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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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イェソドから・その30・ジャッジメントターイム

──ス〜ッ

 騎士団に先導されて、マチュアはノンビリと街の中心部を飛んでいる。


 目的地は教会廃墟隣にある領主の館の、更に隣の法務局。そこで箒を空間収納チェストに仕舞うと、そのまま建物の中へと移動、中央にある広い空間へとやって来る。


 円形の大ホールの周囲には階段状の椅子がずらりと並び、真ん中には高さ3mの鉄柵が階段を守るようにぐるりと立てられている。

 そのホールの中央に一段高い壇があり、犯罪者はそこに立つように命じられている。

 向かって正面が裁判官や被害者などの座る席であり、そこには既に法務局の偉そうな人や騎士、そして一番豪華な席には精悍な顔つきのジェイソン領主が座っている。


「さて。それでは裁判を行います。マチュアさんは真ん中の壇の中央に立ってください」


 裁判官がそう告げるので、マチュアはやれやれと壇へと向かう。

 やがて周囲には傍聴者たちが集まって来ており、裁判が始まるのを今か今かと待っている。


──カンカーン

 木槌の音が鳴り響く。

 するとそれまで騒がしかった傍聴席もシーンと静かになる。


「それでは裁判を始めます。今回は錬金術ギルドからの訴えにより、マチュア氏が捏造した魔導具の売買に関する違法行為についての審査を行います」


静かに訴状を聞いているマチュア。


「まず、そこのマチュアという女性は、遺跡から発掘された魔導具を錬金術ギルドを通さずに違法に販売しておりました。これは王都の法律でも許されない事、しかもその女は、何らかの方法で発掘品を自分が制作した物のように偽装し、市井の者達に販売しておりました。是非とも厳格に罰していただきたく思う所存でございます」


 どや顔で席に座るサギール。だが、マチュアは馬耳東風のごとく、ほー、とかへーっと笑っている。

 これには集まった傍聴人達もやや怒りを露わにし、マチュアに対して真面目にやれと野次を飛ばして来る。


「さて、マチュアさん、錬金術ギルドのこの話については何かありますか?」

「全くの嘘八百だね。そもそも『自分で作った魔導具は錬金術ギルドを介する事なく販売してもよい』という商人ギルドのルールを守っていただけ、そして私が魔導具を自分の作ったものと誤魔化したですって? へそでお茶が沸いてしまいますわよ」


 クスクスと笑うマチュアに、サギールは真っ赤なな顔で立ち上がる。


「そんな嘘を言っても無駄だ」

「なら、例えばの話ですが、あなたたちは私がどうやって魔導具の製作者名義を変更したと言っているの?その証拠を見せてもらえませんか?」

「ふん。どうせそれもお前の錬金術とやらで細工したに決まっている」


 そういい捨てるので、マチュアは裁判長に手を上げて。


「という事で、錬金術ギルドはありもしない事をでっち上げて無実の者を犯罪者に仕立て上げようとしています。どうぞ正しき判決を」

「な、何だと、私たち錬金術ギルドに楯突いて、魔導具が販売出来なくなってもいいのか!!」

「だーかーらー。私は自分で作れるんですって」

「そ、それなら証拠を見せてみろ!!」


 このサギールの叫びには、周りの傍聴人もそうだそうだと叫んでいる。

 なので、マチュアは裁判長に一言。


「では、今からこの場所で錬金術を披露しますがよろしいですか?」

「危険でなければ構わない。そしてマチュア氏が錬金術により納得の出来るものを作り出した場合、今回の判決は無罪とし、代わりに錬金術ギルドはマチュア氏の名誉を棄損したとして賠償を命じる」

「それで構いません。せいぜい頑張ってもらいましょうか‥‥」


 と言うのなら、力一杯やってあげよう。

 まずは深淵の書庫アーカイブを起動し、アニメイトも発動する。

 その中に魔法によって水を生成し、大樹の葉などの薬草を放り込み、変異バリエーションを発動。

 魔法陣の中で滞留している液体の元に空の小瓶をいくつも並べ。そこに完成した魔法薬ポーションをそーっと詰めていく。

 その光景に、傍聴席も固唾を呑んで見ている。


「さて。まずは一つ目、『リンシャンの奇跡』と呼ばれている魔法薬ポーションでございます。これは鑑定していただいて構いませんが、サギール氏は手を触れないように。わざと落とされたり、隠し持った偽物と交換されても困りますから‥‥」


 そう嫌味っぽく告げると、補佐官らしい中立な人物が魔法薬ポーションを手に取り領主と裁判長の元に運んでいく。

 それをすぐさま鑑定盤アプライザーに掛けると、ふむふむと納得している。


「さてと。次は何かリクエストがあれば作りますが。そうすれば、予め用意していたとか言われなさそうですからね」


ニコニコと笑うマチュア。

すると領主が立ち上がって一言。


「ゴーレムホースを創って欲しい。それも軍馬だ、出来るかな?」

「はぁ、それじゃあ」


すぐさま魔法陣の中に記憶水晶球メモリーオーブを配置、そしてミスリルインゴットと知識のスフィア、魂のスフィアを作り出して配置すると、時間短縮のために神威を注ぐ。


──シュゥゥッ

魔法陣の中のインゴットがゆっくりと溶けていく。そして軍馬の姿を形成し始めると、その体内に知識のスフィアと魂のスフィアを取り込んでいく。


「き、貴様は何をしている、それは一体何なんだ!!答えろ女ぁ!!」

「何って、錬金術に決まっているじゃない。錬金術師・・・・なら、これぐらい出来て当然よね?まさかあなたには出来ないのですか?」

「い、いや違う、そんなものは錬金術ではない……何故だ、何故、そのようなものが作り出せる?錬金術は高度な学問なのだ、遺跡で発掘した魔導具を解析し、それを長い時間をかけて作り出す……それを、馬鹿な……」


震えながら叫ぶサギール。

その叫びの中、ゴーレムホースは完成し、魔法陣がスッと消滅した。


「ジェイソン卿、これで宜しいですか?」


その問いかけに、ジェイソンは満足そうに頷く。

そして補佐官がゴーレムホースを鑑定するが、やはり製作者名はマチュアと表示される。

その事実を、補佐官は声を大にして叫んだ。


「間違いありません。この方は、古き伝説の『錬金術』を修得しています。その伝説スキルの前には、私達の知っている錬金術スキルとは違う、もっと高度な……失われた技術ロストスキルでしょう」

「そんなものを、何でその女が使うのだ、それこそ錬金術ギルドが管理すべきスキルではないのか!!」


あーもう面倒くさい。


「なら、納得するまで色々と作りましょうか?」


そこからはマチュアの魔術オンパレード。

錬金術と付与魔術を駆使しての魔導具作成タイム。

魔法の箒や空飛ぶ絨毯をはじめとして、オイルのいらないランタン、防御力を魔術で高めた衣服、果ては……。


──ズズズズズ

魔石を空間収納チェストから取り出して、変異バリエーションによって生み出される水晶の剣。


「まあ、こんな感じでただの魔石でも、魔術を用いる事で魔導具とする事が出来ます。これは一般魔術の第一聖典、変異バリエーションという術式ですが、これでも私の錬金術を認めないと?」

「そ、そうだ、それは錬金術ではない!!」


サギールが声高らかに叫ぶので、マチュアも裁判官も、そして領主も頷いた。


「では判決を言い渡します。マチュア殿は遺跡発掘物の魔導具を偽ったりしておらず、自身の魔術によって作り出したものなので錬金術ギルドの訴えは却下します。以後、マチュア氏の作り出す魔導具は錬金術ギルドを介する必要のないものであると法務局は判決を下します」


──カーンカーン

これで判決は成された。

サギールは

勝ち誇った笑顔から一転して絶望の顔となり、傍聴席もザワザワと騒がしくなる。

どうやら傍聴席の人達も錬金術ギルドに雇われていたのだろうとマチュアは考えたので。


──シュルルルルッ

クトゥラを外して髪を出す。

長く横に伸びた耳も解放し、マチュアは両手を伸ばして身体をリラックスさせる。


「私はご覧の通りの伝承種レガシィです。この世界にはもう存在していないハイエルフ、しかも失われた伝承スキルも全て網羅しています。そんな私にとっては、錬金術など初歩の初歩と言っても過言ではありません」


マチュアの爆弾宣言。

そして彼方此方あちこちから聞こえる『聖女さま』という呼び掛け。

この街で、あの朝行われた聖女の奇跡を知らない者はもういないらしい。

傍聴人達が両手を合わせて祈り始める中、裁判官だけは理路整然と話を続ける。


「マチュアさんに問います。貴方はハイエルフで、古代のスキルを修得しているのですよね?そのような存在が何故、今になって人々の前に姿を現したのですか?」

「世界を滅びから救うため……今はこれしか言えません。ですが、この世界は滅びの道を歩んでいます。それを正すために、失われたスキルを伝承する為に姿を現しました。もうこれで宜しいですか?」


この言葉には皆が驚愕するが、伝承種レガシィであるマチュア自身が姿を現し、そう告げたので納得するしか無いのだろう。


「ではこれにて閉廷します。長い間、お時間を取らせてしまって申し訳ありませんでした。尚、錬金術ギルドには後日、マチュア氏への賠償命令が下されますので従うように……以上です」


──パチパチパチパチ……

拍手喝采が聞こえる中、マチュアは堂々と法廷を後にした。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「さて、これで面倒な事は終わったから、とっとと戻って店開けないと」


一度控え室に戻って商人モードに換装、これで外していたクトゥラも元に戻る。

後は帰るだけなのだが、誰かが扉をノックする。


──コンコン


魔力反応はエルビスとブルース、そして知らない誰か。

まあ、エルビスたちが一緒なら問題はないだろう。


「どうぞ」

「では失礼します」


丁寧な返事と同時に、ジェイソンを先頭にエルビスとブルースが入って来る。

そして胸元に手を当ててからゆっくりと頭を下げる3人。


「まさかマチュア様が伝説のハイエルフ様でしたとは、ご無礼申し訳ございません」

「しかも、領内にある大樹に加護を与え、この地を豊かにしていただいたご助力、何事にも代え難き事でございます」

「にも拘わらず、まるで隣人と接するような態度、どうかお許し頂きたい」


ジェイソンが、エルビスが、そしてブルースが謝罪を告げていく。

真っ青な顔でどうにか平静さを保ちつつ謝るジェイソンに対して、エルビスとブルースは笑顔で陳謝しているようだ。

まあ、今さら畏まられてもしょうがないので、マチュアはいつもの口調で話を続ける事にした。


「あ、そんなに畏まられても困ります。後、エルビスとブルースの昼のベーコンエッグは無しな。お前らは分かってやっているだろ?」

「いえいえ、父上とは違い、普段からお付き合いがあるので慣れているだけですよ。謝罪の意思は本当です」

「エルビス様の仰る通りです。私など、カナン商会の外ではどのように接したらいいのがいまだに困っていますから」

「そんなの今まで通りでいいわ。寧ろ畏まるな、面倒い。という事ですので、ジェイソン卿も楽にしてください」


その言葉でジェイソンもようやく顔を上げる。

だが、その先の言葉が出てこないらしく、困惑した顔になっているので。


「今回の裁判、公明正大な立場を取っていただき感謝します。まあ、今後も同じような事があると思いますが、その時は何卒御助力お願いします……では、急ぎますので失礼します」


ニッコリと笑いつつ告げると、マチュアはジェイソンの横を通り過ぎて法務局を後にした。




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