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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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イェソドから・その27・大樹・ビルドアーップ

 深夜遅くまで仕込みをしてから、馬車でガラガラと宿に戻る。

 マチュアはそのまま魔法で体を清めると、問答無用で熟睡を始める。そして朝になって部屋の外に猿轡と簀巻きにされている男達を見て、思わず目をパチクリしてしまう。



「あー、警備保障アルソーク発動していなかったか。という事は?」

「まあ、仕事なんでな。こいつらは騎士団詰所まで持っていくわ」

「昨晩何があったかは、ご想像にお任せするでござるよ。ではライナス殿はそっちの一番太い奴を頼むでござる」

「うへぇ‥‥了解です」


 ちょうど部屋から出て来たらしいロシアンがマチュアに説明すると、ライナスとマンチカーンも簀巻きのチンピラを抱えて階段を降りて行く。

 そしてアメショーとテルメアも眠そうな目をこすりつつ、後ろからついて行く。


「お察しってやつか。どこの貴族の使いか知らないけど、無謀な奴らだなぁ」


 そう呟きつつ、先に朝食を食べるマチュア。しばらくしてロシアン達も合流してのんびりとした朝食タイムを開始した。


「さてと。ロシアンたちは今日も修行?」

「マチュアさえ良かったら、近くの森にでも討伐任務に行ってみたい」

「何でも、この都市の外にかなり大型の魔物の集落があるらしいのよ。それを殲滅する任務があって、集落の個体撃破でも討伐報酬が出るのよ。修行も兼ねていってみたいの」

「へぇ。いんでない? 日帰り?」

「移動で二日、そこに冒険者ギルドのベースキャンプがあるのでそこで一泊。討伐任務に三日として、予備日含めて大体十日ってところですなぁ」


 その説明を聞いていた近くの冒険者達は、商会登録冒険者がそんな好き勝手していいのかと首を捻っている。雇い主の護衛任務はどうしたとか、そんな奴はクビになってしまえ、その後釜にうちのチームがとか、何かとそわそわしているのだが。


「いんでない?私は街でのんびりしてるから」


「「「「「良いのかよ!!」」」」


 叫びつつ立ち上がる他所の冒険者。

 マチュアはそちらをチラリと見るが、よそは他所、ウチはウチという事で丸く解決。


「うちはそういう所なのよ。まさか、ロシアン達が首になって代わりに‥‥って考えていたりしていない?」

「そそそそそんなことありません」

「ええ。まったくその通りですよ。では、ロシアン達の留守の間の護衛はいかがですか?」


 話の流れで売り込みを始める冒険者たちだが、マチュアは手をひらひらと振ってはいおしまい。


「それじゃあ、この後で行ってくる。もしも緊急時には護衛を雇ってくれよ? あの連中の中ではチーム・エエタニティーズが一番まともだ。後のチームは欲望に忠実だからな」

「私が緊急時ねぇ‥‥ま、そんな事にはならないと思うけどさぁ、その時には指名依頼で頼む事にするよ。万が一レベルだけどね」

「全くだ」


 そのまま笑い話をしつつ、マチュアは十日分の食事として小さな寸胴三つと焼きたてのパン、オニギリなどを大量に支給。それをしまってから五人はのんびりと冒険者ギルドへと向かって行った。

 そしてマチュアも露店に向かおうと外に出て‥‥。


「うわぁ。神威二連発は凄いなぁ」


 頭上に広がる大樹の枝葉、そこから溢れる光魔力(ソーマ)の優しい光。

 街の彼方此方あちこちに透き通った妖精が飛び回り、時折マチュア目掛けて飛んで来たりスラッシュキックをぶつけて来る。

 根から漏れる前に注いだ分+治療で注いだ分+とどめの一発の威力は凄ましいものであった。

 町の彼方此方あちこちでは子供達が走り回り、大樹の活性化に喜んでいる人々の姿も見えている。


「相変わらずですねぇ。じっちゃんの活性化は明日ぐらいかな?」


 蹴りを入れてきた妖精をひょいと摘まんで問いかけると、妖精も笑いながら頷いている。


「そっか。あまり悪戯するなよ?」


 ふわっとマチュアの手から離れる妖精。それを眺めつつ、マチュアは露店の場所である教会へと向かって行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 早朝。

 聖大樹教会大司教であるロドリゴ・シュバルツの屋敷に早馬が駆けてきた。

 いつもならようやく微睡みから解放され、これから朝風呂に入って身支度を整える頃だが、この早馬のせいで全てが台無しになってしまった。

 そのためか、朝から不機嫌なロドリゴは、玄関で息を切らせている教会からやってきた伝令を冷たい目で見つめる。



「こんな朝早くに何があったと言うのだ?」

「そ、それが……聖大樹教会は壊滅、建物が崩壊いたしました……」

「な、何だと!!一体何があったと言うのだ?」


 憤怒の表情で問いかけるロドリゴだが、返ってきた答えに言葉を失ってしまう。


「大樹さまの天罰が下されました……」


‥‥‥

‥‥


 全く要領を得ない。

 大樹さまの天罰だと?そもそも大樹などただの大木ではないか。

 古い言い伝えでは、大樹はこの世界の創造から存在し多くの命に加護を与えていたというが、その原理は伝承の中で解明されているではないか。

 大樹はこの世界の地下をめぐるマナラインと呼ばれている不可思議な力の奔流からマナを汲み上げて成長する、そのマナこそが生命力を活性化させる力であると。

 それは古い錬金術師の言い伝えであり、我が教会の教えに反する言葉である。

 だが、わしはその説が正しいと知っている。

 偶然にも教会の井戸に大樹の根が届いた時、物は試しと古い魔導具を突き刺した時、そこからキラキラと輝く雫がこぼれたのを見た。

 物は試しと、薄くなってしまった頭皮にそっと塗ってみたところ、翌朝には産毛が生え始めたのだ。

 そこで、わしは伝承が事実であることを知り、大樹はただの木でしかないと確信したのだ。


 それが何?

 天罰だ?

 そんな馬鹿なことがあるか。

 たかだか巨大な樹ではないか。

 そんなものがそのような事をする筈がないだろうが。


‥‥‥

‥‥


「嘘だろ?」


 急ぎ早馬の後ろからついて来たロドリゴは、崩壊して廃墟となった教会を見て呆然としている。

 床や壁からは大樹の根が見え隠れし、建物全体は蔦で覆われて力なく崩れてしまっていた。

 そして火事場泥棒でもあったのか、あちこちを掘り返された跡があり、今は司祭や助祭、修道士までもが瓦礫の撤去を行なっている。

 そんな中、修道女の一人がロドリゴを見かけたらしく、慌てて駆けつけて来る。


「ああ、ロドリゴ大司教様……これは神の思し召しでしょうか? 大樹の雫を販売した事に、大樹がお怒りになったのでしょうか……」

「そ、そんな馬鹿な……大樹が意思を持っているなどあり得る筈がない」


 そこまで呟いて、慌てて口に手を当てる。

 幸いなことに修道女はオロオロと廃墟を見ているだけで声は届いていない。


「取り敢えずは瓦礫の撤去だ、貴重品が持ち出された可能性もあるから急ぎ確認するのだ」

「ですが、大樹の根がびっしりと伸びていまして、作業が滞ってしまっているのですわ。どうしたらよろしいでしょうか」

「大樹の根を切り落としてしまえ、この私が許す」

「そ、それはどうやってですか? 大樹は神の加護を受けてこの世界に根付いた、いわば神の使徒ですわ。そのようなものに刃を落とすなど……」

「グッ……そ、そうだな。とにかく隙間からでも構わないから回収しろ」


 そんな騒動があったのだが、そこにマチュアは馬車でのんびりとやって来た。



「うわぉ。大樹の怒りが爆発して、天罰落としたか……しっかし、これはやり過ぎだよなぁ……くわばらくわばら」


 やらかし原因の一角はマチュアなのだが、それは心の中の棚に載せておいてカナン商会開店準備を開始する。すると昨日のケーキの噂を聞きつけた客がすぐにやって来たのでマチュアは昨日のように最後尾プレートをお客に手渡して並ぶようにお願いした。


「あ。まだ開店しませんからもう少し待っていてくださいね〜って、エルビスは今日も来たのか。侍従長も一緒ね、はい後ろにゴー」

「な、何をいうか。エルビスさまに市井の者と一緒に並べというのか?」

「な・ら・べ。と言うか、そのエルビスさんは今最後尾でプレート持っているけど?」

「おおお、エルビスさま、そのようなことはこの侍従長のランプソンにお任せを……」


 そう叫びつつ最後尾に回り込む侍従長。

 そうか、ランプソンと言うのか。

 そして今日はエルビスの後ろにゴシックメイド姿の女性も付き従っている。あれはあれか? イートインでエルビスさまのお世話をする専属メイドか?

 それでも並んでいるのならいいだろう、許す。

 そんな事を考えつつ、開店準備をしていると。


「おらおら、全員どっかいけよ。この店は俺たちが貸し切るんだからよ」

「そうだそうだ、こちらにいらっしゃるブルース男爵の貸し切りなんだよ、とっとと散った散った」


 お約束のチンピラ衆+バロン髭の偉そうな貴族。


 それが客を蹴散らそうとしているので、マチュアは開店準備をやめて外に出て来る。


「あ、並んでいるお客さんはそのままで、そこのチンピラーズ、てめえらも買い物に来たのなら後ろに並べ。そうでないのなら業務妨害でぶっ飛ばす。選択肢は二つだけだ、客か、それとも敵か‥‥」

「あぁぁ?なんだよその態度は。こちらにいらっしゃる方を誰か知らねぇようだなぁ。ブルース男爵様だ、スティンガー森林で起こったモンスタースタンビートを僅か20人の精鋭で収めた英雄様だぞ?」

「そんなえらい方が、市井の者たちと一緒に買い物など出来る筈がないだろうが」


 そうえばり散らしているチンピラの後方では、ブルース男爵がエルビスにペコペコと頭を下げている姿が見えている。

 あ、今侍従長から最後尾プレートを受け取って頭上に掲げたのだが、チンピラーズよ、それには気付いていないのか。


「それなら、あんたらの雇い主が並んだら並ぶのかよ!!」

「当然だ。俺たちはブルース男爵の指示には従うぜ」

「そんな事は絶対にないだろうがよぉ‥‥ぎゃははははははは」


 そう高笑いしているので、マチュアはそーっと列の後ろを指さす。それに倣ってチンピラーズも後ろを見て、慌ててブルース男爵の元に駆け寄っていって‥‥。

 そっとブルース男爵からプレートを受け取り、後ろに並び始めた。

 ちょっと待て、エルビスって貴族のボンボンじゃないのか?

 息子も叙爵しているのか?

 それならわかるが。

 考えるのが面倒なので、マチュアは店内に戻っていく。

 イートインスペースを大きくして壁には大型クリアモニター、映像を流しておくのも忘れない。

 音は店内にも広がるようにと新しく創造ったスピーカータイプの魔導具を設置し、これで完成。


「それでは最初の10名様からどうぞ‥‥」


 カナン商会開店。ゆっくりと客が入って来て買い物を終えて出て行く。

 親と一緒にいた子供達は、みな、壁で放映している映画に夢中。やっぱり子供の心を掴むのはアニメだよね。

 そしてイートイン席ではエルビスと侍従長、そしてブルース男爵が席に着いており、メイドが後ろで待機。チンピラーズは買い物を終えて外で待機しているらしい。


「あの、この不思議な紅茶のお代わりを」

「ああ、それは‥‥今日の紅茶はマルムティーか。こちらのポットをどうぞ」 

「はい。それと、空のポットをもう一つ‥‥」


 淹れたてのマルムティーとサーブ用ポットを手渡して、ついでに追加のケーキを手渡す。

 そして席に戻ってメイドさんはサーブ開始。

 近くの席では、やはり親子連れがのんびりとイートインを楽しんでいる。

 最初は貴族がいるという事で遠慮していたのだが、エルビスが手招きして気にする事ないと告げていたので、いつの間にかイートイン席は満席になっていた。


‥‥‥

‥‥


「はぁ。この教会の瓦礫って、どれだけあったのでしょうか‥‥いつまでも終わる気がしませんわ」

「そうだな。取りえず全員に休息を取るように伝えろ、腹が減った者は昼食を取るように」

「大司教さま、ですが厨房も瓦礫の下ですので、何も用意することができませんわ。大樹の雫を練りこんだドロップクッキーも、大樹ドリンクももう作れませんわ」

「そ、そうであったか‥‥」


 落胆するロドリコだが、ちょうどその時に鼻をひくひくと掠めていく甘い香りに気が付いた。


「ん? これはなんの匂いだ?」

「これは昨日からいる露店からですわ。確か、若い修道士たちも買い物をして来たとかで、とても甘くて、今まで食べた事のない甘味だとか」

「甘味では腹は膨れぬが‥‥まあいい、ちょっと行って、それを買い占めてこい。ここにいる全員に配るのだから、10個程度では足りないだろうが」

「かしこまりましたわ」


 そのまま大司教から金貨を受け取ってカナン商会に走っていく修道女。

 そして入口で何かを話していたかと思うと、そのまま最後尾に回ってプレートを掲げた。

 そして1時間後。


「‥‥まだ帰って来ない。あいつは何をしているのか?」


 いつまで経っても戻って来ない修道女に、ロドリコは不機嫌さを隠せないでいた。だが、その時丁度バスケットを持って修道女が戻って来たので、ロドリコもほっとしたのだが。


「何とか三つ買って来ましたわ」

「何で三つなんだ? 私は買い占めてこいと命じたではないか」

「ですが、あの店での販売は持ち帰りは一人三つまでということでして。中には食べて帰れる席もありましたが既に満席で、どうしようもありませんでしたが」

「もういい、この私が直接話してくる。この私ロドリコ・シュミッツ子爵の命令だ、そんな個数制限など無視してくれるわ」


 勢いあまってロドリコがカナン商会に入っていくのを、修道女はじっと見守っていた。

 そして無慈悲に店の外に放り出され、そして執拗なまでに入ろうとして最後には最後尾に並んでプレートを掲げているロドリコを、教会関係者たちは笑いを堪えてじっと見ているのであった。

 そして修道士達が笑っている周囲には、光魔力(ソーマ)が集まった妖精達がちらほらと飛び回っている姿も見え隠れしていた。


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