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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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イェソドから・その33・魔人と人と

 街道上空を竜の群れが飛んで行く。

 途中にいた冒険者達は襲われ、殺され、そして食らい尽くされていく。

 その光景を街道から離れた所で見つつも、テルメアとアメショー、そしてライナスは全速力で街へと向かって行く。

 

「くそっ……あっちでも冒険者がドラゴンに襲われている……」


ライナスの前方200m程で、四人の冒険者チームが一頭のドラゴンに襲われている。

ホバリングしたまま鋭い後ろ足鉤爪で前衛達を薙飛ばし、恐怖のあまり動けなくなっていた後衛の女性達に向かって襲い掛かる。


「あ、ああ……」


目の前に死が舞い降りる。

女性達は恐怖のあまりその場で硬直していた。

もう駄目だ。

脳裏には懐かしい故郷の光景。

両親や幼馴染と過ごした楽しい日々。

それがやがて、目の前に襲い掛かるドラゴンの姿にかき消された時。


「こっちだっ、挑発っ」


──キン

我慢しきれずに飛び出したライナスが、ドラゴンに向かって盾を構える。

闘気によって強化された盾から発する忌々しい気配に、ドラゴンは鉾先を目の前の柔らかい肉から自分達に敵対しているライナスに切り替えた。


──キシャァァァァァァ

咆哮とも絶叫ともつかない叫びをあげて、ドラゴンがライナスに向かって飛んで行く。

それと入れ替わりに、魔法によって姿を消していたテルメアが女性達の方に向かう。


「ライナスくん。あれ、勝てるのかしら?」

「勝てるかどうかなんてわからないよ。けど、ここで見捨てたら僕は、冒険者ではなく人間失格になりそうだから……アメショーさんは早く逃げてください」


後ろで腕を組んで呟くアメショーにそう告げるライナス。

すると、アメショーはハァ、と溜息をつく。


「あのね。シールダーの貴方ではドラゴンの体表を覆う鱗を貫けないのよね。それじゃあ闘気が切れてそのうち死ぬわよ?」

「だと思うけど。でも、ここで僕が頑張れば、あのパーティーもアメショーさん達も逃げきれるでしょ?だから早くマチュアさんを呼んで来てください……」


──ガギィィィィン

とうとうドラゴンの猛攻が始まる。

だが、ライナスは極盾術の自動防御オートパリーによって全ての攻撃を受け止める。

だが、闘気で強化しているとはいえ、いずれは限界が来る。

それまでどれだけ時間を稼げるか……。


「ロシアンの言う通りね。身勝手で直情的、それでいて見栄っ張りか。貴方が死ぬのは勝手だけれど。残されたテルメアちゃんを不幸にする事は許さないわよ、私じゃなく

マチュアさんがね」


──キィィィン

右手を前方のドラゴンに向けるアメショー。

すると、右手を中心にアメショーの体内の魔力が凝縮を開始する。


「私の中の魔力の渦よ。雷となって敵を貫いて頂戴……雷撃波サンダーボルトっ」


──ビシャァァァァアッ

アメショーの放った一撃。

まだ学んでいない第三聖典ザ・サード雷撃波サンダーボルトを、アメショーは自力で作り出した。

結果、この一撃でアメショーの魔力はほぼ空になるが、ドラゴンは未知の攻撃を受けて一撃で絶命した。


「あ、アメショーさん……ありがとうございます」

「同じカナン商会の職員ですからね。さ、あっちの手当ても一段落したみたいだから、行きましょうか」


ふと見ると、どうにか一命をとりとめたパーティーにテルメアが魔法薬を与えて怪我を癒していた。

そしてライナス達を見てテルメアもホッとして手を振っている。


「とにかく、ここからは急ぐわよ。あの魔人相手だと、ロシアン達は勝てそうもないからね」

「はい。では急ぎましょう」


再び箒と絨毯を取り出すと、三人は急いで街へ向かった。


………

……


一方、森の奥では。


──ハアハアハアハア……

どうにか息を整えつつ、目の前の魔人・デトロイドと対峙するロシアンとマンチカーン。だが、先程までとは違い、現在は劣勢状態。

いくらマチュアから授かったスキルがあるとはいえ、冒険者としての下地がまだまだな二人では、やがてデトロイドに押され始めるのは目に見えていた。


デトロイドの放つ鉄棍で幾度となく吹き飛ばされ、骨も砕かれた。

それでも2人は立ち上がり、武器を構えている。


「おお、弱い人間にしては頑張るねぇ。それでもそろそろ限界なんじゃないかな?」

「ふん。生憎と切り札は持っているのでな」


ヨロヨロとした体で、マンチカーンは腰に下げている小さなバッグに手を入れる。

そしてマチュア謹製魔法薬を取り出してぐいっと一気に飲み干すと。


──シュンッ

一瞬で全身の痛みが吹き飛び、損傷していた内臓も骨も元に戻る。

そしてそれはマンチカーンだけではない。

ロシアンも同じように魔法薬を取り出して飲み干し、怪我を一瞬で癒したのである。


「さて、仕合再開と行こうではないかな?」

「と言うことだ。テルメア達とは違い、俺たちの技のベースは心力、肉体の回復で心力も多少は戻るからな」


タンタンと軽くステップを踏むロシアン。

マンチカーンも刀の背で肩をトントンと叩いている。

その行為が挑発であると理解したデトロイドも口角を上げて笑みを浮かべた。


「楽しいなぁ、こんなに楽しい事はないぞ。その薬といい、お前達のスキルといい、こんなレア素材は初めてだ。貴様達なら、さぞかし立派な魔宝石になるだろうなぁ」


デトロイドは、ここから更に攻撃の手を強める。

少しずつパワー配分を強くしつつ調節するが、やはりここ一番という所で二人のダメージは魔法薬によって回復する。

力折れ心が砕けなければ魔宝石としての輝きを強める事は出来ない。

にも係わらず、目の前の二人は挫けるどころかより力を増しているように感じ取れる。


そしてそれはロシアンとマンチカーンも感じていた。

より強敵との戦いにより、たった一戦で二人のスキルやレベルが飛躍的に上がっている。

敵に止めを刺さなくては経験値が得られないゲームとは違い、戦いの最中にもレベルが上がる。

だが、そんな事は殆どなく、つとめて緩やかにレベルが上がるのが普通なのである。


デトロイドが少しずつ力を強めるたびに、二人もまた力を得て対抗する。

それはまるで、お互いが切磋琢磨していく修行のようにも見て取れた……。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──ヒュンッ

街に逃げてきた冒険者の報告により、都市の全ての門は閉ざされ、迎撃態勢が取られる。

それと同時に、カナン商会でのんびりと過ごしていたジェイソン伯爵の元にも、魔物襲撃の報告が届けられたのであった。


「では、討伐任務に就いた冒険者達は全滅したと?」

「はい。西方森林に住み着いていた魔人・デトロイドの姿を確認したという報告も受けています。それに、街道向こうからドラゴンが無数飛来してくる姿を確認していたそうです……」


──ゴクッ

門番の報告に息を飲むジェイソン。そしてエルビスやブルースもまた何かを祈るように天を仰ぎ見ている。


「何だか雲行きがあやしいわね……テルメア、ロシアン、誰でもいいから私の声が届いていたら返事をお願い」


こめかみに人差し指を当てつつ、マチュアは五人に向かって念話を送る。

すると、ちょうど商会入り口からボロボロになったライナスとテルメアが飛び込んでくる。

ライナスの背中には、意識を失ったアメショーの姿もあったので、マチュアは急ぎカウンターから飛び出してアメショーの容態を確認する。


「どれ……あ、魔力枯渇か。なら……魔力譲渡トランスファー。それで、ロシアンとマンチカーンがいないけどどうしたの?」


アメショーの顔色が良くなっていくのを確認して、マチュアは二人に問いかける。

するとテルメアはボロボロと涙を流して。


「ロシアンさんたちはデトロイドの侵攻を止めるのに残って……それで、街道向こうから魔物が街に向かって来て、私たちは途中で犠牲になった人たちを助けて時間が掛かって……それで」

「マチュアさん、お願いです、この街を、ロシアン達を助けてください」


ははぁ。

ロシアン達は三人を逃がす為に盾になったのか。

それでロシアンやマンチカーンからは返信はないのか。

なら、マチュアがやることは一つだけ。


「そこのメイドのブリジットさん、ちょっと店を空けるのでオーダーと会計をお願いしますね。まあ、普段から見ていたみたいですから、出来るでしょ?」

「はい。エルビスさま、それで宜しいですか?」


傍で立ち上がり、なにかを考えていたエルビスに問いかけるブリジット。するとエルビスも静かに頷くしかなかった。


「ちょっと待ってください。マチュアさん、まさか一人で魔物の群れを止めるというのか?」

「魔物だけじゃないけどね。うちの商会の職員に手を出した事を、そのデトロイドとかいう魔人には体で思い知ってもらおうかなと」


ゴキゴキッと拳を鳴らすと、マチュアはコックコートから白銀の賢者モードに換装する。

そしてテルメアたちに軽く手を振って一言。


「ここまで無事に帰ってきてご苦労様。取り敢えず休んでいてね?三人は店内食べ放題で回復していれば良いから」


そう告げてマチュアは一瞬で城塞上へと転移した。


………

……


ジェイソン伯爵の報告を受けて、駐留している騎士たちが城門外で隊列を組んでいる。

その頭上にフワッと飛び立つと、マチュアは眼前に向かってきている大量の魔物たちに向かって右手をさしだす。


「ざっと見て数は一万か。ドラゴンだけでも100はいるなぁ……下の騎士団長さんや、あれ倒したらドラゴンの素材だけ私が貰っていい?」


眼下で待機している騎士団の最前列、そこにいた派手な装飾の騎士に向かってマチュアは問いかける。

既にマチュアの存在は報告を受けているので、騎士団長もマチュアに向けてコクコクと頷く事しか出来ない。


「この都市を救ってくれるのなら、聖女さまのお望みのままに」

「よし言質とったよ……なら、手加減は一切無用……」


首筋の痣に指を添えて、マチュアは神威解放・亜神五レベルまでチャンネルを解放する。


「とこしえの力、神々の怒り。我が体内に巡るナイアールの力を以て、彼の者たちに慈悲なき慈悲を与えたまえ……光よ、その力を矢と成して彼の者達を滅ぼす力となれ」


マチュアの前方に展開した魔法陣おおよそ100。

それらが光魔力ソーマを吸収して一筋の矢を生み出す。

一つの魔法陣につき百本の矢、それが全て前方に浮かび上がると、マチュアの周囲に深淵の書庫アーカイブが起動する。


「並列思考開放。ターゲットは人と亜人、動物以外の魔物と呼ばれる存在……うちの商会職員に手を出した罪、その命で贖ってもらおうか?飛べ、光よ矢となりて!!」


──ゴゥゥゥゥゥッ

マチュアの号令と同時に放たれる一万の矢。

そしてすぐさま矢は再装填されると、再び放たれる。


その頭上で起きた奇跡を、眼下の騎士たちは驚愕の目で見つめていた。

すぐそこまでやってきたドラゴンたちは全身を矢に貫かれて即死し、街道を駆けてくるオーガやサイクロプスたちも次々と物言わぬ死体となり街道に崩れる。

その屍を乗り越えてくる魔物もまた屍となり、それはマチュアの深淵の書庫アーカイブが魔物反応0を確認するまで続いていた。


「こ、これが伝承種レガシィ。この力が我々に向けば……我々は一瞬で消滅するだろう…」


騎士達は目の前で起きた奇跡に驚愕し、目の前の魔物の死体に恐怖する。

大樹を活性化させた聖女の力。

それは絶対的な癒しだけではなく、完全無欠の破壊者でもある事を、改めて理解した。



「よし。魔物の殲滅完了。騎士団長さんや、魔物の死体の処理と私のドラゴンの回収、後は逃げてきた人々の避難誘導お願いしますね?」

「あ!ああ、了解した。騎士団突撃、避難民の誘導と魔物の死体の処理を」


マチュアの言葉でようやく正気を取り戻した騎士団長の号令により、騎士達も一斉に走り出した。

そしてマチュアは最後の仕事として、ロシアンの魔力波長を頼りに転移を行なった。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯




既に満身創痍。

体内心力も魔法薬も全てが底を尽き、ロシアンとマンチカーンも膝から崩れて倒れている。

それを、全身に黒い甲冑に身を包んだデトロイドがニヤニヤと笑いながら見下ろしていた。


「魔装束まで使わせたのは褒めてやるが、こればかりは貴様達のスキルでも貫く事は出来なかったようだなぁ。どうだ、今どんな気持ちだ?心折れたか?」


ニヤニヤと煽るスタイルで問いかけるデトロイドだが、ロシアンとマンチカーンもニヤニヤと笑って返す。


「寧ろ希望しかないのう。貴様のその鎧とやらが、マチュアさんに通用するのか見てみたいものだ」

「ああ。俺達のような未熟な技じゃなく、本物のスキルというものをよく味わうんだな」


未だ心折れるどころか、二人はニヤニヤと笑っている。

マチュアからの念話はしっかりと届いている、その上で戦闘に集中していた為に返事を返す事が出来なかった。

だが、それでいい。

返答がないという事なら、マチュアは必ずここまで来る。

そう二人は確信していた。

そして、その確信は現実となった。


「おーおー、まだ生きていたかぁ。重畳重畳、訓練した甲斐があったねぇ」


二人の直上からマチュアの声が届く。

そしてフワリと二人の前に着地すると、すぐさま手をかざして瀕死状態の怪我を一瞬で回復する。


その光景には、デトロイドも思わす武者震いしてしまう。

目の前のゴミのような人間達が信頼している存在。それは明らかに上質な魂を持っていた。


「貴様がこいつらにスキルを与えたのか?何者だ?」

「人に名前を問う時は自分からと教わらなかったのかしらねぇ……」


ゴキゴキッと拳を鳴らしつつ、マチュアはデトロイドとゆっくりと対峙する。

そしてデトロイドも、そのマチュアの雰囲気に呑まれまいと素早く鉄棍を構え直した。






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