも立派に王室御用達としての責務を果たしている。だが、ヨントリー商会は些か利潤を追求し過ぎているようだからな」


そう告げてヴォルフガングは立ち上がる。


「王室御用達が外されたなら今度は取り返す努力をすれば良い。カナン商会を序列の上につける意味を考えてみろ」


それだけを告げてヴォルフガングも退室する

そして残ったカトル卿はグッと拳を握るしかなかった。


………

……


昼下がりのカナン商会。

貴族席にはフローラ姫と側近がのんびりとティータイムを楽しんで……。


「マチュア姉様、この小さなゴーレムはおいくらですか?あの動くヌイグルミも素敵です。それと、壁に貼られている動く絵画、あれも販売しているのですか?」


フローラ姫がじっとしているはずがない。

店内をチョロチョロと動き回っては、カウンターのマチュアの元にやってきて質問を繰り返している。

他の席にいた人たちはフローラがいるというだけで恐縮しているのに、フローラが動き回るとお付きの騎士が睨みを利かせているので落ち着いて食事も楽しめない。


「はぁ。まずはそこの騎士、武器を全て外して後ろに置いておけ。このカナン商会は庶民の味方だ、騎士や貴族が睨みを利かせていい店ではない」

「何だと、たかが商人ごときが騎士である我々に無礼ではないのか?」


そう立ち上がって叫ぶので、騎士たち目がけてピンポイントで覇気を全開にする。


「同じことは二度は言わないからな……いいな?」


その言葉だけで十分。

マチュアの覇気に当てられた騎士たちは怯えつつ装備を解除し、近くの席に静かに座る。


「そしてフローラ、あなたも落ち着きなさい。基本的には店内にあるもの全て売り物に間違いはないけど、食べ物も含めて購入できるのは一人三品まで」

「わ、分かってます!!子供扱いしないでください」


プウッと膨れるフローラに、マチュアは棒付きのぐるぐるキャンディを差し出す。

するとフローラは嬉しそうに手に取り、パクっと口で頬張った。


「やっぱり子供じゃん。その方が可愛いよ?」


にこやかに告げつつ集まった子供達にもキャンディを配るマチュアに、フローラは再びプゥッと膨れてしまった。





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