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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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イェソドから・その29・進撃の錬金術師

カナン商会は本日も売り切れ。


少し早い閉店となり、イートインで食事をしている人々以外は残念そうに帰路につく。

そしてイートイン席では、エルビス子爵とブルース男爵、その侍従長やらメイドやらがのんびりとティータイムを楽しんでいた。


「全く。エルビス様の食べるものがなくなったではないか、これだから庶民の店というのはフベシッ」


──スパァァァァァン

ブツブツと文句を言うランプソンの後頭部を平手でパーンと叩くエルビス。


「この店の中では身分を出さない事。ランプソン、全て自由だと先日取り決めたばかりじゃないか」

「その通りです。私もエルビス様の意見に賛成してここにいるのですよ?」


エルビスとブルース二人掛かりのツッコミに、ランプソンもタジタジであるが。

マチュアとしてもつまむものがない状態でイートインを楽しんでもらっても申し訳ないので。


「そんじゃあ、今の店の雰囲気には合わないんだけれど、これを出してあげるから……一人銀貨一枚ね」


そう告げてサンドイッチの盛り合わせとシーザーサラダ、ベーコンエッグなどを運んでいく。

天然酵母の固いパンが主流のこの街で、柔らかいパンのサンドイッチなど見たことがないらしい。

そして生野菜のサラダ、やはりドレッシングがないらしくこれにも目を丸くしていたのだが、その後のベーコンエッグには全員が息を飲んでしまう。


「こ、これはまさか、リククックの卵?そんなバカな?」

「エルビス様、これは本物のようですぞ。私は以前、一度だけ王都でリククックの卵料理を食べた事がありますから……」


なんだなんだ?

やっぱりこの世界にも養鶏業者はいないのか。

しかもリククック?


「リククックって何?」

「マチュアさんは知らないのですか?この大陸に存在する三大魔獣を。ベヒモス種、ドラゴン種、そしてリククック種の三大魔獣というのが、この大陸には存在しているのですぞ?」

「ブルースの言う通り。リククックは陸生のクック種で、魔獣強度は800以上、討伐するのならSランク冒険者が50人居ても一人生き残るかどうか……そんな魔獣の卵を、一体どこで手に入れたというのですか?」


あー、なんだか面白い生態系だなぁ。


「いや、普通に買ってきたけど。一個でいくらなんだろ?銅貨二枚ぐらい?」

「そんな事ありません。最低でも一個大金貨一枚はします。リククックの卵を取ってくるのは高難易度依頼として常時受け付けていますが、そんな値段で買えるはずがありません」

「いや、うちのケーキ、生地に卵使っているから。という事でそれ食べてのんびりして。ハーブティーのお代わりならカウンターまで取りに来てくれればいいから」


それだけを告げてマチュアはカウンターの中に戻っていく。

そしてエルビスたちは呆然とした表情で目の前に並んでいる料理を食べ始める。

時折怪しいエフェクトが発生しそうな声を上げているが全て無視、のんびりと仕込みをしていると。


──コンコン

入口扉をノックする音がする。


「ケーキは売り切れ、それ以外ならどうぞ?」

「では失礼する」


そう告げながらやって来たのはローブを着た老人と騎士、そして町の役人らしき男。

店内をぐるりと見渡してエルビス達を見かけて慌てて頭を下げると、そのままマチュアの元にやって来た。


「この店で違法魔導具の販売を行っているという密告があった。無許可で魔導具を販売したものは罰金刑と魔導具と売り上げの没収と決まっている」

「ですので、あなたの財産を差し押さえに来ました。私はこの都市の財務長官のザイゼーンと申します。こちらがその証書ですのでお確認ください」


そう告げられて手渡された証書を確認して、マチュアはザイゼーンに証書を返却する。


「この証書によりますと、遺跡発掘物やダンジョン産の魔導具についてと記されています。私のは全て私が作った魔導具であり、それらは販売登録は必要ないと商人ギルドで確認していますが」

「それは間違いありません。私はあくまでも密告されたものについての確認としてやって参りました。この証書は確認次第、差し押さえるという通達書でもありますので、ご理解頂きたい」


丁寧に告げるザイゼーン。どうやら裏で錬金術ギルドとつるんでいるというよりは、役人仕事としてやって来たという所であろう。

ならば一言。


「当商会で販売している魔導具は全て私が作ったものでございます。それを売っているだけであり、決してやましい事はしておりません」

「わかりました。という事ですので、錬金術ギルドはどうしますか?」

「そんな巫山戯た言い訳が通用する筈はないだろうが。魔導具を作れるのは錬金術師のみ、こんな商会の女主人が錬金術師だと言うのかな?」


呆れた声で上から目線。

これにはマチュアの額に怒筋も浮かび上がる。


「ええ。必要でしたら鑑定していただいても構いませんわよ?それで間違いであった場合、今度は錬金術ギルドを訴えますが宜しいですね?」

「訴えるだと?」

「ありもしないでっち上げで他人の財産を奪う所業。この都市ではそんな無法がまかり通るので?」

「この街の領主はそちらのエルビス卿の父上である。エルビス卿は食べ物で釣られたかもしれないが、彼の方は公明正大、貴様の嘘など簡単に見抜くからな、また後日くる」


ドシドシと店から出ていく錬金術師。

そして残ったザイゼーンもやれやれと困った顔をしている。


「因みにザイゼーンさんはどちらを信じるので?」

「昼間ですが、私の妻と娘がこちらから魔法の箒を買って来ました。急ぎ鑑定盤アプライザーで確認して、あなたが作ったものというのは確認しております。これは仕事の一環です」

「あ、あの子の親御さんでしたか。昼間はありがとうございましたとお伝えください」

「ええ。ここのケーキは私も一つだけ食べましたので。ですが錬金術ギルドにはお気をつけてください。王都ならいざ知らず、地方領地では錬金術ギルドや聖大樹教会は絶大な権力を振りかざして来ますので」


それだけを告げてザイゼーンもエルビス達に挨拶をして店から出ていく。


「さてとエルビスさん。あんたここの領主の息子だったのかよ」

「ええ。教えていませんでしたけど、この店では普通の客ですから」

「まあ、そういう事なら構わないわ。それでこの後の展開はどうなると思う?」


敢えてエルビスに問いかける。

すると侍従長が横から。


「錬金術ギルドの長であるファゴットが嘘偽りの証拠をでっち上げて領主に告訴。周りをガッチリと固めてから再度ここに来るでしょう。領主のジェイソン様は正に公正明大ですから」

「それで、私の勝率は?」

「100%と私が保証します」


エルビスが苦笑しつつ告げる。

何故きっぱりと言い切れるかと思ったが。


「私がここで購入した空飛ぶ絨毯、あれを父上に見せびらかしたらたいそう羨ましそうにしていました。出所はどこだと問われたのでカナン商会とも説明しましたし、自宅にある鑑定盤アプライザーで製作者の名も表示されていましたので」

「じゃえ、近いうちに買いに来るのか。それはそれでいいや」

「父上が欲していたのはゴーレムホースですよ。騎士でもある父上にとっては、無敵の馬は夢でしょうから」


ほほう。

それにしては、売ってくれと来ないのは何故だろう。

いつものパターンなら是が非でもと使いを寄越したりするものであるが。


「まぁ、テラコッタ領主から手紙が届いていましたので。カナン商会には手出し無用、味方につけると財を生むが敵対するとすり潰されるとね」

「ははぁ。パンナコッタさんか。有り難いけどすり潰さないよ?私は優しい商人なんだから」

「テラコッタ領の聖大樹教会の不正を暴いただけでも凄いですよ。そして、この街の教会も崩壊しましたからなぁ。我がブルース家も敵対しないと約束しますぞ」


そりゃあありがたい。

なら、後は事が動いてから。

マチュアは再び仕込みを再開、エルビス達も食事を終えて店を後にした。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯




錬金術ギルド

時刻は夕方。

錬金術師のサギールはカナン商会から戻ると、ギルドマスターのファゴットの元へと向かう。

ファゴットはちょうど新しく発掘された魔法剣の解析を行っているところであり、大勢の錬金術師が魔法陣を囲んで表示された魔法文字を写し取っていた。

魔力を必要とするスキルが失われたこの世界で、心力ベースの解析スキルを駆使して魔導具の解析を行っている錬金術というのは、かなり地位の高い職業であるらしい。


「ふむ。心力を刀身に伝える錬金術式か。これを組み込むことは可能か?」

「はい。ですが、より希少な素材を必要とします。それらの解析を行うまでは、まだまだ時間が掛かりますが」


傍にいる術師が、報告書を読みつつチラチラと錬金術式を眺めている。

その報告で満足したのか、ファゴットは後ろで控えているサギールをチラリとみる。


「回収は終わったのか?」

「いえ。あの女は、伝説級の魔導具を自分が作ったと言い切りました。ですが、その証言は財務長官のザイゼーンも聞き及んでおります、火急かつ速やかにジェイソン卿に報告、あの女の財産全てを押さえた方がよろしいかと」

「そうだな。確かジェイソン卿はあの女の持っているゴーレムホースを欲していたではないか。財産没収の際はその御礼としてゴーレムホースを献上すると伝えておけ。さて、あの女、どうやって叩き潰すかな」


そう呟くと、サギールは胸元に手を当ててニヤリと笑う。


「恐らくは、あの女の所持している魔道具は奴の雇い入れている冒険者が遺跡から回収したものでしょう。辺境領のCランク冒険者を雇っている所までは確認出来ましたし、私があのゴーレムホースを回収に向かわせた際、雇っていた冒険者が全て捕らわれてしまいました」

「口封じは?」

「全て終わっています。恐らくはカナン商会の冒険者が辺境遺跡群から発掘したものを、あの女が何らかの方法で自分が作ったもののように細工しているのかと。まあ、領主様の前で錬金術を示させれば良いのです。どうせ口だけでしょうから」


サギールには勝算があった。

伝説級の魔導具を作れるものなど、この世界には一人として存在するはずがない。

ならば領主の目の前で裁判を行い、錬金術が出来なかったら財産は没収、もし出来たとしても大したものを作れるはずがなく、その際には財産は没収の上、その身柄を錬金術ギルドで拘束し、奴隷として使えば良いと考えていた。

これはいつもサギールが行なっている手口であり、ギルド内には同じ手で強制労働を強いられている錬金術師も多数存在している。


そして使い潰す際には奴隷のスキルを全て売り飛ばし、錬金術だけを自分たちが回収してスキル統合している。

ギルドマスターのファゴットはこの手口で錬金術スキルを5レベルまで高めたのである。


「まあ、いつもの手法か。我らにとって損はない、好きにするがいい」

「はっ。必ずや成功させて見せましょう。では、各方面の手回しを行ってきますので……」


サギールは静かに席を立つ。

そしてファゴットも、先ほどの解析の続きに戻る事にした。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



翌朝。

カナン商会の馬車が教会前に到着すると、その場には既に大勢の騎士が待機していた。

その最前線にはエルビスとブルース卿の姿もあり、実に清々しい笑顔をしている。


「やあ、おはよう。これは一体何かな?」


笑顔のマチュアの問いかけに、エルビスは一言。


「いやいや、予想外に錬金術ギルドの動きが早くてね。マチュアさんは重罪人として逮捕、そのまま領主館の外にある。法務局で公開裁判になったんですよ」

「抵抗するなら騎士団が斬り捨てる事も出来るとかで、法務局は王都から派遣された貴族、それもハクホウ侯爵ゆかりの者で、こればっかりは我輩でもどうしようもなく、マチュア殿に御足労頂きたいのだが」


エルビスとブルースの説明を聞いて、マチュアは成程と納得する。

そして馬車一式を空間収納チェストに収納して、自分は魔法の箒に跨る。


「よし、それじゃあとっとといきましょう。昼までには終わらせないと、今日一日の稼ぎが無駄になるからねぇ」

「そうだね。私達も、今日の昼はカナン商会であのベーコンエッグと決めているからね」

「ちょい待ち、あれは昨日限定で今日は無し。良いかな?」


そうきっぱりと告げると、エルビスとブルースが力一杯落胆している。


「そ、それは……昨日だけ食べさせるとは、また残酷な……」

「う、うーむ……」


ブルースは何かを訴えたかったようだが、エルビスは口を閉ざして考え込んでいる。

どっちの行動が正しいかなんて誰にもわからないのだが、取り敢えずはとっとと裁判終わらせる事にしよう。


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