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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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イェソドから・その25・様々な思惑と登録冒険者

 ライナス達が冒険者ギルドで何だかんだしている時、マチュアは大樹から離れて商人ギルドへと向かっていた。

 折角なのでいつものように露店でも開くかと考えて、許可を貰いに商会ギルドではなく商人ギルドに向かったのだが、マチュアが到着した時はすでにギルド内はごった返していた。


「うわぁ、何だこれは?ちょいと失礼しますよ」


 人気の少ない場所を選んでカウンターに進む。

 どうやら混んでいるのは販売カウンターのあたりらしい。

 遠隔地の商人や冒険者が持ち込んだ様々な物品を商人ギルドも直販しているらしく、今日は出物が入っているのか大勢の商人たちがそこでセリに参加していた。

 商人ギルドでの販売方法は二つあり、定価販売とセリの二つがあげられる。

 定価販売は商人から買い取った金額によってギルドが定価を設定するものであり、セリは『セリ札』に金額を書いて投票し、最も高額を付けた商人が買うことができる。

 どちらも商人ギルドの登録が必要であり、さらにセリについてはCランク以上でなくては参加できない。


 まあ、マチュアはどちらにも興味が無いので、露店登録のカウンターへと向かっていった。


「露店を出したいのですが。期間は10日程、馬車での販売になりますがいい場所はありませんか?」

「ではギルドカードの提示をお願いします」


 そのままスッとカナン商会の商会証を取り出して提出すると、受付は少々お待ちくださいと告げて町の地図を取り出した。


「10日連続となりますと、この繁華街の区画かもしくは教会正面区画となりますが、どちらにしますか?どちらでも手数料は一日銀貨10枚となっておりますが」

「販売税はいかほどで?」

「Aランク商会ですので、販売税は一律金貨一枚となります。これは最終日にお支払いいただければ構いませんので」

「なるほどね。それじゃあ‥‥教会正面で、明日からお願いします」

「かしこまりました。私は受付担当のモーリィと申します。何か不都合がございましたら私を指名して連絡をいただければ幸いです」

「はいはーい。その時はまたね。そんじゃあ明日のために宿に戻って英気を養いますかぁ」


 とんとん拍子に手続きが終わり手数料と引き換えに露店販売証を受け取ると、マチュアは未だ込み合っている販売カウンターを横目に眺めつつ宿へと戻る為にギルドを後にした。



 〇 〇 〇 〇 〇



深夜。

聖大樹教会中庭・枯れ井戸地下空間。

後付けされた金属製の階段を降りた先にある広い空間、その中心には僅かだが湧き水が溢れており、石造りの池のようなものが湧き水で満たされていた。

その池の中には、井戸の壁面を突き破って大樹の根が伸びており、その周りには金属製の細い管が無数に転がっていた。


その人工池の横では、純白のローブを着た司祭と、略装らしい綺麗なチュニックに身を包んだ大司教が立っている。

そして池の周りに落ちている管を拾い上げると、力一杯大樹の根に向かって突き刺そうとするのだが、それは樹皮を貫通することができずに弾かれて床に落ちていく。


「何だというのだ、大樹の根から絞り出された大樹の雫が取れなくなってしまったではないか?これはどういう事だ?」

「報告では、夕方に雫の補充に来たシスターが池の異変に気付いたという事です。昼の回収ではまだ管は全て大樹に突き刺さっており、その時点ではいつもより濃厚な雫が補充できたのですが……」

「言い訳は必要ない。この大樹の樹皮を貫く管を探すしかないか。しかし、この管はそんじょそこらの代物ではない。魔法金属ミスリルで作られたものなのだぞ?これを超える管など存在するのか怪しい所だ」


苛々が募っている大司教だが、これ以上司祭に当たり散らしても何も解決しないのは重々承知。

なので、これ以上の追求は行わず、対策を練るように告げる。


「では、可能な限り対策を探す事にします。我々の力では足りないかもしれませんが、冒険者の手を借りる事が出来ればあるいは」

「期待している。では」


 それだけを告げて大司祭はその場から立ち去って行く。

 そして残った司祭もまた、壁に備え付けられていたランタンの火を消すと、夜の帳の中、階段を上り始めた。



 〇 〇 〇 〇 〇



 同じく深夜。

 マチュアたちの泊まっている宿の正面に、一つ、また一つと人影が集まってくる。

 それはマチュアの乗っていた馬車にゆっくりと近寄っていくと、手にしたロープでゴーレムホースをがんじがらめに縛り上げた。


「よし、全員で持ち上げるぞ……」

「「「「「おう!!」」」」」


覆面をつけたリーダー格の男が仲間に告げると、総勢10人の男たちがゴーレムホースを持ち上げようとする。だが、力自慢のガチムチ冒険者が十人がかりで持ち上げようとしても、ゴーレムホースはうんともすんとも言わない。

夜間は安全のため、その場から動かないように魔法で地面にロックしているので、動く筈がない。

地球フェルドアースの魔法の絨毯のように地面を深く掘り下げて持っていくしかないのだが、魔法のない世界ではそんな事は出来ない。


「……何だこいつは?どうして動かないんだ」

「さぁ。とにかくこいつを持っていかないと金は貰えないんだ。馬車の荷物はどうだ?魔法薬はあったか?」

「そ、それも無理でさぁ。扉に鍵が掛かっているのか、ったく開きもしませんぜ」

「だったらぶち壊せ。せめて荷物だけでも奪って逃げるぞ」


おう、と威勢のいい声の男が両手斧を振りかぶって後扉を思いっきり殴る。だが、扉の手前で目に見えない結界に弾かれ、後ろに吹き飛んで行く。

その様子を影から見ていたロシアン一行は、そろそろ全員捕まえようかと背後のアメショーとテルメアに手で合図を送る。


「それでは。我が魔力にて、彼の者に眠りを与えん。スリープ」

「湧き上がれ私の魔力、彼の者を縛る力となりなさーい、拘束バインド


テルメアとアメショーの魔法が発動すると、馬車を取り巻いていた者達の半分が眠りにつき、半分が拘束されてしまった。

そして指揮をしていた男はその様子を見て慌てて駆け出したが、建物の陰からライナスとマンチカーンが姿を現した。


「これ以上、罪を重ねないでください」

「商人の荷物や馬車を狙うとは言語道断ですなぁ」

「と言う事だ。バスキニー、それ以上罪を重ねる事はない。諦めて俺達に捕まれ」


 ロシアンがゆっくりと腰を落として構えるが、バスキニーは覆面を外して背中の両手剣をスラリと抜く。

 そしてロシアンをじっと睨みつけると、徐々に間合いを詰めていった。


「うるさい。お前に俺の気持ちがわかるか。冒険者としてうだつの上がらない生活、剣の腕も上がらくなってもう3年、俺はな、冒険者としては打ち止めなんだよ‥‥その俺の気持ちが俺にわかるか!!」

「以前ならな‥‥だが、バスキニー、お前は大きな過ちを犯している。貴様のターゲットであるカナン商会は、俺たちの依頼主だ。という事で俺は任務を全うさせてもらう!!」


──ダン!!

それはまさに電光石火。

 ロシアンの渾身の一撃、震脚からの鉄山靠(てつざんこう)が炸裂する。

 まさかの一撃にバスキニーは正面からもろに食らい、後ろに力いっぱい吹き飛んでいく。

 そしてライアンが慌ててバスキニーを縛り上げると、そこら中に転がっている冒険者も次々と縛り上げていく。

 

 そして全ての冒険者が縛り上げられると、宿の前で暴れている男がいるという通報を受けた巡回騎士がやって来て、バスキニー達を詰め所へと連行して行った。

 

「ロシアンさん達もご同行お願いします。詳しい事情をお知りのようですから」

「ああ。だが、依頼主の元を全員が離れるわけにはいかない。ということでライアンとテルメアは残ってくれ」

「は、はい、了解です」

「かしこまりましたわ。では、留守を守らせていただきます」


 二人同時にロシアンに敬礼すると、ロシアン達はそのまま騎士団詰め所へと同行する事にした。


‥‥‥

‥‥


「何だ、ロシアン達はちゃんと出来る子じゃないのよ‥‥リーダーシップもあるし‥‥いいかもね」


──スッ

 窓の外か何か騒がしかったので、マチュアは窓の隙間からそーっとバスキニー達の騒動の一部始終を見ていた。

 そしてロシアン達に危険が及ぶようならと印を組んでいたのだが、無事に全てを丸く収めたので印を解除すると、そのまま何事もなかったかのようにベットに潜って行く事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 そして翌朝。

 マチュアは何事もなかったかのように食堂へと向かうと、のんびりと食事を取り始めた。


「うーむ。朝から鶏肉の塩焼きとカルトゥシカ(ジャガイモ)の焼いたもの、黒パンとククルーザ(とうきび)のスープとはこれいかに‥‥パクッ‥‥ん?」


 うむ、味が薄い。

 なのでこっそりと空間収納(チェスト)からペッパーミールとソルトミールを取り出して、がりがりと『追い塩コショウ』をして食事を続ける。

 他の席では朝一番で出発する商人達が急ぐように食事を取っているが、マチュアがガリガリと胡椒を挽く音に気が付き、マチュアの方を見る。

 

 この世界でもやはり香辛料は貴重なものらしく、マチュアが何も気にせず『ブラックペッパー一袋15g入り85円』の入ったペッパーミールから漂う引き立ての胡椒の香りに心躍らされていた。

 

「あ、またマチュアさん朝から贅沢していますわ」

「おはようございます。よく眠れましたか?」


そう問いかけるテルメアとライナスに、マチュアはニイッと笑う。


「朝までぐっすりだね。にゃんこ達はどこ?」

「だーかーら、そろそろチーム名は覚えて欲しいのだがな‥‥」

「おはようございます。今朝も贅沢の限りを尽くしていますね」

「朝から胡椒かけ放題とは。拙者達もご相伴に預かっていいのか?」


 ロシアンたちも席に付いて朝食を取るらしいので、5人の前にペッパーミールとソルトミールを並べておく。


「好きに使っていいよ。別に贅沢品とも思っていないし。あ、そうだ、ロシアン、アメショー、マンチカーン。この書類を見て問題なければサインして。その後で一通は私が商人ギルドに提出して来るから、残り一通は冒険者ギルドに提出して来て」


 ロシアンたちの前には、『商会登録冒険者申請書』が並べられている。

 のんびりと朝食を食べていた3人だが、これには目を丸くしてしまう。


「いきなりだな。あの町で俺達があんたにした事についてはお咎めはもうないのか?」

「あんた達がしたのは腕相撲で負けて私から二倍の金額で料理を買った事。腕は確かなんだから構わないでしょ? 報酬は三人とも一か月金貨10枚。ロシアンはカナン商会登録冒険者統括としてみんなをまとめてくれればいい。後の条件は‥‥三食昼寝付き、カナン職員寮の個室貸与、護衛任務以外の空き時間は自由でどう?」


 その条件で飲まない冒険者はそうそういないだろう。

 ロシアンたちの後ろの席にいた幾つかの冒険者チームも、今のマチュアの説明にゴクリと喉を鳴らす程である。

 もしロシアンたちが引き受けなかったら、その時は俺達が手を上げよう。

 だから受けるなロシアン。

 お前たちは決してつるむ事のない一匹狼の群れだろうが。

 そんな冒険者たちの希望を、ロシアンは一撃で粉砕した。


 無言でサインをする三人。 

 そしてそれをマチュアに手渡すと、マチュアは空間収納(チェスト)から大金貨6枚の入った袋を取り出して5人全員に手渡す。


「では、取り敢えず契約金として五か月分の先払いね。何か都合が悪くなってカナン商会を辞める時も、それは持って行っていいからね。では後は頑張って‥‥」

「ああ。それなら仕事の報告だ。昨晩野良犬が馬車の近くをうろうろしていたので処理しておいた」

「へぇ。そんな事があったのか。ありがとさん‥‥という事で私は仕事して来るので。これは食後のデザートな。後は好きにしていいから」


 それだけを告げて、マチュアはテーブルの上に大量のエクレアとシュークリームの入ったバスケットを置くと、そのまま商人ギルドに書類を届けに向かった。



 そしてロシアンの背後では、希望を打ち砕かれた冒険者が涙を流しながら朝食を食べているとかいないとか‥‥合掌。 

 


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