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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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イェソドから・その36・やって来ましたトライデント


早朝。

マチュアは大樹の下にやって来た。

朝早くにも係わらず、大樹の広場には大勢の人が集まり大樹に祈りを捧げており、その中には、聖大樹教会の修道服を纏った者達の姿も彼方此方あちこちに見えている。

既に聖女が大樹を活性化しているという噂は街全体に広がっている為、早朝から大勢の人々が集まっていたのである。

そんな中、マチュアは集まっている人たちに笑顔で手を振ると、ゆっくりと神威を大樹に注いでいく。


「ここまで活性化したら問題ないだろうな。じっちゃんや、私は王都に向かうよ」

『助かる。王都の大樹は最も大きく、それでいて最も力を失っている。信仰という名の搾取により、人々は大樹の加護を信用せず、むしろ蔑んでいる者もいる』

「その教会をぶっ潰しても良いかなぁ。本当の大樹の加護を受けているロシアンに後を任せて」

『彼が正しき道を歩むなら』

「よしおっけ。ならまたね」


いつもの独り言。

だが、マチュアが語るたびに大樹の枝葉が揺れて輝く。

そこから溢れる光魔力ソーマは、大樹の下に集まる人々に降り注ぎ、汚れた体や魂を癒してくれる。

そんな中を、マチュアは馬車に向かって歩き始めた。

すぐさま人垣は道となり、その真ん中をマチュアは手を振りつつ馬車へと向かって行った。


既に旅支度は終わらせてあり、ロシアン達も準備万端で馬車の横に待機している。

なのでそのまま合流して、マチュアは王都へと向かって行った。


「よし、王都でも稼ぐぞ!!」

「加護を捧げるんじゃないのかよ?」

「ん、ロシアンナイスツッコミ。多分だけど、王都の大樹は枯れ始めているからなぁ。一月ぐらいは滞在して、定期的に活性化を促さないとならないんだよなぁ……」


そう御者台で呟くと、隣に座っていたテルメアがそっと手を挙げる。


「あの、王都には私の実家がありまして、顔を出しに行ってもいいですか?」

「あ、いんでない?王都までの護衛をしっかりしてくれればね」

「……はてさて。魔人さえ屠る最強の聖女がいる馬車の護衛とは、拙者たちは何を守れば良いのやら」

「さぁ?何だろうね?私でも勝てない存在?」

「そんな者がいたなら、俺達なんか瞬殺されているわ。やめやめ、いつも通りにのんびりと行くぞ」


ロシアンの面倒臭そうなツッコミで話は終わり、馬車は一路王都トライデントへと向かって行った。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



森林地帯を抜けて草原を横切る街道をのんびりと進むと、やがて見えてきた巨大建造物。

高さ100m程の尖塔が六つ均等に配置されている都市。

見た感じ城壁のようなものは無く、都市の外縁部を巡る街道の中に街が広がっている。

その中央高台には、これまた豪華絢爛な王城が聳え立っている。


ここがアドラー王国王都トライデントである。


「へぇ。王都に入るにはどうすりゃいいの?」

「正門からですわ。あの外縁街道の外には巨大な川が流れているのですよ。ですので、王都に入るには中央に通じる四方の主街道先の橋を渡らなくてはならないのです」


テルメアの説明も間もなく、マチュア一行は橋の手前まで到着する。

そこには街道の左右に立派な建物があり、一見すると検問所のように見えている。

その検問所の前後には大勢の人が並んでおり、厳重なチェックの後、検問所を通る事が許されているらしい。


マチュアたちものんびりと並び順番を待っているのだが、前後の人達が時折チラチラとマチュアたちを見ている。

マチュアは目立たないようにいつもの商人スタイルで馬車に乗っており、男三人組のうちライナスとロシアンはゴーレムホースで左右に付いている。

現在の御者はマンチカーン、女性陣は全員馬車の中でのんびりとしていた。


「次……なんだこれは?お前たちは何者だ?」


どう見ても怪しい一行なので、警備していた騎士達もすぐさま抜剣できるよう身構えた。なので、マンチカーンはマチュアから預かった商会登録証を取り出して近くの騎士に提示、その確認がすぐついたらしく騎士達も構えを解いて頭を下げていた。


「貴方たちが噂のカナン商会でしたか、これは大変失礼しました。どうぞ王都を堪能してください」

「うむ。代表に代わって礼を言う。では失礼する」


マンチカーンがそう告げて馬車を走らせる。

その直後に、検問所から次々と早馬が走って行く。


「あ〜。どこぞの貴族の子飼いの騎士たちが主人の元に走ったのかな?また面倒な事になるのかな?」

「なるでしょうね。本当にマチュアさんにはそういった自覚が無いのですから困ったものですわ」

「いいのいいの。面倒事は嫌だけど、やらなきゃならない事があるからね。テルメア、ちょっと商人ギルドに案内してくれるかな?」


いつものように馬車を停めての露店?の契約。

その為にはまず商人ギルドに向かわなくてはならない。

その後は二週間契約で王城近くの大樹公園のそばで露店を開く契約をし、そのまま指定の場所に移動。

そして商会の開店準備を皆に任せて、マチュアは大樹の元へと歩いて行く。


………

……


そこには、今まで見たどの大樹よりも巨大な『枯れ木』がそびえていた。

葉は一つも付いておらず、風に吹かれて枝がきしみ唸りをあげている。

大樹を敬う人の姿など無く、草むらで親子連れや子供達が遊んでいるだけである。


「うわぁ。こんな酷い状況は初めて見たわ……って、まだ三箇所目か。どれどれ」


そっと手を当てて中の様子を見る。

まだ枯れきっている訳ではなく、ほんの僅かの命を感じ取る事が出来る。

ならばと、マチュアはいつもよりも弱い神威をそっと注ぐ。

再生と治癒の術式も施し、大樹の活性を促してみる。すると、ゆっくりとだが大樹の内部に神威が広がるのを感じる。

枝には少しずつ本葉が芽吹きつつあり、大樹が活性化を開始した事を伺わせていた。


「こりゃまた時間かかるよなぁ。ま、いいか、ここをちゃんと活性化して結界が広がったら、次は海の向こうか隣の国か……」


ゴキゴキと肩を回しつつ、マチュアがのんびりと呟く。

そのマチュアの様子を、遠巻きに見ているいくつもの視線。

王都に居を構える貴族や執務の為にやって来た貴族達の配下が、物陰からマチュアを観察していた。


「あれが報告にあった古の錬金術師か」

「まさか魔術を使える者が存在するとは思っていなかったが……」

「大樹と心を通わす聖女。奇跡の御技は我が家が独占しなくては」

「ドラゴンすら一撃で屠る魔術の使い手。ぜひ我が騎士団に召し抱えたいものだ」

「ああ……マチュアたん可愛いよマチュアたんハアハアハアハア……」


──ザワッ

最後の邪な感情にのみ反応したマチュア。

そーっと周囲を見渡すが、これといって怪しい動きをしている者はは見当たらない。


「何だろ、久し振りの生理的嫌悪感発動か……あ、もういいわ、また明日、明日の朝来ますから」


そう大樹に別れを告げて、マチュアは近くに停めてある馬車に戻る。既に横扉は開かれ、カナン商会の看板も掲げられている。

そして、少し前に隣町からやって来た商人たちは、カナン商会の看板を見てすぐにやって来た。


「おや、マチュアさん。まさかここでお会いできるとは」

「こちらにはいつまでですか?ここのケーキセットは最高ですからねぇ」

「今回はなんとか予算を確保しましたぞ、あの絨毯を是非とも売ってくださいね」


そう入口の外からマチュアに向かって告げる商人達。

その光景に軽く手を振りつつ、マチュアは店の外に

『OPEN』の看板を掲げた。


「さあ、カナン商会の開店ですよ。どうぞ冷やかしでも構わないので見ていってくださいね?」


派手な呼び込みなど一切無用。

ただそれだけを告げて、マチュアは店内に戻っていった。

そして入れ替わりにロシアンたちが店の外に出てくる。


「それじゃあ、俺たちは冒険者ギルドに顔出して来るわ」

「何かいい仕事があったら受けて来ていいのよね?」

「構わん構わん。街の中ならあんたらの護衛なんていらんわ。最低でも二週間はここにいるから好きにして来なさい」


その一言で見送られて、ロシアン達も冒険者ギルドに向かって行った。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



王城前中央街道。

そこをロシアン達はのんびりと進む。

ゴーレムホースと魔法の箒で移動すると、兎にも角にも目立つ。だが、目立つのも仕事とロシアン達は気にする様子もない。

後ろから追いかけてくる子供や商人を気にせず、一行は冒険者ギルドにやって来た。



「それじゃあ、テルメアはここで一度お別れね。何があるか分からないから気をつけてね」

「まあ、緊急時には念話とやらで呼びつければ良いからな」

「ありがとうございます。ライナスも一緒に来てくれるので問題ありませんわ。では失礼します」


そう頭を下げてテルメアとライナスは街道に戻る。そしてロシアンたちはギルドに入ると取り敢えず近くの席で一休み。


「さて、ここからが問題じゃな。あの魔人デトロイドはマチュアさんがどうにかしてくれた。じゃが、今後もずっとマチュアさんに頼る事は出来まい」

「ああ。マチュアの様子だと、大樹の活性化が終われば隣国か海の向こうに行くだろうなぁ。そうなると、いくら俺達でも付いていく事は出来ないだろうな」

「え?」


マンチカーンとロシアンが腕を組んで呟くと、アメショーが首を捻っている。どうして付いていかないのかという事らしいが、すぐにロシアンにはアメショーの考えが理解できた。


「俺たちカナン商会全員がこの国を離れたら、ここの守りはどうなる?それでなくても俺達の事は今頃は魔族にバレているだろうなぁ」

「そうなると、ワシらの存在自体が魔族に対しての楯になっている。迂闊に動く事は出来んよ」

「そ、そうだけど……そうね。そうなのよね」


アメショーも気がついた。

自分達の持つレアスキルのとんでもない力を。

このまま成長していけば、カナン商会冒険者はSランク認定を受けてもおかしくはない。それ程までに強力なスキルを持っているのである。

王国はロシアン達が外国に行く事を全力で止めに来るだろう。この力が他所に出る事こそ、国家の一大事であるから。


「それでどうするか……あーっ、考えても答えなんて出ないじゃねぇかよ」

「なら、その答えを探せばいいだけじゃない。私達は冒険者なんだからね」


アメショーが笑いつつロシアンに告げる。

そしてマンチカーンもロシアンを見ながら静かに頷くと、ロシアンは頭を掻きながら立ち上がった。


「とにかく実戦経験をつけるか。討伐依頼を受ける、それで文句はないな?」

「リーダーの言葉は絶対。それを覆せるのは商会主であるマチュアさんのみじゃな」

「なら短期のやつを受けてから、後でライナス達も合流してもらいましょ?実力が足りないのは私達よりも彼らなんだから」


ワイワイと話しつつ掲示板へと向かう。

そんな中、ギルドの外の街道を進む重武装した騎士達。

聖大樹教会所属の教会騎士テンプルナイツが、大樹横にあるカナン商会へと進んで行った。



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[一言] 異世界ライフ世界の貴族のノブリスオブリージュを実践してる率の低さたるや… これよく国として機能してますね…
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